サキサキのバレンタインは色々まちがっている。   作:なごみムナカタ

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2021. 9. 4 加筆、書式修正。
2020.11.29 台本形式その他修正。
2019.12.23 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。
2019. 5.23 八幡の発言を→城廻先輩 八幡の心情を→めぐり先輩 に変更。
2019. 3.12 城廻先輩→めぐり先輩 に八幡の呼び方を変更。
2019. 2.11 加筆修正。


2話 冬なのに、昼休みは木陰で過ごす。

《 Side Saki 》

 

 

 窓の外を見つめながら、由比ヶ浜達と接する比企谷の様子を窺う。特に大きな変化もないように思えた。下駄箱のチョコのことも誤魔化してやり過ごしたみたいだ。

 勘違いはされてないみたい。さっきのチョコに差出人のメモくらい入れてあるだろうしね。

 

「…………‼」

 

(……そういえば、あたしのチョコ差出人書いてないじゃん⁉ 寝坊といい、どんだけテンパってんの……下駄箱に入れれなくてむしろよかったかも)

 

 安堵と同時に渡す方法を模索するも、上手いやり方とは言い難いシミュレーションばかりが浮かぶ。

 昼休みの辺りでどこかに呼び出して渡すとしても比企谷から話しかけてくるがわけないし、あたしの方から話しかけるのも躊躇われる。

 両方ぼっちだからどちらがアクションを起こしても目立つし、今日はバレンタイン。比企谷が意識しなくても女のあたしから話しかけたらそれだけで周りから勘繰られるかもしれない。

 自意識過剰が頭を過るも、すぐに打ち消された。こんな日に女のあたしが意識しないとか無理に決まってる。

 

 あいつはいつも昼休み教室にはいなかったはず。追いかけて一緒にお昼食べながら渡す……、それなら無難か。これでいこう。

 

 

                 ×  ×  ×

 

 

~昼休み~

 

 

 いつものようにチャイムがなると素早く、しかし音もなく隠密に教室を出る比企谷。この気配の無さじゃ今朝下駄箱で気づけなかったのも無理はないね。

 

(おっと、いけない。見失っちゃう。鞄ごとチョコと弁当もって追っかけないと)

 

 あたしは十メートル以上も離れながら目立たないよう注意深く比企谷を尾行する。購買でパンを買う時が一番危うく、人混みに紛れて見失うところだった。

 

 この先に座れるベンチとかあったっけ。駐輪場の方角だと思うんだけど。

 記憶の糸を手繰っていると、目的地に着いたようで比企谷は座り込みジュースを置いてパンの袋を開ける。ベンチなどなく、階段の段差を利用して座るぼっちの姿があった。

 そこは駐輪場のすぐ傍でテニスコートがよく見える。ここからだと丸見えなので近くの木陰に回り込んで様子を見ることにした。

 

 問題はどうやって声をかけるか。

 

 

 

 『あれ? あんたこんなとこで食べてんの? あたしはたまたま通りかかってさ』

 

 ……弁当とチョコ持って?

 

 

 『あれ? あんたこんなとこで食べてんの? あたしはジャン負けしてジュース買いにきたとこ』

 

 ……あたしジュース買いに行く友達いないんだけど。

 

 

 『あれ? あんたこんなとこで食べてたんだ? ちょうどいいから一緒に食べない?』

 

 ……正攻法だけど、いろいろ不自然過ぎなんだよね……チョコ持ってきてるし……

 

 

 ってか、そもそも冬なのにわざわざ外で食べるとか、あいつバカなの? 風邪引いちゃうでしょ!

 様々なシミュレーションを経てどう話しかけようか悩んでいると、比企谷に近付く人影があった。

 

 

「あれ~? 比企谷くんだ~」

「……うす」

「こんにちは~」

 

 親しげに比企谷に話しかける女生徒。

 あれは確か、前の生徒会長だったっけ? そうだったはず。正直うろ覚えだった。

 ただでさえ家のこととバイトと予備校で忙しいので学校行事はまだしも、生徒会となると完全に自分とは関係のない話なので覚えようともしなかった。自分が一年の時の生徒会長などなおさらだ。

 

 体育祭の時、衣装作りの手伝いで実行委員会議に参加したから見た記憶がある。

 確か……そう、思い出した。城廻先輩だ。相模が実行委員長だったけど、あの人が会議の進行補佐をしてたはずだ。

 

 

 お下げの似合う可愛さと年上の持つ綺麗さを兼ね備えていた。

 

 あたしにあんな愛嬌はない。

 あんな癒しの雰囲気は作れない。

 

 そう思わせる笑顔をあの人は持っていた。

 

 完全に話しかけるタイミングを逸してしまったあたしは木陰に隠れ続けて様子を窺う。早く行ってくれないかな、寒いし。

 出来れば一緒に弁当を食べながら頃合いをみてチョコを渡そうと思っていたけど、見ていると城廻先輩が比企谷の傍に座り出してしまい、その目論見は完全に潰えてしまう。

 

(しょうがない……見つからないようにここで様子を窺いながら弁当食べちゃうか……城廻先輩がいなくなったらチョコ渡せるし……)

 

「城廻先輩、もう自由登校ですよね? 今日は何でいるんですか?」

「うわー、比企谷くんその訊き方なんかひどい。私がいるの変みたいに聞こえるよ?」

「そこまでは言いませんけど、俺だったら自由登校にわざわざ学校へなんて絶対来ませんからね」

「うーん、私は総武高校好きだからそうは思わないんだけど、それに今日は特別な日でもあったからね」

「?」

 

 城廻先輩は大きい袋の中から何かを取り出した。

 

「んーと……これ」

「え?」

「ハッピーバレンタイン! 比企谷くん」

 

 そう言って綺麗にラッピングされた箱を比企谷に差し出す。

 

「えっ? えっ? なにこれ? 城廻先輩、これって一体……?」

「やだなー、今言ったじゃない。バレンタイン!」

「あ、そうか。罰ゲームですよね。なんだ、城廻先輩には似合いませんよ、そういう悪戯」

「えーと……どうすれば信じてもらえるのかな?」

「あ、そうだ。これ見て」

 

 城廻先輩はチョコを出した袋の中を見せる。遠目からでは全てを把握出来ないが、視認できる範囲には同じようにラッピングされた箱がいくつかあった。

 

「今日はバレンタインだから皆にもチョコを渡したくて登校したんだよ。もう卒業だしクラスメイト以外の人にもチョコ配ろうとしてこうして持ち歩いてたんだ。ね? 別に悪戯とかじゃないでしょ?」

「は、はぁ、疑ってすいません、その……ありがとうございます」

「ちょうどいいからわたしもここでお弁当食べよっと。お邪魔するね比企谷くん」

「……あ、そうですか。それじゃ」

「えっ⁉ ちょっと⁉ なんで移動しようとしてるの⁉」

「いや、だって俺がいたら食べにくいでしょ? 中学の頃に料理の味を一段階落とすスパイスだって言われてますからね」

「なにそのお手洗いとかで食事するみたいな特殊環境! そんなことないよ、比企谷くんと一緒に食べたいんだから!」

「いえ、俺は食べたくないので食べるなら他で食べてください。そうすれば俺が移動する必要もなくなるんですけどね」

「……比企谷くん、わたしのこと嫌い?」

「俺は一人で食べるのが好きなんですよ。城廻先輩は関係ありません」

「…………」

「…………」

「……くちっ!」

「ほら、寒いんだから早く教室行って食べればいいじゃないですか」

「……え? ……あ」

「…………」

「…………」

「……なんですか?」

「ううん、何でもない」

「とにかく先輩が何処かに行ってくれないと……って何してるんですか?」

 

 今まで以上に比企谷に近付いて隣に腰を下ろす城廻先輩。

 

「寒いから風除けになってもらうね」

「ええ……? 城廻先輩が一色みたいなこと言い出すなんてショックなんですけど……」

「ええ……? 一色さんも同じこと言ったの……?」

「風除けだからどこかに行くの禁止ね」

「それと、はいこれ。水筒、わたし一人じゃ飲みきれないし比企谷くんも飲むの手伝ってね」

「……はあ……それじゃ、しょうがないですね。ご一緒しますか」

 

 この距離からでも渡されたのがチョコだと分かる。あたしが用意してるんだから、他に貰えても不思議じゃないとは思っていた。

 けど、これは明らかに予想外。

 

 妹から貰えるだろうな。

 奉仕部の二人から貰えるだろうな。

 新しい生徒会長から貰えるだろうな。

 そこまでは想定していたが、まさか元生徒会長の先輩から貰えるなんて。それに今朝下駄箱に入っていたアレも。

 

(妹はあり得ないとして、あの三人も下駄箱に入れて渡す手段はとらないだろうね。つまり想定した人数以外から既に二個目のチョコということ……。

 ……なにがぼっちなんだか)

 

「…………」

 

(……なんか……真冬に木陰から覗き見しながら弁当食うあたしってなんなのさ……)

 

 自身の行動に呆れていると、ぶるりと身震いしてしまう。

 

(……こんな寒い思いしてまで……あたしも水筒持ってくればよかった)

 

 結局、弁当を食べ終えしばらく様子を窺っていたが、城廻先輩は弁当を食べ終わってもずっと比企谷の隣に居続け、そのまま一緒に何処かへ向かった。見た感じ、ちょっと嫌がる比企谷についていく城廻先輩、という構図だ。

 でも比企谷は本気で拒否はしない。何だかんだ言ってもあいつは優しい奴だから。

 

 もしかしたらまだ渡すチャンスがあるかと思い、二人を尾行すると図書館に入って行った。

 真冬の外で昼を食べていたのだ。いくら温かい飲み物があっても身体は冷え切ってしまう。教室に戻らず暖をとれて、なおかつぼっちが好む静かな空間。まあ必然だね。あたしもそうする。やっぱりこいつとは波長があうのかもしれない。

 

 暖をとり始めた二人、いや主に城廻先輩の方が比企谷から離れる素振りを見せない。

 

(これは昼休みもダメそう……)

 

 お礼なら、他人に見られようが構わないはずなのに。何故、頑なに人目を気にしていたのか、自分でもよく分からぬまま予鈴が鳴った。

 その間、城廻先輩は比企谷の傍で癒し効果が高そうな笑顔を見せ続けていた。

 

 

 

つづく

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