七彩物語 作:セブン
アリサ バニングス
俺にとって戦いは日常だった。
殺して殺して殺して殺して殺して。
その時も特に何も思わない。弱い奴が死んで強い奴が生き残る、当たり前のことだ。ただ俺は降り掛かる火の粉を払い除けただけ。
生まれながらにして持って生まれた才能と可能性。それが完全に俺の運命を決定づけた。
類まれない武の才能。1度見たものは完全に模写してみせ自分のものにして見せた。
圧倒的な魔力量と適正。これのお陰で俺は戦場に立っても長い間戦い続ける事が出来た。
そして聖王の鎧と
俺には歴代の聖王が誰も抜く事が適わなかった剣さえ抜いてみせた。
多分それが周りを増長させる事になり闘争へと駆り立てた。誰もが浮かれそして確信していた必ず勝てると。
何も無い俺に妹が出来てからただ妹の為に生きていた。今思えばある意味初めての家族だった妹が可愛くて可愛くて仕方がなかったんだと思う。
ただ妹がいるだけで満足で他は必要ない。
だがある日妹は泣いていた。いつも笑顔で出迎えてくれる妹が。
いつもの様に戦場で数多の命を刈り取り帰ってくると妹は泣いていたんだ。
俺はその日の事を忘れない。
その日から俺は人を殺める事を辞めた。
「デバイスは……」
「持ってきてる。相棒じゃないから不服だとか言うんじゃねぇぞ」
「分かってるさ。それが傲慢なんかじゃないって事も。だからこそ油断もしない」
これは本来の俺のデバイスではない。協会に借りているデバイスだ。このデバイスには特殊な魔法が内蔵されていて、まぁ違法な魔法なのだが特別に貸し出して貰っている。大っぴらに戦えない俺にはうってつけの魔法。
相棒であるストラーダをセットアップし構えるエリオ。なるほど、前とは雰囲気が違う。余程負けっぱなしは嫌だったんだろうなということが伝わってくる。
しかしこっちは妹がいる手前負けられない、いや
デバイスを起動する。蒼い魔力光が俺を包み込み形だけのバリアジャケットを展開し細く伸び両端に刃が着いている俺の得物、ツインセイバーを1度掲げて回し構える。
あぁ、手に馴染む。
嬉しくない感触だ。こんな力欲しくなかった、けどこれがないと守りたいものも守れない。
戦場でも俺は常に孤独だった。簡単な話だ。誰も俺には勝てず俺一人で戦争なんて終わってしまうから。それ自体に思う事なんて何も無い。虚しさも悲しさも何の感情すら湧いてこない。きっと俺は人として何処か大事なものが欠けてしまっているのだろう。
それが普通じゃない事は妹が泣いていた事で嫌という程理解した。
それでも俺にはそれしかなかった。それしか知らないからそうするしかなかった。誰も教えてはくれなかった。いや違う。
きっとクラウスやエレミア達なんかはそうじゃなかったんだと思う。けど遅過ぎた。全部全部何もかも遅かったんだ。
だから俺はコレを抜いて立ちはだかるモノ全てを斬り伏せる。これからずっと。
「行くぞ!」
「来いよ。俺がお前の壁になってやる」
試合が始まると同時にエリオさんはフォトンランサーを幾つも飛ばしながら真っ直ぐお兄ちゃんに突っ込んだ。
速い、流石だと思った。一筋の雷光となりバチバチと電気を放つ槍の一閃。一目でそれが凄まじい威力がある技だと分かった。
だからこそ信じられない。
お兄ちゃんは四方八方から迫ってくるフォトンランサーに見向きもさず曲芸でもするかのようにセイバーを回転させて全て斬り裂いてみせた。必然的に生まれる僅かな隙、エリオさんは分かっていたんだろう。必ずお兄ちゃんなら真正面から打ち破りにくると。圧倒的傲慢、本来ならそれは決して褒められた事ではない。
「うそっ!?」
その傲慢は決して相手を侮っていた訳では無い。エリオの放った紫電一閃は当たる筈だった、雷の名に恥じぬ一撃は届く筈だった。
踏み出しは見えていたがそれだけ、私には視認する事すら間もならない一撃はセイバーを突き出したお兄ちゃんと悔しそうな顔をしてお兄ちゃんの少し後ろに立つエリオさんを見れば防がれた事は明らかだった。
「あれはただ攻撃を逸らしただけですよ。どれだけ威力がある攻撃でも当たらなければ意味がないですから」
アインハルトさんはそういうがあの視認する事すら間もならない一撃をワンモーションのみで防げるものなのだろうか。
「リネスには出来るんです。1度見た事がある攻撃は通じぬどころか真似すら出来てしまう」
エリオさんが放ったバスターが真っ二つに割れる。ただ1度振り抜かれた一撃だけで。
「リネスには天才なんて言葉生温い。勘もずば抜けていて正しく天下無双」
嵐のようにぶつかり合う両者の得物。
どちらが有利かなんて私の目からしても明らかだった。それにお兄ちゃんは試合が始まってからまだ1歩も動いていない。
次元が違う。
エリオさんには申し訳けれどそうとしか言えなかった。
「ヴィヴィオさんは気が付いてますか?立て続けに魔法を使い続けるエリオさんに対してリネスは1度たりとも魔法を使っていない」
「けど身体強化魔法ぐらいは使ってるんじゃ……」
「あれ、使ってないんですよ」
そんな馬鹿な、と思った。
これで全力ではないというのだから信じられない。
「これが武の極地。個にして最強を体現した1つの可能性。まぁ弱点としてアルカンシェルみたいに圧倒的魔力で四方から逃げ道潰して押し潰せば流石のリネスも倒せると思いますよ」
「それ弱点って言えるんですか?」
「さぁ?けどリネスは初めて負けた時は魔力が枯渇してる時に回避不能の集束魔法食らったって言ってましたよ」
それ弱点ではないです。普通に誰だってやられます。あとあのお兄ちゃんを倒した人は多分人間じゃない。
蓋を開けてみれば決着は何とも呆気なかった。魔力が枯渇して体力が尽きたエリオさんが降参して試合は終わってしまった。
涼しげな顔したお兄ちゃんにエリオさんはやっぱり悔しそうにしているが何処か吹っ切れたようにも見える。
「さすがだね、手も足も出なかったよ」
「俺にゃこれしかないからな」
「エリオくんっ!大丈夫?」
振り返ると心配そうにしたキャロがあたふたしながら駆け寄ってきた。
「あぁ、攻撃はされてないしちょっと疲れただけだよ」
「良かったぁ……負けちゃったけどエリオくんとてもかっこ良かったよ!」
ギュッとエリオさんの腕に抱き着いて笑顔を浮かべるキャロさん。そんな2人に呆れたような顔でお兄ちゃんは言った。
「うへぇ、試合に勝ってなんか色々と負けた気がするんだけど」
「あははは……」
楽しそうに笑い合う3人を何処か私は遠くに感じていた。お兄ちゃんの言う通りだった。私は覚悟したつもりだった。頑張っているつもりになってそれで満足して。
努力はしていたけど全然足りなかった、何より意識が違う。ただ楽しくやるだけじゃとてもじゃないけれど背中だって見えやしない。
「そんなに思い詰める必要はありません。リネスのあれは正直言ってバグですから。並び立つのも追い掛けるのも修羅の道ですので馬鹿でもやりませんよ」
「違うんです」
力が入った肩に手を置いて笑顔を作り話しかけて来てくれるアインハルトさんを見る。
違う、そうじゃない。
お兄ちゃんは凄かった。それこそ次元世界最強だなんて可愛く見えるぐらいに。
遠くて何も知らなくていつも近くにいて長い付き合いだというのにまるで別人のようで。
「お兄ちゃん、寂しそうでした」
アインハルトさんの笑顔が崩れる。
「凄い強くてカッコ良くて流石だなって思いました。流石は私のお兄ちゃんだって。けどお兄ちゃんはずっと寂しそうでした」
確信もなんにもないけれど何となく私はそう思った。
お兄ちゃんはずっと1人だったんだ。
親友がいても家族がいても。
兄ちゃんは何だって出来てしまう。誰かと一緒にやるよりも1人でやる方がずっといい結果を出す。きっとそれは凄いことだけど残酷な事だ。
ギュッと拳を握る。
「分かりました」
「アインハルトさん?」
私と同じ左右で色が違う瞳が私を真っ直ぐ射抜く。力強くて何かが燃えている、そんな瞳。
何かを決心したかのようなアインハルトさんに私は息を呑む。
「当初は貴方抜きで、と思っていましたがやはり私達には貴方が必要。いえリネスには貴方が必要なのでしょう」
アインハルトは語ってくれた。
そうして私は差し出された手を取った。
これでENDまでの道筋は出来上がりました。