サキサキのバレンタインは色々まちがっている。   作:なごみムナカタ

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2020.12. 1 台本形式その他修正。
2019.12.26 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。


13話 なんとなく、彼の求める本物が形を成す。

「お兄ちゃん遅くなってごめんねー」

 

 ようやく小町が玄関に現れた。靴を履いている内に気恥ずかしさを払拭しようとするも、感情のコントロールがうまくいかない。身体も心なしか熱いし。

 

「お、おう小町、けーちゃんがおねむだったりしたのか?」

「あー、そうでもないみたいだったけど、急に寝ちゃったら困るから歯磨きさせてた。あ、小町がしてあげたんだよー」

 

「ああ、それでちょっと遅かったのか。小町はお姉さんでもいけるな、さすが小町。その調子で俺の老後の面倒もみてくれ」

「えー、そういうことは小町じゃなくて沙希さんに頼んでよ」

 

「…………」

 

(落ち着け……落ち着け……)

 

「あれ? 沙希さん? ……お兄ちゃん、沙希さんになんかした?」

「俺にそんなことできる甲斐性がないことは小町が一番よく知ってるだろ」

「分かってるけど、お兄ちゃんって天然で結構すごいことする時あるし……」

 

「え? あ、なんか言った? ごめん、聞いてなかった」

「あ、いえ、お兄ちゃんが沙希さんに何か言ったのかなーって」

 

「あ、ああ、大志と小町の合格祝いにまた家族同士で食事しようって話してた」

「ええ! あのお兄ちゃんが⁉ どうしちゃったの、お兄ちゃん! まさか小町以外にも家族欲しくなっちゃったの⁉」

 

「か、家族……」

 

「ばっか、これは川崎がお礼してくれるっていうから……」

「でもでも、お礼って普通してほしいこと頼むよね? ってことはお兄ちゃんも今日の食事楽しかったってことじゃん!」

「……まあ、そうだな。飯は美味かったし」

 

「‼」

 

「もー、そのまま付き合っちゃいなよー!」

「お、お前なあ、川崎が合格祝いしてくれるっていうのに機嫌損ねるなよ」

 

「…………」

 

「あれ……?(さっきから沙希さんの反応すごく薄いなぁ、どうしたんだろ)」

「あ、でもでも、合格祝いってなるとどっちか、もしくは両方落ちてたりすることもあるから、確実に出来るか分からないんじゃない?」

「! お前、俺ですら空気読んで口にしなかったことを言うか」

「ええ? お兄ちゃんがもう言ってるもんだと思ってたのに……」

 

 比企谷達が何か話してるけど、頭に全然入ってこない……どうしちゃったんだろ……

 

「じゃあ、そろそろお暇しよっか」

「そうだな、けーちゃんをお風呂に入れたりとか色々あるだろうし」

 

「あ……うん……」

 

「沙希さん、大丈夫ですか?」

 

「え? ああ、平気……」

 

「おい、ホントに大丈夫か、お前」

 

「い、いいから、気にしないで!(ち、近い!)」

 

「お前、今日大変だったし、なるべく早く寝とけよ」

 

 比企谷は自転車に乗り、小町は荷台へ。二人ともこちらを向いて別れの挨拶を交わす。

 

「それじゃ、沙希さん今日はご馳走様でしたー」

「ごっそさん、またな」

 

「う、うん、こっちこそ、ご馳走様」

 

「お兄ちゃん、お別れのキスとかしちゃえば?」

 

「キ!」

 

「小町ちゃん、はしゃぎ過ぎじゃないかね? 引かれちゃうよ?」

 

 

「…………」

 

 

「まあ、お兄ちゃんに……胸あ……ないか……」

 

「ま……今日も……下にヘ………謗り……認識であ……」

 

 

「…………」

 

 

 二人の声が耳に入ってこない……なんでだろう、さっきからずっと頭がぼんやりしちゃってる……

 

「~~~~」

 

「~~~~」

 

 なんか……やっぱり変だ今日……はちまんって呼んでから……ううん、さっきの比企谷の不意打ちから……

 

『おお、サンキュー! 『   』、愛してるぜ!』

 

 ⁉ ……また! なんで! なんで⁉

 

 自転車に跨ってる比企谷はこっちを向いてる。

 

 …………本気……なの……?

 

 …………愛してるん……だよね?

 

 あたしは吸い寄せられるように比企谷の傍へ……

 

「ん? なんだ? なんか言い忘れたことでもあるのか?」

「…………」

 

「合格祝いの予定なら、追ってメールとか……んっ⁉……む‼」

「…………」

 

「――――⁉」

 

 あたしは……比企谷の頬に両手を添えて――――

 

 

 ――――唇を重ねた。

 

 

 

      ×  ×  ×

 

 

《 Side Hachiman 》

 

―比企谷家―

 

 

「……小町、風呂あがったぞ」

「‼ そそ、そう! わかった、こ、小町もこれから入浴るから、お兄ちゃん先寝ちゃってていいよ!///」

「お、おう……」

 

 川崎の家であんなことが起こってから小町の様子がずっとおかしい。

 普段なら絶対小町が先に風呂に入るのに、今日はもじもじしながら何を訊いても要領を得なくて俺が先に入浴ることになったのだ。

 本当は俺の方が悶えたいのに、小町のあんな様子を見てしまうと逆に覚めて冷静になっちまう。

 

 ベッドで寝転がってラノベでもと思ったが、ラノベなんて大抵ラブコメ入ってるから読むとやっぱりさっきのこと思い出して悶えそうなのでやめた。

 

「川崎沙希……」

 

 俺がしたことで守れたものを共有したい、か……今思い出すとこの発言も悶え案件だな。悪いことではないが黒歴史に認定してもいいレベル。

 

 ケーキを食べ終わってから小町に呼び出されて、スマホに録音された川崎の言質を聞かされたのには正直驚いた。

 億が一が的中するとか、今日の俺は特異点そのものだな。俺が世界を滅ぼすかも……なんてな。

 

「そういや合格発表もうすぐだし、そのお礼代わりにまた夕飯の約束したってのに連絡しづれえじゃねえかこれ……」

 

 何にも悪くなくても衆人環視の元で土下座できる鋼の精神の持ち主、比企谷八幡だけど、あんなことされた相手に電話なんてできねーよ、俺のハートは硝子で出来ている! 心象世界がそこらじゅうに硝子の破片刺さった荒野が広がってるとか心が貧しすぎるだろ、どんだけ潤いない人生送ってんだよ‼

 

「…………」

 

八幡(思い出したら喉乾いてきた)

 

 

―リビング―

 

 

 マッ缶に一口つけるとソファーに腰をおとした。ドライヤーの音が止み、風呂上りの小町と遭遇した。

 

「あ、あはは……いやー、お兄ちゃんマッ缶好きだねえ、小町嫉妬しちゃうよー、ははは……」

「え? なにマッ缶にジェラシーとかお兄ちゃんのこと好き過ぎでしょ? 心配しなくても小町が一番だからな」

 

「え、えー……あ、そ、そうなんだ、でも……いや、こ、小町も、おお、お兄ちゃんのこと、好きだからね」

 

 先ほどの衝撃的な事件があったというのに俺の隣に座る小町。

 え? なに? これだけ気まずいと普通少し離れたりしない? ホントに俺のこと好きなんだな、お兄ちゃんも大好き! 結婚しよ!

 でも口に出すとマジトーンのカウンターとんできてダメージ受けそうだから言わんけど。

 

「……なんだよそのキョドリは……お前は俺かよ……『あんなこと』があったから分からんではないが……」

「! お、お兄ちゃんこそ何その余裕! なんかお兄ちゃんらしくない! イケメンぶって! 全然動じないとかビッチじゃん! ビチ幡じゃん!」

 

「ちげーし。ってかそのビチ幡って傷付くからヤメロ。言われて気持ち分かったわ、今度から由比ヶ浜に少しだけ優しくなれるかもしれん。小町は由比ヶ浜の救世主だ、さすが俺の愛妹」

「あと、お前が冷静じゃない分、俺が冷静になってるだけだ。本来なら、ベッドに寝転がって足をバタバタさせたいのを必死に堪えているんだぞ?」

「ついでに小町も足をバタバタさせたくなってきたよ……」

 

「大体、いつもっつーか川崎んちから帰る直前まで色々煽ってたのに、いざ目の当たりにしたらこんなんなっちゃうって内弁慶すぎない?」

「だ、だ、だって……目の前でその……キ、キキ……」

 

「あー、わかった。もう言わんでいい。俺の方が悶えそうだ」

「……………」

 

「……なんだよ?」

「なんか本当に冷静だね。普段ちょっと女の子から挨拶されただけでキョドるのに、今回のは告白とかすっ飛ばしていきなりキキキ、キスだ、よ?」

 

「いやもうそれキスに対してイップス発症してない? 川崎はうちの小町にトラウマを植え付ける存在になってしまったか……」

「やっぱり冷静だよね……で、どうなの? 沙希さんのこと好きなの?」

 

 そう問われ、改めて考える。俺は川崎沙希をどう思っているのだろうか……と。

 ふと、ある日の出来事が脳裏に浮かんだ。

 

 かつてクリスマス合同イベントの助力を依頼する時、言葉で言い表せなかった俺の求めたもの……

 

 俺はわかってもらいたいんじゃない、俺はわかりたいのだ、と。安らぎを得たい、わからないことはひどく怖いことだから。もしもお互いがそう思えるのなら

 

――――『本物がほしい』――――

 

 だが人と人が完全に理解しあえないことは知っている。そのことを手の届かない酸っぱい葡萄と揶揄したのは俺自身だ。

 その届かないはずの葡萄を違う手段で手にしようとした今日の言葉。

 

 

『俺がしたことで守れたものを共有したい』

 

 

 川崎にしたお願いの意図を言葉にしたそれは家族との親和。川崎のことを知りたいと願うと同時に、俺と彼女が直接理解し合おうとするのではなく、俺と彼女を知る家族を介した相互理解の関係。

 

 個と個による具体的理解ではなく、個と他による抽象的理解。他を介すことにより客観を纏った目は個にはない真実がある。

 それは幹を揺すって葡萄を落とすかのような間接的に手にすることに似ていた。

 

 妹の小町は俺をもっとも理解している人物であり、俺が捻くれているせいで表に出さない部分は小町から伝わるだろう。

 

 大志と京華は姉に大事にされており、不器用でぶっきらぼうな姉の普段は見せない優しさを教えてくれるだろう。

 

 そうして俺と川崎はお互いに気付けない部分を知ることができる。

 

 それで完全に理解できるとは思っていないが、他人を信じることに臆病と自覚している俺にとって最適解なのかもしれない。まだ素直になりきれないながらも俺から前に進めたことがちょっとだけ誇らしく思える。

 

 俺の次の言葉を期待してか瞳を爛々とさせている小町に、実に俺らしい答えを返してやった。

 

「……嫌いではないぞ。今日一緒に夕飯食べてて思ったけど家族と同じくらい居心地は良かったしな」

「え?」

 

「家族と同じってその……(小町と両親で意味合いに雲泥の差があるから判断に困るな……)」

「……どっちだろうな?」

 

 小町の頭を優しく撫でてやると、自然と俺の顔に笑みが浮かんだ。

 

「‼ お兄ちゃん、いくら小町を愛しすぎてるからって心をマインドリーディングしちゃうなんてデリカシーの欠片もないよ!(な、なに今の⁉ 腐った目なのに……こんな笑顔、小町ですら見たことないよ)」

 

「心をマインドとか意味かぶってるからやめようね、お前はどこの玉縄だよ。そんな海浜高校ワード使っちゃうと、総武高校に嫌われちゃうからね?」

「もう入試終わってるんだし、いまさら頭悪い発言しても嫌われないよ! 嫌うのはそんなこと言うお兄ちゃんの方だから安心してね♪」

 

「‼ ご、ごまぢぃいいいい~~~~‼」

「ふふ、やっぱりこの方がお兄ちゃんらしいよ」

 

 そういって笑みを浮かべる小町はいつも通りの小町だった。

 

 

 

つづく

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