あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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ただ、この感謝を伝えたかった

 

 

 

 

 

 決闘開始の合図だろうノイズ発生を検知して、やってきたそこは……旧本部、旧リディアンのあった場所。

 東京番外地・特別指定封鎖区域……私たちが"カ・ディンギル址地"と呼ぶ場所だった。

 

 聞いた話だと、たくさんの聖遺物がぶつかり合ったせいで発散したエネルギー。その影響で、草の一本も生えない荒地へと変わってしまったのだそう。

 

 あの綺麗だったお庭は、校舎は、もうどこにも見当たらなかった。

 

 

「――あれはッ!」

 

 代わりにいたのは、辺り一面を埋め尽くすノイズの大群。

 その光景は、まるで――

 

「…………よくも」

 

 ツヴァイウィングの、最後のライブ……

 

「これだけのノイズをッ!!」

 

 わたしが、この心臓にガングニールを受けたあの日の――

 

 

 

 

 

 

「君たち、よく来てくれた!」

 

 思考が沈みかけたその時。

 

「――ネフィルちゃんッ!!」

 

 

 わたしたちを呼びかけた、凛々しい声が意識を揺り戻す。

 

 決闘の相手、ネフィルちゃんが、ノイズが群れる場所より小高い崖で仁王立ちしていた。

 

 

「――てめぇ!!

 尋常に決闘するとか言っといて!

 そこのノイズ共はどういうことだよッ!!」

 

 猛るクリスちゃんの声が、ネフィルちゃんへと向けられる。

それに反応してか、ネフィルちゃんはひしめくノイズの大群を見下ろしながら、少し悲し気にこう呟いた

 

「うぐ……すまないお前たち……

 こんなには要らんと言う私の言葉に

 耳を貸さない、このウェルが悪いのだ」

「はァッ!?」

 

 裏切ったな!……と言いたかったような驚声が夜の帳にこだまする。

 

「フン……折角の決闘です!

 数体ばかりいたところで盛り上がりませんッ!

 だからこうして出張ってきて、ノイズのみなさんを招待させていただいたまでのことッ!!

 フフン……気が利いてるでしょう?」

「お友達感覚かよッ!」

「巫山戯た真似を……!」

「クク……」

 

 ニヤニヤと嗤うウェル博士が、一瞬だけわたしの方を見て、哄笑する。

 

「……ククァーッハハハハハハ!!!立花響ィ!!

 精々コイツらで体温めて、心臓ホッカホカに

 しちゃってくださァい!!ッハッハッハ!!」

 

 ……ダメだ。あの人にこれ以上、あの杖を遣わせちゃダメだ!!

 

「こほん」

「「「!」」」

 

 突然の、ネフィルちゃんの咳払い。

わたしを含めた三人の視線が彼女に集まる。

 

「ウェル、G-LiNKERを」

「……自分で打つんですか?」

「当然だろう」

 

 博士はどこか逡巡するような表情をしたあと、杖を持っていたのとは逆の手で、銃と"はんだごて"の中間のような器物を、持ち手がネフィルちゃん向くように渡した。

 

「……どうぞ」

「感謝する」

 

 それを受け取ったネフィルちゃんは、わたしの方を向いて、微笑んだ。

 

「立花響」

「!」

「今夜、君の心臓を喰らわせてもらう!

 私の……この私自身の意思で!!」

 

 啖呵が、火蓋が、切られる。

 

 

「さぁ」

 

 

 首筋に、黒い物を充てる。

 

 

「白黒分けようか、立花響」

 

『自決』

 

そんな言葉が、頭を過ぎる。

 

 

 ネフィルちゃんの、その首に何かを射れる所作が、そうさせたのかな―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――私には、いや、私という意思の原点である(ネフィル)たちに、『過去』と呼べるものがない。

 

何処の誰によって、何処へ行くように造られたのかすら、知らない。

 

あったのは、ただ『この飢えを満たしたい』という、渇望だけだった。

 

 

 飢えを満たす術は一つ。聖遺物を喰らうこと。

それだけを本能として活動する時間が、我々の全てだった。

 

 

 そして喰物もなくなれば、やることは一つ。

 

 

 同胞(わたし)を喰らった。

 

 

 見つけ次第喰らった。

 

 

 喰らって

 

 喰らって

 

 

 

 喰らいつくした。

 

 

 

 そして

 

 

 

 最後に残った(ネフィル)には、

 

 

 

 

 

 (ネフィリム)には、

 

 

 

 

 飢えはなかった。

 

 

 

 

 代わりに

 

 

 得たのは

 

 

 

 

 

 

 

『虚無』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 『なにもない』 

 

   

 

 

  

 それだけだった

 

 

 

 

 

 

 くらう ということいがいの

 

 

 こうどうができない

 

 

 たったひとりのこった

 

 

 

 

『虚無』。

 

 

 

 

 

 『なにをすればいい』

 

 『なにをかんじたらいい』

 

 『わからない』

 

『わからない』『わからない』 

 

 

 わたしには 『なにもない』

 

 

 

 

 

 

わたしは

 

 

 

からっぽだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひかりがみえる

 

 

 

 

 

 

あぁ

 

 

 

 

 

 

 

なんてまぶしいんだろう

 

 

 

 

 

 

 

イノエラだ。

 

 

 

 

 

イノエラの笑顔だ。

 

 

 

 

ウェルもいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ

 

 

 

 

あぁ

 

 

 

 

あぁこんなにも

 

 

 

 

 

何もない私を、こんなにも必要としてくれる者たちがいたなんて。

 

 

 

 

初めて、海を見た。

 

――忘れられない景色ができた。

 

 

 

始めて、聖遺物以外のものを喰らった。

 

――忘れられない味ができた。

 

 

始めて、歌を歌った。

 

――忘れられない夢ができた。

 

 

始めて、他者の腕に抱かれた。

 

――忘れられない温もりができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――私には、いや、私という意思である(ネフィル)に、『過去(おもいで)』と呼べるものができた。

 

 

 

 

護りたい。

 

 

このあったかいものを護りたい

 

 

あったかくしてくれるものを、護りたい。

 

 

 

この優しい『人間』たちを、護りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <煉獄は氾濫す。我が夢幻よ、方舟となれ(אבא, למה אתה עוזב אותי)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!!」」」

 

 

 呟いたのは――まるで聞いたことのない言語。

 

 『聖詠』にも似た、決定的な何か。

 

 その声は、まるで、何かを、

 

 冀うようで──

 

 

 

「……なッ!?」

 

 眩い光が、彼女を包む。

 

 

 

「―――飛んだッ!?」

 

 光は、宙にあった。

 

 

 

 その輝きは、太陽か――違う。

 

 

 月か――違う。

 

 

 

 

 中天に輝くそれは。

 

 

 近づいてゆくそれは。

 

 

 

 

「────流れ、星……」

 

 

 

 

 私たちの立つ所に向かって、降り至る。

 

 

 

「―――伏せろッ!!!」

 

 

 

 衝撃波が、世界を包む。

 

 

 

 

「うッ!」

 

 

 黒い粒のようなものが、顔にかかる。

 

 ノイズだ。

 

 ノイズだった炭の嵐だ。

 

 

 

――風が吹く。

 

 劈く暴嵐が、切り刻むように全身を襲う。

 

 

 風圧に負けじと瞼を開けば、今にも押し寄せようとしていたノイズの大群は、すでにその存在を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「―――!!」

 

 

 

 代わりに居たのは。

 

 

 

 

 

 

「――あれはッ!?」

 

 

 

 

 

白い、巨神。

 

 

 

「ネフシュタンの……鎧ッ!?」

 

 

 

白い、無数の『蛇が絡み合ったような』翼。

 

 

 

全身が、白い。

 

 

ただただ、『白』。

 

 

それ以外の色がない。

 

 

 

――そして、

 

 

「――顔が、ない?」

 

 

 

ただ、牙だけが見える。

 

 

口に相当するその部分しかない、相貌。

 

 

 

 

 

『……護る』

 

 

 

その口が開かれ、

 

 

地獄の底から聞こえるような、沈み切った、いつか聞いたあの、声。

 

 

 

『私が――護る』

 

 

 

 

 

 

 

 

『人類を、護るッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 気配に、振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから―――クワセロ』

 

 

 

 

 

 

 白の鎧に、朱が差した。

 

 

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