あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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この"アイ"を抱えて生きていくんだって伝えたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたら、なぜかわたしは、柔らかな温もりに包まれたのでした。 

 

 

「イノエラ……ッ!」

 

 むにむにと埋まる顔を頑張って上に上げると、そこには

 

「!?」

 

 マリアさんが、あのマリアさんが!

涙を溜めた目でわたしを抱きしめてくれているではありませんか!!

 

「……よかった……!」

 

 なぜ、なぜこんなことになっているのでしょう。

マリアさんはわたしのことなど見向きもしないほどに、今日の今日まで忙しなくアーティストをしていたはずなのに……どうしてでしょう。

 

「………」

 

 また目を閉じて呼びかけてみても、ネフィルさんはもう寝てしまっていて、わたしの声に応えてくれません。

これではさっぱりです。わからんちんです。

 

「お帰りなさい!イノエラ……!」

 

 ……でも、そうですね。

あったかいから、いいですよね。

こうして生きて帰ってきて、こんなにもあったかくしてもらえたのだから、いいですよね。

 

「………!」

 

 先生!

なんということでしょう!こんなにも近くにいらっしゃった先生に、ご挨拶もしないままでいただなんて!

 

「……」

 

 すいません先生。

どうかお許しください。なんとマリアさんにこんな風に抱きしめてもらっちゃって、嬉しくって嬉しくって我を忘れてしまったんです。

 

 でも帰ってきました!

 言いつけ通り、イノエラは生きて帰ってきましたよ!先生!!

 

 だからどうか、今だけは、お許しください……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お帰りなさい。よく戻ってきてくれましたねイノエラ」

 

 いや何でまだここにいるんですかあなた。

てっきりネフィルの顕在化で意識なんてとっくに消えてしまったと思っていたのに……あなたがいない前提で考えてた計画を練り直さないといけないじゃないですかッ!

 

「! ……!」

 

 マリアに抱かれながら、その綺麗な顔で笑いかけるイノエラ。

なんとも小憎らしい!

 

「初陣祝いに、あとで一緒に美味しいお菓子でも食べましょうか」

「!! ……!」

 

 マリアから解放され、うんうんと頷くイノエラ。

 ……でもまぁ、戻ってきてしまったものはしょうがないですね。

在るなら在るで、有効的に使っていける方法を模索すればいいだけのことです。

 

 それに……

 

「ふふッ」

 

 もっとも重要な『ネフィリムの意思』……ネフィルの覚醒は予定通り成されました。

 

 G-LiNKER投与による獣神態への転身能力、シンフォギアを始めとした聖遺物由来の物質の捕食形質。これらも盤石に備えています。最早立花響以外の敵シンフォギア装者など、恐るに足りません!!

 

 また、心臓とはいかなくても融合症例第一号(たちばなひびき)の新鮮な血液を齎してくれたことで、新たな新装備の開発にも本格的に着手できそうです……楽しみだなぁ。何造ろうかなぁ。

 

 いやぁそそるそそる!僕の中の研究者魂が熱く滾って燃え盛るッ!!

 

「……ッククク」

 

 ――そしてッッ!!

 

 ネフィルが女神に!

 僕は英雄の中の英雄に!!

 月の衝突より逃れた新人類にとっての、永遠となれるぅうううう!!!

 

「アーーーッハハハァーーッハハハハハァーーッ!!!」

 

 笑う!笑うしかない!!

 あぁ!あぁ!

 

 楽しすぎて……眼鏡がずり落ちてしまいそうだぁ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで!今日から三人で、師匠の特別強化メニューをみっちりこなすこととなったわけだねクリスちゃん!!」

「いやざけんなよお前マジで」

 

 ネフィルちゃんとの出会いから少しばかり。未来と師匠からこれでもかとお説教をもらい、それからトマトジュースをたっくさん飲んでなぁんと!!不肖、この立花響!元気元気の大復活でございます!!

 

 ……と、いったところで先日からの失敗の数々から自分の無力さを噛み締めていたところに、翼さんから師匠の特別強化メニューのお誘いが舞い込んできたのでした!!

 

「勝手にあたしまで巻き込むんじゃねーよ!!……てかそれであたしごと海に落ちやがったことをうやむやにしようってンなら、そうは問屋が卸さねーぞあぁ!?」

「ままま待って!!そ、そんなわけないじゃないっすかぁ~~?ねぇ翼さん?」

「緒川さん、明日のクイズ番組の収録なのですが……」

「って聞いてない!?」

 

 さっきまで一緒におしゃべりしてたはずの翼さんは突然、アーティストモードで打ち合わせ。

早い!状況の変化が早すぎる!!さすがは日本一のトップアーティスト、時間のスケールが私たちのような一般ピーポーとは違うということですね!!??

 

「逃げんじゃねぇこらぁ~~~!!」

「だったら追ってこないでよぉ~~~!!」

「やはりここは『常在戦場』で攻めていく方向に」

「あはは……(相変わらずマイペースな子たちだなぁ……)」

「こらお前たち!!」

「わうッ!?」

 

 突然のVSクリスちゃんチキチキ鬼ごっこはこれまた突然、師匠の首根っこ鷲掴みで両成敗となりました。

 

「は~な~せ~~~!!」

「そんなに元気が有り余ってるなら、陸に上がって走り込みでもするか?」

「!!」

 

 さっきまでの勢いが嘘のように、ぴたりと動かなくなり落ち着きを取り戻すクリスちゃん。

よっぽどいやなのかなぁ、走り込み……気持ちいいのになぁ。

 

「……で、だ。 緒川、翼を借りていいか?」

「はい。急ぎの仕事はありませんので。……では翼さん。先方には話を通しておくので、明日は()()()()でお願いしますね」

「ふッ……わかっています。クイズ番組でも、風鳴翼はただ死力を尽くして臨むのみです」

「えぇ、その意気です。……では!」

 

 マネージャーさんスマイルを浮かべながらの忍者的瞬間移動、緒川さんはいつものようにシュシュッと消え去ってどこかへと行ってしまいました。

 不思議だなぁ……翼さんや師匠もできるのかな?

 

「……さて、早速だがお前たちに見せたいものがある」

「わぶッ」

「っと……見せたいものですか?」

 

 放してもらい、顔から落ちたクリスちゃんを介抱しつつ聞き返す。  

 

「藤尭!」

「はい。こちらです」

 

 と、そう言って藤尭さんが見せたのは。

 

「これは……」

 

 なんか煙の出るひんやりしたケース……液体窒素……だっけ?それに収納された、何かのヒモ……

 

「……あぁ!!」

 

 あの時私の首に巻き付いた、ネフィルちゃんの出したヒモだ!!

 

「先刻ようやくこいつの臨床試験が終わってな」

「装者の皆さんにも、結果を共有しておきたくて」

「……で、なんか分かったのかよ?」

「あぁ……」

 

 師匠はいつも通りだけど、なぜか藤尭さんは何かに心痛めたように、目を伏せ俯いていた。

 

「まずこの、ネフィルと名乗った少女の体組織の一部だが……遺伝子検査の結果、これには通常の人類が持つにはあり得ない塩基配列のDNAを持つことが分かった」

「! ということはやはり……」

「はい。彼女が完全聖遺物ネフィリムとの融合症例であるというのは、全くのでまかせではないと思われます」

 

 ………そうなんだ………。

 じゃああの子も、私や了子さんと同じ……

 

「ウェル博士が使用したAnti-LiNKER、あれはシンフォギアと適合者の適合率を低下させるものだが、知っての通り響くんには翼とクリスくんほどの効果は無かった。……これはおそらく、響くんが胸のガングニールの欠片と強く結びついてるためだろう……仮説に仮説を重ねるのはご法度なんだが……もし彼女、ネフィルが響くんと同じ融合症例であるのなら、響くんと同じくAnti-LiNKERの効果を減衰させるはずだ」

「……そういえば確かに、ネフィルはあのガスのある場所でも聖遺物の力を十全と使いこなしていたような……」

「じゃあやっぱり……」

「あぁ。現状、彼女はネフィリムとの融合症例であると言わざるを得ない」

 

 うん……そうですよね。

だってあの子、嘘を言ってるようには見えなかったですもん。

 

「聖遺物を喰らうとされるネフィリムの特性……ノイズはともかくシンフォギアのアームドギアすら捕食対象であると判っている以上、装者の皆さんにとって彼女はまさに『天敵』です。彼女との戦闘は極力避けるべきと断言します」

「……天敵、ですか」

 

 それは……そうかもしれない。

――でもッ!!

 

「立花響」

「!!」

 

 師匠が、私のことをフルネームで呼んだ。

こういう時は、そう。

私に破らせたくない約束をさせる時だ。

 

「君は彼女と闘うな」

「………」

「理由は、言わずともわかるだろう」

 

 わかります。バカな私だって、それくらいは。

 

「私の……私のこの胸の心臓を狙われてるから、ですよね」

「あぁそうだ」

 

 あの子が。

 ネフィルちゃんが自分の"未来"とまで言ったこの心臓を。

 

「そして、彼女がシンフォギアの天敵という以前に……君の、『立花響の天敵』だからだ」

「!!??」

 

 私の……天敵?

 

「彼女はノイズや了子くん……フィーネとも違う今まで君が戦ってきたどの相手よりも早く……君の『誰とでも手を繋ぐ』信念を理解した存在だ」

 

 

 無意識に、横にいたクリスちゃんを見つめてしまう。

 少しバツが悪そうに見つめ返すクリスちゃんから、申し訳なくなって目を逸らす。

 

「そしてその上で彼女は、『命を喰らって生きる』という生物として最も純粋な信念を以って、次も君に戦いを挑んでくるだろう……そんな相手に君は、『大切な人を守る』ために歌うことができるのか?」

 

 その問いかけは……私の、心の奥でしまっていたはずの疑問を引っ張り上げてきた。

 

 

 

 ――自分の信念のために、誰かを犠牲にしなきゃいけないときは、どうすればいいのか。

 

 

 

 未来、お母さん、お祖母ちゃん。

 翼さん、クリスちゃん、師匠と二課のみんな、リディアンのみんな。

 そして街のみんな――。

 

 あの子を見殺しにしないとみんなを助けられないとしたら……私は――。

 

 

 

「おいバカ」

 

 

 思考の坩堝に沈みそうだった私を、

 

 

「なに勝手に一人で悶えてんだよ」

 

 

 クリスちゃんが、引っ張り上げてくれた。

 

「まさかお前ほどのバカが、信念とガキの命どっちを取ろう…とかクソ真面目なこと考えてるわけねーよな?」

「え……?」

 

 あ……そうか。

 

 これって、そういうことなんだ。

 

「こーゆーとき、いつもの『立花響(オマエ)』ならどーすんだ?」

 

 そうだよ。

 私なら、そもそも絶対――

 

 

「クリスちゃん」

「ん?」

「決まってるよ。立花響(わたし)なら絶対――」

 

 

 

「信念も、あの子もぜーんぶ、守ってみせるに決まってる!!」

 

 

 ――生きるのを、諦めない。

   

 ――誰と手を繋ぐことも、諦めない。

 

 それが、この胸のガングニールに。

 奏さんと了子さんに誓った、私の『胸の歌』だから。

 

 

 

 

 

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