サキサキのバレンタインは色々まちがっている。 作:なごみムナカタ
雪乃結衣派ではないのでそんなに言うこともないんですが一言。
「やっぱり第1話がいい! 沙希と小町の絡みなんて最高‼」です。
2020.12. 6 台本形式その他修正。
2020. 9.28 最後の方の一部を修正変更。
どうしても次話の展開とマッチしなかったので少しだけ変更します。すいません。
《 Side Yui 》
―喫茶店―
うぅ……。
ちょっと気まずい、かも。
ヒッキーが陽乃さんを駅まで送ることになったから、あたしと向かい合う沙希の二人だけになっていた。
さっきまでヒッキーを挟んでのプリキュア感想会は、全然まったく気まずさとかなくて、むしろいつも三人で話してる部室内の空気感ってくらい自然だった。タイプは違うけど沙希もゆきのんと同じで無口な方だからお喋りの割合的に奉仕部でのゆきのん役に収まってたんだと思う。
でもこうして二人きりになると途端に何を話せばいいのか分からなくなる。陽乃さんが乱入してからはもうプリキュアの話題って感じじゃなくなったし。
昨夜は沙希とおしゃべりする‼ って意気込んでたのにダメダメだ~。もしかしてあたしの中に沙希に対する苦手意識みたいなのがあるのかも……。
今でこそ普通には話せるようになってるけど、沙希って他人と関わろうとしない優美子みたいな感じだし、それってハッキリ言うとちょっと怖い系なんだよね。修学旅行の新幹線でもとべっちなんか沙希にビビりまくってたし、実はあたしもビビってたりして……。
昨日もあたし達のこと友達って呼ぶのに躊躇してたみたいだし、むしろ姫菜の方が親しい感じかも。
あたしもびーえる? だっけ? それに詳しくないと沙希と仲良くなれないのかなぁ……いやいや、それは絶対違うっぽい。
頭の中で色々と話題を探し会話
クラスメイトで同い年の女子相手にここまで苦労するなんてどんだけあたし沙希が苦手なの? ゆきのんと初めて話した時だってここまでじゃなかったよ。
ってか、ゆきのんはあたしが話しかけると困った顔しながらもちゃんと返してくれたし、会話が成立しないってことはなかったしなぁ。
姫菜はどうしてたっけ?(びーえるは抜きにして)
そういえばたまに話してるの見ると姫菜もガンガン自分から行ってるんだよね。
覚悟が決まって沙希を見ると縦肘をついて窓の外をぼんやり見てる。考え事してるのは分かるけど何かまでは分からない。
当然だよね。
他人の考えが分かったらどれだけいいか。
それが分かるんだったらきっとヒッキーは本物が欲しいって願ってないと思う。
それでも沙希のこと観察して少しでも会話の糸口がないか探ってみると、学校の時よりお化粧が濃いのに気づいた。っていうか学校ではあんま派手に化粧すると指導の対象になるからあたしも薄くしかしてきてないけど沙希はいつもノーメイクだったはず。
今日はすっごく大人っぽい恰好に仕上げて来てるし化粧するのも自然なんだけど、トレードマークの泣きぼくろを消してるのが何となく気になった。
「……あのさ、沙希って今日気合入ってるよね、お化粧、とか……」
「え?」
話しかけられると思ってなかったのか、不意を突かれたみたいに目を丸くしてる。沙希のこんな顔ってちょっとレアだよね。レアといえば昨日沙希んちにお邪魔したときも沢山レアな表情見れたっけ。
それだけでも沙希とは親しくなってるじゃん、頑張れ、あたし!
「泣きぼくろファンデで隠しちゃったんだね。でも沙希にはすごく似合ってるから、隠さない方が良い感じかも!」
「ん、ありがと。由比ヶ浜がそういうなら次からはそうしてみるよ」
沙希は優しく返してくれた。
けど、あたしは空気や乗りを読むのが得意だから沙希の少し困ったような、苦笑いっていうのかな、そんな表情の変化を見逃さない。
でも、触れて欲しくなさそうなことも分かるから、この話はこれでお終い。
ああ、また会話なくなっちゃった。
ええっと、会話会話……。
いつもこんな考えなくてもポンポン出てきたのに今日に限ってなんでこんなになんも出てこないの⁉ アホって頭良いんじゃないのヒッキー‼
心の中でヒッキーのせいということにしてると沙希が口を開いた。
「…………比企谷、遅いね」
「え⁉ う、うん、そーだね」
陽乃さんを送るといって店を出てもう30分以上経ってる。話題探しに夢中になってて遅いと感じるのも忘れてた。
そっか、ヒッキーだ!
沙希の言葉でやっと気が付いた。あたしと沙希には共通の話題なんて元々なかったんだ。
あたしは勉強も運動もお料理も苦手だけど沙希は全部得意。
あたしは友達とお喋りするのが好きだけど沙希は無口でクール。
あたしは一人っ子だけど沙希は弟妹大好き。
考えれば考えるほど真逆だけどヒッキーに関してだけは共通するし、今日のお出掛けなんてまさにヒッキーがあたし達を繋いでくれたんじゃん!
会話のキッカケが掴めるとあたしの頭にふっと
それはついさっきの出来事。
その時は何とも思ってなかったんだけど急に気になりだした。
――――――
――――
――
~30分前~
『あの!』
『ちょっとトイレに……』
ヒッキーが逃げるようにトイレへ向かったら沙希が陽乃さんに詰め寄った。
『どういうつもり?』
『え? どういうつもりって何がかな?』
『いまの映画の話、あんたも妹がいるなら解ってると思うんだけど』
『? ちょっとなに言ってるか分からないんだけど、もっと具体的に言ってくれない?』
陽乃さんはなんのことなのかホントに分からないって感じで訊き返していて、あたしも沙希がどうしてこんな必死に訴えているのか分からない。
『比企谷がプリキュアを選んだ理由のことだy……です』
タメ口になっていたのに気付いた沙希は無理矢理敬語を付け加える。
『ああ、川崎ちゃんも妹いるんだよね? なら言わなくても分かるでしょ。それがなに?』
『……分かりますけど、いまのあいつには出来れば触れて欲しくないっていうか……』
最初の勢いが嘘のようにぽしょぽしょと萎れていく言葉。逆に弱みを見つけたみたいに陽乃さんが勢いを増した。
『分っかんないなー。こんなの下の子がいたらあるある話でしょ。過剰に反応することじゃないと思うんだけど』
『えっと……上手く説明できないけど、今日は色々あって、その……』
沙希は反論できず俯いてしまい、陽乃さんも興味を失ったのか今の沙希みたいに縦肘ついて窓の外を眺め出した。
え、終わり?
あたしには二人が話してるのが何を指してるのか分からなかった。
下の子がいるってだけで二人が分かり合える何かがあるのが不思議でしょうがない。
だからあたしは話題の一つとして純粋な疑問をぶつけてみることにした。
――
――――
――――――
「……ねえ、さっき陽乃さんに言ってたことってどういう意味だったの?」
「え」
「えっと、ほら、プリキュアを選んだ理由? って言ってたけど、ヒッキーが男の子だから普通は
だってヒッキー自慢げに言ってたじゃん。
でもそれを聞くとさっき見せた苦笑いみたいな顔でぼつりぽつりと答えてくれた。
「あれはさ、そういうことじゃないんだよね……」
「じゃあ、どういうことなの?」
沙希は言いづらそうにしてたけど、たっぷり溜めた末に口を開いた。
「…………下の子のために自分を押し殺した上の子の抵抗」
えっ?
自分を押し殺す? ヒッキーが?
あたしにはその言葉の意味がよく理解できなかった。
だってヒッキーは部室であたしとゆきのんが引くくらいのシスコンエピソード全開で自慢げに話してくるから、そんなに想われてる小町ちゃんが羨ましくって実はこっそり嫉妬しちゃってるくらいなのに我慢するなんてそんなわけないよ。
あれ、でもさっき陽乃さんが言ってた好きな映画とか観れなかったってのがそうなのかな。あたしには全然実感湧かないけど上の子にはそういうの分かっちゃうの?
心の中が読まれたみたいなタイミングと内容が続いた。
「比企谷ってさ、いっつも強がって斜に構えて決して他人に弱みを見せない奴でしょ」
それにはすごく同意できる。
その強がりは理屈をこねくり回した
「だから、プリキュアを全作観て好きアピールしてたのも、きっと本音を探らせない為の強がり。もしかしたら自分でも気づいてないのかもしれないけど」
沙希の言葉があたしの中にストンと落ちた。
そう言われると逆にさっきまであった疑問が疑問ですらなくなって雪解けていく。
ヒッキーが本当は特撮ヒーロー映画を観たかった事実。
つまり、あの言葉がそのまんまの意味なんかじゃなくて……
自分を押し殺して小町ちゃんに合わせた事実をヒッキーの強がり拗らせ理論で表したのが『プリキュアが観たい』発言ってこと?
……そうだよね、ヒッキーが素直にそんなこと言うわけない。
今までもずっとそうだったじゃん。
弱みとか全部自分の中に溜め込んで自虐で受け流して。
だから、ヒッキーが言うことはいつも言葉通り受け止めちゃいけないって10ヶ月以上一緒にいたのにまだ分からないの?
あたしのバカ!
「でもどうしてそんなこと分かるの? もしかしたらホントにヒッキーの言った通りなのかもしれないじゃん」
本当はもうそんな風に思ってないのにあえて逆のもしもを尋ねてみた。そうすればあたしには理解できない陽乃さんの言っていた上の子理論を聞きだせるかもしれなかったから。
沙希はちょっと
「小町と一緒にプリキュアを観に行ったって話した後、ほんの一瞬表情が歪んだ気がしたから。多分、あれって昔を思い出してその頃の感情が漏れ出たんだよ」
さらに聞き取れないくらい小さい声で「……あたしにも経験あるから」と続ける。
「……って、あたしが思ってるだけだけどさ」
ぷいっと顔を背けまた窓の外を眺めだした。未だ戻らぬヒッキーを探すように。
……すごいなぁ。
何気なく流しちゃったけどヒッキーの表情の変化に気付くってすごいことだよね。
あたしなんか表情どころかさっきまで10ヶ月一緒にいても言葉に隠された事実に気付けなかったのに。
今のあたしはどうかしてたんだと思う。
何も考えず自然体で、まるでママに夕飯のおかずでも訊くみたいに話題を振った。
「沙希ってさ、好きな人とかいるの?」
「は?」
肘をついたまま顔だけこっちに向けて固まる。ついでにあたしも固まった。
…………
…………
…………
あれ?
いまあたしなんて言った?
なんか変なことゆってない⁉
気の迷いか、はたまた日頃から恋バナできない環境のせいであたしの恋愛脳の
だって基本的によくお喋りする周りの女子って、優美子とか姫菜とかゆきのんとかいろはちゃんだよ。
この四人と恋バナとかちょぉっと無理くない?
優美子はもう隼人君一択だし、姫菜も誰とも付き合う気がないってハッキリしてて、あと腐女子っていうの? よく分かんないけど。
残った二人はもっと問題で、いろはちゃんはいまいち分かりづらいけど、ゆきのんには安易にこの話題を出してはいけないというか……と、とにかくこの二人と恋バナなんてしたら
……でもいい機会かも。
だって同じクラスだから分かるけど沙希は誰とも仲良くしようとしない。それどころか、自分から話しかけることもないもん。
今日は沙希と仲良くなるって決めて挑んだ一日なんだし、ちょっと踏み込むくらいじゃなきゃ成果なんてでないよ。勢いってやっぱ大事だよね。
文化祭以降、姫菜がよく話しかけてるのを見るけど、傍目からは沙希が迷惑そうにしつつ折れてる、みたいで仲良しってのともちょっと違うんだよね。
そんな沙希がバレンタインチョコ渡すくらいだからもしかして……って可能性は低くないんじゃないかと思う。これは昨日、沙希んちにお邪魔したときにも感じてたことだ。
人と目が合って固まる猫のようだった沙希の表情に感情が戻り、教室で見る鋭い眼差しを向ける。でも恥じらいみたいなのも浮き出てた。
「……言うわけないでしょ」
「えー、いーじゃん、教えてよー⁉ ねっ⁉ ねっ⁉」
「あ、あんたねぇ……!」
ちょっと照れながら凄んでも迫力がなくて逆に可愛く見える。
こーゆーの訊かれるのは嫌がるだろうなとは思ってたし、なんだったら前にドレス着てバイト先に凸した時みたく冷たい態度くらいは覚悟してたんだけど、そんな型通りの反応じゃないのが意外だった。
あ、でもこれって訊けたら訊けたでまた厄介なことになるかもなんだよね。
もしかしたら同じ人が好きかもしれないのに、なんでこんな嬉しそうに訊いてるんだろ、あたしのバカ!
「…………」
あたしをジッと見ながら段々と表情が険しくなっていく。完全に断らないってことは言うかどうか悩んでるのかな。
その予想は当たってたみたいでゆっくりと口を開いた。
「……こういう話ってあんまりしたことないんだけど、ヒトに訊くからにはまず先に自分から話すもんじゃないの?」
「え」
「え」
「えええ⁉」
「はっ? タダでそんなの教えると思ってんの?」
ん? え、ちょっと待って、話すって、あたしの好きな人を教えるってこと?
やー、それはちょっと、ってそれやばくない? やばいよね⁉ むしろなんでこのケースを想定してなかったのあたし⁉
うう……どうしよう……
あたしは一対一の女子トークですら口に出来ないのに、奉仕部に依頼で来て好きな人を皆に告白したとべっちって凄くない?
「あはは……えと、その……」
こんなこと……ゆきのんにも、ちゃんと話したことないのに……
いままで気付かないふりをして、誤魔化して……
もし話したら、口にしてしまったらきっと取り返しがつかなくなる。
認める勇気が、あたしにはまだないから。
悩み抜いた挙句、あたし自身予想外の言葉を口にしていた。
「……あのね、あたしんちって犬を飼ってるんだ。小型のミニチュアダックス、サブレっていうんだけどこれがちょー可愛くって」
「え」
沙希をぽかんとさせちゃった。ついでにあたしもぽかんだよ。なに口走っちゃってるのあたし⁉
「毎日お散歩させてるのあたしなんだけど、全然言うこと聞かなくて誰に似たんだろーって思っちゃう時があるんだよね」
「……一体なんの話?」
うん、そーだね。あたしもこの先どんなふうに着地するのかわっかんないからね?
「そんでねそんでね、うちの高校の入学式の朝にもサブレのお散歩に出掛けたんだけど、そしたらね」
「……サブレのリードが外れて道路に飛び出しちゃったの」
「え」
自分で口にしながら苦い感情が思い起こされる。手からリードの
「そこに車が来てサブレが轢かれそうになっちゃって……」
「…………」
沙希は最初訳が分からないって表情だったけど、いまは神妙な面持ちで聞いてくれている。
きっとこの後に続く言葉を想像してそんな顔になってるのかもだけど心配しないで。そうじゃないから。
「……その時、見ず知らずの男の子が庇って……サブレを助けてくれたんだ」
「……!」
沙希の表情が変わった。やっぱりびっくりするよね。普通そんな人いないもん。見ず知らずの犬を庇って怪我するとかマンガの中だけの話だと思ってた。
「でもその人はあたしのことなんか知らなくて……」
「なのに自分が轢かれてまで見知らぬ犬を救ってくれたの」
『そんでその人のこと気になりだして……好きになっていったの』って心の中で付け加えておいた。
それに名前を言えないのもごめんだけど、これを知ってるのは当事者と小町ちゃんだけ。人に話したのは沙希が初めてだからそれに免じて許してほしい。これも口には出来ないけど。
あたしの想いが通じたのか沙希は難しい顔で何を言おうか考えてるみたい。だと思ったらまた頬杖して窓の外を眺めながら口を開いた。
「あたしはさ……言われたんだ」
たっぷり溜めて、衝撃の一言。
「……愛してるぜ! って」
「はえ⁉」
なにそれ⁉ なにそれ‼
……これって、アレだよね?
恋バナにおける
あたしがサブレを助けてもらったエピソードで沙希の右頬をひっぱたいたら、
そりゃ、あたしにとって、あたし達にとって三人が出逢う大切なキッカケは何物にも代え難い素敵な思い出だけど、今の流れだとちょっと、ちょーっとだけ不向きな内容なんだよね。
あたしの為に犬を助けたってわけじゃなくってそれは本人の口からも言われてるし、運命的なって意味ではすっごくすぅっごく魅力的な出来事だけど、あたしに気持ちが向けられてない時点で『恋バナ』って枠組みから少しずれてる気がする。
それに引きかえ沙希の告白はちょっとどころか尋常じゃないくらいパンチ力あり過ぎ。だって羨ましいって思っちゃったもん。
「あ、あたしだって、二人っきりで夏祭り、行ったこと、あるんだから!」
反射的に沙希の右頬を夏祭りで再びひっぱたきにかかるけど、多分実際に叩いたとしたら『ペチッ』としか音がしてないと思う。そんくらい歯切れ悪くて自信なさげな告白。
でもなんでこんなつっかえつっかえになっちゃうんだろう。
……そっか、何となく後ろめたいからだ。
最初は楽しかった。
でも偶然さがみん達と遭っちゃって陽乃さんに事故のこと触れられて一年以上もずっとお礼を言えなかったのが呼び起こされた。
ゆきのんのおうちのこととかを陽乃さんから聞かされたり、ゆきのんに内緒で夏祭りに行ったのが影響してあたしの中では嬉しさより憂鬱のが大きくなってたみたい。
……っていうか
『愛してるぜ!』
なんて言うかな?
全然イメージじゃないんだけど。
あたしの
「もう告白もしてる」
え?
え?
ええ⁈
告白って、え、え⁈
告白なんていつしたの⁉
え? あれ? でも告白までしたんならさっきのはどうして?
あたしの中が『なんで?』で埋め尽くされた。
だって映画館であたしにカップル割勧めてきたじゃん。それってどう考えてもおかしくない⁉
もうオーケーもらってて正妻の貫禄見せつけるってやつなの⁈ ってそんなわけないか。
もしかしたら沙希は嘘を吐いてるのかもしれない。
あたしは大切な思い出を正直に話したのに。
でも本当だったら本当だったで、こうして疑っちゃう自分がすごく嫌で嫌で許せない。
あたしにとって信じられないことや分からないことの連続で混乱してると、聞き捨てならない一言が心に突き刺さった。
つづく