少々何産で苦労しました。
ちょっと終わりも強引感が……
「ふむ……どうやら向こうも終わりが近いらしい。こちらもそろそろ決着と行こうかね?」
「そうかい? こっちとしちゃあまだまだ余裕なんだがな?」
廃寺の舞台にて、アーチャー、キャスターとの戦いは佳境に迫っていた。
アーチャーとキャスターの間合いは離れており、得物の間合いではキャスターの方が優位な距離にあった。
そんな中、アーチャーはふと光の柱の方へ顔を向ける。セイバーとヒーローの宝具発動による魔力の余波がこちらにまで流れてきたらしい。
アーチャーはそれを確かめると懐かしむ様に微笑み、手に持っている短剣を無に帰す。
手の空いたアーチャーをキャスターは訝しんだ。
「んだ? 何する気だテメェ?」
「なぁに、これから貴殿との決着を早くにつけるための一振りを作り上げるだけだ」
「んな余裕あたえっかよ!」
アーチャーの返答にキャスターは火球で応える。迫り来る火炎を前にして、アーチャーは冷静に、虚空から一振りを創り上げる。
その一振りで火球を切り裂いたアーチャーは、勢いそのままにキャスターに迫る。
「は! そんな手に今更引っかかる……」
キャスターの声はそこで途絶えた。
キャスターが最後に見たものは、剣を振り切ったアーチャーの姿と、首から上が無くなったキャスター自身の身体であった。
その光景を眺めながらキャスターは己の敗北を悟った。
(悪りぃな、ボウズども……、次呼ぶ時はランサーで呼んでくれや……)
虚空を舞う首だけの己を自覚しながら、キャスターは座へと還る感覚に目を閉じた。
アーチャーはキャスターが座へと還る姿を見届けると、すぐ様剣を消す。
そして光の柱へとゆっくりと歩を進めていった。
「ゴアァアアアア!」
「グッ!」
マシュは劣勢続きであった。
バーサーカーの豪腕から放たれる一撃は常人が喰らえば塵一つ残さない様な威力を秘めていた。盾から伝わるその衝撃は、マシュ自身の身体の芯まで衝撃が伝わり、その余波だけで悲鳴を上げそうになる。
キャスターが警戒していたバーサーカー、下手をすればセイバーよりも強敵かもしれないと思うマシュであったが、それは間違いではない。
ある時に召喚されたバーサーカーは、その火力をもってして、聖杯戦争の優勝筆頭ともなり得た存在であった。
そんな
「いいマシュ! 決して勝ちに行ってはダメ! ロトが来るまで持ちこたえるの!」
オルガマリーの声が遠くのほうから聞こえる。そうだ、自分はマスター達を守るのが使命。決して勝とうと思うな。これに耐えて,勝機を伺え。猛攻は途絶えることを知らず、城壁に打ち付ける暴風のように際限がなかった。
しかし城壁も時間が掛かればやがて壁は剥がれる。
徐々にだが、マシュに伝わってくる衝撃が増してきた。
続く猛攻、剥がれる盾。
均衡はもう直に崩れる。
そしてその直感が
マシュを攻撃へと転じさせた。
「ハァアアアア!」
「グゥオ!?」
火花が散った。
マシュが大振りで振るう盾はバーサーカーの斧と一瞬ばかり拮抗し、すぐさまバーサーカーに軍配が上がる。
しかし突然の変化に理性を失っているバーサーカーは動揺し、少しばかり攻撃に隙ができる。
それを見逃すほど、マシュは凡愚ではない。
「まだ!」
マシュはすぐさま力の限り盾を振り回し、バーサーカーを追い込みにかける。『窮鼠猫を噛む』を体現したかのような猛攻は、はたから見ると滑稽にも思える程に必至であり、無駄なことにしか思えなかった。
しかしその数秒が、戦場では大きな差となるのは珍しい事ではない。
────宝具開放────
その声と共に、世界は変わった。
厚い鉛色の雲は飛散し空を見せ、すり鉢状の地であった地面は地平線が見えるほどの広大な地へと姿を変えた。
その突然の変化に、マスターたちは困惑を示すが、マシュは悟った。
ああ、これはロトさんの仕業ですね……
勇者と称される力の一部を見たマシュは、バーサーカーの前でも、ひどく落ち着いて立ち尽くしていた。
その隙を狙うはずであるバーサーカーも、仕掛けることはせず、事の発端の原因であるはずの勇者のほうを見つめ、対峙している二人の剣士の決着の行く末を見守っていた。
「ふむ、固有結界の一種か。しかしなんとも言えぬな。何故
セイバーは急激に変わった風景に動揺するわけでもなく、自らの体の好調具合に変化を感じ取った。
その変化に、ヒーローが答えるように応じる。
「この宝具はこういう効果なんだよ。
「そうか、こちらが全力で向かう、ならばそなたも全力で相手をする。その為の準備段階ということか。ならばこれで気兼ねなく……」
セイバーは心得たとばかりに剣を握る手に力を籠める。
そして噴き出す黒い力の奔流。禍々しさと力強さを兼ね備えたその光景を作りながらも、セイバーはロトに笑いかける。
その笑みにヒーローは苦い顔をしながらも笑い返すと、二人は同時に口を開く。
「「……宝具が打てる」」
そしてセイバーは剣をロトに向けるように掲げて
「卑王鉄槌……」
セイバーは唱える。
ヒーローを穿つべく放つ黒光を供えて。
「極光は反転する」
セイバーは詠う。
討つべき相手が全力を放つことの許した事に対する称賛を。
「光を呑め……!」
セイバーは叫ぶ。
敵を葬り去る全霊一撃へと続く引き金を。
「
その様子を見ながら、ヒーローも宝具を放つ準備を進める。
ヒーローは目を瞑り、剣を胸の前に構える。その構えを起源とする様に勇者の剣を光を放ちながら魔力が包み始める。
その光は青白く、徐々に徐々に強さを増し、パチパチと弾ける音を立てながら稲妻を纏い始める。
「ハァァァァ……」
勇者は息を吐き力を溜め、剣に魔力を込める。
光は光度を更に増して輝き、光の柱が細く高く聳え立つ。剣からは最早青一色ではなく、稲妻もはっきりと視覚出来るほどに強く、煌々と輝き始めた。
その光はセイバーから放たれる黒い光とは真逆の輝きであった。強く存在を示す。
まるで黒光は聳え立ち阻むもののように、雷光は遮るものを切り開く者の様に各々の存在を周りに知らしめる。
「……良しッ!」
ヒーローは目を見開く。限界まで開いた眼の前には、稲妻を纏った青白い光と、その先に黒い闇とも取れる様な輝きが見えた。その根元にはセイバーがこちらをじっと見据え、振りかぶる瞬間をいつかいつかと待っていた。
「……」
ヒーローはそれを確認すると無言で徐に剣を上へと振り上げる。そしてセイバーもそれに刃向かう様に剣先を下へと下げる。
空白。
一瞬とも言えない様な短い沈黙が辺りを包み、そこはセイバーとヒーローのみの世界となる。
「……
セイバーの放つ黒の光線、否、柱と言えるほどに太い光がヒーローに向かって伸びる。
「ギガブレイク!」
ヒーローは光を解き放つ。自分らの進むべき道を遮るものを倒すべく。
青白い光はやがて雷光を纏い刃の様な形で黒の柱へと立ち向かう。
セイバーは黒光を撃ち放つ。自分が守りしものを守らんが為に。
黒い柱は雷光を押し返し、ヒーロー諸共葬り去るべく斬撃へと進む。
二つはぶつかるとその威力を発揮する。
ヒーローの斬撃は柱を二つに分かとうと、セイバーの砲撃は斬撃を押し返そうとその場に留まる。
力は拮抗し、その余波が辺りに衝撃となって襲いかかる。
拮抗して数刻したのち、状況は一変する。
「……ぬ!?」
突如としてセイバーにかかる負荷が増える。その変化にセイバーは疑問の声を上げると、徐々にだが、押されつつあった。
その威力に感心しながらも、セイバーは更に剣に力を込める。
「悪いな。これで終わりだ」
しかしそれは無駄に終わる。
ヒーローが放った
──何故……
お互いに魔力を全て消費しての一撃。
余力があるとは思えない。全力の一撃を同等の威力で打つことなど
「……見事だ勇者よ。良き仲間を持ったものだ……」
セイバーが見た先に、手を紅く光らせる少年が見えた。それを見てセイバーは至る。勝敗の原因を。
二人の違いは
時は少しばかり遡る。
『うぉおおお!? とんでもない魔力の上昇量だ! 余波だけでも僕達じゃすぐにお陀仏ですよ所長!』
「そんなこと分かってるわよ! だからマシュに宝具を前以て撃たせたんだから! マシュ、連戦続きで悪いけど、耐えて!」
「ハ、ハイ!」
「うぉおおお! マシュー! 励ますことしか出来ないマスターでごめんなー! 頑張れマシュー!」
セイバーとヒーローの打ち合っている少し離れた所で、カルデア一行は軽い危機に苛まれていた。
ヒーローとセイバーの宝具の打ち合いの余波はそれだけでも凄まじいもので、マシュの宝具がなければ一瞬でチリすら残らずにこの世から居なくなっていたかもしれない。この辺りは即座に宝具を放つ様指示したオルガマリーの勘である。現に何も遮るものがない状態のバーサーカーはかなり耐えかねているらしい。
「それにしても! あのロトの宝具ですら相打ちなの!? いったいどんな英霊なのよ!?」
「ロトー! 『ヒーロー』の力見せてやれー!」
「フォフォウフォーフォーウ!」
「あなたマスターでしょ! 令呪でアシストしなさい!」
「あ! そっか!」
向かい風に吹かれながらも、立香とオルガマリーは大声を張り上げながら作戦を練る。そしてオルガマリーの提案に立香は令呪を光らせ声を上げる。
「令呪をもって命ずる! ヒーロー! もう一度宝具を放て!」
令呪を一画使い告げた立香の命を遂行するべく、ヒーローにブーストがかかる。先程までほぼ空だったヒーローの魔力が充填され、再び宝具を放つまでに至る。
それを感じ取ったヒーローは立香の方を振り向き、勝ちげに笑った。
『サンキュー
ヒーローは喋らなかったが、立香にはそう喋った様に見えた。
ヒーローは再びセイバーの方に向き合うと、今度は剣を横薙ぎに振るう。
「ギガクロス・ブレイク!」
ヒーローの作りし十字架はセイバーの宝具を押し返す。
そしてセイバーを穿ち、あたりは静寂に満ちる。
『セ、セイバーの霊基崩壊を確認! ロト君の勝利だ────!』
通信機越しのロマンの声に、ヒーローの固有結界が剥がれ、元の世界へと戻る。
それに伴いカルデア一行の意識も現実へと帰る。
その様子を見てロトは告げる。
「……勝ったぞ!」
その笑みに立香とオルガマリーは抱きついた。