七彩物語 作:セブン
高町なのは
1
あぁ、暗い。何も見えず身体の感覚もない。落ちて落ちて沈んでいく。底が見えない奈落の底に落ちていくかのように俺はただその身を流れに任せる。
何処まで落ちるのだろうか。
寒くて暗くて、目を開けずとも此処がろくでもない場所だというのは分かる。きっと罰が当たったのだ。王族の責務を全てを投げ捨て私利私欲の為に血を浴び続けた俺はきっとこのまま地獄に落ちるのだろう。
我を通し無茶を通し全てを捨てて尚も叶わなかった。
力が足りなかった。
想いが足りなかった。
何もかも足りなかった。当たり前だ、責務を果たさない王族に誰が信頼し着いてくるというのか。
焼けるベルカの大地。無残に散っていく民。俺が求めた光景はこんなものだったのか?
問いかけても答えは帰って来ない。
もう、疲れた。
皆死んでいった。
守るべき民も、誇るべき友も、大切な家族も。
もう何も考えたくない。
戦乱に身を投じて汚れ切った己だがもし、もしも許されるのであれば最後に1度。
たった一瞬でいい。
ただ守りたかった。
彼女の、愛すべき妹の。
「オリヴィエ……」
愛してやまない。
俺の妹の笑顔がみたいな。
「聞いてくれ。朝起きたら隣で妹が裸で寝ていたんだ」
「そうか、帰りに病院に行く事をお勧めする」
「ほんとなんだって!助けてくれ、お前しか頼れるやつがいないんだ!」
いや知らんがな。
そんな家族間のシビアな問題進んで関わるのは御免こうむる。涙を流し俺の腕を掴んでくる馬鹿をひっぺがす。
「大体もう認めて抱いてしまえばいいだろ。それで取り敢えず上手くいく」
「取り敢えずっ!?それ後がないじゃん!?」
「じゃあ我慢しろ」
「それが無理だからこうして相談してんじゃんかよぉ……」
おい。お前手を出し掛けなのか。
もしもし?管理局ですか、今目の前に自分の妹に手を出しそうな変態がいるんですが。
とデバイス片手に言っているとデバイスをひったくられた。冗談の通じないヤツめ、そんなに俺を信用出来ないのか。
「それで1回本当に通報したの誰だ」
「あぁ、俺だな」
「性格悪すぎだろ」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
正確には聖王教会に通報したんだけどな。
「まぁ真剣に言わせてもらえば頑張れ、としか言えん」
「だよなぁ……」
そうやって項垂れる友から目線を外し窓の外を見る。雲一つない空は青くどこまでも続いている。きっとそこで拳を天に掲げて決意新たにしてる馬鹿と天気は連動しているに違いない。この無駄にポジティブな我が友に雨の日なんてやってくるのだろうか。いや、まず無いな。
ふぅ、と息を吐き空を見上げる。
妹が裸で添い寝?
そんなのめっちゃ羨ましいじゃん死ねばいいのに。
…………。
やっぱり1度蹴っておこう。俺は取り敢えず雄叫びを上げる友のケツを蹴り上げぶっ飛ばした。
st.ヒルデ魔法学院中等部。
その名の通り色々な魔法分野に特価した魔法学院なのだが俺はそこの普通科に所属している。世の中はどうしても魔力があり魔法が使えないと渡り歩くには厳しい。故にその学び舎であるここは幅広いジャンルの魔法関係の授業を履修登録で選択出来自由度も高い。
魔力量が多ければ優遇され、陸戦や空戦のランクが高ければ高い程優遇される世の中。それは当たり前でミッドチルダだけでなく管理世界全ての共通認識ではあるが勿論、魔力や適正に恵まれなかった者も存在するわけで。
その為の普通科であり、実力主義である今の魔法文明の中で生き残っていく為のスキルを身に付ける学部。当然魔力や才能に恵まれた人は入らない学部ではある。
勿論他の魔法学院には普通科なんてない。聖王教会系列の学院だからこそ、言ってしまえば金持ちの奴しか此処には通えないからだ。
だから間違いなく俺は運がいいのだろう。
校門が見えて来て来るとそこでずっと待っていたのか俺を見付けると嬉しそうに綺麗な金髪を靡かせて手を振ってくる。
左右で色が違うオッドアイの瞳を輝かせ、俺の元へと駆けてくる。
あぁ、懐かしい。確か昔もこんな感じだったけ。
「どうしたの?リネスお兄ちゃん?」
「なんでもない。さ、帰ろうか」
不思議そうに首を傾げる女の子にそう微笑み掛ける。俺が歩き出すと隣に立って付いてくる姿に思うところがないと言えば嘘になる。
きっとこの気持ちは俺のモノじゃなくて、そして向けているこの気持ちも彼女を通して別の誰かに向けられているモノで。
「あのねっ、またリオとコロナと同じクラスなんだ!」
「そりゃ運がいいな」
「でしょでしょ!」
けれども紛れもなくそれは俺の本心で。
きっとこの気持ちは純粋なモノじゃない。俺の本心ですら記憶に引っ張られて彫り込まれたものなのかもしれないと思うと何も信じれなくなる。
「そう言えば今日も一緒なんだよね。やった!」
「別に一緒に飯を食うだけだろ。なのはさん、娘まで使って俺を呼び寄せるかよ普通」
「えへへー」
「褒めてねぇからな?」
だらしなく頬を緩めるヴィヴィオ。
でも、悪くないな。
そんなヴィヴィオを見ていると自分も自然と頬が緩んでいるのを自覚しつつ、頭を撫でてやる。目を細めて嬉しそうにされるがままになる姿は猫よう。
可愛い奴め、と思い。
乱暴に掻き乱すように髪の毛をぐちゃぐちゃにした。
にゃーっ!?と猫のような叫び声をあげて嫌がるヴィヴィオを横目に笑ってやる。目線と言葉で抗議してくるが軽く受け流すと不貞腐れるように拗ねる。
あぁ、本当に悪くない。
「二人ともおかえりー、ってヴィヴィオ?」
「聞いてよなのはママ!リネスお兄ちゃんがね……」
「ふふっ、2人とも仲がいいんだね」
「ママ!茶化さないでよっ!」
どうやら騒ぎすぎて俺達が帰ってきていたのが向こうに筒抜けだったようで玄関を開けてなのはさんが向い入れてくれた。
娘であるヴィヴィオを茶化すように笑いさらにヴィヴィオは頬を膨らませる。まるで茹でダコのようだ。そんないじらしい姿を見ているとどうしても俺は彼女に構うのを止められない。
挟むようにヴィヴィオの膨らませている頬を掴む。するとばふーっと間抜けな音と共に空気が口から逃げて行く。
何するのー!?と、顔を真っ赤にしてぽこぽこと俺の胸を叩いてくるヴィヴィオ。
おとめのそんげんがぁ〜、と嘆くヴィヴィオを横目にお邪魔しますとなのはさんに頭を下げて玄関に入ると見覚えのある靴がある事に気が付いた。
「あっ、おかえりリネス」
「帰ってたのか母さん」
「うん。船が整備でね、丁度休みになったんだ」
そうやって笑いかけてくれる俺の母さん。
フェイト・T・ハラオウン。
ここ高町なのはさんの家の隣がフェイト母さんと俺が住んでいる家で、執務官の仕事で家を開け気味である母さんがなのはさんに頼んで俺の面倒を見てもらっている形で良くお世話になっている。
ご機嫌斜めなヴィヴィオを促して一緒のテーブルを囲み食事を共にする。その頃になれば既にヴィヴィオの機嫌は治っており楽しそうになのはさんや母さんに今日あった出来事を話していて実に幸せそうだ。
間違いなく今俺の置かれている環境は恵まれていて、そしてこれ以上の幸せなんてないと言える程に幸せだと感じている。
だと言うのに。
「ねぇ、リネス」
「母さん?」
「まだヴィヴィオには話さないの?」
高町家での食事を終えデバイスを貰い歓喜乱舞しているヴィヴィオに見送られ家に帰ると母さんはそんな事を聞いてきた。
今更、いや違う。
「話しても意味が無いからだよ」
「どうして?」
「だって……」
俺は今でも偶に夢に見る。
折り合いを付けて過去は過去、今の俺は今の俺だと認識して。けれどもこの身を焦がす程の想いと記憶が、時が経っても決して色褪せることも無く今もマグマのように激しく煮えたぎるこの想いが俺の中にはある。
戦いに身を置いていても確かに幸せだった日常。俺に向けてくれる笑顔、声に、気持ち。全て何もかも忘れずに俺の中に刻まれているというのに。
「ヴィヴィオには記憶がねぇから。俺が打ち明けた所で「そうなんだ」って驚いて喜ばれて終わりだから」
何もかも大事で大切な思い出は俺の中で生き続けている。けれどもそれを忘れられる事は何よりも辛い。それならいっそ出会わなければ、そう思ってしまうほどに残酷で苦しい。
「リネスがそう言うなら良いんだけど。けどヴィヴィオはヴィヴィオでオリヴィエじゃない、それだけは分かってるよね?」
「もちろんだ。アイツとヴィヴィオじゃ全然違うからな」
確かに違う。似ていても似つかない2人。
けど事ある毎にヴィヴィオの姿にオリヴィエの影を感じるのは事実で。
「うん。けどあんまりヴィヴィオを舐めない方がいいよ?」
「は?それはどういう意味だよ」
俺がそう怪訝に返すと母さんはんー、と考える仕草をする。ほんと母さんの仕草は一々あざといと思う。するとウインクをしながら母さんはこう言った。
「だって、なのはの娘だもん」
自信を持って、まるで自分の自慢話をするようにそう言った。
その回答に俺は首を傾げる。
けれど近い未来俺はそれを身を持って実感する事になる。