あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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ずっとそばにいたって伝えたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ッ!!

(ダメか……ダメなのか!!)』

 

 ひとりでに動くイノエラと私の脚、なんとか私の意思のもとに戻そうと力を籠めるが、まるで意味を成さなかった。

 

「……!!……!!」

「──立花ァアアアアアアアッ!!」

 

 目にも止まらぬ速さ。風鳴翼が、大きく肥大した剣を携え怒号のような叫びと共に私のもとへ迫り来る。

 

「来た来た来たキタァーッ!!

("ネフシュタンの翼"発現ッ!!

さぁ捕らえてしまいなさいッ!!)」

 

 突如、私の背の、紫の翼に見えていた物が枝羽を展開して孔雀の尾羽のような形態へと変わる。そしてそれらの一本一本が、先ほど立花響を刺突した蛇状のものと同じ姿となった。

 

 視認できただけでも、20本は優に超えているだろう鎌首の数。……身に覚えのない、この能力。おそらくはウェルがLiNKERに含ませたと言っていた新しい聖遺物の影響か。

 それら蛇たちが、私の意思と関係なく、私の背から生え、ひとりでに蠢きうねる。

 

『(なんだこれは……なんなのだこれはぁッ!?)』

 

 声も上げられないこの身では、それら鎌首は只々恐怖の塊でしかない。……声なき悲鳴が意識の中で木霊する。

 

「ィヨイショーーーォッ!!」

 

 なぜか、ウェルが声を上げたと同時。蛇たちが大剣を振りかざした風鳴翼へ向け飛び掛かった。

 

「♪――そのような搦手ッ!」

 

 ――逆羅刹――

 

 しかし、彼女は纏ったシンフォギア、その脚部よりプロペラ状の刃を展開。牙を剥く紫蛇の悉くを、疾風と共に薙ぎ払っていく。

 

「チィッ!!」

 

 ……流石はイノエラの憧れた、至高の歌女の一人。

 歌だけでなく、戦闘においても強かとは……おぉ、恐怖が退いていく!

 なんと!美しさは元気をも与えてくれるのか!!

 

「まだです……まだデュランダルがあるッ!」

「――ッ!よそ見してんじゃねぇぞッ!!ッらァ!!」

「危なァい!?……おぉんのれイチイバルゥ!!のいずのいズノイズゥウウゥア!!」

 

 ウェル、あの怒れるの様子では、流石に我が身の異常に気付いていないか……

 声も上げられんことには、この、"自分の意思で肉体を動かせない"という危機的状況をどう伝え…ッ!

 

「……うっらぁああ!」

 

――立花響!!

 起き上がっ……うおォッ!?

 

「(あんのバカ……へッ、流石にあの程度じゃくたばんねぇか!)

……おらそこォッ!」

「オォうッ!させま……ぎゃんッ!」

「……今だッ!」

「(まずいッ!杖がないとノイズとネフィルの操作が!!)……のぉおおおッ!!」

「……ッチ!」

「ふっはハハハ!!残念!!

 贅肉の差ですッ!!」

「無駄に速ぇ……クソッ!」

 

 殴り飛ばされながら、雪音クリスの杖を奪おうとする手をくねりくねり避けるウェルが視界に映る。

しかし無理な体の動きをしたせいか躓き態勢を崩してしまう……が、雪音クリスに拾われる寸でのところで拾いなおし、難を逃れていた。

 

「立花ッ!大事ないか!?」

「けほっ、大丈夫ですッ!」

「……よしッ!」

 

 と、声のした方を見たれば、風鳴翼が立花響を抱き起している。

 そして彼女はウェルの方へ、立花響は私の方へ、それぞれの戦いへと舞戻った。

 

『(……美しい)』

 

 ほんの少しの会話で、まるで全てが通じ合ったかのよう。惚れ惚れしてしまうほど、この二人は()()()()の仲だった。

 ……それもそのはずか、あそこでウェルの召喚するノイズを撃ち払っていく雪音クリスも含めた彼女たちは、イノエラと私が生まれるより前、ルナ・アタックで共に戦った間柄なのだというからな。コンビネーションが出来上がっているのも当然だろう。

 

『イノエラと私も、やがてはマリアたちと……ッ!?』

 

 声が、声が出せる!?

 

『……出せたぞ!!』

 

 縛られている感覚も……消えた!!

 

「いい加減、遊ぶのも飽きてきました……」

「「!!」」

 

 ウェルが、細長い鳥のようなノイズを召喚。風鳴翼と雪音クリスをいっしょくたに何やら粘着質な白いもので拘束しているではないか。

 

『……ッ!?』

 

 よそ見をした一瞬、再び肉体を拘束する感覚が襲来した。

 

『(これは……なぜまたッ!?)』

 

 そして背中の蛇が一本、風鳴翼と雪音クリスのもとへと奔り、鎖のように巻き付く。

 

「翼さんッ!!クリスちゃん!!」

「ほっとけッ!!」

「……!!」

「私たちのことはいいッ!」

「おめーはまずそいつをなんとかしろ!!」

「………うんッ!!」

 

 駆け寄ろうとした立花響を、二人が一喝。

 立花響はぐッと口を結んで私に向き直った。

 

「フン、大した信頼関係ですねぇ。……ま、しかしこうして僕に捕まってしまった以上、そう大したものではなさそうですが」

「知ったような口を利くな!下郎!!」

 

 風鳴翼が、剣吞を纏う。

 

「わぁーお、ゲロー!!初めて聞きましたよその日本語!」

「……ッ」

「おいメガネ」

「……?」

「後ろにゃ誰もいねーよ!!おめぇに訊いてんだよッ!!」

「はぁ」

「こんの……ッ!」

「乗せられるな雪音!

 ……思う壺だぞ」

「……悪ぃ」

 

 飄々と自分たちを小馬鹿にするウェルに、冷静さを失わず仲間を窘める風鳴翼。

 大したものだ。切歌だったら今ので大怒りしてウェルに殴りかかっていたところだったぞ。

 

「はぁあああッ!!」

『(……ッ!!)』

 

 殴りかかる立花響の拳を、操られるイノエラと私の肉体がいなす。

 

 防御の意思を持たずに勝手に戦うこの体。思考と戦闘が乖離する奇妙な感覚の中で、ウェルと風鳴翼、雪音クリスの会話が波を打つように耳に入る。

 

「……あの二人はどこ行ったんだよ」

「二人?……あぁ暁くんと月読くんですか?」

「あの二人は謹慎中です。勝手な行動を取ったヴァツ!としてね……だからこうして僕が出張ってきているわけですよ」

 

 のらりくらりとハブらかすかと思いきや、素直に質問に答えるウェル。

 

「でもまぁ、こうしてウチのネフィルと、そこの立花響を水入らずで戦わせられる状況に持ち込めたので、結果オーライですがね」

「……先ほどの話の続きを聞かせてもらおうか」

「というと?」

(とぼ)けるな!!……"デュランダル"と"ネフシュタンの鎧"まで掘り起こし、何を企てるッ!F.I.S.!!」

「企てる?……人聞きの悪い!!

この武装組織『フィーネ』の目的はただ一つ!!」

 

 ウェルは天に輝く月を指さし、声高に宣う。

 

「『人類の救済』ッ!!

月の落下により損なわれる……無辜の人々を()()()()()救い出すことだ!!」

「「「!!!」」」

《―――なんだとッ!!??》

 

 いつかどこかで聞いたような男の声が、立花響のシンフォギアより漏れ聞こえる。

 ……やはり、その上位者も含めた彼女たちは知らなんだか。この世界を蝕もうとする真実(さいやく)を。

 

「馬鹿な……月の動向は各国機関が三か月前から計測中ッ!落下などという結果が出たら黙っているはずが――」

「黙ってるに決まってるじゃないですかッ!!」

「……!!」

「対処方法の見つからない極大災厄など!!公表したところで大パニックは必然ッ!!」

「そんな……嘘、ですよね……?」

「嘘なものですかッ!!

フフン……ここで問題です!

そんな大変な真実を知ってしまった各国の有力者たちが我先にと取るであろう行動、はてさてなぁんでしょ?」

「……『自分だけは助かる方法を探す』」

「そう!!自分可愛さに責任ある者が責任を放り投げ!!何も知らないほとんどの人類を見殺しにする!!

……不都合な真実を隠蔽する理由など、いくらでもあるのですよッ!!」

「……そういうことかよ!!」

 

 怒りを露にする雪音クリスと、苦虫を嚙み潰したような顔でウェルを睨む風鳴翼。

……そして。

 

「いつ……いつなんですか?

いつ月は、落ちてくるんですか!?」

「さぁ?来年か再来年か……はたまた一週間後か……いや、明日でしょうか?」

「はっきりしやがれッ!!」

「縛られてるくせに偉そうに……フンッ!!」

「あぅッ!」

 

 ウェルは徐に雪音クリスの方へ近づいたかと思えば、その狭い頬をぺしりと叩いた。

 

「クリスちゃんッ!」

「……貴様ァ!」

「おぉっと!フフ……噛みつこうとするなんて……育ちの良さそうな顔して豪快ですねぇ!僕好みだッ!」

 

 駆け寄ろうとする立花響を、紫蛇がひとりでに動き拘束。

とうとう本体のこの肉体は勝手に動くことすらしなくなった。

 

「ですがご安心をッ!!

――見なさいッ!!このネフィルをッ!!」

「何……?」

「彼女こそ、月の落下という洪水から人類を救済する方舟、その核となる存在……この僕の造り上げた人類守護の女神、『ネフィリム・シンセジスタ』ですッ!!」

 

 ウェルが、私を指さし熱く燃えるように語り始める。

 

「災厄より逃れ、逃れた後迷える人類をを導く『英雄』ッ!

そしてその英雄と人類を祝福し、来たる新世界の柱となる『女神』ッ!!

 ネフィリム!デュランダル!ネフシュタンの鎧!ソロモンの杖!!現存する聖遺物たちはここに一つと結集し、『英雄』と『女神』の力となったッ!!……あとはそう……」

 

 

 杖で指さすは、立花響。

 

 

「君の心臓だぁけ……」

 

 

 左腕より、黄金の剣が、勝手に伸びる。

 

 

「おや、やる気ですねぇネフィル!

ここで捌いちゃうんですか?」

 

 ──いやだ。

私の意思でないと、いやだ!

 

「(なぁんて、僕が杖でそうさせてるんだけど……)」

 

 

 ──いやだ!

 私の意思を、無視しないでくれ!!

 

 

 

 こんな形で完成しても!真にウェルたちの望む女神にはなれない!!

 

 こんな形で女神になっても!!誇りをもって人類を護ることなどできない!!

 

 

「行けぇネフィルゥ!!

今日が君の新しい誕生日だァッハハハハハ!!アーーーッハハハハハ!!!」

「ぐッアアアアアアアアア!!」

 

 切れろ!切れてくれ!!

 立花響を放してくれ!!蛇よ!!

 

 

「立花……立花ァアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 ウェル!!

 

 マリア!!

 

 切歌!!

 

 調!!

 

 ナスターシャ!!

 

 誰か!!

 

 誰でもいい!!

 

 

 

 

 私の意思を抑圧する者に、抗う力を――くれ!!

 

 

 

「……ん?」

 

 

――そう、冀った瞬間。

 

 

『…………はッ!?』

 

 私の意思を縛っていた、絡めていた"糸"が消えたような感覚。

 

「ッ……あれ?

ね、ネフィル……ちゃん?」

『動かされる感覚が、消えた……?』

 

 消えた。

 始めから、そんなものなどなかったかのように。

 

 ……先ほど一回自由になったのとは別の感覚……

 

 そうだ。これはまるで

 

 まるで()()が、私を縛る"糸"をほどいてくれたような……

 

 

 

《──大丈夫ですか!?》

 

 

!?

 

 

――この、懐かしい……

 

 

 

《なんだか状況がよくわかんないんですけど……でも!》

 

 

 

 

意識の中で響く、私と同じ声は!!

 

 

 

《とりあえず!ここから先はわたしに任せてください!!――ネフィルさん!》

 

 

 

 

 

 

 

 

『くぉぉ……』

 

 目覚めた意識を目覚めさせるため。

 体の全部に力を籠めて……

 

『っっぱぁーー!!!』

 

 服を脱ぎ飛ばす要領で、腕を伸ばす!!

 

「な……はぁあああッ!?」

 

 ふぅー。いやぁやっぱり気持ちがいいですねぇ!こうすると一日の始まりを感……って夜じゃないですか!?

 

「な……何故だ!?

(何故手を放していないのに杖の支配から逃れているんだッ!?)」

 

 

『……あ、先生!!おはようござ……じゃなくてこんばん……あれ?』

 

 …………わたし、喋れてません?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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