サキサキのバレンタインは色々まちがっている。   作:なごみムナカタ

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2020.11.29 台本形式その他修正。
2019.12.25 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。


3話 思いがけず、部室から聞こえるその名前。

~LHR終了~

 

 

 だんだん渡すチャンスが無くなってきた。比企谷はこれから奉仕部だろうし、今日はあたしも予備校で遅くまでは残れない。

 結局、部室に行く前につかまえて渡すしかない。

 

 昼休みの時のように比企谷の後を追う。違うのは別に見つかっても構わないという心積もりであるため、必要以上に距離はとらなくてもいいこと。

 そうして、徐々に距離が詰まっていく。

 もう呼びかければ届く、そんな距離――――

 

 言わなきゃ……声かけなきゃ……それから……

 

「ヒッキー、一緒に行こ!」

 

「……おう」

 

沙希(……間に合わなかった)

 

 でも、確かに先に声をかけられてしまったが、別に由比ヶ浜がいても比企谷だけ呼び出して渡せばいいわけだし、どうして間に合わないなんて思ってしまったのか。

 こういうことにはつくづく意気地がない。そう自己分析をしつつ、結果声をかけられないまま、二人は部室に到着してしまった。これでますます呼び出しづらくなってしまう。

 

 あたしは、部室のドアの前でノックしようと構え右手を出すも届かない、を繰り返していた。なかなか踏ん切りがつかず、もしかしたら比企谷が飲み物でも買いに教室から出てくることを期待して五分くらい離れて待っていたりもした。

 

 

《 Side Hachiman 》

 

~奉仕部~

 

 

「……うす」

 

「……こんにちは、二人とも」

 

「やっはろ~」

 

 由比ヶ浜と俺がいつもの椅子に座ると、いつものように雪ノ下からの挨拶にのせたディスリケーションが……こない。ちゃんと最初の挨拶で俺を認識してる。

 いつもなら『こんにちは、由比ヶ浜さん。後ろにいるのは誰だったかしら? ノックもせずに部外者が入ってくるのは失礼だと思うのだけれど』くらいのジャブが飛んでくるはず。それどころか妙に落ち着きがない。

 

「…………」

「……うー、えーっと……」

 

「…………」

 

 並んで座る二人はお互いを見合わせ言い淀んでる。目配せしてるし何か企みでもあるのか?

 うんうん、この空気知ってるぞ。俺が知らないところで通じ合ってるこの感じ。

 文化祭の時もそうだったな。

 由比ヶ浜に後夜祭に行かないかと誘われたが、雪ノ下と共闘し、これでもかというくらいデメリットを列挙して家に帰ってみれば小町は夕飯を作っておらず、無理矢理外出させられた挙句、皆と出遭い打ち上げにいくことになった。

 それら全ては由比ヶ浜が裏で糸を引いており、俺の与り知らぬところで約束された後夜祭(エクスカリバー)が振り下ろされた。……後夜祭って剣みたいな形状なの?

 

「……その……比企谷くん……」

「……ヒッキー」

 

 一人の世界に浸っていると二人が示し合わせたように俺を呼び現実に引き戻された。

 

「……受け取って貰えるかしら?」

「……ヒッキー、あのね、これ……」

 

「‼ お、お前ら……まさか、ばつゲ……いや、何でもない。俺に?」

 

(あぶねえ、危うくいつもの自虐で返すところだったが、これを罰ゲームとして受け止めるほど空気が読めなくはない)

 

「そう言ってるでしょ。いいから受け取りなさい」

「……命令形になってんだけど?」

 

「ヒッキーが素直に受け取らないのがいけないんだよ!」

「あ、お、おう……」

 

 二人から差し出されたチョコを何故か左右の手片方ずつで同時に受け取った。それを見た二人は、どちらともなく笑い出した。

 あれ? 俺って何かを受け取るだけでボケになる存在ですか?

 

「あー、ヒッキーおっかしいー」

「そうね。まさに両手に花。なんというか、その受け取り方はあなたらしいかもしれないわ」

 

(無意識に受け取っただけなんだが、確かにわざわざ二つ一遍に受け取るのは変なのかもしれない。だが、片方ずつ受け取るのもなぜか躊躇われた……なんだろう……?)

 

「……それで?」

「……え?」

 

「中を開けて見てくれないのかしら?」

「そうだよヒッキー、食べて感想くれなきゃ!」

 

「いや、でもほら、今は部活中ですし……」

「いつも本読んで喋ってるだけだし!」

「お前は携帯をいじってるけどな」

 

「紅茶を飲んだりクッキーを食べたりもしているでしょう。チョコを開封して食べるのも大差ないわ」

 

「いや部長様自ら部の活動に対していう言葉じゃないだろそれ。まあ開けるくらいなら……」

 

 促されるままにまずは雪ノ下のチョコを開封する。

 絞り器で作られたバラの形を模したチョコ。見た感じ製作難易度が低そうなチョコで雪ノ下にしてはどうしてこれを選んだのか軽く疑問が湧いたが、難易度と味はさほど関係ないだろう。要は手際と味の調整能力だ。

 

「これ、手作りなのか?」

「ええ、本来は紅茶を入れるのだけれど、あなたの好きなマックスコーヒーを入れてみたわ。名付けるならマッカンショコラとでも呼べるかしらね」

 

「おお、すげえな雪ノ下。マッ缶を入れるとは分かってらっしゃる」

「わたしの得意な紅茶を使ったチョコだからこれを選んでみたのだけれど、あなたは紅茶よりマックスコーヒーが好みのようだし、し、しかたがないから、た、食べる人に合わせてあげたのよ。感謝しなさい……」

 

 雪ノ下の顔がそこはかとなく赤くなっているように見えたが、それよりも今度は由比ヶ浜のチョコを開けてやらなければならない。

 

 由比ヶ浜のチョコはトリュフチョコ? のようだ。以前、バレンタインイベントで川崎がけーちゃん用の子供向けチョコはないか相談にきたがその時、勧めたのがこのチョコだった。

 形は綺麗な球体とは言い難く、所々ささくれ立ったり金平糖の表面のような一部突起が見られた。

 

(……と、いうことは……)

 

「……由比ヶ浜……大事なことなので訊いておきたい」

「? な、なあに?」

 

「これは……お前が独力で作ったものなのか……?」

「そーだよ、手作りなn「すまん、まだ死にたくない」酷いし‼」

 

「安心しなさい、昨日二人でわたしのと由比ヶ浜さんの分を一緒に作ったの。イベントの時と同じで危険なことはなにもないわ」

「ゆきのん⁉」

 

「そうか、虚言や嘘が嫌いな雪ノ下の言葉をこれほど頼もしく思えたことは今までなかったぞ」

「ゆきのんを信頼してるふうに言ってるけど、それ以上にあたしを信じてないみたいに言ってる⁉」

 

「人の信頼とは簡単には勝ち取れないんだ。俺に友達が出来たといってもお前は信じないだろう。これ以上に説得力のある例はないと思うが……」

「うぅ……それを言われちゃうと……」

 

「理解が早くて助かる」

 

 平塚先生が結婚したと言っても信じない、という例えもありだったが口に出したらとんでもない脅迫材料を差し出してしまうので絶対に言わないが。

 

「比企谷くん、いま他にも例えが思い浮かんだのではないかしら? 誰とは言わないけどあなたが苦手とする人を揶揄した気がするわ」

「何でそうやって人の心を読むんですかね?」

 

「何故かしらね、サトラレ谷君」

「ええ……俺の心ってダダ洩れなの……?」

 

「そ、それよりも、ヒッキー早くチョコ食べてよ、あたしのだって大丈夫だし」

「い、いや、これは家に帰ってゆっくり堪能するわ。感想は明日でいいだろ?」

 

「ええー? すぐに感想聞きたいよぉ……」

 

「お前らもせっかく作ったチョコが一瞬でなくなるより、時間をかけて味わってもらえるほうがいいだろ?」

「そうとばかりは言えないわ。鮮度もあるし、むしろなるべく早く食べてもらった方がいいかもしれないわね」

「そうだよ、ヒッキー! 早く食べないと味が落ちちゃうよ!」

 

「時間経過による味の劣化よりも完成度の問題のが大きいだろう、特に由比ヶ浜のは……」

 

「だから食べて確認するし‼」

 

「比企谷くん?」

 

「…………」

 

 どっちからか先に食べると優劣をつけるみたいな気がして心臓に悪い。せっかく貰えたチョコを落ち着いて食べさせてくれ……

 

「……なるほど、そういうことね」

 

「?」

 

「やはり八幡といったところかしら」

 

 

教室外・扉前

 

「おや、川崎じゃないか。部室の前でなにをしているんだね?」

「あ、平塚先生、べべ、別になにも!」

 

「何か依頼でもあるように見えたがね」

「きょ、今日はこの後予備校あるんで失礼します!」

 

「あ、川崎! 走るほど急ぐくらい時間がないならなぜ奉仕部に来たのだ……ん?」

 

 

 

「ゆ、ゆきのん⁉ なんで急に……その……名前で……」

 

(こいつ……まさか……)

 

「……ふう、やはり小町さんの貶し言葉だからわたしにはうまく使いこなせないものね」

「ほえ?」

 

(やっぱりか)

 

「この男は、わたしたちのチョコをどちらから食べるのがいいかも決められないヘタレ谷君だということよ」

「ええー! ヒッキーそんなこと気にしてたの⁉」

 

「……悪いかよ? っていうかどこまでサトラレてんの俺……」

「あ、で、でも、ゆきのんはなんでヒッキーを名前で呼んだの?」

「それは前に小町が俺の名前、つまり『八幡』をディスワードとして使用したのが、雪ノ下の琴線に触れたからだ」

 

「あの時の小町さんの罵倒は斬新だったわ……でもわたしが使うにはあまりにも使用難度が高すぎるわね。さっきのも使い方自体がおかしかったし」

「そうだな。バカ、ボケナスなどの枕詞がない限り、八幡は悪口たりえない。用法を完全に誤った例だったな」

 

「そうね……普通に比企谷くんを名前で呼ぶという恥ずべきこと……あなたではないけれど黒歴史を刻んでしまったのかもしれないわ」

「俺の名前はその発声そのものが黒歴史に値するのかよ? 小町のディスり用語よりも遥かに格式高いパワーワードになってるじゃねえか」

 

「邪魔するぞ」

 

 相変わらず突然扉を開けて入室するのは平塚先生だ。雪ノ下はもはや諦念を込めながら窘める。

 

「先生……ノックを」

「すまんすまん」

 

「お? しっかりと青春しているようだな。安心したよ」

 

「こ、これはその……」

「え、えと、」

 

「なーに、チョコを持ってきたからと言って咎めるほど野暮ではないつもりだ。それにわたしからも君たちに渡したい物があってな、ほら」

 

「は? ……これは何ですか?」

「ヒッキー見て分かんないの? チョコに決まってるじゃん!」

「腐った目では視力もままならないということなのね」

「いやだって、教師が生徒に金品を授与するとか、賄賂じゃん。成績とかで不正が行われたりしたらどうするの?」

 

「教師が生徒のご機嫌とって成績にどう影響するというのだ、バカモノが。とまあ、比企谷の冗談に真面目に返してしまうわたしもアレだが、素直に受け取りたまえ。普段の奉仕部に対する労いの意味も込めているからな」

 

「あ、どうも」

「先生ありがとう!」

「ありがとうございます」

 

「比企谷にとって小町くん以外の初めてのチョコになるかと思ったのだが、そうなれなくて残念だよ」

 

「……っ」

「……⁉」

 

「…………」

 

 本当はその『初めて』ってやつが今朝の下駄箱で失われているんですけどね。あえてここでは言わんけど。

 

「……あ! やっべ、今日予備校じゃねえか! 完全に忘れてた、一旦家帰って準備しなきゃ! 雪ノ下、由比ヶ浜、チョコサンキューな、そういうわけで帰るわ! 先生もチョコありがとうございます!」

 

「あ、そ、そう、さようなら」

「ヒッキー、またねー」

「ああ、気をつけて帰れよ」

 

「……ところで、今日も依頼はないのかね?」

 

「はい、至って平和です」

 

「バレンタインイベント手伝ったばっかりですからね」

 

「そうか……(川崎のやつ本当に依頼じゃなかったのか……ふむ、そうかそうか、そういうことだったか)」

 

「ひ、平塚先生、どうなさったのですか? 相好が緩んでらっしゃいますけど……?」

「ん? いやー、別になんでもないさ。青春しているなーと思ってね」

「わ、わたしたちは……その……」

「えっ、と……」

 

「いや、君たちだけに限ったことではないさ」

 

「?」

 

 

 

コンコン シツレイシマース

 

「こんにちはー」

 

 

 

つづく

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