七彩物語 作:セブン
10
俺がご先祖さまの血に目覚めたのはずっと前で、きっかけは妹が虐められていたのに割って入った時だ。
ただ無我夢中で割って入った俺は心底ウザそうに俺を見下しながら拳を振り上げるイジメっ子を何処か他人事の様に見ていた。
だっておかしいかも知れないがそれが何の脅威にも思えなかったから。
拳の軌道が未来予知をしているかのように分かった。
次々と俺に降り掛かってくる拳や足を俺は自分でも驚くくらいに、冷静に全てを避けていた。
そんな異常に妹を虐めていた奴らは逃げ腰になるのは当然で。
俺が近付けば顔を歪めるほどビビっていて 、これじゃどっちが虐めているのかも分かったもんじゃない。
とん、と軽く押してやれば尻もちを付いて倒れるイジメっ子達は泣き喚きたいながら逃げて行く。
その時の後ろで俺を怯えたような目で見る妹の姿は今でも忘れられない。
その日から俺はベルカの血に取り憑かれたんだ。
強くなれ、強くなれ。
戦え、戦え。
夢を見た。
何処かの戦場で人を殺す夢だ。
毎日が訓練や殺し合い、そんな殺伐とした夢。
でも不思議と怖いとは思わなかった。
寧ろそれが当たり前で自然だと思うほどであった。
自分でも自分がおかしくなっていっているという自覚はあった。
でもどうしようもなかった。
人を簡単に殺す技術を思い出した、身体の動かし方や構造を理解して敵がどう動くのかが分かるようになった。
沸き上がる何かを必死に押さえ付けて、人とはなるべく戦わず自己鍛錬だけでどうにかクールダウンする日々。
それで済んでいたのも自分が勝てそうにない人を見てこなかったからだと思う。
身体が疼くのでそういう関連の映像は見ないようにしていたが、それでも目に入る時は入ってくる。
局員を見た。
弱いと思った。
映像越しにエースやストライカーを見た。
苦戦はするだろうがそれでも負けるとは思えなかった。
体格の問題さえ解決すれば負けるとは思えなかった。
だからこそ俺は呑まれる一歩手前でずっと耐え忍んでいた。
そして俺が決定的に変わったのはあの時から。
st.ヒルデ魔法学院初等科に入って暫くした頃。
俺は運命に出会った。
まるで熱に魘されているかのように激しく脈打つ心臓。
人目でわかった、肌で感じた。
俺よりも強いヤツがいる。
理屈なんて分からなくて、ただ何となく漠然とコイツは俺よりも強いってのが分かった。
こんな事は初めてで、気が付けば俺は一瞬で距離を詰めていた。
点と点を結んだかのように、縮地と呼ばれる技術による高速移動。
完全なバックアタック、更にそこらの加速魔法なんて目でない程の加速。
捩じ込むように練り上げた拳を突き出す。
殺った、そう思った。
手応えもあったし完全な不意打ちでこれに対処出来るのはそれこそ過去最強の聖王ぐらいではないだろうか。
運動エネルギーを凝縮し一点に纏められたこの拳は下手をすれば校舎を跡形も消し去る程の威力がある。
そしてその拳が突き刺さろうとした瞬間、
ガクン、と身体が沈んだ。
纏め上げられていたエネルギーは霧散し、薄れゆく意識の中俺は何が起こったのかも分からず顔を上げ、拳を叩き込もうとしたソイツを見上げる。
印象的だったのは「やっべ、やっちまった」とでも言いたげな顔をしていたソイツ顔。
でも俺はしっかりと見ていた。
うっかり、何かをやらかしたのは本当だろう。
でも俺は見ていた。
ソイツから僅かに漏れていた魔力がカイゼル・ファルべ、虹色だって言うことを。
――――――
「お前がやったのか.......」
「そうさ。と言っても魔力ダメージで皆寝てるだけだよ。本当ならちゃんと戦いたかったんだけど本命の前にベストのコンディションを維持したいものだろう?だから話し合いの結果こうなったわけだ」
「てめぇがこんなクソ野郎だとは思わなかったぞ」
「そう言わないで欲しいなぁ。局員以外はちょーっと別の場所に移動してもらったと言うのにさ」
話し合い?
どうせヴィヴィオを盾にして命を助けて欲しくばじっとしてろとか言って吹き飛ばしたんだろう。そうでなければなのはさんやフェイト母さん達がそう簡単に負けるはずがない。
移動してもらった?
人質を2つに分けて念入りに保険を掛けただけだろう。ニタニタといつもと変わらない笑みを浮かべるクソ野郎は心底嬉しそうに笑う。
俺はいつも遅い。
そうだ、前も間に合わなかった。そして今も間に合ったとは言い難い状況。母さん達は倒れていてヴィヴィオを見れば目尻に涙を溜めて目を赤くしている。
あの滅多に泣かないヴィヴィオが。
頭に血が上る。殺せ殺せと本能が叫んでいる。人を殺すのは簡単だ。今の時代デバイスにセーフティが掛かっており魔法は全て非殺傷となる。ただでさえ殆どの人が魔法を使える世界なのだから当たり前だと言える。
そうでなければ子供の喧嘩でさえ殺し合いになるだろうし誰しもが懐に凶器を隠し持った状態になり疑心暗鬼になる。
だから非殺傷設定というのは今の魔法文明の命綱だ。
「アインハルトはまだまだだがエレミアは良かったよ。まぁ真髄を発動されちゃ心底面倒だから一気に意識を刈り取ったんだけどね」
「お前.......」
「驚いたか?俺、結構強いんだよ」
実力を隠していたのは知っていた。だが此処までだなんて思わなかった。
やはり最初に感じたあの殺気は気の所為ではなかったということか。
「.......何が目的だ」
「それを言う前に1つ話を聞いて欲しいんだ親友」
「この場に及んで仲良く談笑か?冗談は顔だけにしろよ。それ以上ふざけると俺はもう我慢が出来ないかも知れない」
傍らにいるヴィヴィオは未だに目尻に涙を溜めていて、遠目に見てわかるぐらいにボロボロだ。
デバイスを持つ手に力が入る。
不安そうな顔が、自分のせいだと自分を責めているような顔が。
そんな悲しい顔をさせているだろう俺に、そしてクソ野郎がただただ許せない。
「至って真剣さ。俺はお前に出会って変わっちまった、抑えてたもん全部溢れちまって今じゃ同じもん抱えた奴らの中でも1番になった」
遠くを見るように語る。
「戦って戦って。それでも満たされない。だからさ、いい加減に我慢出来なくなっちまった」
クソ野郎は俺を見る。
「殺ろうぜ親友。心ゆくまでさぁ!」
目の前にクソ野郎が一瞬で現れ、拳を振りかぶっていた。
それをデバイスでガードしようとして、思いとどまり身体を大きく逸らし回避する。
空気を切り裂く音すらも置き去りにして通過した拳は衝撃波を生み出し、俺の背後にある森を大きく抉る。
「これを躱すかっ!やはりお前は最高だ!」
「くっ!?」
命を軽く吹き飛ばすであろう拳の暴風が襲い掛かる。
反撃しようにもこのデバイスでは奴の攻撃は受けきれない、きっと一撃でお陀仏になるだろう。
使えるデバイスはある。
でも、
今にも泣き崩れて消えてしまいそうな顔で俺を見るヴィヴィオ。
「いつまで行儀のいい戦い方してんだよっ!見せてみろよ、お前の本当の力ってやつをさぁ!」
駄目だ、出来ない。
当たれば人の命なんて簡単に刈り取るであろう攻撃を辛うじて躱していく。
この今使っているデバイスは俺の魔力性質を隠す意味合いも持っている。
今は蒼色の魔力光だと誤魔化せているものが剥がされれば.......
(駄目だ、ヴィヴィオにだけは知られちまったら.......)
ずっと隠し通さなければならない。
じゃないと賢いヴィヴィオは気付いてしまう。
そうなってしまえばきっともう今までのような関係じゃいられなくなってしまうから。
でも現状魔力を使わず奴を倒す方法なんてものはないのも事実。
(俺は.......俺は.......)
「.......いいぜぇ、お前がその気なら俺にも考えがある!」
突如膨れ上がった闘気に俺は吹き飛ばされる。
そしておもむろに奴は後ろを向いて
「っ!?やめろぉぉぉ!」
奴が腕を振り抜いた。
それだけで空間が振動し空気がうねりを上げる。
地面を抉り突き進んでいくのはソレは真っ直ぐヴィヴィオに向かっていて。
無我夢中だった。
何よりも大切で、たった一人の家族で。
俺にとっては彼女は全てで、何よりも愛していて。
溢れんばかりの力が沸いてくる。
久しい感覚だった。
迸るように湧き上がってくる魔力が俺を通じて輝いている。
まるで流星のように、七色に光り輝くそれは王の証。
如何なる攻撃をも通さない王者の鎧。
そんな有り得ない光景にヴィヴィオは唖然となった。
「そうだよ、それでこそだよ!聖王なんだからさぁ、それを締まってちゃ話になんねぇよなぁ!」
カイゼル・ファルべ。
それは七色に輝く虹色の魔力光。
そしてそれを纏う者は遥か昔に滅んで消えたはずの王。
民を見捨て、友を切り捨て、ただ1人の愛した家族の為に生命を燃やした愚王。
今も迸る七色の魔力光はまるで鎧のようにヴィヴィオを、そして己の主を守るように輝いている。
「.......分かった。そこまで言うならば見せてやる。聖王の剣をっ!」
虹色の剣閃が幾つも瞬いた。
念の為言っておくと、聖王の剣は武器でもデバイスでもありません。
エクス○リバーでもありません。