サキサキのバレンタインは色々まちがっている。 作:なごみムナカタ
2019.12.25 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。
《 Side Hachiman 》
~比企谷家~
「たでーま」
「おかえり、お兄ちゃん! もう沙希さんちに行く準備できてるよー!」
「さすがに手際いいな。俺が着替えたらすぐ出るか」
小町の頭を優しく撫でてやると、小町もそれに応えるようにはにかんだ。可愛い。
「そういえば~♪ お兄ちゃん今日はチョコ貰えたの?」キャッキャッ
例年ならその残酷な質問は刃物となって俺の胸を抉るだろう。だが今年のお兄ちゃんは違うぞ小町!
でもなるべくなら言いたくない、絶対茶化されるし。でも訊き出されるんだろうなあ、小町だもんなー。
「先に着替えてくるわ」
小町の追及を躱して着替えるが、その最中にドアの向こうから質問攻めが行われた。
『ねえねえ? それでそれで~、ホントのところはどうなの~?』
「まあ、ぼちぼちってとこかな」
『そんな曖昧な答えで小町が許すと思っているのだとしたらお兄ちゃんは甘々だよ~、マッ缶くらい甘ったるいよ~』
「お兄ちゃんの沽券に関わることなので黙秘します」
『ぶー! お兄ちゃんポイント低いよ……じゃあさ、もう時間もないからお兄ちゃんがゲロっちゃう奥の手を早くも使っちゃうからね?』
「ゲロとかいうな。なんなのその言葉遣いは? 乱暴ですよ?」
『言わないとお兄ちゃんにあげるはずだったチョコを大志くんにあげちゃうから♪』ニパ!
「ごぉぉまぁぁぢぃぃぃぃ‼」ガチャッ!
「あはっ! お兄ちゃんキモーい! でもそんなお兄ちゃんポイント高いよ!」
「ほら見ろ、お兄ちゃん今日は六個もチョコ貰ってきたんだぞ!」
もはや抵抗の意思を見せることなく晒されたチョコ達、色とりどりのラッピングに小町は目を輝かせた。
「わー、すごいすごい‼ いつからこんな自慢できるお兄ちゃんになっちゃったの? 小町も鼻が高いよ」
小町は大喜びでチョコを一つ一つ手に取っている。
「これは……雪乃さんかな? こっちは結衣さん? あとの四つが分からないけど……」
「ああ、それは平塚先生からだ。そっちが新しい生徒会長からで、これが前の生徒会長からだな」
「ほーん……で、これが沙希さんからのやつっと」
「違うぞ?」
「ほえ?」
「それは、腐女子からの贈り物だ」
「は?」
「だから、腐女子からの……」
「は?」
声ひくぅ! こわ‼
「こ、小町ちゃん? ホントに今日はどうしちゃったの?」
「なーんで今日手料理の夕飯を御馳走してくれる沙希さんからのチョコがないの? あ、そっか、これから行って御馳走の後に貰えるんだ! やだもー、小町ったら勘違い!」
「ああ、多分それもないぞ?」
「はぁ?」
小町ちゃん、ホントどうしちゃったのよ⁉
「いやな、川崎のやつは本命を渡す相手がいるみたいで、あ、これ言っちゃってよかったのか……?」
「……どういうこと?」
「いや、だから……これは川崎のプライベー……」
「ど・う・い・う・こ・と・?」ニッコリ
小町ちゃんの笑顔に惨敗し、予備校帰りの出来事を話すことになった。
………………
…………
……
「ははーん、そういうことだったんだー」
小町は荷台に乗り俺の背中から腕を回している。説明が終わり聞き終えた小町はぶつぶつと呟く。
「……でも、それって変じゃない? お兄ちゃん」
「あ? 何がだよ?」
「沙希さんがチョコ渡したくてその相談するために予備校帰りに誘われたっていうのが」
「なんで? 別におかしかねーだろ。学校で渡せなかったからその方法を相談するってのは」
「だってさ、バレンタインって今日なんだよ? 相手が仮に同じ学校の人だとして、学校も終わって予備校帰りの時間でどうやって渡すの?」
「それは……」
小町に言われたことを反芻する。川崎が車に轢かれそうになったインパクトのせいで相談のことなど深く考えていなかったからそんな単純なことに気付けなかった。
「こんな時間じゃ相談しても別に出来ることないよね? だってもう直接家に行って渡すかポストに入れるかくらいだもん。あとはメールかなんかで呼び出して渡すとかかな」
「そう……だな」
「こう言っちゃなんだけど、沙希さんもその、ぼっち、だよね? じゃあ多分、相手のメルアドも知らないだろうし、LINEもやってないだろうし、直接家に行くしか方法ないじゃん。相談できるほど選択肢がないっていうか……」
「……そうかもしれんな」
じゃあ、本当は俺になんの相談をしたかったのか。疑問ばかりが募っていく。
「……やっぱり沙希さん、お兄ちゃんにチョコ渡したかったんじゃない?」
「どうしてそーなる?」
「……お兄ちゃんもホントは気づいてるんでしょ? だって沙希さん庇った時にチョコが鞄から放り出されたって言ってたけど、最初から鞄が開いてたわけじゃないんだよね? 轢かれそうになった時に沙希さんが鞄から出そうとしてたからそうなったんでしょ?」
「ああ、たしかに」
「だったらその時、お兄ちゃんに渡そうとしたんだよ。それなのに車が突っ込んできたからそんなことになって……」
「…………俺のせいか……俺が庇ったせいで」
「ちっがーう! そこじゃなーい! 第一お兄ちゃんが庇わなかったら沙希さん大怪我してたかもしれないんだから、そこは全然間違ってないの!」
「ああ、そうだよな、俺は間違ってないよな……川崎は無事だった……チョコは無残だったが……」
「つまり小町が言いたいのは、あんなタイミングでチョコを取り出したのはお兄ちゃんに渡そうとしたからで、それなのに車に轢かれて潰れたから渡せなくなってそんな嘘ついたってことだよ!」
「川崎が俺に? いや、でも……それは……」
「勘違いじゃないよ、お兄ちゃん。だって今日、小町以外からたくさんチョコ貰ってるじゃん。沙希さんもきっとお兄ちゃんに渡そうとしてたんだよ!」
「だからお兄ちゃんは今日、夕飯を御馳走になった後にそのチョコを貰ってあげれば相談は解決だよ、うん! 沙希さんの気持ちを察して渡せなくなったチョコを受け取るお兄ちゃんポイント高いよ!」
「……し、しかしだな小町……百歩譲ってそうだとしても、轢かれたチョコをくれって言われたら引くだろ。いや確かに少女漫画とかにはありそうだが……」
「……もう! ……しょうがないなあ。じゃあ、お兄ちゃんの為に小町がその理由になってあげる」
「え?」
「沙希さんが一生懸命作ったチョコをお兄ちゃんに受け取ってもらうよう依頼します」
「え、いや、それは……」
「きっと沙希さんも潰れちゃったチョコなんて渡せないから落ち込んでるだろうし、そこをお兄ちゃんの方から欲しいって言えば沙希さんも渡す理由が出来ると思うんだよね」
「待て待て、それは前提が俺に渡すつもりのチョコだったらってことだろうが。そうと決まったわけでもないのにその依頼は受けられんぞ」
「ええー? 絶対そうだって。小町が保証するもん」
「もし俺宛てじゃなかったらどうする? 自分のだと勘違いして実は他人にあげるはずの潰れたチョコを下さい。なんて、これはもう他の追随を許さぬくらいの黒歴史だよ? 負けることに慣れててもこれは許容できないぞ!」
「小町の言葉を信じないお兄ちゃんポイント低い……じゃあ、沙希さんがそのチョコ誰にあげるか探り出せれば受けてくれるの?」
「……そうだな、確かに誰に渡すつもりだったのかを知るために小町本人も動くというなら奉仕部の理念にも反してないかもしれん。小町がそれを訊き出せて、なおかつ、もし万が一、いや億が一にも有り得んが俺宛てだったら、その依頼引き受けてもいい」
「やった! お兄ちゃんポイント高い!」
「ただし、嘘はダメだぞ。本当に俺宛てだと確信できない場合もダメだ。言質をとってこい」
「ええー、ちょっと厳しくない?」
「……逆に考えろ。俺が普段絶対にしないであろう川崎にバレンタインチョコを要求するという未曾有の出来事を、言質がとれさえすればやると言ってるんだぞ。これがどういうことなのか小町に分からない訳ではないだろう」
「確かにお兄ちゃんから女の子にチョコくれって言うのって、休日に雪乃さんと結衣さん連れて出掛けるくらいあり得ないよね」
「あったり前だろ。さらに専業主夫を諦めて社畜になるまであるあり得なさだ」
「その発言をあり得ないに例えれちゃうあたり、お兄ちゃんが男としてあり得ないんだけどね。でもそんなお兄ちゃんを健気に応援してあげるのは小町的にポイント高い!」
「はいはい健気健気」
「テキトーだなー」
「そんなことより依頼を達成させたいなら、どうやって川崎から探り出すか作戦考えた方がいいんじゃねえの? 探り出せない方が俺としてはいいんだが。まああり得ないから達成は不可能なんだが」
「うん、まかせてよ! ちょうど材料も持ち込んでるから一緒にお料理しながら訊き出してみるよ。沙希さんと恋バナするの今から楽しみ!」
「川崎が恋バナ……想像つかん……」
「それ本人の前で言っちゃダメだからね。地味に深く傷つくと思うよ」
「そうなのか……まあ、でも確かに誰に渡すのかは知らんがチョコを用意してたのを見ると川崎も乙女してるってわけか」
「小町がきっと真相を暴いてくるから絶対に依頼実行してね」
「……万が一そうだったらな……」
俺達は川崎の家に到着し、呼び鈴を鳴らした。
つづく