七彩物語   作:セブン

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世界は、いつだって……こんなはずじゃないことばっかりだよ!!

ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ!!

こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ!

だけど、自分の勝手な悲しみに、無関係な人間を巻き込んでいい権利は、

どこの誰にもありはしない!!

ーーークロノ・ハラオウン




 

 

 

 

 

「殿下」

「よしてくれ。俺はもう聖王じゃない。それに俺はリネス、リネス・ハラウオンだ」

「では、リネス様と」

「……もうそれでいいや」

 

こうべを垂れるシスターに思わず溜め息を吐く。

ここのシスターはどうにも頭が固く俺への敬意を崩そうとしない。俺はあくまでリネスであり過去の人物なんかじゃない。

シスターに案内され扉を潜りそのまま席につく。案内をしてくれたシスターはそのまま退室して行く。

 

「殿下」

「やめてくださいよ、カリムさん。冗談でもタチが悪い、さすがに肩が凝っちまう」

「すみません、つい」

 

上品に笑ってみせる対面に座る女性は聖王教会に所属している騎士、カリム・グラシア。

俺の存在は秘匿されている。一部の人間にしか俺が聖王の生まれ変わりだというのは知られていない。母さんやなのはさんは勿論、目の前のカリムさんも俺の正体を知る1人。

という事になっているのだが何故かヴィヴィオ関係のシスター達には俺のことはバレているらしい。

ヴィヴィオの方はJS事件もありその知名度は高いが俺の方はJS事件が始まる随分前に密かに保護されたので知らない人ばかりである筈なのだが。

 

 

「それで、話って言うのは?」

「過激派が何やら不穏な動きを見せています」

「そいつは確かに穏やかじゃないな」

 

なるほど。俺を呼び出したのはそれか。

 

聖王。

もうそれは歴上の人物で過去の人間でしかない。けれどそれを信仰し崇める人にとって、その言葉の重みは変わる。

ベルカは滅んだ。強過ぎる力は争いしか生まず、戦乱の果てに滅んで行った。それは当然の帰路であり逃れられない運命だったのだろう。

だと言うのに聖王擬きが復活したからって馬鹿みたいに舞い上がって建国を狙ったり、利用しようとする奴がいたり世の中にはそんな馬鹿達が後を絶えない。

それの一つに過激派だ。

 

「まだ何があるかと決まったわけではありませんが一応話しておくべきだと思いまして」

「狙ってくるなら俺かヴィヴィオだからな。けど間違いなく狙われるのはヴィヴィオの方だろう」

「そうですね。だから暫くは出来るだけ一緒に行動して貰っても大丈夫でしょうか?」

「まぁ大丈夫だろ。今も結構一緒にいる頻度は高いしな」

 

と言ったところでしまったと思った。

そう言えば最近喧嘩をしたばかりだった。

 

ヴィヴィオは聖王の血を引いているが全てを受け継いでいるわけでない。オリヴィエのような戦闘力もなければ、その記憶もない。

だが俺は違う。

もう1人で頑張る必要はないと、フェイト母さんは言ってくれた。俺は聖王じゃなくてただの子供でまだ守られる対象なんだと母さんは教えてくれた。

けど過激派は俺自身が撒いた種でもある。

 

「それはそうと」

 

考え込んでいると空気の流れが変わったのを感じる。嫌な予感がする。

 

「ヴィヴィオさんとは、何か進展しましたか?」

 

ほら的中した。

王様は皆スキル直感持ちなのである。こういう時の予感ほどよく当たる。

 

「進展も何も、俺にとってヴィヴィオは妹みたいなもんだ」

「けど別に今は妹でも親族でもなくて唯の仲のいいお隣さんでしょう?」

 

にこり、と笑うカリムさん。その笑みが余りにも胡散臭くて顔が引き攣るのを感じる。

いい歳して恋バナとか、とは言わない。

リネスは学ぶ男だ。前に1度やらかした事があるだけ、とも言う。

確かに俺とヴィヴィオは戸籍上、全くの他人で血の繋がりはない。けど俺とヴィヴィオはクローニング技術で生み出された存在で元になった存在はお互いに血の繋がった兄妹だっ

た。

 

だから俺とヴィヴィオは書類上他人だが実際は血は繋がっている。

 

「本気ですか?」

「本気じゃなければこんな事言いませんよ」

 

だから仮に俺がヴィヴィオと結婚をしても世間体的には何ら問題はない。だが知っている人からすれば倫理的に問題があるとしか言い様がないのも事実。

こんな話をするのは1度目ではない。俺の前世での話はある種有名な話でそんな事を聞いているのだがたまったもんじゃない。

 

それに俺は自由恋愛は出来ない。

別に俺に人権がないだとかそういう訳では無い。頭の硬いお偉いさん方が聖王の血がどうたら〜、と煩く家柄的にお眼鏡にかなう相手でないと結婚は出来ない。そんなもの、と一蹴りしてもいいのだが聖王というのは影響力が強くそう簡単な話ではないらしい。

俺の知った所ではないが。

 

「俺に見合い話を持ってきたのはカリムさんでしょ?」

「えぇ。どうやら相手側とも上手くいっているようで」

 

俺の見合い話はつつがなく進んでいて問題がなければ籍を入れれる年になれば直ぐに入籍する事になるだろう。

幸い俺も相手もそういうことに興味が無いので形だけの物になるだろうがそれで世間体と頭の固い奴が納得するのなら、という事で同意している。

 

だから分からない。ここまで都合良く話が進んでいるというのに此処でそんな話を切り出してくるのかが。

そもそも知る人からすれば倫理的に問題があるヴィヴィオとの縁談は話に上がって即刻破棄された筈だ。

 

「ええ確かに問題はあります。けどそれを知っているのは我々の周りと少し融通の利かない人達のみ」

「…時間の無駄だろ。それにそんな事したって何の得にもならない」

「そんな事はありませんよ」

 

いつになく真剣なカリムが真っ直ぐ俺を見詰める。

 

「私達はいつだって殿下の味方なんです」

「そういうのはいい」

「それにあれだけ熱い、あつ〜い兄妹愛の話が本当だったなんて知ってしまったら応援したいと思うのは当たり前じゃないですか」

「おい」

 

本音漏れてるぞ。

うふふふ、と笑うカリムさんはこころなしか頬を赤くしている。誰だよ現代までそんな話を受け継いで来たやつ。

あと扉の向こうで聞き耳立ててるシスター多過ぎるくないか?どんだけみんな恋バナ好きなんだよ。

女の子って歳でもないくせに、とは絶対に言わないけど。

 

「でもやっぱり好きなんですよね?」

「……そんなの俺だって分かんねぇよ。俺が見ているのはヴィヴィオなのに偶にオリヴィエの姿がダブって見えて、別人なのに俺は何処かヴィヴィオを通してオリヴィエを見ている」

 

頭では理解している。

なのにどうしても俺にはヴィヴィオからオリヴィエの姿を幻視してしまう。血が受け継がれていてもヴィヴィオはヴィヴィオだと言うのに。

もしかしたら俺のコレはヴィヴィオではなくてオリヴィエへのモノなのかも知れない。

 

そんな俺の葛藤を知ってか知らずかカリムさんはにっこりといい笑顔で言った。

 

 

「面倒臭いんでさっさとくっ付いて貰えますか?」

「俺結構悩んでるのにそれは酷くないか?」

 

そう言うと更に深く溜め息を付かれた。

いやなんでだよ。

 

「ぶっちゃけ葛藤とかオリヴィエとかそんなのどうでもいいんでさっさと結婚して貰えますか?」

「ねぇ、帰っていい?」

 

帰ろうとする俺に対して「冗談じゃないですかー」と服を引っ張るカリムさん。それ完全に私情とか混じってるだろ。

というか聖王教会でそんな事いって大丈夫なのか。

 

「大丈夫ですよ。ここにいるのは殿下、ヴィヴィオちゃんの味方だけですし」

 

ニコニコ微笑むカリムさんが言う味方というニュアンスに含みを感じるのは気の所為だろうか。

気の所為じゃないんだろうなぁと苦笑いしつつ、ヴィヴィオが皆に愛されているんだなと安心する。決してヴィヴィオは望まれて、恵まれて生まれてきたとは言えない。

けど今は母さんが居て友達がいて夢がある。

きっとそれは素晴らしいことだ。

 

「だから」

 

もうカリムさんの顔から胡散臭い雰囲気は消えていた。

 

「もう自分の幸せを考えてもいいんじゃないんですか?」

「幸せも何も……俺は母さんに拾われてヴィヴィオと出会って、これ以上の幸せなんてないですよ」

 

本当にそう思っている。

愚かで悲しみに溢れていると誰かに言われようとも俺はきっと前世を否定しない。記憶の中の俺は間違いなくオリヴィエがいるだけで幸せで満足だった。結局俺はそれだけで良かったんだ。

自分がどれだけ1人でも、何かを犠牲にしても。例えそれで誰かが悲しむ事になったとしても。俺は生き方を変えられない。

 

言いたいことは言ったのだろう。それだけ言うとカリムさんは再び口を開いた。

 

「とりあえず過激派の事は本当に申し訳ないですが宜しくお願いします」

「それは任せて下さい」

 

必ず過激派は近い内に俺とヴィヴィオに対して仕掛けてくる。過激派と言っても内部で木の枝のように派閥があって厄介さが異なるのだが試験管送りにして研究したいマッドサイエンティストとかなら大した事がない。

どうせはぐれ次元犯罪者とか雇われてもたかが知れてるしその程度管理局でも対応出来る。

問題があるのは武闘派だ。

 

カリムさんと俺が危険視しているのは彼らだ。

1度武闘派に管理局の陸士、空戦部隊共に無傷で壊滅させられている。そこにエースやストライカーと呼ばれる人達がいながらである。

正直管理局の魔導師では彼らに太刀打ち出来ないだろう。

もちろんなのはさんやフェイト母さんでも。

 

普通そんな事は有り得ない。

では何故管理局は彼らに手も足も出ないのか。

 

魔導師は魔法を手段として武器として戦う。

多少の違いがあれど魔導師は魔法を主軸とした戦い方する事に変わりはない。アームドデバイスで戦う騎士であったとしても必ず魔法は使っているし戦略に組み込んでいる。

魔導師とは己の得意分野をどれだけ活かし自分のフィールドで戦うかが求められる。

 

故に魔法が通じない相手には滅法弱い。

 

武闘派達は武を極めた者の集まり。彼らにとって魔法とは己の技術を際立たせる補助でしかない。

 

ただの踏み込みがブリッツアクション並の者がブリッツアクションを使ったら?

武器の攻撃が音速を越え視認出来ない程の使い手が身体強化を使ったら?

 

下地が違うのだ。

己の身体1つでそれだけの事をやってのけるのが武闘派。殆どの者が魔法を使う事すらさせて貰えずに落ちていった。

元より己の武を磨く事にしか興味がなかったが故に管理局も特に彼らを気に留める事はなかった。

しかし最強と言われた聖王の復活。

ベルカの騎士でもある彼らが動き出すのは必然で1度目は俺が目覚めて間もない頃、何処かで俺の目覚めを嗅ぎつけて軽い管理局との戦争になったのだがその時は俺が叩き潰した。

 

彼らは俺と戦う為なら手段を選ばないだろう。そういう連中だ、俺に本気を出させる為にヴィヴィオに目を付ける事は十分に考えられる。そうなった時は……

 

「念の為デバイスは此方の方で用意しておきます」

「助かります」

 

俺は弱い。

いやきっと戦いであれば負けない。

想う度に苦しんで。理解もされずに足掻いて。それでも俺は誰にも縋る事が出来ない。

ただこの生き地獄のような暗闇で俺はひたすらもがき続ける。

いつか届くと信じて。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

気が付けばもう夕暮れ。

俺は沢山のシスターに生暖かい視線を背中に受けながら協会を後にした。色々話すのは勝手だが俺にそういう目線を向けるのはやめて欲しい。こそばゆいから。

 

仕事終わりや学校終わりの者が多いのか交通量が多い道路を横目に歩いていると見覚えのある人物が見えた。

俺は見なかった事にした。

 

「ちょっと見えていたでしょう」

 

俺は何も聞こえない。

 

「無視ですか、私を無視するなんて……ってほんとに行かないで下さいっ!?ちょっと、ほんとごめんなさい謝りますからお願いだから待ってっ!?」

「……分かったから抱き着くなうっとおしい」

「おや?やっぱり泣き落としは効くようですねこれからこの路線で……って嘘ですから行かないでっ!?」

 

さっきから表情がコロコロ変わって忙しない奴である。そんなうっとおしい奴、アインハルトは佇まいを直し此方に向き直した。

 

「……逃げないで下さいね?」

「逃げねぇから要件を話せ」

 

いつもと違って弱気なアインハルトの上目遣いに不覚にも目を奪われる。腐ってもみてくれはとびきり可愛いアインハルト。くっそ、協会であんな話をしたばかりで俺も無駄に意識してしまう。離れているのに香ってくるこの甘い香り、パッチリとした目に格闘技をしているとは思わせない女の子らしいすらっとした足。スカートから覗かせている生足が今は凄く目に毒だ。

 

そんな俺の逃げるように吐いた言葉を聞いて安心したのか佇まいを直して俺に向き合うアインハルト。

 

「ヴィヴィオさんと仲良くなりました」

「……んんっ?」

「ヴィヴィオさんとダチになりました」

「いや言い方じゃないから」

 

あれ、お前らすげぇ喧嘩腰じゃなかったっけ?

俺の顔が間抜けだったのだろう。アインハルトは察して言葉を続ける。

 

「いやそうだったんですけどね、心へし折ってやるつもりで一方的にボコボコにしたんですけど友達になりました」

「いやなんでだよ」

「いやこう……あしたのジョー的な?」

 

いや分かんねぇよ。

そんな超次元サッカー的なノリで友達になれるものなのか。

 

「それで合宿に参加する事になりました」

「いやだからなんで……はぁもういいや」

 

首を傾げるアインハルト。俺的にはもう少しそのスパーをして仲良くなったくだりを聞きたいのだが。

 

「もちろんリネスも」

「俺は行かねぇよ」

「ダメですよ。その日はきちんと行くようにとカリムさんも言ってましたよ」

「はぁ?」

 

なんでカリムさんが、と言いかけたところで全て納得がいった。さてはあの人全部こうなる事が分かっていたな?

カリムさんがそういうという事は聖王教会の決定でもある。俺はそれに今のところ拒否する事は出来ない。いやしてもいいのだが過激派の話を聞いた後だ、俺の拒否権は実質ないも同然。

 

お節介というか余計なお世話というか。

 

突然腕が取られた。

横を見るとアインハルトが驚いた顔をしてコッチを見ていた。

 

「あれ、いつも投げ飛ばされるのに……」

「……俺も偶には考え事だってするさ」

「ふふっ、そうですか。じゃあ今日は私の初勝利記念と言うことでこの腕は貰っていきますね」

「いや取れないしあげないから」

 

振りほどくのは簡単だ。けど、何処か嬉しそうなアインハルトにどうしてかそんな気には慣れず結局そのまま帰宅する事にした。

 

 

 

 

 

 




次回、視点が変わります
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