「そういえばエイネは夢を叶えた後はどうするつもりなんだ?」
何気なく、本当に何気なくラミ・シーカヴィルタは目前の少女エイネ・カタイストへと問いかける。
時刻は既に夜中、ぱちぱちと音を立てながらただ焚き木が両者を照らしている。
「それって残りの四つの《天命》総てを果たしてこの惑星を救った後の話?」
「おう」
それは本来ならあり得ない問いかけだっただろう。
《天命》とはその神子が自らの命と引き換えに果たす神よりの使命。
それが十つ果たされた時、滅びに瀕しているこの惑星は救われるとされるもので、これまで果たされた六つの天命は総てが歴代の神子の命と引き換えに果たされているのだから。
そも天命を果たすことが出来ずに道半ばで果てる神子も居る事を想えば、それを一つ達成するだけで世紀の大偉業ーーー実際に天命を果たした六人の神子は皆《大灯師》としてその名を歴史に刻んでいるのだ。
それを生きたまま四つ果たそうなどというのは神子であると同時に最年少の守護十三騎となった史上最高の天才エイネ・カタイストであっても無茶無謀と言わざるを得ない絵空事だ。
しかし、彼女と共にあることを望み選んだ史上二番目の早さで守護十三騎となったラミ・シーカヴィルタはそれを絵空事だなどとは全く思っていない。自分と彼女ならば必ずやその絵空事を現実にすることが出来ると信じているのだ。だからこその何気ない問いかけ、夢を叶えてその後どうするかという話だ。何せエイネは未だ15歳、神子は年を取らないという事を抜きにしたって夢を叶えてからの人生の方が長いのだから。
「うーんそうだね、まず故郷にいる可愛いアウリに会うとしてその後は……どうしよっか?」
「いや、どうしよっかって言われても困るんだが。エイネが決める事だろ?」
こちらに向けられた何やら期待の入り混じった視線。
それを受けて困ったようにラミは肩を竦める。
幼馴染の期待には最大限応えたいとラミは思っているが、それでも何を期待されているかがわからなければ応えようがない。
「まあ、それはそうなんだけどさ。でもそうだね、神子として天命を果たしてこの惑星を救ったら、その時はもう一つの昔からの夢を叶えようかな」
若干すねたような口調になっていたのも一瞬、エイネは綺麗だが同時にどこか悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「昔からの夢?」
エイネは自分が神子であることを隠していた。
それは神子であるという事がわかった瞬間栄光ある立場に強制的に縛り付けられて人としての自由が無くなる事を知っていたが故のものだった。そしてそうなる前に抱いていたエイネの夢というものをラミは聞いたことがなかった。自分の方はそれこそ馬鹿みたいに騎士になるのだとずっと繰り返してきたものだが。
「ふふん、知りたい?」
「ああ、教えてくれるなら」
「それじゃあ他ならぬラミにだけ特別に教えてあげよう、あのね私の夢はね、お嫁さんになる事」
「…………へ?」
透き通るような美しい笑みと共に告げられた予想だにしていなかった言葉を前にラミ・シーカヴィルタは呆気を取られたようにポカンと大口を開ける。それは彼を此処まで仕込んだ師が見れば「未熟者め」と叱責する事間違いなしのあまりに隙だらけの様子であった。だがラミにとって幼馴染の告げた言葉はそれほどの衝撃を齎すものだったのだ。
「む……そんなに驚くような事?女の子が抱く夢としては割と普遍的なものだと思うんだけどーーーそれこそ男の子が騎士に憧れるのと同じ位ね」
逆に言えば、そんな普遍的で当然の夢を叶えようと思うならばエイネ・カタイストは空前絶後の大偉業を達成しなければならないのだ。それこそが神子という立場の重さを如実に示すものだろう。
「あ、ああ悪い……別に馬鹿にしたとかそういうわけじゃなくてだな……」
「わかっているよ、ラミがそんな人の夢をバカにするような人じゃないって事くらい。
まあでも現実的に考えるならその夢を叶えるためにも色々と大変なんだろうね」
「そりゃなんたって歴代の神子の誰もが成し遂げられなかった事をするんだ。
達成した暁にはそれこそ今にも増して大変な事になるだろうな」
天命を生きたまま成し遂げるーーーそれだけでも空前の壮挙なのだ。
ましてや残り四つの天命をすべて一人で達成して生きたままこの惑星を救う等という大偉業を達成した暁にはエイネ・カタイストは文字通りの救世主となるのだから「私はただの女の子に戻って結婚します」などと言っても卸してくれぬ問屋たちは山のように居る事だろう。
「他人事みたいに言っているけど、それはラミだって一緒だよ?
なんたって私と一緒に世界を救った英雄になるんだから。
あちこちから引っ張りだこでそれこそどこぞの貴族のご令嬢様だとかが山のように言い寄ってきたりするんじゃない?良かったね」
自分で言っておきながらその光景を想像して若干不機嫌な様子へとエイネはなる。
「いや、全然良くないんだが……」
しかし、エイネにそんな事を言われた未来の英雄にして色男の方はと言えばバラ色の未来を想像して鼻の下を伸ばすのではなく、むしろ辟易とした様子を見せる。
「どうして?綺麗な女の子達にきっとモテモテだよ、男の子にとってはそれも一つの普遍的な夢じゃない?」
「いや、だってその子たちが群がっているのって俺自身にじゃなくて俺の肩書にだろ?そんな相手に好意を向けられてもなぁ……エイネだってそんな自分を世界を救った英雄だなんて風にしか見ていない相手となんて……嫌だろ?」
そもそも綺麗な女の子たちにモテモテだとか言われたってラミとしてはいまいち心がときめかないのだ。何せ一番綺麗だと思う少女は今、目前に居るのだから。
「うん……そうだね。私もお嫁さんになるなら私を私として見てくれる人が良い。その夢を叶えるためにも頑張って生きて天命を達成しないとだね、ラミ」
そんなラミの言葉にエイネはどこまでも嬉しそうに透き通るような笑みを浮かべながら頷くのであった。
それは史上七人目となる《大灯師》エイネ・カタイストが確かに夢見ていた未来であった……
二人の旅をOVAで見せて(懇願)