サキサキのバレンタインは色々まちがっている。 作:なごみムナカタ
2019.12.25 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。
《 Side Komachi 》
~川崎家~
ピンポーン
「はーい」
「こんばんはー、あ、大志君、今日はお邪魔してごめんね」
「いらっしゃい、比企谷さんとお兄さん! 歓迎するっす!」
「おう、邪魔するぞ。あとお兄さんと呼ぶな」
いつものやり取りをしてお邪魔する。沙希さんが出迎えないってことはまだ帰って来てないのか、もう料理の準備にはいってるのか。
「二人ともいらっしゃい。ちょうど着替え終わってこれから準備するところだよ。すまないけど大志と一緒に京華の相手をして待っててくれるとありがたいんだけど」
「はーちゃん、小町ー」
京華ちゃんは小町に抱きついてきた。可愛いなあ、小町うかうかしてられないよ。
「あ、沙希さん、小町が準備したのもありますから、沙希さんさえよければ一緒に夕飯作ったりするのってできますかね?」
「え? あんたも一緒に? あたしはいいけど……比企谷?」
「あ? なんで俺に振るの? 小町はいつも俺のご飯作ってくれる天使だぞ。俺の中の料理が上手い女子ベスト3にランクインしてて、堂々の一位だ。心配いらん」
「うわっ! お兄ちゃんキモ! 同級生の前で平然とそういうこと言っちゃうのは小町的に微妙だよ?」
「うっせ。千葉のお兄ちゃんは妹が一番大切ってのが社会の常識なんだよ」
「いや、だからだって……この子の料理の腕は心配してないよ。あんたが妹をあたしにとられたとかゴネないかと心配になったから一応お伺いしたんだけど?」
「ああ、それは心配するな。俺はけーちゃんの相手をしてるからな。言ってみればこれは妹同士の期間限定交換トレードだ」
「うわぁ……」
「あんた……」
「お兄さん……」
「待て待て、全員で引くなよ。冗談に決まってるだろ。え? もしかして通報されちゃう?」
「はーちゃん、行こ行こ‼」
お兄ちゃんは京華ちゃんに連れられて居間の方へと向かった。小町もコートを脱いでエプロンを着用、沙希さんについていき台所へ行き、手を洗う。
「じゃあ、早速始めちゃいましょう。何からやりますか?」
川崎家で調理する以上、当然沙希さんがメインで小町はサブだ。いきなり他人の家の台所を好き勝手使えるほど図々しくはない。
「じゃあ、里芋の煮っころがしに使う野菜を切ってもらおうかね。まあ切り方はあんたに任せるよ。あ、里芋はあたしが切るから。こう見えても得意だし切り方で味の滲み具合が変わるからね」
沙希さんはそう指示して手早く皮を剥いてザルに入れていく。すごい! 手早いしキレイ! 小町もお兄ちゃんのお世話で随分お料理してきたけど、敵う気がしないよ……
「…………」
「…………?」
「どうしたんですか? あんまり見られると小町、手切っちゃいそうですよ?」
「いや、やっぱり料理慣れてるなって思って」
「いやー、沙希さんほどでは……」
「そんなことないよ。あたしより二つも下なのに安心して見てられるし、なんだったらうかうかしてられないって感じるよ」
「褒め過ぎですよー、ありがとうございます」
沙希さんに褒められるのはすごく嬉しい。それに、ぼっちでコミュ障とかきいてるけど、全然そんなことないじゃん。もしかして、小町のこと家族にカテゴライズされてるのかな? ああ、だとしたらこんなお義姉ちゃん欲しいかも!
「そっちも手料理持ってきてくれたって言ってたけど、どんなの作ったんだい?」
「今日はポテトサラダとハンバーグとひじきの煮物ですね。他にも作りましたけど、まあ持っていけそうなのがそれだったので。ハンバーグは生なので、後で成形しなおして食べる直前に焼かせてください。小さくして数増やすから火もすぐ通りますよ」
「ふーん」
「え? なんですか? 小町なにか変なこと言っちゃいました?」
「違うよ、感心してんの。食べる直前にハンバーグ焼く為に捏ねたやつ持ってくるとか、中学生なのにひじきの煮物とか栄養バランス考えて作ってるなとか。比企谷じゃないけど溺愛するのも分かるかも」
「うわ、小町の株急上昇じゃないですか。でもでも、小町も沙希さん見てたらますますお義姉ちゃんにしたくなっちゃいましたよ!」
「ば! また、あんたそんなこと言って……あたしと比企谷はそんなんじゃ……」
「あれー? 大志君と小町がくっつくって発想はないんですかー? それよりもお兄ちゃんと沙希さんがくっつく方が、沙希さん的には自然だなーとか思っちゃってますよね?」
「こ、この! 比企谷に似て減らず口が達者過ぎるよ!」
「まーでも、いまのところ大志君とくっつくってのはあり得ないですけどねー」
「あ、うん……うち狭いしあんたの声大きくて向こうに聞こえたらショック受けるかもしれないからやめてあげてね?」
「ああ……はい、ちょっと悪乗りしすぎちゃいましたね……」
「それにしても、面接日の時も思ったけど、あんた比企谷の妹とは思えないくらいいつもテンション高いね?」
「そうでもないですよ? まあ、あの時は入試から解放された直後だったからはっちゃけちゃいましたけど」
「確かに普段のあんたを知らないからあたしがどうこう言えることじゃないんだけど、それにしてもやけに浮かれてない? なにかあったの?」
「いやー、それがですねー、なんとあのお兄ちゃんが小町以外の人からチョコを貰ってきたんですよー」
「あ……そ、そう……比企谷にもくれる人いるんだ……」
お、動揺してるぞ。畳みかけてみよっと。
「それでですね、沙希さんは誰かに渡したのかなーって気になっちゃいまして」
「あ、あたし?」
「ん?」
「あ」
沙希さんの視線が一瞬泳き、その先に置かれたゴミ箱を見つけた。そこから轢かれたチョコの包みが顔を覗かせている。沙希さんの視線を追わなければ見つけられなかったくらい僅かに収まりきらなかったラッピング。
「あ……」
「……沙希さん、これ……」
「それは……その……」
鍋の面倒を見ながらなんとかやり過ごそうとしているみたいだけど、ここまで言い淀んで誤魔化せるわけない。もっと軽い感じで流せばよかったのに、それが出来ないということはやっぱり本命チョコなんだ。
「沙希さん……今日あったことお兄ちゃんに聞きました」
「‼ そ、そう……あいつ話したんだ」
「だって小町が夕飯作り終わってるのに沙希さんとこでご飯を、しかも小町も一緒に連れてって食べるとか不自然ですからね。理由くらい訊きますよ」
「ごめん、なんか巻き込んだみたいになっちゃって……比企谷に庇ってもらって助かったよ。危うく大怪我してたかもしれなかったし。スカラシップのことといい、なんか比企谷には、あんたにもだけど助けられてばかりだね」
「沙希さんが無事でしたらそんなのはいいんですけど……沙希さん、このチョコって誰にあげるつもりだったんですか?」
「誰にって……」
「お兄ちゃんは鈍感だから、これが誰に宛てられた物なのか気づかなかったみたいですけど、このチョコが鞄から飛び出した理由ってその時、渡そうとしたからですよね?」
『お兄ちゃんに』とは言ってないから、少しは認めやすいかなーと思うんだけど、沙希さん答えて!
「……あんなになっちゃったんだし、渡せないよ……」
んー、まだ足りないかな? 言質とったってほどじゃないかな? ゴミいちゃんだからこれくらいじゃゴネるかも?
「じゃ、じゃあじゃあ、別のチョコを渡せばいいんですよ、料理が終わったらちょっと理由つけてお店で買ってくるとか」
「さっき買い物してた時にそれは考えたんだ。でも、そうするとあいつは新しく買ったチョコを、助けたお礼の義理チョコと勘違いして受け取っちゃうから……」
「ああ~、それはありそうですねえ、ゴミいちゃんだし」
やった! これならもう大丈夫だよね!
「それにもういいんだよ……気付かれなくても……」
「そうですか……沙希さんがそこまで言うなら、小町も無理にとは言いませんから。だから、早く夕飯作ってあげましょう。みんなお腹空かせてますよ!」
「……うん、そうだね、ありがと」
「はい!」
つづく