サキサキのバレンタインは色々まちがっている。   作:なごみムナカタ

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2020.12. 1 台本形式その他修正。
2019.12.26 書式を大幅変更。それに伴い、一部追記。


9話 それでも、比企谷八幡は気づかない。

《 Side Saki 》

 

 

~夕飯~

 

 

「さぁ、出来たよ。遅くなってごめんねー」

 

 京華の相手をしていた比企谷と大志にテーブルの準備をしてもらい、料理を並べてもらった。あたしは京華を手洗いさせて残った二人にも同様に促した。

 

「さぁ、沙希さんの料理ずっと楽しみだったんですよねー、いただきましょう!」

 

『いただきまーす』

 

「わぁ、里芋味滲みてて美味しい……形も崩れてないし。里芋入れるタイミングって重要なんですね。小町たまに作るけど味ちゃんと滲みなくて上からお塩ふって誤魔化しちゃったこととかあるんですよー」

「小町ちゃん……そういうカミングアウトされるとお兄ちゃんどんな顔すればいいのか分からないのよ……?」

 

「ふふっ、あんたも慣れてくれば簡単にできるようになるよ。今日見た感じ、相当料理し慣れてるし、得意料理ならあたしより美味しいの作れるんじゃないかな?」

「いえいえー、沙希さんには全然及びませんから!」

 

「……なんか、すごく姉ちゃんと比企谷さん仲良くなってませんか? お兄さん」

「ああ、妹が取られるんじゃないかって危機感生まれてきたわ。あとお兄さん言うな」

 

「これ小町が作ったのー?」

「そうだよー、京華ちゃん食べさせてあげようか?」

 

「うん」

「はい、あーん」

「あーん」パクッ モグモグ

 

「……美味しー、さーちゃんとおんなじくらいおいしー」

「ホントにー? いやー、京華ちゃんお世辞が上手いんだからー」

 

「お世辞ぃ? ってなーに?」

「あ? えーっと……そう、優しい嘘っていうのかな……嘘ってなんか悪いことみたいだけど、いいものもあるんだよ」

 

「つまり、小町の料理よりさーちゃんの料理の方がおいしいけど、おなじくらいって言ったのをお世辞というんだよ」

「えー、けーかウソついてないもん」

 

「そうそう、あんたのハンバーグ美味しいよ。けーちゃん嘘なんか言ってないよね」

「俺としては小町のハンバーグの方が美味いと思うが川崎のを食べたことがないので正当なジャッジができないのが残念だ」

 

「どうせあんた食べても正当なジャッジできないでしょ、このシスコン」

「それも否定はできんがな」

 

「じゃあ、今度また姉ちゃんがハンバーグ作った時に一緒に夕飯食べてみればいいんじゃないっすかね?」

 

「はっ⁉」

「あ?」

 

「いいですねー。小町もまた沙希さんと一緒に料理できて楽しいですからー」

「あ、いやね、一緒に料理しちゃったら川崎のハンバーグじゃなくて川崎小町の合作ハンバーグになっちゃうわけでして、ジャッジしようがなくね?」

 

「もうジャッジなんてどうでもいいんだよ!」

「あれ? 本末転倒じゃんそれ……」

 

「いいの! またこうして皆で食卓囲めるんだからそこが重要でしょ?」

 

 その言葉にどんな反応を示すのか興味深かったあたしは、隠す素振りもなく比企谷を見つめてしまう。

 あいつは照れたような表情で頭を掻きながら答えた。

 

「……そうだな。なんつーか……こういうのも悪くないしな」

 

「――っ」

 

 その笑顔は普段見せる卑屈なものと違い、はにかみながら自然に出た柔らかいもの。

 ……その笑顔に、あたしの心臓が大きく震えた。

 

「また一緒にご飯するー」

「いいっすね、俺もまたご一緒したいっす」

 

「そ、そうか。じゃあ、ま、そういうことなんで、また折りをみて……飯食うか?」

「え? あ! その! あの…………うん」

 

 なんだか訳が分からないうちに次の食事の約束を取り付けたことになっていた。小町と大志の後押しがあったとはいえ、あの比企谷がこんなに素直に受け入れたのは新鮮で、なんだか戸惑う。

 

「…………お兄ちゃん、なんかいつもみたいにトゲトゲしてないよね。沙希さんちだからかな」

「ばっかお前……俺はいつもトゲトゲしてないだろ、存在がスカスカしてるだけで」

 

「だぁって、家で小町と二人でいる時と他の人と一緒にいる時だとずいぶん違うじゃん。今日はなんかうちに二人でいる時と変わらないっていうか……」

「小町がいれば俺はいつも変わらないからその憶測は間違ってるぞ」

 

「うわ、でたシスコン発言。そういうとこもうちにいる時と変わんないよね」

 

「はい、京華ちゃん、あーん」

 

「あーん……むぐ、んぐ……」

 

 小町は嬉しそうに京華に食べさせている。妹だけど比企谷の世話を焼いてあげてるせいか、お姉さんの立ち居振る舞いにも慣れているのかもしれない。本当にしっかりした娘だ。

 

「あー、はやく沙希さんのハンバーグも食べてみたいなー」

「そうだな、俺も早く川崎のハンバーグを食べてみたいわ」

 

「え?」

「そうすれば、小町のハンバーグが誰よりも美味しいと証明されるからな」フッ

 

「…………」

 

 そんなことだろうと思ったけどね……。

 

「うぁ……この……ゴミいちゃんのバカ! ボケナス! 八幡!」

「だから八幡は悪口じゃねーだろ。それ今日雪ノ下が真似してたからホントやめて」

 

「⁉」

 

「あらら~、じゃあ雪乃さんに八幡って呼ばれたの? その時のお兄ちゃんはどうだったの?」

「あいつ用法が分からねーから普通に名前呼んだだけみたいになって微妙な空気になったぞ。どうせやるならちゃんと使えるように小町が指導してディスリケーションを円滑に出来るようにしてやってくれ」

 

 そっか……部室で呼んでたのはそれだったんだ……そっか……

 あれ? こんなことで気分が軽くなるとか、あたしってどんだけ……?

 

 そんなふうに穏やかに時間が過ぎていき、いつもよりも温かい気持ちで夕飯を食べ終えることができた。

 それまでの時間とは裏腹に、これからの時間は少しだけ緊張する。

 食べ終わった食器をまとめて流しに置いてお湯に浸けておき、冷蔵庫からデザートを取り出す。

 

「はい、みんなデザート」

「わーい、ケーキだー」

「わー、ありがとうございますー」

 

「スーパーで買ったやつだけどね」

 

 ショートケーキ

 フルーツケーキ

 チーズケーキ

 モンブラン

 チョコレートケーキ

 

 時間が遅くてあまり選べる余地がなかったのでこのラインナップになってしまった。

 

「(あ、これは……)……大志君」チョンチョン

「(なるほど)……了解っす」ボソッ

 

「……何楽しそうにしゃべってるの、小町ちゃん? お兄ちゃん泣いちゃうよ?」

 

「けーちゃん、どれが食べたい?」

「けーかはね、うーんうーん……」

 

「…………」ドキドキッ

 

「けーか、これがいい」

 

(はぁ……よかった。京華はフルーツケーキを指差し、あたしはそれを京華の前に運んでセロハンを取る)

 

「じゃー、小町はショートケーキにしますね!」

「じゃあ、俺はモンブランで」

 

 この子達、もしかして察してくれたのかな……特に小町は普段から結構言ってくるし……

 

「じゃ、じゃあ、あたしチーズケーキにする、ね。比企谷も選んで」

「……いや選ぶ余地ないんだけどな……まあ、余り物とか俺らしいか……えと、ありがとな」

 

 比企谷はチョコレートケーキを選んでくれた。というか選ばざるをえない状況にしたんだけど。

 

『いただきます』

 

「おいしー!」

「うん、おいしいねー」

 

「…………」ジーッ

 

「? 比企谷、一口もつけてないけど、どうかした?」

 

 京華に半分以上食べ進めさせてる間、比企谷は一口も手をつけていなかった。というか、なんかこっち見てる……?

 

「……な、なによ? あたし見て……なんかあるわけ?」

「あ、いや、そうじゃなくてだな……わりぃ……気持ち悪かったか?」

 

「いや、そういうことじゃないけど……気になるじゃん……」

「ああ、ただお姉ちゃんしてるんだなって思っただけだ。深い意味はない」

 

「! そ、そそ、そう? べべ、別に、こんなの普通じゃん!」

「いや、落ち着け。ケーキこぼれてるぞ」

 

「あ、ああ、ごめんけーちゃん……」

「ううん、平気ー。はーちゃんチョコレートケーキ食べないのー?」キラキラ

 

 う……

 京華が目をキラキラさせてチョコケーキを見てる……これって……

 

「ん? ああ、けーちゃんも食べるか?」

 

「‼」

 

「ダ、ダメ‼」

「へ?」

「⁉」

 

「あ、けーちゃん、ごめん、でも……その、」

「おいおい、けーちゃんにあげちゃダメとか、実はこのケーキに毒を盛ったのがバレちゃったんじゃないのか?」

 

「ば! そ、そんなわけ……」

「え? いや……その……もちろん冗談だったんだけど……え、何この空気? やっちゃった感じ?」

 

「(……こんのゴミいちゃんが)」

 

 どうしよう……京華に大きい声あげちゃうなんて……おまけに比企谷の冗談に過剰反応して黙り込んじゃうし……

 

「あ……う……その……」

「ああ……えっと(こいつがけーちゃんに対してダメとかよっぽどだろ……何か意図が……そういえば……)」

 

「けーちゃん、わるい。これは俺の分だからあげられないんだよ」

 

「!」

 

「⁉」

 

 あの妹に甘々な比企谷が、京華にはっきり否定の言葉をかけた。

 意外過ぎる振舞いにあたしだけでなく小町と大志まで固まってしまう。

 

「どーして?」

 

「けーちゃんには自分の分があるだろ? さーちゃんは意地悪で言ってるんじゃなくてけーちゃんが将来立派な大人になるために我慢することを教えてくれてるんだよ。あんまりワガママいってさーちゃんを困らせちゃうけーちゃんは俺も好きじゃなくなっちゃう……かも?」

 

 あ……もしかして、この間のこと覚えててくれてたのかな。

 

 

『あんまさ、甘やかさないでよ。京華に構ってくれるのは嬉しいんだけど、我慢することも覚えないと……』

 

 

 京華を連れてサンマルクカフェで休んでいる時、比企谷を諫めた言葉。

 こんなこと言わせるなんて、本当に比企谷は生粋のお兄ちゃんなんだなって感心した。

 そんな一面が見れてちょっぴり幸せな気持ちにもなったっていったら大袈裟かな。

 

「ふーん、そうなんだー……うん、わかった、けーか我慢する……」

「おお、お兄ちゃんが京華ちゃんを躾けてるなんて、いつの間にこんな立派になっちゃったの!(まあ、沙希さん的には本来そっちの意味でダメって言った訳ではなかったけど結果オーライってことで)」

 

「ごちそーさまでした」

 

 京華に食べさせていたのであたしのチーズケーキがまだほとんど残っていたが、比企谷に諭されたからか欲しいとは言ってこない。その代わり別のお願いをしてきた。

 

「ねぇねぇさーちゃん、はーちゃんにチョコあげたい」

「あ、そうだね、けーちゃん。ちょっと待ってて」

 

 冷蔵庫に入れておいたチョコを持ってきて京華に渡した。

 

「はい、けーちゃん。自分で渡しな」

「うん。……はーちゃん、チョコもらってください」

 

 昨夜あたしのチョコを作る前に一緒に作った京華のチョコ。バレンタイン合同イベントの時に練習できていたので完成度の上がった一品。

 京華と……あたしの心がこもったチョコレートだ。

 

「おお、けーちゃん今度もくれるのか。ありがとなー。はーちゃん嬉しくて涙が出そうだよ」

 

 比企谷はいつも見せるのとは別物のような笑顔で京華からのチョコを受け取る。そんな顔をあたしも向けられてみたかったね。

 

「うわー、お兄ちゃん今日モテモテだよね、怖いくらい……明日は槍が降りそう」

「俺がチョコ貰う度にパル〇ンテ唱えたみたいになっちゃうの? もう少し天変地異の敷居下げてくれますかね……俺いるだけで容易く世界が終わるから」

 

「じゃあ、そんなお兄ちゃんに世界を滅ぼしてもらおう。はい、小町からのチョコでーす!」

「こここ、ごまぢぃ~~~!」

 

「うわぁ……」

「うわっ……!」

「お、お兄さん……」

 

「はーちゃん、よかったねー」

 

「え? 俺の味方、けーちゃんだけなの?」

 

「お兄ちゃんが気持ち悪すぎるからだよ……あ、大志君にも。はい、義理チョコね」

「‼ あ、は、はい、ありがとうございます……」

 

 大志……強く生きるんだよ……

 

「たーくんにもチョコあげるー、義理だよー」

「あ、ありがとうな、けーちゃん……」ホロッ

 

 大志……もうかけてあげる言葉が見つからないよ……

 

「まあ、とにかく二人ともありがとな、このチョコのお陰でこれから一生チョコ貰えなくても生きていけるわ」

「そんなことはないだろうけど、そんなに喜んでもらえるなら小町的にもポイント高いよ」

 

「おう。まあ、まだケーキ食べ終わってないし、チョコは後で食うからいいだろ」

 

 そういって、比企谷はあたしの用意した、というかスーパーで買ってきたチョコレートケーキを食べてくれた。チョコは潰れてしまって渡せなかったけど、これがバレンタインってことでいいよね。あんたに直接は伝えないけど……

 

 ハッピーバレンタイン、比企谷……

 

 

 

つづく

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