あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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言葉は心の形だって伝えたかった

 

 

 

「そうか……フッ」

 

 

 

 師匠が――満足そうに腕を組んで、ニヤリと笑う。

 

「やはり、君には要らぬ気遣いだったか」

 

 まるで、最初から私の答えることなどわかっていたかのように。

 

「敢えて立花の口から決意を語らせることで心根を固めさせた……差し詰め、そういったところですね」

「……もぉ~~!人が悪いですよぉ師匠!」

 

 五人の輪の中で、どっ!と笑いの花が咲きました。

 

「はっはっは!いやぁすまんすまん!

君の性格上、ここではっきりさせておくべきと思ってな!」

「笑ってごまかすんじゃねぇっつの……ったく」

「クリスくんも、ナイスアシストだったぞ?」

「普段から立花のことをよく理解ってなければ、出てこない科白(セリフ)だったな」

「な……!はぁあッ!?」

 

 顔を真っ赤にして驚くクリスちゃん。

 

「いやぁ~~~うっれしいなぁ~~!!

クリスちゃんったらぁ、わたしのことそんなに思ってくれてただなんて~~!!」

「バッ……んなわけねぇだろ! …ッカじゃねぇの!?」

「いやぁ~我ながら愛されちゃってますな~~なっはははは~!」

「ふふ……」

「んのやろぉ~……おぉい!!あんたからもなんかねーのか!?

 こいつの先輩なんだろ!?何とかしろよこの怪人脳ミソ花畑をよぉ!!」 

「おい雪音、『あんた』とはなんだ『あんた』とは」

「あぁん!?」

「もう少し私に対してそれなりの呼び方というものがあるだろう。例えばそうだな……『風鳴せ」

「! …もういいッ!! 

あーもう!!お前ら全員バカだぁ~~ッ!!」

 

 また笑顔の輪が広がる。

うん、そうだよ。前は戦うことでしか対話できなかったクリスちゃんとだって、こうして理解り合えたんだ。

 

 だから、あの三人や、ネフィルちゃんとだって……

 

 ――それこそが偽善。

 

 何を言われたって、折れる理由にはならない。

 何度拒絶されたって、諦めない。

 

 それが、わたしなんだから。

 

 

「……む、時間か……よし、三人とも特訓開始まで待機! 各々、今のうちに腹ごしらえでもしといてくれ」

「「はいッ!」」「はーい…」

「なんだ、声が小さいぞクリスくん?」

「いや別に」

「ふむ……まぁ安心しろ!今日はまだちょっとした小手調べだ!」

「小手調べ?」

「それぞれに合ったメニューを練るためのな! ……だからあまり無理はしなくていいぞ。やることはそう難しいもんじゃないからな」

「……!!」

「単純な基礎体力テストとして、ただひたすら、何も考えずにここの甲板を30周走ればいいだけだからな!」

「おい嘘だろ?(絶望)」

 

 おぉ、早速走り込みですか!

 久しぶりに腕が……ううん、脚がなるッ!!

 

「じゃあまた後でな!」

「はーい!」

 

 こうして、うなだれるクリスちゃんを連れて食堂へと向かい、

一つの答えが見えたわたしはウキウキと特訓に備えて食べる今日のご飯に思いを馳せるのでした!

 

 

 

「――司令」

「なんだ」

「本当に、言わなくてよかったのでしょうか」

「……言って、どうにかなる問題ではない」

「それは、そうですけど……」

「幸い、手掛かりになりそうなものがこうして俺たちの手に渡ってきたんだ。俺たちは最善を尽くすだけさ」

「はい……」

「彼女が響くん以上の融合症例だと分かった以上、それを現実たらしめている何かが、この組織片には秘められているはずだ……それが分かれば」

「えぇ……響ちゃんの、体も」

「あぁ――牙を剥き、浸食が進む心臓の聖遺物(ガングニール)から、彼女の命を守ることができるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、立花響の血液から精製したこの特殊栄養剤が底を突く前に、なんとしても立花響の心臓を手にする必要があるわけです」

 

 今日からわたしも、この『フィーネ』での活動方針を決める話し合いの場に席を与えられることとなりました。

 

「ついでに言っておくと、持ち出した聖遺物の欠片も残りわずか。できればその補充もしたいところですね」

 

 先生がわたしのことをマリアさんたちにお教えしているこの状況、なんだかちょっと、変な気分ですね……顔も熱くなってきました。……これがいわゆる、"恥ずかしい"というものなのでしょうか?

 

『私もそう思う』

 

「!!??」

 

 ね、ネフィルさん!?

お、起きてらっしゃったんですか!?

 

「……イノエラ?」

 

 はっ!!す、すいません先生!

大丈夫です!なんでもないです!!

 

《なんでもないです》

「……あ、そう。――では説明の続きを……」

 

 いつもマリアさんやツヴァイウィングのライブ映像を観るのに使っている、先生からいただいたタブレット。

なんと!文字を打つことでここのモニターにわたしの意思を表示させることができたのです!!

 これでやっとわたしも、みなさんとちゃんとお話できます!

 

『それは良いことだ』

 

 はい!それはもう……

 

 ってだから!なんで起きてらっしゃったなら何も言ってくれなかったんですか!!

 

『それは……すまなかった。用もないのに声を掛けるべきではないと思ったのだ』

 

 あ……それは、お気遣いありがとうございます。

 

『今度から、意識が戻ったら声を掛ける。なんと言えばいいだろうか』

 

 そうですねぇ……"おはよう"はどうでしょう?

 

『朝になるとよく耳にする単語だな。……そうか、それは睡眠から覚醒し始めて口にする言葉として遣うものだったのか』

 

 難しく言うとそういうことですね。

 

『わかった、"おはよう"だな。おはよう、おはよう、おはよう……よし、私の意思にしっかりと刻み込んだぞ』

 

 ま、真面目でいらっしゃいますねぇ……

 

『当然だ。せっかく君から伝授されたのだ。忘れることなど私はとても耐えられない』

 

 え……そこまでですか?

 

『そうだ。君の言葉は、君が思っている以上に私にとっては大切なのだ』

 

 あ……ありがとうございます!

 嬉しいです!

 

『……嬉しい……とは?』

 

 あ、はい!

 

 ……"嬉しい"はですねぇ、自分にとっていいことがあった時に言う言葉なんです。

 

『私が、私が君の言葉をこの意思に刻み込むことは、君にとって"嬉しい"、なのか?』

 

 もちろんですよ!だってあなたの役に立てたんですから!

 

『そうか……"嬉しい"……"嬉しい"……』

 

 ネフィルさんも誰かにいいことをしてもらえたら、"嬉しい"って言うといいですよ。

"嬉しい"は、言われた方も"嬉しい"を感じられるすごいものなんです。

 

『"嬉しい"……そうだな、君に嬉しいをもらった私は、たしかに"嬉しい"を感じた!』

 

 でしょう?そうでしょう?

 "嬉しい"はすごいんですよ!

 

『ありがとうイノエラ。今日もまた、この意思を伝える術を体得することができた。

 ! おぉ……そうか! "嬉しい"は"ありがとう"と似た者同士だな!』

 

 ……お気づきになられましたか!

 

『やはりか!』

 

 そうなんです!"嬉しい"と"ありがとう"は一つだけでもすごいのに、二つ一緒だともっとすごくできちゃう……それはもうすごい……すごくすごい言葉なんですよ!!

 

『おぉ、すごい』

 

 はい!すごい!!

 

『嬉しい!ありがとう!』

 

 そうです~~~!!

 

『おぉおおお……! なんだこれは……私の意思は今、猛烈に昂っている!

 なんて素晴らしい言葉なんだ……"ありがとう"!"嬉しい"ぞイノエラ!』

 

 私も……私の言葉で感動してくれるなんて……感無量ですネフィルさん!

 

 私、これからももっとネフィルさんにたくさんのこと教えられるように……

 

 ――エラ。

 

 いっぱいお勉強しますね!!ネフィルさん!!

 

 

「……イノエラ!?」

 

 

 ――はッと、意識が現実へと還る。

 

「大丈夫デスか!?」

 

 き、切歌ちゃん! なんで目の前に!?

 

「どうしたんですかイノエラ……まるでどこか遠くを見つめるような目で、意識が飛んだように呆けていましたよ?」

「何か変なキノコとか食べちゃったデスか!?

 い、色々なものが飛んでっちゃったみたいに……ぷわわ~ってしちゃってマシたよ!?ぷわわ~って!!」

「ぷわわ~、じゃよくわからないよ切ちゃん」

「えぇッ!?」

「二人とも、一旦落ち着きなさい」

「そうよ。二人ともそんな心配しなくても大丈夫。小さい女の子はね、時たまこんな風に意識がぽん、と抜けてしまうことが起こるものなのよ。あなたたちも覚えがない?」

「……そう言われるとそんなことがあったような……」

「私あるよ切ちゃん。……ていうか今日の朝なんだけど」

「なんデスとッ!?」

「……うん。何かふわ~っとした気分になって()()()()()()()()()()()()()体が勝手に動きそうに……」

「それ多分別のヤバいヤツデスよ調ぇッ!!」

「あのッ、ちょっあなたたち、僕をどかして話さないでくれます??」

 

 って切歌ちゃんだけじゃなくて、先生や調ちゃん、教授にマリアさんまで……

 

 すごいこんなに人がたくさん周りにいたこと、初めて……

 

 初めて……

 

 

「イノエラ?」

 

 わたし、

 

「……泣いてる」

 

 ちゃんと……みなさんの……『フィーネ』の仲間になれてたんですね……!

 

「イノエラ」

 

 マリアさんと調ちゃん、切歌ちゃんが

 抱きしめてくれていた。

 

「伝えたいことがあったら、遠慮せずに言いなさいね」

「今まで冷たくしてごめんなさい」

「あたしたち、イノエラのこと大好きデスよ。泣きたいときは一緒にいるデス」

 

 

 

 わたしは、わたしを見てくれる人は

 先生や教授、ネフィルさんだけじゃないんだ。

 

 

「イノエラ……」

 

 ……先生?

 

「明日は、そこの暁くんと月読くんと一緒に、この艦の外へ繰り出してみなさい」

 

 ……え?

 

 外に……外の、たくさんの人がいる外の世界に、出てもいいんですか!?

 

「知見を拡げるのはもちろん、僕たちが月の落下より救済(すく)わねばならない無辜の人々の姿をよぉくその目に焼き付けるのです」

 

 !! なるほど!!

 

「きっとあなたのシンセジスタとしての精神性を高めるに打って付けの学びとなるでしょう。どうです、素晴らしいと思いませんか?」

 

 素晴らしいです!!

すっごく!すっごく素晴らしいです!!

 

「じゃ、そういうわけで……僕は新装備の開発に戻るので、あとは先生にお任せします」

「承りました」

「では」

 

 ……待ってください!!

 

「っと……なんです?白衣が伸びちゃうじゃないですか」

 

 

 すいません先生……どうしても伝えたいことがあったので……よし、と!

 

《そとにでることをゆるしてくださって ありがとうございます ほんとうにうれしいです》

 

 

「……どういたしまして」

 

 

 マリアさんたちの手を振ってくれるのを、私は目いっぱいの笑顔でお返しする。

 

 そしてどこか嬉しそうな先生を送り届けながら、わたしはあしたのことで頭をいっぱいにしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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