「──イノエラ~、わたあめとリンゴ飴、お好きな方を取るデスよ!」
切歌ちゃんから提示されたのは、白いふわふわしたものと、マイクのような真っ赤なまぁるい飴さんでした。
いいにおい……で、てもこれらは、本当に食べられるものなのでしょうか?
「大丈夫、美味しいよ」
「あたしも保証するデス!」
お二人がそこまで言ってくださるなら……じゃあ
《りんごあめを
いただいても
いいですか》
「はいデス!ささ、どうぞどうぞ……」
《いただきます!》
渡していただいたそれを持ち直します。
これは……どこからどう食べればいいんでしょうか。
「そのままがぶっていけるよ。
見た目ほど固くないから」
「思いっきりがっつくデス!」
では……いただきます!
「!!」
これは……しゃりしゃりして、甘くて。
でもちょっとすっぱくて…!? とろっとしてきた!?
す、すごい……食べれば食べるほど固いのと柔らかいのが交互にきて、でも甘いのが絶えなくて……
すっごく、美味しいです……!!
……つ、伝えなきゃ……この、りんごあめについて!
《いままでたべたことのないあじがして
とってもとってもおいしいです!》
こ、これで……あ……もっとこの感動を伝えらる言葉があるような……でも他になにが……うぅ~!もどかしいです~~!!
「……よかったぁ!」
どうしま……あれ、切歌ちゃん?
「そんなに美味しそうに食べてもらえてよかったデス!」
あ……
「いやぁ~イノエラって何が好きかわからなかったのデ、口に合うか内心ドキドキだったんデスけど……バッチリみたいデスね!やったデス!」
わたし……ちゃんと伝えられてたんだ……よかったぁ
「切ちゃん、私もわたあめ半分もらっていい?」
「いいデスよー!はいデス!」
「ありがとう」
「いへへ……はむ!」
「……はむ」
「「…………!」」
お二人は落ちそうな頬を抑えながら、美味しそうにそのふわふわな……わたあめ、わたあめでしたね。それをはむはむといただいてます。
仲良く一緒に分け合って、二人で一緒にはむはむ、はむはむ。
美味しそうですねぇ……本当に……ふわふわ……
ふわふわで……
おいしそうですねぇ
ふわふわゆれて
おいしそうですねぇ
キラキラ光ってて
おいしそうですねぇ
「イノエラ……?」
おいしそうですねぇ
そのペンダント
おいしそうですねぇ
……………あれ?
「あぁ!りんご飴落ちしちゃってるデスよ!……もぉ~、ダメじゃないデスか食べ物を粗末にしちゃぁ」
おかしいな
わたあめ
おいしそうだったのに
もう
おいしくなさそう
かわりに
あの ペンダント
なんで
なんで
おいしそう
おいしそウ
おいシソウ
おイシソウ
オイシソウダナァ
『!!』
オイシソウダカラ
タベテ……
……あれ
わたしは
『――すまない!!』
あ
ネフィルさ―――
ネ――――
―――
――
「……間一髪だった」
まさかこんな形で、
私が元来持つこの飢餓衝動と、イノエラが持つ人の
なんという弊害だ……イノエラにどう謝罪すれば……
「……………は?」
「なんであなたが……」
いや……先にこの二人にだな……
「すまない……邪魔をしてしまった……」
「なんで……なんで今アンタが出てくるんデ――!」
「切ちゃん!」
「!!」
「……周りをよく見て」
「え?何よあの子、さっきまで髪真っ白じゃなかった?」
「わ~~!さっすが天下のリディアンの文化祭ね~~!どこのバンドの人かしら?スゴイ髪型!!」
「なんだなんだ揉め事か?」
「うおッ!!なぁあの子たちちょーカワイくね!?」
「ワンチャン行っとく!?」
「いいねぇ!!」
「……隠れるデス」
「うん」
「――ねぇそこの君た……あれ?いねーじゃん」
建物と建物の間、日の光も当たらぬ陰。
あれはたしかドクダミ……だったか。その植物が群生するそこに、私たちは身を潜めた。
「……ハァ……くッ!」
まずいな……私でもここまで強いと感じる飢餓衝動は久しぶりだ。
これは冗談抜きにきつい……早急に何とかしなくては……
「……ちょっと痛むかも」
「ん?……!?」
一瞬。確かに一瞬ではあった。
だが我を忘れそうになるほどの痛みが、太腿にて顕れたのだ。
「こういうこともあるだろうって、ドクターが持たせた聖遺物入りの栄養剤。
これで少しはお腹が減らなくなるって言ってたけ ど……どう?」
「あぁ……嬉しい、ありがとう……とても、助かる」
ゆっくりと、全身に血液が正常に巡り始めるのを感じる。
生理機能が回復したのだ。呼吸も楽になってきた。
「ネフィリムの飢餓衝動……だよね」
「あぁ……こればっかりはどうにも」
「……イノエラは、どこに行ったの」
「共有している意識の、奥深くだ。
急のことだったせいで無理やり彼女の意識を押しのけてしまった」
「……帰ってくる?」
「もちろんだ。今も、彼女の意識が眠っているのをしっかりと確認している。いずれは目覚める」
「よかった……」
「よくないデスよ」
「切ちゃん」
「イノエラが起きてくるのにどれくらいかかるんデスか」
「切ちゃんッ!!」
「あと五時間もあれば、自然と覚醒するはずだ」
「……ッ!」
胸倉を掴まれる。
「ダメッ!!」
それを月読調が強制的に剥がす。
……そして私を守るように前に立った。
「切ちゃん……自分が何しようとしたかわかってるの!?この子は――」
「んなもんわかってるデスよッ!!」
暁切歌は、遮るように叫だ。
「そいつが……ネフィルは……私たちの活動の要で……そいつに何かあったら……マリアとマムと調と一緒に今まで頑張ってきたこと全部……無駄になるデス……」
「………」
「でも、でも……だからって……!
今じゃなくったって……!
今じゃなくったって、よかったじゃないデスかぁ!」
今にも涙を零しそうなほどに、悲愴に、叫ぶ。
……そうだ。イノエラも、ともにいたこの娘たちも、今この時をとても楽しんでいたはずだ。
その時間を、私の齎した飢餓衝動が打ち崩してしまったのだ。
「…………」
謝罪の言葉を、口にできなかった。
そうすることで、憤る彼女の心を侮辱してしまうような気がした。
――だから
「……二人に提案がある」
「「!!」」
「ここで私と、君たち二人は別行動としないか」
私は、消えるべきだ。
「私は立花響を、君たち二人は風鳴翼と雪音クリスをそれぞれ捜索しよう。落ち合う場所は……人気のないここが丁度いいか」
「……それは!!」
「いいんだ」
「ネフィル……あなた……」
「一人でもこの身は、イノエラは私が守る。そのために私はここにいるのだ」
この娘たちから目の届かないところにいるべきだ。
「…………」
「…暁切歌よ」
「切歌でいい」
「では切歌……一つ、いいだろうか」
「……うん」
だがその前に、言っておくことがある。
「イノエラと手を繋いで歩いてくれて、ありがとう」
頭を下げて謝辞する。
心よりの、感謝だった。
「……んなの、当たり前ですよ。仲間なんデスから」
「その当たり前を、イノエラはとても喜んでいた。
眠っていた私が感じ取れたほどに……だから、ありがとう」
「―――ッ!!」
"ありがとう"
イノエラがくれた、言葉。
とても、いい言葉だ。
イノエラはいつも私に、素晴らしいものをくれる。
私は、そんなイノエラにもっともっと尽くしたい。
イノエラを大切にしてくれる者に尽くしたい。
ゆえに、君たち二人にも尽くしたいのだ。
「……日が暮れる前にここで落ち合おう。
気をつけてな」
「待って!」
「……ん?」
なんだろうか
「あんたも……気をつけるデスよ!」
「……!」
私に、気を掛けてくれるのか……
こんな私に……この娘は!!
「ちゃんと、私たちのとこに帰ってくるデスよ!」
「了解した」
「……これ、忘れもの」
月読調が、何かを手渡す。
それはウェルが造った私たちのための栄養剤だった。
「ちゃんとあなたが持ってないと、ね?」
「あぁ……ありがとう」
しっかりと、懐に仕舞う。
落とさないように。失くさないように。
「ではな」
「うん。またね」
「また後で、デス」
「あぁ……また後で」
"また後で"
――これも、いい言葉だな。
誇りを胸に、私は、雑踏の中へと足を踏み出した。