あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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君の夢が私の夢だと伝えたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──なぜだ

 

 

「ねぇ、あの子どこの子かしら」

「見ない顔よねぇ……外人さん?

顔かわいいし肌白いし、目も綺麗な黄色……」

「黄色?……赤じゃないの?」

「どっちもじゃない?……右目が髪で隠れてるけど、よく見たらオッドアイみたいね」

 

 

 ───なぜ私はこんなにも目立っている?

 

 これはどういうことだ……そうか!

 

 イノエラの容姿が美しすぎるからか!

 

 ……これはどうすることもできないな。

 仕方のないことだからな!

 

 ……だが、それでももっと他に注目すべきものが此処彼処にあるぞ人間たち。

 『焼そば』『ツイストポテト』『ドネルケバブ』… 

なぜあんなにも興味をそそるものに、目を向けないのだ。

 

 私はさっきから目の遣り処に困って困って仕方がないというのに!

 

 ……それこそ言っても仕方がないか。

 私に彼ら彼女らの目線の向きを変えてしまえるような異能はないからな。

 

「金は、あるにはあるが……買い食いはできん。今以上に目立ってしまう」

 

 ならば……

 

「……どこか人気のない高所に行って、そこで周囲を見渡しながらの探索を……む?」

 

 何やら大きな声が聞こえるな……あそこか

 

「──さぁさぁ!秋桜祭名物『うた自慢大会』!!

 今年もやってるよ~~!

 優勝者には、生徒会権限でなんでも一つ望みを叶えちゃうよ~~! 今からでも飛び入り参加大歓迎!!

 さぁさぁこの修羅の巣窟の門を叩く、果敢な勇者はおらんかね~~!!」

 

 うた自慢……?

 ! これは……!

 

「渡りに船……というやつだな!」

 

 なんという僥倖!!

 ここは参加するほかないだろう!!

 

「……すまない!そこの君!」

「お~!早速猛者のエントリ……うわわ!?」

「? どうかしたか?」

「い、いやぁ……なんでもないっす!(なんだこのパンク少女!?……なんか別の意味で猛者っぽい子が釣れちゃったんですけど!?)」

 

 優勝……とにかく参加者の内で歌唱力が最も優秀だと証明すれば……そうだな「立花響を一人ほしい」と言えばとても平和的に覚醒心臓を得ることができる!

 

 それに歌……歌だ。

 私の意識が表層に出ている間は、イノエラの声を私の声として出力できる。

 ならばこのイノエラの声を使い歌い上げ、それを優秀だと証明することは、イノエラの夢にとってもまたとない飛躍の機会!!

 

「その『うた自慢大会』、私にも参加させてはもらえないだろうか!」

 

 つまりは一石二鳥!

 ここで石を投じず、なんとするのか!!

 

「わ、わっかりましたぁ!!参加、オッケーです!」

「嬉しい、ありがとう!」

 

 よし、最早勝利も同然だな!!

 

「んでは早速こちらの方へご一緒願いますね~」

「助かる」

 

 恩人の娘に連れられ、会場であろうドーム状の建物へと足を運ぶ。その周囲は花に囲まれていて、穏やかな雰囲気の派手すぎない華美さが心地良い。

 

 中に入ると、どこからか歌が聞こえたきた。……どうやらすでに大会は始まっているようだな。

 

「ここにお名前を書いてください」

「ふむ」

 

 娘から、何やらぺらいちの紙を渡される。

 

 そうだな……私の「ネフィル」という名は、既に立花響たちの目の前で堂々と名乗っていた。

 故にこのような形に残るものに名を残すことは決してできない……ならば、書くべき名はひとつだ。

 

《イノエラ》

 

「あ、すいません。フルネームでお願いします~」

「……なに?」

 

 フルネーム……だと?

 

「いやこれが……」

 

 ……待てよ。

 

「あ、いやすまない。そうだったな」

「落ち着いて書いてくださいね~」

 

 確かに、名字が無いというのはこの時代の人間に扮する上でかなり無理があったな。

しかし名字か……そうだな、折角だ。

 

 

《イノエラ・ウェルキンゲトリクス》

 

 

 うむ……いい!いいぞ!

 これでいい!これがいい!

 

 

「……はい!ありがとうございます~!」

 

 ……ふふ、力が湧いてくるな。

 名を背負うことで誇らしい気持ちになる者がいるというのは……なんと素晴らしことだろう。

 

「では次に歌う曲をここに……」

「わかった」

 

 私でも歌える歌……あるな。イノエラの記憶があるゆえ、それはもう。

 

 どれにするか……そうだな、難易度の高いものにした方が評価も高いだろうから、『アレ』にするか。

 

《―――――》

 

「あの……イノエラさん?」

「なんだ」

「い、いいんですか?」

「なにがだ」

「その曲はなんというか……時期が悪いと言いますか……」

「歌を歌うのに時期も何もないだろう。私はこれを歌うぞ」

「は、はぁ……まぁ、あなたがよろしいのでしたら……」

「ふん」

 

 何を言い出すかと思えば……いや、私の与り知らぬところでこの歌に関して何かひと悶着あったのかもしれないのか……まぁ知ったことでもないな。歌うだけのことに何を言われようと構うものか。

 

 

 

 

 

 

 

「な、中へどうぞ~!」

 

 歌の聞こえる扉を通りすぎ、大きな黒い扉に着く。その近くの壁には、扉を指す矢印と共に"Back Yard"と書かれた看板が貼られていた。

 

「ありがとう」

「……はい~~!」

 

 ここまで案内してくれた娘はそう言い残してそそくさと何処かへ走り去っていった。

 

「……さて」

 

 周りを見渡せば、私より前に来た者たちが今か今かと自分の番を待ちつつ、談笑、読書、イヤホン……だったかを付けながら精神集中。それぞれ思い思いに過ごしている。

 

「「「……!?」」」

 

 しかしそれも私を認識するまでのことだった。

 

 私を視認した瞬間、彼女らは一様に『怯え』を見せた。

 

「……よろしく」

 

 別にこちらは歌うこと以外は何をする気もない。

なのにそんな風に見られると些か落ち着かないというものだった。

 警戒を解かせるべく挨拶……さてどうだ。

 

「「「…………。」」」

  

 固まったまま微動だにしないとは。

 ううむ、これはどうしたものか……私のせいでこの娘たちが本来の実力を発揮できないとあってはここで優勝する意味も薄れてしまう。

 

 やはりこの美しくない髪か?鋭い目か?……伸びた歯なのか?

 

 ……せっかくの美しいイノエラの容姿を私が汚してしまっている罪悪感が、重く肩にのしかかる。

 

「……ふぅ」

 

 イノエラのままの容姿だったら、ここの彼女らに無駄な警戒をさせずに済んだのだろうか……

 こんなことを考えても仕方ないのは分かっているが……

 

 

 ――あぁ、どうにか彼女らに負担を掛けない容姿になれないものか……

 

 

 

 

「――っしゃぁーー!ギリギリセーーフッ!!」

 

 む、私の後の者が来たのか。

 

「電光刑事ただいま参上!!」

 

 ……なんだあの格好は。

 

「はぁー、なんとか間に合った~!あっつ……」

「ふぅ……板場さんの凝り性も困ったものですわ……こんな時間になるまで衣装合わせが終わらかったなんて……」

「こらぁ!今更そんなこと言わないの!!もう戦いは始まってるんだから!!」

 

 なんだあの格好は!!

 ど、どんな組織に属しているんだこの娘たちは!?

 その帽子?や鎌?はなんだ!?

 まさか……私の知らされていない別のシンフォギア装者が……?

 なんということだ!!こうなれば……!!

 

「!!……ねぇあなた!!」

 

 ――何ッ!?

 

「それ何のキャラのコス!?めっちゃクオリティ高いねそのウィッグ!!どこで買ったの~~?」

 

 回り込まれた……だと!?

 ……は、速い!!なんという速さだこの娘ッ!!

 全く動きを捉えられなかった……人間態とはいえ、ウェルの造ったシンセジスタであるこの私を軽々しく凌駕するとは……なんということだ……怪物か!

 

「ていうかあなたもしかしてオッドアイ!?それオッドアイだよね!?まさか自前!?自前オッドアイ!?

 ウッッッソめちゃくちゃ気合入ってるじゃん!!ねぇなんのアニソン歌うの!?」

 

 しかも五月蠅いぞ!!とても!!

 さっきから私の理解を超えた言語でまくし立ててくるのはなんなんだ!?どういうことなのだ!?

 

 おぉぉ……こんな形で先手を打たれるとは……気力を奪われて何もできな……

 

「こらぁ!ダメですよ板場さん!!」

「はうッ!?」

 

 ん?……なんだ?

 

「もぉ~、この子怖がってるじゃん!……きみ大丈夫?」

「……だ」

「だ?」

「大丈夫だ……」

 

 た、助かったのか……?

 

「ごめんなさい……この子ちょっと推し?の方のコスチュームを纏っているせいか、元来のアバンギャルドが爆発してしまっていまして……」

「普段はここまでじゃないんだけどね?ごめんね!」

「うぅ……すんませんでした……」

 

 ……なんだ。

 

「ハァ……」

 

 敵ではなかったか。

 まるで隙だらけではないか。

 私としたことが、変に取り乱しすぎたな。反省せねば。

 

「えっと、その、良かったらなんだけど……」

「ん?」

 

 何だろうか、まごついた口調で……

 

「怖がらせちゃったお詫びに、その……してほしいことないかな!?」

 

 ……なんと。

 まさかここにもチャンスがあったか。

 

 ……ここで立花響を所望するのは容易い。そうした方が効率的だろう。

 だがそれではこの大会で歌う意味が薄れてしまう。

 

 意味が薄れるということは、それは妥協を生むことに繋がってしまう。

 ……イノエラとウェルの名を借りて歌うのに、妥協などあっていいはずがない。

 

 しかし立花響の心臓以外で望むものなど…… 

 

「……ある」

「な、なに!?教えて!!」

 

 それは、歌うに相応しい……

 

「――私を、この容姿を、歌で人を魅了するに相応しいよう美しくしてほしい!」

「………ぱーどぅん??」

 

 

 

 

 

「というわけで……」

「どうでしょう?」

「……ごくり。」

 

 ………ふむ。

 

「――完璧だ!!」

「「「はぁ~~~!!」」」

 

 無駄に視界を遮る前髪は白いピンで留められ、後ろの髪もなにかもこもこした輪(シュシュといったか)によりうなじあたりで一つの玉に纏められ、毛先も首を回すのに煩わしくないよう上向きだ。

 

 それに何より……

 

「この服に、よく似合っているな」

「そうですね~……ナイスです!!」

「持ってて良かった女子力アイテム!」

 

 マリアの服を着るにも相応しくなった!

 

「あ、あの、大丈夫!?これ美しいの解釈合ってる!?かな!?」

「あぁ!何も問題はない! 恩に着るぞ、ヘルメットの君」

「はうッ!!……なんてカッコイイのこの子ッ!!

君は私が守護る系ヒロインかッ!!」

「まーた始まった……」

「そして獣耳の君と蟷螂の君も……」

「あ、この子たちの名前は『ノワール』と『置き引きカマキリ』。ご存知の通りモデルは第八話の……」

「いや違うしッ!?」

「はぁ……もう、板場さんったら……」 

「ふふっ、そうか」

 

 もはや何も問題はない!!

 下準備は最高の形で完了した!!

 

「ウェルキンゲトリクスさ~ん、スタンバイお願いしま~す」

「うむ、わかった」

 

 いいタイミングだな。

 さて、行くか……

 

「お、出番だね!!」

「行ってらっしゃいませ!」

「頑張ってーー!えっと……名前聞いてなかったね」

「イノエラだ」

「……イノエラちゃん!行ってらっしゃい!!」

「あぁ、君たちもありがとう。応援している」 

「はーい!!」

 

 

 そして壇上へと上がる。

 

『さて!次なる挑戦者はこの子!突如リディアンに舞い降りたミステリアス美少女……イノエラさんです!』

 

 おぉ……人間があんなにも。

 

「……ふふふ」

 

 ここにいる全員をイノエラの歌声の虜にできると思うと、思わず笑みが零れてしまうな。

 

『果たして、優勝の暁に一体何を望むのでしょうか!?』

 

「――決まっている!!」

 

『おぉ!?それは一体!?』

 

「ある女の……"ハート"だ」

 

 

 会場のそこかしこから歓声が上がるのが聞こえる。

 よし、掴みは良いようだな……あとは思いっきり、歌うのみだ。

 

 

『きたーーー!!これはいろんな意味で期待の新人だァーー!

 さぁ熱唱していただきましょう!!歌うのは――』

 

 

 

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴで――

 "Dark Oblivion"」

 

 

 

 さぁ聴くがいい。

 我が友の、夢を羽撃く歌声を!!

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