七彩物語 作:セブン
そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって
誰が信じるものか!
フェイト・T・ハラオウン
2
普通科と言っても履修次第では魔法を行使する授業にも参加が出来る。が基本魔力関係において劣っているからこその普通科であり彼等が魔法を行使する授業を履修する事はないと言っていい。
だと言うのに。
「どうしたのですか?リネス」
「いや、何だか無性にお前をしばき倒したくなった」
こてん、と首を傾げ特徴的なツインテールに結ばれた碧銀の髪を揺らす。いや可愛いんだがどうしてもそれが俺の気に触って仕方がない。
そんな目の前の女に自分が操作する
威力が強過ぎたのかそのまま地面に勢いよく倒れ込む。
ゴッ
と割と鈍い女の子に対してやらかしてはいけないような音が響いたが気にしてはならない。ていうかコイツにはこれぐらいが丁度いい。
「いつまで寝てんだ起きろ」
「……女の子に対して取る態度じゃありませんね。それに相変わらずの転移精度です、全く分かりませんでした」
「普通に撃ったら投げ返すだろお前。あと嬉しそうにファイティングポーズとるなバトルジャンキー。戦わねぇからな?」
やったのは単純、シューターを後頭部に移動させただけ。
コイツの脳は戦いと修行の2文字しか存在しないに違いない。
俺は普通科だ。故に自主的に抽選科目で魔法を行使する授業を取らなければ魔法を使う事なんてないのだが目の前の露骨に戦わないと言って残念そうにする女もどきのせいで履修する羽目になった。コイツ、やたらと俺と同じ授業を履修してくるのだ。
許し難い事実である。
「意地悪ですね、焦らしプレイですか。まぁ後で沢山私にしてくれるのなら……」
「おい誤解を招く言い方はやめろ」
顔赤くしてくねくねすんな。
さっきから遠巻きにひそひそとなにかを言われているのはもう諦めたがこれ以上要らぬ誤解をうみ続ける必要も無い。
「もう、一緒にお風呂やベッドに入った仲なのに」
「うるせぇわ。その時お前男だったじゃねぇか」
「私はずっと女の子ですよ?」
「……もういいわ」
ほんとコイツの相手疲れる……
俺がコイツと出会ったのはここの初等科1年だった頃。
俺が学校に向かっている途中、 後ろでなにかを落とす音がして振り返ると手を口に当て信じられないという顔をし涙を流す女の子が。俺はその時1番現実的なドラマの撮影でもしてんのかと周りを見渡すがカメラなんてなくて、いるのは彼女と俺だけ。
名前を呼ばれ抱き締められて漸く気が付いた。コイツは、クラウスの子孫なんだと。
それから事ある事に俺と戦いたがる女の子、アインハルトを時にボコしたり無視したり。まぁ昔はともかく今の俺達の関係はそんな感じだ。
アインハルトも当時はクラウスの記憶に混乱していていたが今はもう折り合いが着いたようだ。けどあの馬鹿はどうやら俺に負け続けたのが悔しくて死に切れなかったらしくその想いは強く彼女に残っていて襲ってくる。
きっとクラウスにはヤンデレの素質があったに違いない。時代を超えて襲い掛かってくるなんて、凄まじいストーカー力である。
まぁそんなこんなでアインハルトとは6年の付き合いになる。今思えば結構長いな。
「あの時は驚きました。だって姿が縮んだだけであの頃と変わりませんでしたから」
「そいつは悪かった」
「いえ。寧ろ助けられましたし、感謝を感じることはあれど謝られる事はありませんよ」
早い話俺の姿をみてアインハルトが擬似クラウスになりかけた事があった。まぁ色々あって収まったわけだが今は良いだろう。
俺はヴィヴィオと違って姿、魔力素質、記憶ですらそのまま受け継いで生まれてきた。
ある意味俺は過去の聖王その人でもある。けれども所詮は過去の人間、今を生きているのはリネスであって奴ではない。
結局マルチタスクを応用したシューターの同時操作の授業はアインハルトにシューターをぶち込み続けるだけで終わり、アインハルトと別れて着替えを済ませる。
そして教室に戻るとお弁当を広げたアインハルトと親友がいた。
親友は分かる同じクラスだし。しかしアインハルトがいるのは珍しい、俺のストーカーであるアインハルトだが俺の教室に来たのはそれこそ数えれる程度しかない。なんでも「押してダメなら引いてみろ、です」とか。そのまま一生引いてて欲しい。
「待ってましたよリネス」
「待ってたぜリネス」
「いやお前今日はどうしてここにいんだよ」
首を傾げるアインハルト。
てめぇそれやってたら許されると思うなよ。
あと横で同じように首傾げてるお前、全然可愛くねぇぞ。ていうか男がしてもキモイだけだ。
コイツらのやることなすこと一々突っ込んでいたらキリがない。だからほって置くことにした。
さっさとお弁当を食べてしまおうと鞄に手を突っ込んでお弁当を探す。
「……しまったな。弁当忘れちまったらしい」
「珍しいな。お前が忘れるなんて」
「いや昨日はお母さんが帰ってきててな、自分で作らなかったんだ」
いつもは自分で作っているから忘れる事なんてないんだが、せっかく作って貰って忘れてしまったのは申し訳ない。帰ったらちゃんと食べよう。
ここにいても仕方が無いし食堂に向かおうと席を立とうとすると袖を引っ張られた。
「なんだよ」
「でしたら私のお弁当、分けて上げましょうか?」
「いいのか?」
「構いませんよ、はい口を開けてください」
そういうことなら、と差し出された玉子焼きを口に含む。
「普通に美味しいな。親御さんにお礼を言っててくれ」
「これ私が作ったんですよ?私だって女の子なんですからこれぐらい作れます」
そう言えば失念していたがアインハルトは意外と女子力が高い。私服もスカートが多いしヒラヒラ率も高く、言われてみれば可愛い系ばかり。その割には部屋にはトレーニング器具があったりと色々とアンバランスな気もするが。何故そんな事を知っているかと言うと、コイツの家には何度か招かれたことがあり行ったことがあるからだ。その時は
そういうのを鑑みてやはり普通どころかかなり可愛い女の子、なのだろうが少し化けの皮を剥がせば変態バトルジャンキーの本性が表れるのが致命的である。それ以外にも、
「お前ほんとそういう所なかったら文句なしの美少女なのにな」
「ひふれいですね」
じゃあその俺に差し出した箸を口に含んでモゴモゴしてるのは何でなんだ?
やめろ、と引き抜こうとしても無駄に力があって中々動かない。ムカつくから押し込んで箸を突き刺してやろうか。と思っていると親友が声を掛けてきた。
「あのさ」
「なんだよ、ていうかお前もこれ抜くの手伝え」
俺は忙しいんだ手短に頼む。
「お前ら仲良いよな」
「冗談は顔だけにしとけよ親友」
「辛辣過ぎないっ!?」
冗談でも言ってはいけないことがあるって教わらなかったのか。
「けど実際お前らが付き合ってるって噂が流れてるぐらいだしなぁ」
「なに?」
実際コイツのせいで誤解を周りに与え続けているのは事実。今更訂正しようにも1度広まってしまった噂を否定するのには骨が折れる。俺が不愉快な思いをするだけだその他の被害はないのだが。
「お前、狙っていたな?」
「なんのことですか?」
その笑顔が実に白々しい。
にこりと笑うアインハルト。外ズラだけはいいので万人を魅了するであろう笑顔はとても可愛らしい。
が俺はそんな笑顔を浮かべるアインハルトの目に指を突き刺した。乙女が出してはいけない声をあげてのたうち回る。少しクラウスが出てきていたような気がしないでもない声だった。
本当にいつもいつもコイツは何で俺を困らせたがるのか。
「お前ときどき鬼畜だよな」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
苦笑いする親友。
そもそもコイツが悪いんだろ。当の本人はもう復活して席に戻ってきてるし。きっと覇王の血は体を頑丈にしているに違いない。
「そういや親友聞いてくれよ!」
「なんだ」
「俺は気が付いたんだ……愛があれば妹だって関係ないんだって!」
どうして俺の周りはこうも騒がしいのだろうか。
そうか。とだけ返しておく。
アインハルトもそうだがまともに取り合うだけ疲れるから。
「やっぱり妹だよな!家族だからこそ1番身近で大切な妹を愛してしまっても仕方がないよな!」
「そうだな」
面倒いから肯定しておく。
このバカならきっと止められても笑顔で突っ切るだろうし。
……それが羨ましく思う。きっと俺にはないものだから。
俺が相槌を打っていると突然アインハルトに肩を叩かれる。何故か扉の方を指差していて振り返ってみると
「あははは……」
苦笑いしたヴィヴィオがそこにいた。
「初めまして、ヴィヴィオさん。私は産まれる前からリネスさんと好きあっているアいたっ!?」
「真面目に自己紹介しろ」
「もう、いつになく激しいですね。やはり愛しの妹さんがいるからですか」
「ごめんなヴィヴィオ。コイツ前世から多分間違いなく馬鹿だったんだよ」
「あ、いえ〜……なんというかユニークな方ですね!」
妹よ、それは遠回しに馬鹿にしているぞ。
あとアインハルト。お前さっきから俺の腕掴むな引っ付くな。
お弁当を持ってきてくれたらしいヴィヴィオだがタイミングが悪かったとしか言えない。
「…………」
「あの……どうかしましたか?」
「いえ。改めて自己紹介を。ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト。貴方と同じ古代ベルカの王、覇王の血を継ぐ者です。以後お見知り置きはしなくて結構です」
「えっ?」
アインハルトはそれだけ言ってヴィヴィオから興味が失せたと言う風に目線を外す。バトルジャンキーなのはどうしようもないが妹にまではかるような目線を向けるのは辞めて欲しい。
「それよりもリネス。今日は私と鍛錬しませんか?」
「……人の妹にそんな失礼な態度を取る奴とはしてやろうとは思えないな」
「すみません。けれどもこれは私が勝手に失望しているだけで私のわがままだと分かっています。ですがやはり、思う所がないとは言えません。それに……」
そう言うとじっと俺を見詰めてくるアインハルト。左右で違うオッドアイは俺を射抜くがあいにく俺はアインハルトが何を考えているのか分からない。いつもと同じなのに何処か雰囲気が違うアインハルトは目を瞑ると俺から目線を外した。
「なんでもありません。ただ私は彼女を貴方の妹だと認めたくないだけです」
認めるも何も本当の妹ではないし俺が1つ上でなのはさんと同じくヴィヴィオがママと言っているフェイト母さんが俺の家族になってくれたからであって特に深い意味なんてない。
知っている人からすれば奇跡のような巡り合わせで。
また巡り会えただけでも奇跡で幸せだと言うのに。心が締め付けられ軋んでいく。
こんな事なら、と思った事は1度や2度ではない。
きっとアインハルトに取ってオリヴィエは重要な存在で、ヴィヴィオとオリヴィエは違うと分かっていても。それでも今のヴィヴィオの在り方に武闘家として何か思うところがあるのだろう。俺にはそれだけでないようにも思えるが。アインハルトは確かに馬鹿だし変態だ。だが決して賢くない訳では無い。寧ろ聡明でこんな事で喧嘩を吹っかける奴でないのは俺が知っている。
「そんなことっ、貴方に言われたくありません!」
「自覚しています。だからこれは私のワガママですよ。皆が認めても私は認めません」
「ヴィヴィオはリネスお兄ちゃんの妹です!」
ヴィヴィオにしては珍しいムキになって声を張り上げる。そう言ってくれること自体は嬉しい、嬉しい筈なのに何故こんなにも苦しいんだろう。
軋む心を見ないフリをして、ただ現実を見ない子供のように蓋をする。もうこれ以上望むことなんてない。もう良いんだ。
そう言い聞かせて。
何かが割れる音がした。