あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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人の感情は燃える炎のようだと伝えたかった

 

 

 

 

 

 

 

 一陣の風が吹く。

 

「……決闘」

「古きゆかしき……ってやつか?」

「なるほど、解りやすい。

 きょうび珍しい程の潔さだ。お前たち」

 

「もう、マリアが戦わなくてもいいように」

「大切な人たちを、守るために!」

「決着を着けよう。親愛なる立花響とその仲間たちよ」

 

 もう後には引けない、引かない。

 人類を守るに相応しいのは、私たちだ!!

 

《──あなたたち!!

 何をしているのですか!!》

 

「「!!」」

 

 マムだ。

 マムからの通信だ。

 焦燥と怒りの籠った、マムの声だ。

 

「待ってください!!

私たちこれからペンダントと立花響を──」

《捨て置きなさい!!

 ……早くこちらに帰投するのです!!》

「……ッ!!」

 

 マムの言うことはもっともだ。

 ……そもそもとして、現在私たちはアジトの場所を知られてしまって他の何処かへと居を移さなくてはならない状況にある。

 むしろこの瞬間までここに留まっていたことの方が問題だった。

 

「ここまで来て、デスか」

「仕方ないよ」

「……む」

 

 ネフィルが何かを察したように切ちゃんと私を見る。……この様子だと、もしかしたら今の通信を聞いていたのかもしれない。

 

「立花響!……手を出してくれ」

 

 そんなネフィルが突然、立花響に呼び掛ける。

 

「? ほいっ」

「これを渡しておく」

 

 そう言ってネフィルが手渡したのは、

少し前に私があげた『栄養剤』だった。

 

「なんだそりゃ」

「薬か?」

「あの、ネフィルちゃんこれ」  

「悪いが急用だ!」

 

 ネフィルがそう叫んだ、次の瞬間──

 

「のをッ!?」

「きゃ!?」

 

 切ちゃんと私は、まるで麻袋でも担ぐようにネフィルに抱えられていた!

 

「「うわぁあああああッ!?」」

 

 そしてそのまま、ここの玄関扉の上までひとっ跳び。

こ……これは…………

 

「!!」

 

 そうだ。

 

 忘れていた。

 

 ネフィルは……イノエラは、聖遺物ネフィリムと人間の融合症例。

 つまりは、見えないシンフォギアを纏っているといっても過言じゃない身体能力を、生まれながらに持っているんだ……

 

「決闘は夜にしよう」

「待ッ……何だと?」

 

 走って来た立花響たち三人。

 目線の関係でいつも彼女らを見上げてばかりだった私でも、この高いところで抱えられた状態なら見下ろせる。……少し、嬉しい。お腹苦しいけど。

 

「おいてめぇら!!

あそこまで言っといて逃げんのかよッ!!」

「急用だと言った!

 逃げる位なら啖呵など切らん」

 

 吠える雪音クリスをネフィルは両断。

 「ぐぅ」と言って黙る。

 ……ネフィルの言葉って切れ味が鋭いね。

 

「ネフィルちゃん!これは!?」

「それは担保だ。

 決闘の(とき)まで預けておく!」

「今夜か……何処で致すつもりだ」

「こちらから伝える。

 連絡先は……」

「――ばがばかばか!!何考えてんデスか!?」

「揺らすな」

「居場所を常に探知されちゃうかもしれないようなもの教えてどうすんデスか!?個人情報は他人にアンイに教えちゃメメメのメッ!なのデスよ!!」

「さすが切ちゃん、常識がある」

「マムが言ってたのデス!!」

「……『マム』ってだれ?」

「あっ」

 

 切ちゃん……

 

「(知ってっか?)」

「(いや。……まさか失踪したF.I.S.の者の一人か……?)」

「……とにかく!

 決闘の連絡は何かしら考えておく!必ず三人で来い!」

「ねぇマムってだ」

「いいな!!」

「――あハイッ!!」

「よし、また逢おう!!……さらばだ!!」

 

 再び飛翔。

 街頭、電柱、どこかのお店の看板などなど。

 まるでジャングルにでも住んでいたのではという軽やかすぎるアクションでアジトへと奔るネフィルと抱えられる私たち。

 

 さて……決闘……一体これから、私たちはどうなるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セレナ……」

 

―――また、割れたペンダントを指でなぞる。

 

 何度目だろう。

 こうして『あの歌』を口ずさみながら、あなたとの最後の瞬間を思い出すのは。

 

「…………」

 

 

 

 あの日。セレナが死んだあの日。

 

 旧F.I.S.の敢行した、"歌を介さない"非アウフヴァッヘン波環境下での聖遺物起動実験は、第一種適合者一名の死亡という惨劇により幕を下ろした。

 

 その第一種適合者こそ……私の妹、『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』。

 

 暴走した聖遺物を止めるため、纏った純白のシンフォギアを以って放たれた……奥の手、『絶唱』。

その特性により、セレナは暴走状態にあった聖遺物を『胎児』と呼ばれる形態に戻すことで被害を食い止めたのだった。

 

――しかし、力あるものには必ず代償が伴う。

 

 シンフォギアの持つ決戦機能……『絶唱』は、歌うことであらゆる兵器、あらゆる武力を凌駕した絶大な力を発揮する。……だが、使用者に降りかかる負荷もまた絶大。

 

 文字通り、肉体を内側から磨り潰される程の衝撃が装者を襲う。

 

 ………そして絶唱を使ったセレナも……

 

「……くッ」

 

 残ったのは、この割れたペンダント。

 本当の持ち主は、もういない。帰ってこない。

 

 ……だが、セレナではない、帰ってくるはずがないと思っていたものが帰ってきた。

 

 セレナの死の原因の一つ……起動実験の対象だった完全聖遺物、ネフィリム。

その細胞と、()()()()()()の遺伝子を掛け合わせ生まれたとされる……人造の融合症例、"イノエラ"は、ウェルの開発した特殊LiNKERの作用により体内のネフィリム遺伝子に意思を持たされてしまった。

 

その名は、ネフィル。

正しく、聖遺物ネフィリムの意思だ。

 

 

――『彼女こそ、セレナの仇と言える存在ではないか』

 

 ふとそんな考えが過ってしまった瞬間、私は最早、彼女を仲間として見ることができなくなった。

 

「……イノエラのままで、いてほしかった」

 

 わかっている。それは叶わぬ願いだ。

 月の落下から人類を救う方舟、フロンティアの完全な制御には、ネフィルという意思がフロンティアと融合しなければほぼ不可能であること。

 

 私は……あの子の守りたかったものを守るために、あの子の仇を守らなくてはならない。

 

「そのためのガングニールだというなら……!」

 

 

 転機が訪れたのは、ある夏の日だった。

 

 このマリア・カデンツァヴナ・イヴも、微弱ながらある聖遺物との適合性があることが判明したのだ。

 

 聖遺物の名は『ガングニール』。

 

 北欧の伝承にて伝わる大いなる神が振るったとされる必中の槍。

 

 『なぜ自分が』

 

 その答えを探す間もなく、私を待ち受けていたのは戦闘訓練の日々。

 

 何度、逃げ出したいと思っただろう。

 

 何度、死んでしまいたいと思っただろう。

 

「あの苦しみの果てが……これなのか!!」

 

 ひび割れていない、首のペンダントを振りかぶる。

 

 ――だが。

 

「……!!」

 

 ……そうするたびに、『あの歌』を歌うセレナの声が響いてくるのだ。

 

「……わかってる。わかってるのよ」

 

 セレナは、私に『戦え』と歌い続ける。

 

 『今を生きるために、自分と戦え』と歌い続ける。

 

 

 

「セレナ……わたし、あなたのように……もっと、強くなってみせる」

 

 

 あなたの為にも。

 

 人類の為にも。

 

 もう……あの、ウェルが炭に還した少年たちのような者を、生まないためにも。

 

 

《――間もなくランデブーポイントに到着します。いいですか?》

「オーケー、マム」

 

 

 また、戦いが始まる。

 

 この身を焦がす、あの日の炎を、燻ぶらせぬように。 

 

 

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