サキサキのバレンタインは色々まちがっている。 作:なごみムナカタ
あれ? 八沙ちゃんと成立してるこれ?
ちなみにアニメ・ゲームでは京華とめぐりのCVは同じ人です。
そのメタなネタを利用したやり取りが行われております。
2020.12. 1 台本形式その他修正。
2020. 1. 4 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。
特に相模・ゆっこ・遥の関係についての文を追記。
《 Side Hachiman 》
~2月16日(金)~
「…………」
「お兄ちゃーん、朝ごはんできたよーって、なにその恰好? 上ジャージで下制服って体育の先生みたいだよ?」
「おい待て体育教師をディスるのはやめてやれ。そんなもん人によってで固定イメージじゃないからな?」
「例えばの話だよ、真に受けちゃうお兄ちゃん、いつもより目が澄んでる気がしてポイント高いよ?」
「八幡を褒めて伸ばそう方針に早くも成果が見られたのか。今後が楽しみだな」
「まあ、それは置いといてなんでブレザー着てないの?」
「昨日川崎に貸して返してもらうの忘れてた…………替えもクリーニング中で苦肉のファッションだ」
「うわー、熱で朦朧としてた沙希さんにブレザーをさり気なく掛けてあげたの? お兄ちゃん本当にどうしちゃったの? 完全にイケメンじゃん」
「はいはい、小町ちゃんも完全に可愛いよ」
「う……なんかテキトーだけどおまけでポイントあげちゃう。それと早く食べちゃってね、今日自転車ないからバスでしょ?」
「おう、そうだった。ちょっと急ぐか」
会話もそこそこだったので、すぐ食べ終わってしまう。食器を水に浸けて時計を見ると、意外と余裕があった。
「そういえば今日も川崎の家に行くけどまた一緒に買い物するか?」
「あー、今日は小町一人でいいよ。学校半日だし終わったら買い物して沙希さんち行ってる。お昼も作ってあげようかなって。お兄ちゃんこそ京華ちゃんお迎えに行くんでしょ?」
「ああ、昨日は信用を得るまで大変だったが今日はすんなりお迎えできそうだわ」
「あ、忘れてたけど小町今日合格発表だよ、お兄ちゃん!」
「そーだな。小町なら受かってる。俺が保証するぞ」
「えー、お兄ちゃんに保証されてもなー」
そう言いながらも嬉しそうだ。
「ついでに大志も受かってれば言うことないな。あくまでもついでだけど」
「…………え」
「?」
「お、お兄ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんて……」
「あー、悪かった。……毒虫は落ちてるに決まってるがな、可愛い妹と同じ学校に通おうなんて神が許しても俺が許さん。……こう言えば良かったか?」
「うわ、通常モードも使い分けられるんだ? お兄ちゃん器用だね」
「うむ、こっちが本来通常モードなはずなのにどうしちまったんだろうな、俺は」
「いいことなんじゃないの? 自然にそういう言葉が出るのって。確かに小町的には、いつもの捻くれ発言が聞けないのもちょっと寂しい気がするけどねー」
平塚先生との約束を一度達成しただけだが、効果があったというべきか。まあ、学校では絶対自虐ネタが溢れ出るだろうけどな。
「合格発表といえば、まだ結果は分からんけど、どっちにしても合格祝いで川崎達と一緒に夕飯ってやつは延期だな」
「あー、そうだね。沙希さん今日もダメだろうし、明日も多分病み上がりだしね」
「……悪いな小町。今日も夕飯の面倒かけて」
「なーに言ってんの。お兄ちゃんの介護なんていつものことなんだし、沙希さんの代わりにご飯作るの楽しいよ」
ホント出来た妹だよ。こいつの為にも、もう少しはまともなお兄ちゃんになってやろうって、そう思えてくる。差し当たっては小町に向けて自虐発言をしないよう心掛けるか……ハードルひくっ!
自虐発言ですら他人を傷つけるとは思わなかった……真のぼっちでない限り、どうやっても傷つく人は出ちまうってことか……平塚先生の言っていた『存在するだけで誰かを無自覚に傷つける』って言葉はこういうことでもあったんだな。
「じゃあ、もう出るわ」
「あ、バス停まで一緒に行こうよ。妹を置いてくなんてポイント低い!」
「40秒で支度しろ」
「もっと待ってよ!」
「ネタだネタ。待つに決まってるだろ! 待ってるから、すっげー待ってるから、ゆっくり支度してていいぞ」
「うん!」
―教室―
教室を見渡したが、やはり川崎は来ていない。逆に来てたら説教かまして家に送り返すレベルだけど。戸塚も朝練だしHRまで安定の寝たふりだな。ついでに108の特技の一つ、人間観察で昨日のことについての噂がまだ流れているか調べてみるか……。
…………………
…………………『今上映してる…………映画なんだけど』……『今週の土曜日サッカー部の試合が』……『バレンタインでさー』…………『見てよ、何か上ジャージなんだけど?』……
ん、これは……?
俺はその発生源に耳を
……『うわー、なにあれ? 体育教師かっての……』……『昨日、保健室に川崎さん連れ込んで何かしたんじゃないの? アイツ』……『川崎さんもその時、ヒキタニ菌に感染しちゃったんじゃないの?』
おい、そんなに俺のファッションが体育教師に見えるのか。お前らの発想小町と一緒かよ。
どう見ても俺を標的とした侮蔑の言。いつもなら放っておくのだが、話題の中心に川崎がいる以上、何もせずという選択肢はなかった。……しかし、
……どうするかな。
俺自らがそこへ行き恫喝する? ないない。俺のキャラじゃないし、そもそも俺の恫喝に効果があるとは思えん。むしろ逆効果まである。
チラリと声の方向を窺うと、相手が相模とその取り巻きであることが分かる。
文化祭の後ならともかく、体育祭で相模は汚名返上……とまではいかないまでも一定の成功を収め停戦状態になったと思っていたのだが……。
だが一時期の最大ヘイト時に比べれば可愛いものだ。割と純粋に冷やかしている程度なのかもしれない。俺のセンサーが悪意の多寡を正確に計っていた。
今のところ手詰まりか……こっちからアクションしたら全て裏目になりそうだ。
しばらく放置していようかと思ったら、意外なことに相模の方から接触してきた。
「……なにその恰好? 昨日川崎さんに何かして制服汚れちゃった?」
おや……なんか無理してねえかコイツ? 顔引きつってるし…………ああ、そういうことか。
相模の後ろで取り巻き二人が俺に蔑みの視線を向けている。
つい昨日の昼休みのスキャンダルを話していたらそのまま俺ディスりの方向に話が進み、直接ぶつけにきたようだ。
しかし、相模にはそこまでするつもりがなかったように見える。体育祭終了からこっち、俺と相模は元通り無関係という立場で収まった。なのに今こうなっているのには理由があるのだろう。
あの二人はクラスメイトの取り巻きではなく、バスケ部に所属している相模の『よっ友』だ。確か
察するに、体育祭で運営側として俺と相模が協力関係(立場上だけ)にあり、現場班であった
あれだけのことがあってまだ付き合いを続けようとする思考回路が俺には理解できない。弱みでも握られてるんじゃないか。もしくはドMか。
いや、そもそも体育祭実行委員会議が答えだった。既に一度、二対一の構図で陰口の対象として相模は生贄にされた過去を持つ。喧嘩別れなどしたら文化祭後、俺にしたように風説の流布を以て貶めてくる可能性はある。相模との交流がある分、その陰口も的確に弱点を突いてくるだろうし元から最底辺であった俺と違い、上位カーストの相模が被るダメージは計り知れない。
ならばと体育祭前の、三人で同じ人間を陰口の対象とした元の形に戻ろうとして選ばれた生贄が順当に俺だったということか。
つまり、これは踏み絵だ。相模の意志は関係なく俺に攻撃せざるを得ない状況になったっていうのが正しいな。
相模もいまさら俺に対して優しくすれば、後ろの二人に弱さを見せたことになり関係性が崩れると内心ビクビクしてるんだな。
はぁ~、これだから友人なんていると生き難いんだよ……。
「……ちょっと、何か言いなさいよ?」
何にしても向こうから絡んできてくれたのは好都合だ。いつも心の中で呟く自意識過剰の代名詞なこの言葉を贈ろう。
「……なんだお前? 俺のこと好きなの?」
「! は、はぁ⁉ ば、バカ言わないでよ、なんでうちがあんたなんかを! ヒキタニってホント気持ち悪い!」
「な、なに言ってんのコイツ、キモイ!」
「近寄ると妊娠させられそう! いこ!」
相模達は床を踏み抜きそうな力強い足取りでその場を去った。元々俺からは近づきませんからご安心くださいね。
解消されるか分からんが、このカウンターで『川崎に何かした?』から『ヒキタニマジキモイ!』に塗り替えられたはず……信じてるぞ、相模!
しばらくすると朝練の終わった戸塚が教室に入ってきた。
「八幡、おはよう」
「おっす、戸塚」
「あれ、ブレザーどうしたの?」
「ああ、そういえばこれ見るとそう思うよな。上下ジャージになっとくか」
ジャージ姿でも目立つことには変わりないが、やっぱ上だけジャージだと
「あ、せっかくジャージに着替えるなら昼休みご飯食べた後、ちょっと練習付き合ってくれない?」
「……そうだな。ついでに飯も一緒に食べるか」
「ホントに? うん、分かったよ!」
朝から相模に絡まれて最悪のスタートだと思っていたが、神様は俺を見捨ててねえじゃん!
……そうだ、チョコ貰ったのにお返ししてなかったな。昼に飲み物を奢ってやろう。
~中休み~
そろそろ小町達の合格結果は出ているはず……平塚先生に直接訊いてみるか。
「失礼します。平塚先生いらっしゃいますか?」
「ん、比企谷じゃないか。今日も夕飯のお誘いかね?」
「……先生の中じゃ誘われた感じになってますけど昨日別に誘ってはいませんからね?」
「……まあ、期待はしていなかったが、君はもう少し社交辞令というものを身につけるべきだ」
「欺瞞は嫌いです」
「はぁ……。それはそうと、何しにここへ? 用件の見当はついているつもりだがね」
「……それで……あの……」
「君の妹と川崎の弟の合否だろ?」
「前者だけでいいんですけど。後者は別に……」
「嘘をつけ。顔に出ているぞ。……あと10分ほどでWebサイトに合格者が載ると思うが、小町くんは合格だ。おめでとう」
「‼ あ、ありがとうございます!」
「……⁉ 『小町は?』 あ、大志の方は……?」
「君の妹はまだしも川崎の弟の結果はさすがに家族以外に明かせんぞ?」
「…………」
「な、なんだ、その表情は? そんなに悲しみに暮れた顔を見せるんじゃない。……ん、んっ! 仕方のないやつだ。教えられないが。わたしの態度から当ててみるがいい。君は人間観察が得意なのだろう?」
そういって先生は俺の沈んだ表情に、満面の笑みを持って返してきた。
「は、……はは」
「うむ、そういうことだ。わたしは何も言っていない。それと今日は奉仕部を休んでも構わんからな。小町くんの合格発表の日だし、今日も川崎の妹のお迎えに行くのだろう?」
「はい、ありがとうございます」
「ああ、一応顔だけは出して休むと言ってやれよ? それに結果は直接教えてあげた方が二人も喜ぶだろう」
「分かりました。失礼します」
……やった……やったぞ、小町! ついでに大志も!
直接的な言葉がないので川崎に電話して合格したぞ、とは伝えないが。これが勘違いだとしたらマジで痛い。痛すぎる。過去のトラウマにあった女子からの好意だと勘違いするよりも痛い。間違ってたら過去最強の黒歴史になってしまうだろう。
…………良かったな、川崎。
俺は小町より、むしろ川崎の顔を思い浮かべ安堵していた。
《 Side Meguri 》
~昼休み~
―ベストプレイス―
「あ、今日もここだ。比企谷k……」
「もー、八幡、遅いよ」
「すまん。購買でパン買ってたからな。ほら」ポイッ
「わっ、これって……?」パシッ
「バレンタインの時チョコくれただろ? 貰いっぱなしはいけないからな。ジュースでお返しってことで」
「! うん、ありがとう八幡!」
「こっちが先に貰ったんだから礼を言うのはこっちの方だ」
あ、今日はお友達と一緒に食べるんだ。比企谷くん、ちゃんとお友達いるじゃん。
う~ん、さすがに邪魔しちゃ悪いかな……今日はコートも持ってきて防寒対策完璧にしてきたんだけど……。
わたしは二人が昼ご飯を食べるところを木陰で見守りながらがご相伴させてもらう。……これご相伴じゃないよね。
「そういえば、昨日は川崎さんを保健室に連れて行ってたよね。今日休んでるってことは結構症状重かったのかな?」
「ああ、昨日の時点で38℃以上出てたし、今日来るのは無理だったろうな」
「そっか……でも八幡はすごいよね」
「え?」
「僕は教室にいなかったけど、熱出した川崎さんの具合を察知してすぐ背負って保健室まで連れてったって聞いたよ?」
え⁉
昨日、熱出したって聞いたけど……比企谷くんが背負って連れてったんだ……。
「え……それのどこがすごいんだよ……?」
「だって具合悪いことに気付くのもすごいし、迷わず背負っちゃうところもすごいよ。僕だったら多分、恥ずかしがって躊躇してたと思う。他の女子に頼んでたかもしれないから」
「……俺も出来ればそうしたかったんだが、俺が声かけてキモがらない女子がその時教室にいなかったからな」
「そういう状況になっても、しっかりと行動できるところもすごいと思うんだ」
「……戸塚だってそういう事態になれば行動できると思うぜ。なんせ戸塚だからな」
「はは……嬉しいけど根拠がないよ」
「なにいってんだ、戸塚が根拠だろ。それ以上に根拠となるものがあるのかを知りたいまである!」
「あ、あはは……」
……川なんとか……川崎さんてどんな人なんだろ。
……逢ってみたいな。
お昼ご飯が終わると、二人で楽しそうにテニスの練習をしていた。比企谷くん、全然ぼっちじゃないじゃん。
《 Side Saki 》
―川崎家―
「姉ちゃん、ただいま! 比企谷さんと俺、二人とも受かってたよ!」
「お邪魔しまーす! 沙希さん大丈夫ですかー?」
「あ、二人ともホントに⁉ …………ああ……おめでとう、……おかえりなさい…………」
「ありがとうございます! せっかくだから大志君と一緒に総武高校の合格発表見に行って来ましたよ。なんか青春してる! って感じだったよねー?」
「そうっすね。ドラマとかで観たことあるシチュで、やってみたいって思ってました」
「そ、そう……良かった……ね……?」
あたしにはちょっとついていけない感覚だったので苦笑いで応えてしまう。
「その帰りに二人でお買い物もしてきましたんで……あ、お兄ちゃんには内緒にしててくださいね? 大志君と二人で買い物とかバレたら何もなくても何するか分からないし。これから皆のお昼作りますね。もう熱下がりました?」
そう言って一気に捲し立てた小町は三日目の今日となるうちでの料理に腕を振るう。
「少し下がったけどまだ38℃切ったくらいかな」
「わっかりました。インフルではなかったんですよね?」
「ああ、午前中に病院行って検査受けたよ。インフルだったらさすがに連絡するしね」
あたしは冷蔵庫に入れるのを手伝おうとして、ふらついてしまい大志に支えられた。
「あ、姉ちゃん危ないから無理して歩き回らないで」
「た……たいしぃ……」
「(あちゃ~重度のブラコンだわ、こりゃ……)」
「あ、ご、ごめん、昨日の妹ちゃんのお粥、美味しかったから、良かったらまた作ってくんない?」
「わっかりましたー! 沙希さんに喜んでもらえるなんて小町も感激d…………はっ」
「あ」
「どうしたの? 二人とも…………あ」
× × ×
「……姉ちゃんごめん……昨日俺が全部やってたみたいな感じ出してたけど、比企谷さんとお兄さんが……」
「ん……あんたは何にも悪くないよ。むしろあたしを喜ばせようとしてくれたんでしょ? 嬉しかったし謝んないで」
「まあ、さすがに無理がありますよね。料理は大志君が上手く出来たって誤魔化せても、隣の部屋で京華ちゃんもはしゃいでて小町達の声もどうしたって聴こえてただろうし……」
はぁ~、母さんに口止めされてたのに1分でバラしちゃったよ……。
「ま、まあ、あたしも意図は分かってたし、それに付き合うつもりだったんだけど、合格って聞いてつい気が緩じゃって……」
「黙ってようって言ったのは比企谷だっけ?」
「はい」
「うん」
「じゃあさ、今度こそあたしも気を付けるから、比企谷にだけは騙されてるふりしとくよ。あんた達もそれでいい?」
「そうですね。せめてお兄ちゃんだけでもそう受け取っといてもらいましょう!」
「……なんか俺としては複雑なんすけどね……」
「えー、いいじゃん、お兄ちゃんは大志君を立てようとしてたんだよー?」
「でも、お粥作ったのは比企谷さんで、塩分の妙味もお兄さんから教わったのにドヤ顔で姉ちゃんに話すとか、真実がバレた今じゃ顔から火が出そうなくらい恥ずかしいっすよ……」
「えっ? あれって妹ちゃんの料理テクニックじゃないの?」
「はい、お兄ちゃんよく読書するし、本から得た知識らしくて昨日話してくれて試してみたんですよ。そしたら上手くいったからこれだーって思って大志君に
あいつ……どんな本読んでんのよ……それにしても、そんなことにまで気を回すなんて意外。
「そういえば改めて合格おめでとう二人とも。比企谷と話してた食事会でお祝いするってやつ……ホントは明日だったけど延期でいいかな? いまあたしこんなだし、一刻も早く治さないと家族にも二人にも迷惑かけちゃうし……」
「ぜーんぜん構いませんよ! なんだったらお祝いじゃなくったってまた食事会しましょーよー。今日だって実は似たようなもんですから!」
「そういってもらえるとありがたいね……でもあんたにばっかり負担かけちゃうのが……」
「いいんですよ、どうせ家でだってお兄ちゃんの介護してるんですから、人数が増えたってそこまで変わりませんって。むしろ、沙希さん達と食事するってなると出不精なお兄ちゃんが意外と素直に従うんですよ?」
「……え?」
「……まあ、期待させちゃう言い方だったかもしれませんが、小町がここでご飯作るって言ったらお兄ちゃんはこっちに来ないと食べられないから半強制的なんですけど……」
「あ、そうだね。うん……別に何とも思ってないから……」
「(……姉ちゃん……分かりやすい……)」
「(……なんでもうちょっと素直にならないのかな~今さら隠したって一昨日の出来事はなくならないのに……)」
「? あんた達、何か言った?」
目の前でぽしょぽしょと話す二人に不穏なものを感じて睨めつける。
「いや、べつに何にも……」
「なな、なんでもないです、あはは~(沙希さん怖いよー、お兄ちゃんじゃ手に余る気がしてきた……)」
× × ×
《 Side Meguri 》
~放課後~
―校門前―
今日は比企谷くんとお話できなかったなぁ……今日こそはチョコの感想訊きたかったのに…………あれ?
校門に向かっていると入れ違うようにこれから校舎へと向かう先輩の姿があった。
「はるさ~ん」
「あら、めぐりじゃない。今日は早いんだ?」
「はい。はるさんこそ今日はどうしたんですか?」
「ああ、これを持ってきたの。昨日比企谷くんいなかったでしょ?」
そう言って、手にした紙袋を見せてくれた。中には黄色いラッピングの箱が覗かれる。
……あれ?
「じゃあ、今日こそは渡してくるから」
「あ、はい。さよならー」
「…………」
「やっぱりはるさん、比企谷くんのことすごく気に入ってるよね……」
× × ×
《 Side Hachiman 》
―奉仕部部室前―
「あ、ヒッキー。部室の前でなにしてんの?」
「ああ、雪ノ下がまだ来てないみたいで鍵が開いてないんだ」
「えー、珍しいね。どうしたんだろ?」
「まあ、たまたま俺達のが早いってことがあっても不思議じゃないか。でも今日は用があるから報告に来ただけですぐ帰るんだよ俺」
「え、なになに?」
「ああ、小町が総武受かったんだ」
「え⁉ やったじゃん! さすが小町ちゃん! うわー、これで小町ちゃんが後輩になるんだー、楽しみー!」
「おう、ありがとな。それと多分、大志も受かってる」
「大志君も? やったね、沙希は……今日休みだけど、大志君も後輩になるんだ? 知ってる子が後輩ってなんか嬉しくなっちゃうね!」
本当にこいつは自分のことのように喜んでくれるな。そしてテンションそのままに言葉を続けた。
「じゃあさ、今日この後小町ちゃんと大志君の合格祝いのプレゼント買いに行こうよ!」
「あー、すまねえ。別に大志のプレゼントを買いたくないから言ってるわけじゃないんだが、俺これからけーちゃ……川崎の妹迎えに行かなきゃなんねえからすぐ出ないといけないんだ」
「あ、そうなの?」
「今日川崎休みだし、親も忙しいらしいから、条件的に俺が行くのが適任っていうか……まあ、そんなわけなんで雪ノ下に伝えといてくれねえか?」
「うん、いいよ。じゃ、あたしとゆきのんでプレゼント買いに行くね。それとゆきのんがお祝いに料理を御馳走したいって言ってたから、明日とかヒッキーんちでいいかな?」
「おお、ありがとな。後で確認とってからまた連絡するわ。じゃあ、そろそろ出る。またな」
「うん! 小町ちゃんに合格おめでとうって伝えてね!」
「それは明日直接言え。じゃあな」
別れを告げると、俺は昨日学校に宿泊した一日ぶりの自転車の下へと急いだ。だが、駐輪場に着くと重要なことを思い出す。
あれ……そういえば、けーちゃんのお迎えってことは自転車で行くとまずいのか。こいつは二泊目決定だな。危うく自転車を持って行って保育園に着いたらどうしていいか分からなくなるところだった。
いや、明日明後日が土日だから四泊五日が決定する。なんだよ、持ち主を差し置いてGWかよ。どうなってやがるんだよ、まったく。
そんな訳が分からない独り言で虚しさをためながら徒歩でけーちゃんを迎えに行くのであった。
× × ×
《 Side Haruno 》
―奉仕部―
コンコン
「ひゃっはろー♪」
「……姉さん」
「やっはろーです、陽乃さん」
「あれー? 比企谷くんはー?」
「⁉」
「あ、ヒッキーなら今日も用事があるからって先に帰りましたけど……」
「あらー、残念だなあ。どこまでお姉さんを袖にすれば気が済むのかな、あの子は……」
「……ところで雪乃ちゃんはなんでそんな面白い反応したのかな?」
「な、なんのこと……かしら?」
「とぼけても無駄よ。悩みならお姉さんに相談してみなさい」
「そういえばゆきのん、今日部室来るの遅かったね。何かあったの?」
「べ、別に大したことではないから。それよりも、小町さんと川崎くんが合格したのだから、今日は早めに切り上げてお祝いの品を買いに行きましょう」
「うわ、雪乃ちゃん誤魔化すのヘタクソー」
「ゆきのん……」
「あ、いえ、これは……本当に人に話すようなことではないから」
「……うー……」
「……でも、本当に困ったらちゃんとあなたに相談する。約束するわ」
「! う、うん! 分かった、どうしょうもなくなったらちゃんと頼ってね!」
「あのー、お姉ちゃんにも頼って欲しいなー?」
「姉さんに頼ると事態が悪化する未来が目に見えてるから遠慮するわ」
「うわーん、雪乃ちゃんひどいー、お姉ちゃんグレてやるー!」
「ゆきのん……陽乃さんとびだしてっちゃったよ……?」
「いいのよ。いなくなってせいせいするわ。どうせ小芝居よ」
× × ×
「はぁー、今日も比企谷くんに会えなかったなぁー。お姉さん避けられちゃってる? だとしたら悲しいなー」
「……しょうがない、そろそろ引き上げるかな……ん? 静ちゃーん」
「げっ、陽乃? また来たのかお前は。いくらOGでも頻繁に来すぎだ」
「元教え子に会えたんだから、もっと嬉しそうにしてよー」
「で、今日は何しに来た? 奉仕部の方から来た気がしたが、用件は済んだのか?」
「聞いてよ静ちゃーん。それがさー、昨日今日とチョコ持ってきたのに比企谷くんがいなくて無駄足になっちゃったんだー」
「ああ、なるほどな。だが残念だったな。比企谷は今日は部活を休んだぞ」
「知ってる。今行ってショック受けてきたんだもん。ねえねえ、比企谷くんてチョコ嫌いじゃないよね?」
「どうしてそう思う?」
「だって、わたしのチョコ避けてるんじゃないかってくらいにエンカウントしないんだもん」
「そんなことはない。あ、いや、確かにわたしがあげたチョコは食べていないみたいだが、別のは食べたらしいぞ」
「! 誰のチョコ食べたか訊いた?」
「川崎のチョコを食べたと聞いたぞ。といっても陽乃には分からんか。クラスメイトのやつだ」
「ふーん……それ以外に食べたって話聞いた?」
「? いや、それしか聞かなかったが。そもそもなんでそんなことに興味があるんだ?」
「なるほどねぇ……ありがと、静ちゃん。助かっちゃったー」
「あ、ああ、よく分からんが、力になれて何よりだよ?」
× × ×
《 Side Meguri 》
―コミュニティセンター―
……確か、コミュニティセンターの隣の保育園って言ってたよね。
「…………」
……何やってるんだろわたし。用もないのにこんなとこ来て。
いや、願望はある。川なんとか……川崎さんだ。
保育園に妹さんを預けてるなら迎えに来るかもしれない。
美人でスタイルが良くて髪が長くてシュシュで結ったポニーテールの女の子。
ホントにそんな娘いるのかなぁ……。
一色さんの言っていた保育園は恐らくここだろう。場所以外なんの当てもなく来てしまった。何時頃に迎えが来るかなども分からない。
チラっと見れたらいいな、くらいには思ってたけど、今日川なんとか……川崎さん本人は迎えに来ないよね、昨日熱出したって言ってたし。
バレンタイン合同イベントで会ってるって言われたけど、妹さんのこと覚えてないし特徴も聞いてないからどうしようもない。
そうして途方に暮れていると、見知った顔を見かけた。
あ……
ハーチャン、テ、ツナイデー オウ、イイゾ
「……比企谷くん」
「あれ? 城廻先輩?」
比企谷くんがねだられるままに手を握って歩く猫背な姿は、若干犯罪臭がしていそうで不安になってくる。
「その子って……」
「クラスメイトの妹ですよ、昨日熱出したって言ってたやつの。家族忙しいんでお迎えのお手伝いしてるんです。奉仕部活動の一環というか……」
「おねーちゃん、だぁれ?」
「あ、わたしはね、城廻めぐりっていうの」
「しろむぐりむ……?」
「うーん、じゃあわたしのことは『めぐめぐ』って呼んで」
「めぐ……めぐめぐ!」
「あなたのお名前はなんていうのかなー?」
「かわさきけーかっ、です! けーちゃんって呼んで!」
「けーちゃんね。よろしくね、けーちゃん」
「うん! めぐめぐよろしくー」
「これから帰るの?」
「ええ、その前にちょっとスーパーにでも寄ろうかとも……」
「あ、じゃあ、わたしも一緒に行っていい? 今日の夕食の材料買いたいから」
「あ、はあ。別に構わないですけど」
「よし、じゃあいこっか! あ、けーちゃん、もう片っぽの手はわたしと繋ごう?」
比企谷くんがけーちゃんの右手を握り、わたしが左手を握る。
なに、この光景……これじゃまるで比企谷くんとわたしが……わたしたちの間にいるけーちゃんが……
……なんか、恥ずかしい、けど……
心が、ぽかぽか、する……。
―スーパーお菓子売り場―
「…………」
「けーちゃん、何見てるの?」
「……なんでもない」
「ふふーん、これを見てたんだなー?」
「違うよ、こっちを見て……あ」
「そっかー、こっちかー」
「あっ」
「どれどれー? タケノコの里かー」
「うん!」
「めぐめぐが買ってあげよっか?」
「……いい」
「? なんで?」
「さーちゃんが知らない人に買ってもらっちゃダメって言ってたの……」
「さーちゃん?」
「お姉ちゃんのことですよ。沙希だからさーちゃんなんですって。俺は八幡だからはーちゃん」
「へぇー。はーちゃん?」
「うん、はーちゃん!」
「……城廻先輩、けーちゃんと声似すぎで、はーちゃん呼びが心臓に悪いです……」
「そ、そう? あはは……」
わたしも『めーちゃん』にしてもらえばよかったかな……それにしても知らない人扱いはなんか寂しいなぁ。
「……あ、そうだ。わたしはね、タケノコの里きらいなんだ」
「そうなの? タケノコおいしいよ?」
「でもキノコの山が好きなんだ。だから……」
「?」
「このタケノコとキノコが両方入ったお得パックを買おうと思ってるんだけど」
「おおー」
「……でもめぐめぐはタケノコが嫌いだから……けーちゃんに食べてもらえると嬉しいかな」
「! けーか食べる、食べてあげる!」
「そう? ありがとー」
買い物が済むと、来た時と同じように比企谷くんとわたしはけーちゃんの手を握る。
「あの……俺とけーちゃんはここからバスで幕張本郷駅へ向かうんですけど、先輩は家どっち方面なんですか?」
「あー、そうだね……」
んー、このままさよならするのってなんか寂しい。比企谷くんとけーちゃんの顔を交互に見て、こう続けた。
「……わたしも一緒に行っちゃおうかな」
「……は?」
「う、うわぁ……比企谷くん歓迎してなくても少しは隠そうよ。わたしすごく傷つきそうだよ……」
「あ、いや、その……すみません……あまりにも予想外だったもので……」
「んー、そのバスならうちの方角に向かうし、けーちゃん可愛いからまだ離れたくないかなーって」
「はあ、そういうことなら納得なんで、そう言ってくれれば傷つけずに済んだんですけどね」
「あはは、ごめんねー」
……本当は川なんとか……川崎沙希さんに会ってみたい、だなんて言えないから……それにしても、いくらわたしが人の名前覚えるの苦手でも川なんとかって言い過ぎな気がする。
結局、わたし達はそのままバスに乗って川崎家へ向かう。途中、比企谷くんのスマホにメール受信があった。ぼっちとか言ってるくせにお友達いるじゃん。
《 Side Hachiman 》
yui's mobile
FROM :☆★ゆい★☆ TITLE:なし ヒッキーやっはろー(*´ω`*) |
FROM :ヒッキー TITLE:なし 顔文字がうざい。 |
FROM :☆★ゆい★☆ TITLE:なし いきなりダメ出し⁉( ゚Д゚) |
FROM :ヒッキー TITLE:なし 用件を言え。いまバスだから手短に。 |
FROM :☆★ゆい★☆ TITLE:なし あ、ごめん(・_・;) さっき言った小町ちゃんと大志君の合格祝い の件なんだけど…… 明日の何時ごろ、どこに集合するかとか聞き たくて(^_-)-☆ |
FROM :ヒッキー TITLE:なし 顔文字なしでメール打てんのかお前は。 まだ大志に連絡してないから何とも言えない けど料理作ってくれるってんなら多分俺んち になると思う。ちょっと遅いランチって感じ でいいんじゃねえの? |
FROM :☆★ゆい★☆ TITLE:なし じゃあ、お昼前くらいにヒッキーの家に集合 でいいのかな? |
FROM :ヒッキー TITLE:なし 細かい時間は小町と大志に連絡してみねえと 分かんねえな。結局このメールのやりとりは ほぼ意味ないかもしれん。これから小町の方 と連絡とるわ。 |
FROM :☆★ゆい★☆ TITLE:なし そうだね。じゃあ、なるべく早く連絡くれる と嬉しいかな。今日ゆきのんちに泊まるから 連絡来たら一緒に予定考える(^^♪ |
FROM :ヒッキー TITLE:なし わかった。あと重要なことなので先に言って おくが、お前は絶対に料理を手伝うなよ‼ 以上 |
FROM :☆★ゆい★☆ TITLE:なし ヒッキー、ひどい!(ノД`)・゜・。 |
俺は小町にメールで、明日の土曜日雪ノ下と由比ヶ浜にどうお祝いをしてもらうかの段取りを考える。
FROM :ごみいちゃん TITLE:なし 合格おめでとうな。今けーちゃん連れてバス に乗った。そっちは? |
komachi's mobile
FROM :小町 TITLE:なし ありがとう!(^_-)-☆ 夕飯の下拵えしながら、もうちょっとしたら 洗濯物をみてこようかなって感じ。沙希さん まだ熱下がんないからお祝いに考えてた明日 の夕食会も小町が作って一緒に食べるでいい かもしれないって思ってるところ。 |
FROM :ごみいちゃん TITLE:なし それなんだが、由比ヶ浜と雪ノ下が小町と 大志の合格祝いのプレゼントを贈るのとお祝 いの食事会をしたいんだそうだ。 |
FROM :小町 TITLE:なし え? ホントに⁉ やったー\(^o^)/ じゃあさ、沙希さんちでお願いしちゃったら どう? |
FROM :ごみいちゃん TITLE:なし は? 川崎んちかよ? |
FROM :小町 TITLE:なし だって沙希さん猫アレルギーだからうちに来 るの良くないし、大志君もうちに呼んだら 沙希さん一人になっちゃって可哀想でしょ? 明日はお母さんが京華ちゃんと一緒に夕方 までお出かけするって言ってたし( ;∀;) |
FROM :ごみいちゃん TITLE:なし ああ、そりゃ確かに可哀想かもしれんな。 普段ならぼっち気質の川崎にはなんともない かもしれんが状況が状況だしな。 |
FROM :ごみいちゃん TITLE:なし でもいいのか? 今言った通り川崎も俺と同 じぼっち気質だから家にあまり人を呼ぶのを 好まんかもしれんぞ? 俺も大志をうちに呼ぶとなったら正直気が進 まないが川崎と小町のことがあるからしょう がなく招待、というギリギリ許容するレベル だ。 |
FROM :小町 TITLE:なし お兄ちゃん未だにそんなこと言うなんて小町 的にポイント低いよ。まあ沙希さんに訊いて みるから。それでダメだったらしょうがない からうちでって感じにしようよ。 |
FROM :ごみいちゃん TITLE:なし おう。それと、そろそろバスが着くから頻繁 にレスできない。川崎と話がついたらそのま ま由比ヶ浜に電話してやってくれ。 俺がそっちに着いたらどうなったか教えても らうから。 |
FROM :小町 TITLE:なし わっかりましたー\(^o^)/ 小町にまかせといてよ、お兄ちゃん! |
メールが終わるとちょうどよく駅に着いた。けーちゃんの相手をめぐり先輩がしてくれていたお陰でメールに集中できた。
「じゃあ、降りますよ。けーちゃん、手つなごうな」
「うん」
「わたしとも手つなごう」
忘れてたけど花山めぐり先輩には
駅からまたバスを使おうと思ったが、けーちゃんが歩くと頑なに主張するのでそれに従う。
時々、俺とめぐり先輩の掴んだ手を持ち上げてぶら下がってはしゃぐ。川崎一人のお迎えだとこんなことは出来ないからか嬉しそうだ。
川崎家は両親が健在だし夫婦で両手を繋いでやってもらえるはずなのだが、うちと同じで共働きらしいのでなかなかそういった機会がないのだろう。
夫婦と言えば、こんな姿を他人が見たらどう思われることやら。俺とめぐり先輩が制服姿なのが救いだ。
まあ、こんな目が腐った男とめぐり先輩みたいな天使100%な女子が子持ちの夫婦的な何かに見えるはずがないが。おっと、自虐してしまったが、心の中でなのでセーフということにしとこう。
「…………」
「もうちょっとで着きますよ先輩。……?」
……なんかこっちチラチラ見てるのはなんだろうな。今日の俺の目の腐り具合そんなに酷い?
びくびくしている内に川崎家が見えてきてホッとする俺がいる。
「とうちゃーく!」
「よく歩けたな。すごいぞ、けーちゃん」
「えへへー」
「頑張ったね」
めぐり先輩はけーちゃんと繋いでいる手を持ち上げて、俺にも同じようにしてくれというサインを出した。
「ほーら、けーちゃん」
「わーい!」
家の前でこんなはしゃいだらご近所迷惑かも、なんて思っていると、川崎家の玄関から誰かが出てきた。
「……けーちゃん、おかえり。比企谷も……あ、えっと……」
川崎はパジャマ姿でお迎えしに来たが、予想外の出来事に目を丸くしていた。
けーちゃんを持ち上げていた二人の手がゆっくり降ろされる。先に声をかけたのはめぐり先輩だった。
「えっと、総武高校3年の城廻めぐりです。たまたま比企谷くんを帰りに見かけて一緒にこの子を送ることにして……あの……」
「あ……その、あ、あたしは、2年の川崎沙希、……です。比企谷と……同じクラスの……」
おうおう、ぼっちらしくキョドるというか噛み噛みの自己紹介だな川崎。ただこの状況で誰よりも戸惑っているのは恐らく俺だぞ。
なんでこうなったんだっけなー? 俺は普通にけーちゃんを迎えに行っただけなんだが……。
「…………」
「…………」
なんかこええよお! 何この緊張感⁉
「…………」
「…………」
「……あの」
「は、はい」
「……わたし、これで帰りますね。けーちゃん楽しかったよ。これ、けーちゃんが食べてね」
そういってめぐり先輩は自分の買い物袋からタケノコ&キノコのお得袋を差し出した。
「だめだよー、めぐめぐがキノコ好きなのにけーかが食べちゃダメなのー!」
ああ、そういうスタンスだったな。めぐり先輩がタケノコを苦手にしてる体でけーちゃんに食べてもらおうっていう。
「一緒に食べるのー」
「あ、でも……」
「…………」
ここは俺が口を出せる状況じゃない。今現在の家主である川崎次第だ。
「…………」
「…………」
「……あの」
「はい?」
「先輩さえ宜しければ夕飯、とか……ご一緒にどうですか?」
「えっ?」
「え?」
「今日、お時間大丈夫なら……ですけど……京華を送ってもらったし、お菓子まで買って貰っちゃって……大したお構いは出来ま、せんけど……」
「……えーと……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……うん、分かった。お邪魔するね」
めぐり先輩は先輩らしいいつもの口調で快諾した。
つづく