七彩物語 作:セブン
オリヴィエが魔道事故にあった。
ある日俺が戦争から帰ってきて最初に聞かされたのはそんな耳を疑う言葉だった。
怪我の状態は酷く助かるかどうかも分からない。眩暈がした。
一体何故?どうして?
国内は安全ではなかったのか?どうしてオリヴィエが?
様々な疑問が浮かんでは消えてを繰り返す。それでも訳が分からなかった。少し頭が冷えたところで疑問は全て怒りへと変わった。
何故オリヴィエがそんな目に合わなければいけないのか。何かをした訳でもなく純粋無垢な可愛らしい少女が一体何をしたというのか。
しかしここで俺が怒りに身を任せた所でオリヴィエの容態が良くなるわけでもない。それにそんな事をしたところでオリヴィエが喜ぶはずが無い。ただ俺は痛々しいオリヴィエの姿を見ているしか出来なかった。
結局オリヴィエは助かった。
両腕と女性としての生殖機能を犠牲にして。
これは警告だ。最近俺は大臣の命令をぞんざいに扱っていた。やれあそこに行けやらどこどこに行ってこいだとか、正直ウザかったのもあるのだが何より妹との時間が減るのはどうしても容認出来なかった。それがどうにも気に入らなかったのだろう。奴らは俺を自分達の都合のいい兵器だと思っている。
もしオリヴィエが生まれなければ完全に命令を聞くだけの忠実な兵器になっていただろう。だがオリヴィエは、俺の妹は生まれてきた。そこで近く俺は俺という自我を手に入れたんだと思う。
そんな俺に奴らはこう言っているのだ。
「貴様の妹なんて何時でも殺せるのだぞ」と。
もはや国内に安全な場所なんてないと言ってよかった。所詮俺はお飾りの聖王、実質国を動かしているのは大臣達で俺に実際の発言力なんてない。何も知らない国民ならいざ知れず、他に俺の言葉に耳を貸す者なんていない。人を殺さないと誓った筈なのに俺はそれを直ぐに破った。何と情けない事か。
それでもオリヴィエの周り、世話係や女中といった人達だけは俺達の味方でいてくれたのは今思えばとても有難かった。
そんな中でも決してオリヴィエの笑顔が曇る事がなかったのが唯一の救いか。本当に強い子だ。そんな妹の為に何も出来ない自分を強く恥じた。幾ら戦場で常勝無敗、天下無双を誇っていても愛する妹の為に何も出来ないのが悔しくて悔しくて堪らない。
故に俺はオリヴィエの為に義手の制作を依頼した。依頼したのは今の時代で最も優れた技術を持っていると言われているエレミアの一族。
そしてやってきたのがヴェルフリッドだった。
今思えばあの出会いがあったからこそオリヴィエはあそこまで強く、そして何より聖王家として誇り高く最後まで生きる事が出来たのだと思う。
それは俺にはないもので羨ましいとは思わないが余程俺なんかよりも聖王に向いていたのは間違いない。
側付きとして、何より友としてオリヴィエを支えてくれたヴェルフリッド。
「ヴェルフリッド」
「なんだい?」
「オリヴィエの為に……死んでくれ」
困ったような顔をして、それでも力強く頷いてくれた。あぁ本当にいい友を持ったんだなオリヴィエ。
でもそんなヴェルフリッドを殺したのは俺だ。
森の中で女の子を拾った。
いや大丈夫だ。文面的に色々と問題がありそうだが大丈夫だ。安心して欲しい、俺も何を言ってるのかよく分かっていない。
「ほんまおおきになぁ、助かったわ」
「まぁ……うん。とりあえず良かった」
このほんわかしているフードを被った女の子。何でもミッドチルダで散歩に出て気が付いたら此処にいたらしい。まずどうやったらミッドチルダからこの無人世界に、とか色々ツッコミ所はあるのだが今は置いておく。
何でも空腹でぶっ倒れていた所に丁度俺がやってきて、今俺が手持ちに持っていたお弁当を女の子にあげて今に至る。
ぶっちゃけるとコイツは間違いない。
エレミアだ。
記憶までは継承されていないみたいだが俺には分かる。俺の感性が目の前の女の子はあのヴェルフリッドと同じエレミアなのだと告げている。証拠もなければ確証もない、しかし何故だか俺はエレミアなのだと確信している。
だからこそ俺は目の前の女の子を見る度に胸が締め付けられるような気持ちになる。これがなんなのか、そんなものは分かりきっていて。決して恋だとかそういう甘酸っぱいものなんかじゃなくて。
きっとこれは罪悪感だ。
じっと女の子を見詰める俺に気が付いたのか此方を見上げて少し恥ずかしそうに視線を外される。
それがただ羞恥からくる仕草だと分かっているのに責められているような気がしてまた軋む。まだ思いっきり罵倒され罰を与えられれば幾分かマシになるのかもしれない。
けれど目の前の女の子はエレミアであってもヴェルフリッドではない。罪を覚えているのは俺だけで勝手に女の子を通じてヴェルフリッドを見て自爆しているのは自分だ。
彼女は俺を責めるのだろうか。
いや分かっている。ただ俺は楽になりたいだけだ。自分の罪を忘れた事だなんて1度もない。けれどもそれを俺は身勝手にも許して欲しいだなんて思っている。許されるはずなんてないのに。
それこそ罵られ批難されても何も言えないぐらいのことを自分はやったのだから。
あぁ。
俺はきっと……
「どないしたん?」
「いや、なんでもない。俺はリネス・ハラオウンだ」
「私はジークリンデ・エレミアや。よろしゅうな」
俺はきっと友の事を忘れられないのだろう。
「あ、ハルにゃんやん!」
「あれ?何で此処にエレミアが?」
「なんだお前ら知り合いだったのか」
なんで、とか言いつつハイタッチをする2人に苦笑いをする。俺が森に入ってここに戻ってくる間に大人達のトレーニング、子供達の水場遊びという名のトレーニングは終わっていたらしい。
とりあえずコイツ拾いました。と報告だけするとじゃあ一緒に合宿やりましょうか。という予定調和になった。まぁなのはさんならそういうと思ってた。
俺も肉を焼こうかなぁと思った時にすっと横にいたアインハルトが串に刺さった肉を差し出してきた。
「おぉ、さんきゅー」
「いえ。そろそろ戻ってくる頃かと思いまして用意しておきました」
「お前普通にしてたら優秀なんにな。んで」
「んー?」
にこりと笑顔を向けてそう言うアインハルト。まるで何処かのお嬢様のような振る舞いにそういえば忘れがちだがアインハルトもれっきとしたお嬢様なのだと思い出した。そんなアインハルトのギャップから逃げるように視線を動かすとリスがいた。
いや正確には肉を頬に溜め込んだエレミアだが。どんだけ食い意地張ってんだよ。
「も、もしかしてエレミアってあのジークリンデ・エレミア選手じゃないですか!?」
「ん?エレミアって有名人なのか?」
「そうなん?私はよう分からんけど」
「有名人も何も一昨年も昨年も世界戦の優勝者、チャンピオンですよ!次元世界のチャンピオンですよ!超有名人です!」
捲し立てるようにリオとコロナがそう言った。サイン下さい!と押し掛ける2人に流石のエレミアも困った顔をしている。サインを貰って満足したのかホクホク顔で席に戻る2人。ちゃっかり此処にいないヴィヴィオの分も確保してるあたりヴィヴィオは愛されているのだろう。対照的にエレミアは何だか照れくさそうだ。
「へー。お前、凄いんだな」
「そんな事ないんよ。それこそリネス、君と比べたらね」
「買い被りだ」
「エレミアが本気を出しても勝てなかったのはリネス、正確にはその御先祖様やねんけどな。君だけなんよ」
「お前……」
コイツ、俺の前世を知っているのか?
さっきまでの抜け切った雰囲気とは全く違う。今のエレミアは正しく戦う者の顔をしている。
「何となく分かる。私じゃリネスには勝てへんわ。けどその内絶対に勝たせて貰うで」
遠くの方で何かが揺れた気がした。