七彩物語   作:セブン

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長くなるので2分割
実はここだけで4回ぐらい書き直してる。

何で何度書いても勝手にコイツら仲直りすんだよ……
っていう感じに。


ズレた歯車は戻らない 前

3

 

 

 

 

 

リネス・ハラオウンは学院において様々な意味で有名人だ。ハラオウンという性だけ見てもそのネームバリューは凄まじいのだが、本人の容姿も整っており彼に密かに想いを寄せる女学生は少なくない。表立ってファンクラブまで存在する始末である。

 

ならば何故周りに誰も寄ってこないのか。

それは彼の周りにいつもアインハルトが居るからだ。アインハルトは普段大人しい性格であり積極的に周りに絡みに行くようなタイプではない、けれども彼女は10人に聞けば10人が美少女だと認める程に整った容姿をしていてそんな皆が認める美少女が露骨にリネスに擦り寄っているのを見れば誰だって気後れしてしまう。

 

それだけならまだ近寄ってくる人はいるだろう。しかし2人の会話を聞けば「同じベッドで寝ていた」「お風呂で背中を流しあった仲」だと。それを否定する訳でもなくて話している2人を見ればそれが事実であると分かってしまう。

 

故に「コイツらもうデキてんのかよ。けっ」となるのである。

 

 

それだけでなく一つ下の妹までいてその妹はなんと聖王のクローンで美少女ときた。これで有名にならない方が可笑しい。

 

そしてリネス・ハラオウンを語るにおいて外せない要素が1つある。それは彼がとてつもないシスコンであるということ。

彼はシスコンである。大事なことなので2度言いました。

何を根拠に、と言うかも知れない。仲つつまじく登下校したり普段見せない笑顔を見せたり。それだけではただ仲のいい兄妹でシスコンではないのではないかと思うかも知れない。

 

けどある時事件は起きた。

リネスの妹である高町ヴィヴィオはアインハルトと同レベルの美少女だ。聖王のクローンという事もあり近寄り難いイメージこそあるものの本人の人柄はとても明るく人懐っこいイメージとは真逆のものだ。それでもある意味タブーな存在である彼女に恋愛的な意味でアプローチを掛ける者はほぼ居ない。そうほぼ居ない。

いたのだ、彼女にアプローチを掛ける者が。

 

そこまではいい。誰かに恋をして想いを告げること自体誰も否定しない。彼が間違えたのはその後。

告白を断わられた後しつこく迫った彼はいつも校門で待っているヴィヴィオが来ない事を不審に思って探していたリネスと鉢合わせた。

 

その後彼は学院を離れた。

何が行われたのかは謎ではあるが間違いなく彼はリネスの逆鱗に触れた。その日その時間、学院は突然揺れたという。

リネス・ハラオウンは度を超えたシスコン野郎だ。これは学院の共通認識でそれからヴィヴィオに近寄ってくる男はいなくなったという。

 

皆は思った。

やはりハラオウン(シスコン野郎)の名は伊達ではないと。

間違いなく今もフェイトが独身なのは後ろで色々やっている黒そうな名前(クロノ)の兄のせい。というのは管理局でもそれなりに知れた話であった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

金髪の兄妹が一緒に下校する姿はもうこの近隣では見慣れた光景となっているが、いつもの仲つつまじい会話の声は聞こえてこない。

 

事の発端は昼頃。

お前やんのか?おっお?

とアインハルトが喧嘩を売ったのをヴィヴィオが買った形だ。アインハルトはまだ分かる、しかしヴィヴィオがここまで怒りを顕にするのは珍しい事であった。それまでに自分の妹であるということに意味があるとは思えないのだが、それは(妹である価値)ヴィヴィオしか知りえない事だろう。

 

 

 

 

「お兄ちゃん。私、アインハルトさんに勝てると思う」

「正直に言おう。お前じゃ間違いなく勝ち目はない」

「っ!?」

 

悔しそうに唇を噛み締めるヴィヴィオ。

正直に言ってしまっていいのか迷った。だが仮に「勝機はある」だなんて気休めにもならない程にヴィヴィオとアインハルトでは差がある。もし()()()()()()()()()()()()()()()()があったのなら万が一にも勝機があったのかも知れない。

だがアインハルトは俺と出会った。

そして最高傑作と言われた俺と幾度となく戦っている。全盛期の力こそないがこれでも最強と言われた聖王、記憶も魔力素質も受け継がれた俺が記憶を継承したと言ってもまだ成長途中である女の子に負ける理由にはならない。何より前世でもクラウスに負けた事がないのだから。

 

アインハルトは天才だ。

戦う度に強くなっていくのを幾度となく感じてきた。その成長速度は圧巻である。

詳しくは分からないが同世代であればそれこそ次元世界最強と言っても過言ではない。

 

「お兄ちゃんはアインハルトさんより強いんだよね」

「何言ってるんだ。俺は普通科だぞ?」

「私知ってるよ?アインハルトさん、学院で1番強いのにお兄ちゃんに勝てないんだって。やっぱり私とのスパーでは手を抜いてたんだ」

 

アインハルトがリネスと戦って強くなったというのなら、ヴィヴィオだって実戦形式でないにしろストライクアーツのスパーリングにてリネスと模擬戦を何度もしている。回数だけで言ってしまえばヴィヴィオの方が遥かに多い程。薄々ヴィヴィオも気が付いていた、格闘技をしていれば相手との差というのは何となく感じ取れるようになる。スパーリングで感じる違和感はそういう事だったのかとヴィヴィオは納得する。

 

俺を真っ直ぐ見詰めるヴィヴィオのオッドアイは悲しみか、それとも怒りからか揺れて見える。

当たり前か、黙っていただけでなく俺は自分がまるで本気を出しているかのように振舞っていたのだから。その点、アインハルトに対しては割と容赦なく叩き潰していた。別に本気になっていた訳でないにしろ、愛されているんだとヴィヴィオ自身が感じても。

そうやって子供扱い、まだ守られる対象なんだと言われてるようでヴィヴィオは嫌なのだ。

 

もう何も出来ず守られるだけでなく、次は守ってくれた人を守りたい。

色々なことを教えてくれた。

この幸せを返したい。

 

だからヴィヴィオはストライクアーツを始め強くなろうとしている。

 

 

「すまん、けど」

「けど何?私じゃ全力でやる価値もないって事?」

 

違う、と言いたかった。

けれども口は開かない。俺が黙り込みただなんの音もしない沈黙。

ヴィヴィオは怒っている、いつもの茶化されて怒っているような戯れなんかじゃなくて真剣に。

こんなに怒っているのはストライクアーツをやると言い出して俺が最後まで反対だった時以来だろうか。

これは俺のわがままだ、俺がそうあって欲しいと願って押し付けているに過ぎない。

 

力はいつの時代でもろくな結果しか生まない。力を持てば身に降りかかる火の粉というのは不思議な事に群がってくる。それにヴィヴィオの魔力素質は高速並列運用型で格闘型には向いていない、そうオリヴィエとは違って。ヴィヴィオの強い想いを聞いて、結局は折れる事になったが俺の中でそれは満足した、納得した訳では無い。

 

もうこれ以上傷付いたり、悲しんで欲しくない。何よりもう離したりしない。

そんな純粋な願い。

 

「私はもう守られるだけじゃ嫌なの。お母さんを守れるぐらいに強くなりたい」

 

知っている。

だってあんなにも真剣に言っていたのだから忘れるはずがない。けどその願いは俺の願いとは似ているようで何処か決定的にすれ違っていて。

だから俺は

 

「お前は……失った事がないからそんな事が言えるんだ」

「だから失わないように私は」

「そう言って皆死んでいくんだ!取り残された者がどれだけ辛いか、忘れられるという事がどれだけ心を締め付けるのか……お前がよりによってそれを言うのかよっ!」

 

俺がどれだけ強かろうとも絶対なんて存在しない。強さなんて結局ちっぽけなもので俺は守るべきものも、本当に守りたかったものも守る事が出来なかった。

どれだけ世界が平和で安全だったとしても俺は何一つ信じられない。今こうしている間にもどこかの世界で何の罪もない命が散らされているだろうから。

いつだって世界は残酷だ。

 

結局俺は怖いんだ。また失うのが。

だから手元に置いておきたいんだ。

 

ズレ始めた歯車はもう止まらない。

 

 

「っ!?お兄ちゃんなんてもう知らない!」

 

 

ただそう言って走り去っていく妹の姿をただ見ているしかなくて。

 

『私はただ、お兄様を守りたいんです!』

 

どうしようもなくすれ違って。

お互いに愛し合っていて守りたいと思い合っているのに。

 

アイツ、泣いてたな。

地面に付いた点模様を隠すように雨が降り始めた。

 

 

 

 

 

 

降り続ける雨。

ザァザァと鳴り響く雨音が今ばかりは心を落ち着かせてくれる。いつも見慣れている道。

いつも此処をヴィヴィオと歩いている。

けれども隣には誰も居なくて、いつも使っている道が違って見えてくる。

気が付かなかった。

1人でいると見える世界が変わると言うけれど、その通りだ。世界はこんなにも冷たくて色がないんだろう。

 

身体が重い。

服が雨に濡れているからと言われればそれでお終いかも知れないがそうじゃない。

ただ何も考える気にもなれず気が付けば家の前にいた。隣の家にはヴィヴィオがいる。すぐ側にいるのにどうしてこんなにも通じなくて苦しいんだろう。

 

「おかえり、リネス」

「ただいま母さん」

「お風呂沸かしてあるから入っておいで。それからお話しよっか」

 

どうやら母さんには全てお見通しらしい。笑顔が綺麗なのにそれが本能的に恐ろしいと感じている。

執務官の母を持つ人はどう隠し事をするのだろうか。ふとそんな事を思った。

ただぼーっと湯船に浸かり用意しておいた部屋着に着替えてリビングに戻るとソファに座る母さんと目が合った。目線でこっちに来いと語っている母さんを見て何となく悟る。

それに従い目の前に移動して

 

 

パァン

 

 

思いの外威力があってよろけそうになる。

くっそ、めっちゃ痛い。血の味がする。

 

「わざと叩かれたのは反省しているから?それとも罪悪感?」

「反省はしてない。罪悪感……だな」

 

無理やり表に出そうになる鎧を抑え込んでいたのはバレバレらしい。抑えれるギリギリの強さで頬を叩いてきた母さんは凄いと思う。

此方を鋭く射抜く母さんの目は明確な怒りが浮かんでいる。その間お互いに言葉はない、俺にも譲れないものだってある。

明確に間違っているわけでもなく、だからと言ってヴィヴィオが間違っている訳でもない。

 

「ヴィヴィオ泣いてたよ」

「そうか」

「ヴィヴィオ、今日の為に一生懸命練習してたんだ」

 

練習?

母さんは今何の話をしている?

 

「朝早く起きて、何度も失敗して。やっと形になって喜んでくれるかなって。今日のお弁当、ヴィヴィオが作ったんだよ?」

 

そう言って母さんが取り出したお弁当箱。俺がいつも愛用している巾着袋から取り出されたお弁当箱はいつもの物とは違って俺の家にはないもので。

俺はただ唖然としていて未だに全てを理解した訳じゃない。けれども自分でも自覚のない間に蓋を開けていた。

時間も経っていて最初は綺麗に盛り付けられていただろうハンバーグや卵といったおかずはぐちゃぐちゃに混ざりあっている。

形も少し変でちっさくて。

 

お弁当箱と一緒に仕舞われていた箸を手に取り震える手でそのまま口に運ぶ。

 

ゆっくり、ゆっくりと。

噛み締めるように。

正直時間も経っていてぐちゃぐちゃになっていて見た目は最悪だ。味だって何だかしょっぱい。

 

「おい、しいなぁ……」

 

けれども今まで食べたどんな食べ物もこのお弁当には叶わない。

 

ぼろぼろと涙が流れ、もう涙の味かお弁当の味かわからないけど。

ゆっくり、しっかりと完食した。

 

「リネスはずっと1人で頑張ってきたもんね。でも、それでも叶わなくて。ずっとずっと辛かったんだね」

「ぁ、う、うん」

 

母さんが優しく抱き締めてくれる。

俺に家族と言える家族はオリヴィエしか居なかった。オリヴィエを守りたくてただひたすら走り抜けて。けれども上手く行かなくて。

クラウス達もいたけれど彼等は対等であって不安も弱音も吐ける訳もなく全て飲み込んで1人だった。

 

俺はまだ信じられない。

自分が弱いから、何より怖いから。

 

「大丈夫。大丈夫だから。もう私やなのはが居るから。貴方もヴィヴィオも私達が守るよ」

 

きっと本当の母さんというのはフェイト母さんやなのはさんのような人なのだろうなと。

 

 

 

 

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