Fate/Dragon Quest   作:極丸

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冬木4

 立香達カルデア一行は古びた廃寺に着いた。そこには一切の光源はなく、街から立ち上る紅蓮の明かりだけが頼りだった。そこでロトとキャスターは他の面子の足を止めさせる。そしてキャスターは声を張り上げる。

 

「おい弓兵! いるんだったら出てきたらどうだ! まどろっこしいぜ!」

 

 その声に反応してか、寺の屋根から人影が姿をあらわす。やはり黒い靄を体に纏ったその影は今まで相対してきた影と違い、理性を感じさせる佇まいで口を開く。

 

「いやはや、流石は光の御子だ。本望のクラスでないにも関わらず、流石に鼻がきくな」

「テメェ……相変わらず俺の神経逆撫でる様な事しかいわねぇな……!」

「おや、機嫌を悪くしてしまったかね? キャスターになったのだから、これ位の低レベルの挑発には乗らないと踏んでいたのだが……どうやら見当違いだったらしい。短気なのは変わらんか」

 

 影の全容が立香達にも見て取れた。その影は大きな弓を携えた、色黒の偉丈夫のアーチャーであった。短く揃えた白髪が余計に映える。

 アーチャーはキャスターを執拗におちょくりながら屋根から弓を構える。

 

「すまないが、ここで幕引きだ。あまりこちらも余裕ではいられないのでね」

「へ、時間に追われてるって事は、何かあるな? おい嬢ちゃん、ボウズ!」

「は、ハイ!」

「なに、キャスター!」

 

 キャスターはアーチャーを見据えながらマシュと立香を呼ぶ。突然の指名に動揺しながらも二人は返事をし、その返答にキャスターは満足げに頷く。

 

「こいつは俺一人に任せな! オメェらは先に行ってろ……後から追いつく」

 

 その声は覚悟を孕んでいた。その声を聞き、マシュと立香は互いを見て頷き、ロトとオルガマリーの方へと顔を向ける。

 

「行こう、『ヒーロー』」

「行きましょう。所長」

 

 立香は『ヒーロー』を、マシュはオルガマリーに呼びかけながら来た道を戻り目的地へと急ぐ。ロトはマシュにサーヴァントとしての進歩を、オルガマリーは立香がマスターとしての自覚を持った事に感心し、背後を過ぎ去った二人の後を追う。

 

 残されたキャスター、アーチャーは互いに睨み合いながら牽制しあっている状況となった。

 

「へ、追わなくてよかったのか?」

「戯言を、貴殿が前にいるようでは、どんな矢も意味はなかろう。なぁ、光の御子殿」

 

 アーチャーはそういうと弓を捨て、虚空から短剣を作り出した。それを見ながら、キャスターは疑うようにアーチャーを睨む。

 

「なんで俺の真名知ってんだ? あの勇者様も気づかなかったつうのによ。ましてや俺は今は本分じゃねぇキャスタークラスだ。そう真名は分からねぇはずだが?」

 

 真名を遠回しで当てられた事実にキャスターは苛立ちを覚える。そして頭をフル回転させ、アーチャーが自身の真名にたどり着くヒントとなったタイミングを探し出す。

 

「……そうか、テメェ、あん時の戦い見てやがったな?」

「ご明察。遠距離攻撃が主体のアーチャーの私にとって、あのスキルは非常に刺さってやりづらくてね」

 

『あん時の戦い』。

 それはキャスターと立香達が初めて出会った影三体との対決であった。

 その時にキャスターが長髪の影の投擲を不自然な軌道を描かせ立香たちを救ったが、おそらくそれを見られたのだろう。

 キャスターは歯を食いしばる。

 

「へ、さすがは弓兵って言ったところか? 目がいいじゃねぇか」

「ああ、それでいて貴殿の相手をしなくてはならんのだ。全く、あの騎士王もずいぶんな無茶を要求したものだ」

「は、よく言うぜ! じゃあその手にある剣は……

 

 

 

なんだよ!

 

 キャスターはルーンを紡ぐ。そのルーンは火となり、アーチャーへと猛威を振るう。しかしアーチャーは動揺せずに剣でその火球を斬り伏せる。

 切った次の瞬間アーチャーが見たのは、眼前に迫るキャスターの顔であった。

 

「オラァ!」

「フッ!」

 

 キャスターは杖を下から上へと振り上げ、アーチャーに詰め寄る。肉体派な攻撃を繰り出すキャスターに、アーチャーは攻撃をさばきながら呆れ顔を向ける。

 

「全く……貴殿は術師なのだから、もう少し理性的になったらどうかね?」

「へ! 俺の本分はランサーだっつの! テメェこそ弓兵なら剣より弓を構えろよ!」

「当たらないとわかっている弓を番える弓兵はいない。故にこの行為も当然の結果だ」

「言ってろ!」

 

 火花が飛ぶ。

 弓兵と術師の戦いは、策謀渦巻く遠距離戦ではなく、血潮吹く白兵戦にもつれ込んだ。

 

 

 

 立香たちは開けた空間に辿り着いた。そこには眼前に光の柱が立ち上り、立香たちを圧倒していた。

 そしてその光の柱の前に、守護者の様に立ち尽くしている黒い影があった。

 立香たちに向き合う様に立つその黒は、よく見ると影の黒ではなく、鎧の色の黒であった。

 黒染めの鎧に身を包み、これまた黒い剣を地面に突き刺して凛とした佇まいでこちらを見つめるその姿に、立香達は自然と唾を飲み込む。

 鎧は立香達に呼びかける。

 

「貴殿達がこの聖杯戦争を終わらせるもの達か」

 

 女性と判断できるその声から有無を言わさぬ圧を立香とマシュは感じ取る。歴史に名を残す者の偉大さを肌で感じ取り、その声色に敵の強大さを知る。

 

「まぁ、そっちから言わせてみればそうかな、セイバー。悪いけど、ここでアンタの願いは潰える」

「ほう、貴殿がアーチャーの言っていた勇者殿か。なるほど、その名にあった力を持っている様だな」

「ご意向に沿えた様で良かったよ。ついでといったらなんだけど、その例に聖杯は諦めてくれると嬉しいんだけど?」

 

 ヒーローの提案に、セイバーは首を横に振る。そしてセイバーは鋒を立香達に向け、告げる。

 

「私はこの聖杯を守ることが役目ではあるが、騎士である以上、貴殿らの様な者とは一度手合わせをしてみたいものであった。どうだ、私の勝負をしないか?」

「2対1でこっちが優位なのに、そんな提案乗るとでも?」

 

 セイバーの提案に、ヒーローは否定の意を述べる。その回答に、セイバーはなんら落胆するわけでもなく、淡々と話を続けた。

 

「2対1? 違うな、2()()2()だ」

 

ーーーーーー咆哮ーーーーーー

 

「ッ!! 中位旋風呪文(バギマ)!」

「うぉお!?」

「キャア!」

 

 背後から響き渡る雄叫びに、ヒーローは咄嗟に振り返りながら呪文を唱える。それにより起こった旋風に立香達は横に押され、無様にすっ転ぶ。

 そして次の瞬間

 

 

 

 

 

大地が爆ぜた。

 

 

 

 その原因は、先ほどの咆哮の主人であった。

 ヒーローが顔を向けると、其処には筋骨隆々の黒い肌に荒々しい鬼気を孕んだ形相を浮かべた益荒男の様な大漢があった。

 ヒーローの頬から熱いはずの状況下で冷や汗が流れ始める。

 

「おいおい、バーサーカーがいるなんて聞いてないぞ?」

「貴殿らも二人で此処を攻め込み落としにきたのだ。当然の配慮だろう?」

「ごもっとも!」

 

 バーサーカーの突然の出現に、マシュは未だ抜け出せずにいた。それを確認したヒーローはすぐ様マシュの方に顔を向けて叫ぶ。

 

「シールダー! 今すぐ立香と所長(マスター達)を守れ!」

「ハ、ハイ!」

 

 ロトの活にマシュはすぐさま行動に移す。立香とオルガマリーのそばに駆け寄り、守護する様バーサーカーに向けて盾を構える。

 それを確認するとロトは剣を抜きながらバーサーカーと相対する。

 

「まさかバーサーカーを用意するなんて……ちょっと想定外だったな」

「ウウウウウウ……」

 

 向かい合うロトとバーサーカー。

 その体躯の差は一目瞭然。

 その太く血管が見え隠れする石斧を持った太腕は、ロトの腰回りに匹敵するほどに太く、その差は合成獣(キメラ)に挑む子犬の様にも見えた。

 しかしそれでもロトはにらみ合いを続ける。

 ヒーローは理性から、バーサーカーは本能から、

 そのこう着状態は一向に終わらず、マシュはジッと二人のにらみ合いを観察していた。

 するとそれを見ていたセイバーが告げる。

 

「違うぞバーサーカー。貴殿が相手をするのは……」

 

 突如として声を張り上げたセイバーに場はしんと静まりかえる。そしてセイバーの一挙一動に注目が集まり、しせんがあつまると、セイバーはマシュを指差す。

 

(あっち)だ」

 

 

ーーーーーー疾走ーーーーーー

 

 

「ゴァアアアアアアア!」

「ッグ!」

 

 セイバーの命令に瞬時に動いたバーサーカーに、ロトは追いつけずにいた。

 ロトがバーサーカーの気を引くためにも、呪文を唱えようとするが横槍、いや、剣が入る。

 

「貴殿の相手は私だ」

「騎士にしては随分とせこいな。少女相手にバーサーカー(あれ)は無いんじゃない?」

「安心しろ。貴殿が早くに蹴りを付ければ私の支配下から奴も離れ、この聖杯戦争は終わる。つまりは貴殿の働きと、あの者たちの踏ん張り次第だ」

「そう、かい!」

 

 ロトは剣を振り回しセイバーを引き離す。セイバーは少しばかり跳躍し、距離を取りつつ再び攻めに転ずる。素早い切り返しに、ヒーローは対応しつつも、マシュ達に攻撃の余波が届かない様に自分からも攻め込み、マシュ達からセイバーを突き放す。

 そして何度目かの鍔迫り合いにて、セイバーが口を開いた。

 

「ふむ、貴殿の誘いに乗ってはみたが、なかなかに良いものだな。この様な状況下でなければ、貴殿と思う存分打ち合いたかったものだ」

「そいつはどうも!こっちはついて行くだけで精一杯だよ!剣技一筋じゃないんだから、剣以外も使わせてくんない!?」

「それは認められん。騎士同士の戦いでそれは禁手(タブー)と言うものだ」

 

ロトは決起迫る表情で、セイバーは涼しげな顔で、剣を前にしてそんな軽口を言い合っていた。

そして鍔迫り合いからロトが脱して一度事態が膠着すると、ロトの後ろで叫びが聞こえる。

 

「キャア!せ、先輩!無事ですか!?」

「マシュ!俺は大丈夫だから自分の身を守るのに集中して!」

「ハ、ハイ!」

「グゥオオオオ!」

「来たわよ!急いで防御の姿勢に入って!いい!断じて勝ちに行ってはダメ!サーヴァントになったばかりの貴女にそのバーサーカーは倒せないわ!ロトが蹴りをつけるまで頑張って堪えるのよ!」

 

バーサーカーの猛攻に気圧されているマシュであった。

絶え間無く押し寄せてくる激流の様に続くバーサーカーの石斧に顔をしかめながら、マシュは必死にロトの勝利を待っていた。

それをみたロトは焦燥にかられる。黒い刀身に赤い筋が入り込んだ不気味な剣を構えてこちらを見るセイバーに、ロトは大きく息を吸い込んで気を落ち着かせる。

 

「……悪いけど、マシュ達が限界を迎える前に蹴りをつけさせてもらうよ……初っ端から出し惜しみは無しだ」

「そうか、騎士ならばもう少し相手に敬意を払うところだが?」

「悪いけど俺は勇者や戦士だったことはあったけど、騎士になった覚えはないよ! そんじゃあ行くぞ?」

「よかろう、こちらから始まりを作ったのだ。ならば終わりはそちらが望む結果を示すのが道理……」

 

 そう言ってセイバーとヒーローは剣を胸の前に掲げる。

 そして二人から紡がれた言葉はただ一つーーーーーー

 

 

 

 

 

ーーーーーー宝具解放ーーーーーー




少しばかり駆け足でお送りしました。
文章が短くてすいません……早く別の特異点にも行きたいのでそれが原因かもわかりません
活動報告にてアイデア募集中!
お気に入り登録・評価してくれた皆さん
有難うございました

宝具の詠唱をオサレにできる自信がない……

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