あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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手は繋ぐためにあるんだって、伝えたかった

 

 

 

「……ぐぅッ!!」

『……ッあぅ!』

 

 ――激突の反動。ぶつかり合ったわたしたちは、互いに跳躍。

飛び退いて、相手の目を見て、逸らさないで、再び……拳を構え直した。

 

《イノエラ!》

 

 うぉんうぉんと、頭の中でネフィルさんの声が反響する、ような感覚。

 

『だいじょ……おと、と』

 

 立ち上がろうとして、立ち眩み。膝を折る。

 

《イノエラッ!!》

『だ、だだだいじょーぶです!!……ふぅー』

 

 わたしを心配するネフィルさんの感情(こころ)が、波紋となって意識の海を揺らします。

 

「(互角か……)」

「(あいつ、あのバカの拳に撃ち負けなかったな……デケェ図体は伊達じゃねぇか。

 くそっ、あたしだって……)」

「(待て、雪音)」

「(なんだよ!)」

「(奴があらゆる聖遺物を捕食する能力を持っている以上、アームドギアでの攻撃以外で奴に対抗する術の少ない私たちが応戦したところで、徒に奴の力を増させてしまうこととなりかねない。……私の影縫いも、奴にとっては菓子も同然だった)」

「(そんな……!)」

「(ここは、アームドギアに頼らず戦える立花に任せよう)」

「(……了解)」

 

一旦深呼吸。落ち着きます。

 

『まだまだ……よし!行けますよ!!』

《無理はするな!戦いは私に任せてくれ!!》

『やです!』

《なぜだ!!》

『マリアさんや切歌ちゃん調ちゃんが戦っているのに何もしないわたしは……もう!やなんです!!』

《…………ぐぅぅ》

『……お願いします。ネフィルさん』

 

 先生の、『フィーネ』のみなさんのお役に立ちたい……わたしだって、その思いは同じです。

"ゴクツブシ"って言われているような不安な気持ちは、もうやなんです。 

 

 

《……本当にいいのか?》

『いいんです』

《君の記憶を共有している私にはわかる。

……君は戦闘というものに忌避感があるだろう》

『む……』

 

 確かに……その通りです。

 先生から頂いたタブレットに登録されていた動画配信サイトに数多くあったアクションやバイオレンスを謳うジャンルの作品たち……困難に立ち向かう人たちのなんと痛そうな表情の数々……見てられませんでした。

 綺麗な男の人と女の人があまあまラブラブしているのを見る方がいいです。

 

『でも……いつまでもそんなんじゃダメだって……叫ぶんですよ』

《……何者が叫ぶ?》

『それはもちろん……わたし自身の、意思ですよ!!』

 

 立ち上がり、響さんに向き直る。

 

『はぁッ!!』

「♪――やあッ!!」

 

 連続する、拳打と蹴打の応酬。

 撃って、躱して、受けて、痛がって。

 

《七時方向、来るぞ!!》

『はいッ!!』

 

 ネフィルさんのサポートで、響さんの拳を避ける。

 そしてカウンター。

 当たったけど、効いてないのか、返す拳がやってきて、当たって、でも、返して。

 繰り返す。

 それを繰り返す。

 ずっと繰り返す。

 

 ――歌と打撃音のマッシュアップ、これが闘い。

 

 怖い。

 痛いのが怖い。

 

 でも――わたしがやらなくちゃいけないいです。

 

 それが、わたしの今生きる甲斐だから。

 

「(ええいまどろっこしい!! フン、油断してる隙に特大出力で……)」

『……んぐ?』

 

 ぎちりぎちりと、絹糸のようなものが……わたしの意識の口と感じられるところを、全身を、縛るような感覚。

 

『……むがぁ!!』

 

 もう!!何ですか急に!!

 気持ち悪いですよ!!

 

「――なぁッ!?(ソロモンの支配が無理やりッ!?)」

『……?』

 

 まったく何だったんでしょうか……

 あれ?先生が驚いてますね……なんででしょう?

 

『先生ー、どうしたんですか?』

「!? ……どうしました?イノエラ……

僕のことはいいですから、ほら、決闘決闘!!」

『はぁーい!!

よーし!……ふふん!頑張りますよ!!』

「(……なぁ、今の見たか?)」

「(あぁ。ソロモンの杖をイノエラに向けて、何か良からぬ仕業を行うようだった)」

「(……あの杖に、ノイズ召喚以外の小手先を仕込んでやがると見えるな)」

「(同意見だ。……ウェル博士は雪音に任せる。私はイノエラとネフィルを)」

「(おう)」

 

 さて、気を取り直して……

 

「……イノエラちゃん!」

『……なんです?』

 

 むむ、闘いながらの会話。

初めてのこと、でも頑張ります!

 

「わたしね……今日ネフィルちゃんと会うまでネフィルちゃん……ううん、ネフィルちゃんとイノエラちゃんとは、戦いたくなかったんだ」

『……はい?』

《――なに?》

 

 攻撃の間隔が、互いに弱くなります。

 な、なんでしょう……響さん、急にどうしたんでしょう……もしかして降参……じゃないですよね。ファイティングポーズを解いてないですし。はい……

 

「戦う相手を敬って尊重して、優しく、普通に話しかけてくれた……敵として会った"人"たちの中で、キミたち二人が、初めてだったんだ」

『……そ、そうなんですか?』

「うん。最初はちょっと戸惑っちゃったけど……今はとっても嬉しいよ」

 

 それは……なんというか……

 

『相手を嫌な気持ちにさせないように話すのって、当たり前のことじゃないんですか?』

「――!!」

『そんなこともできないなんて、響さんが今まで戦った人たちってよっぽど悪い人たちだったんですねぇ』

「……ううん」

 

 響さんが、首を振る。

 

『え、違うんですか?』

「うん……確かに、辛い言葉をたくさん掛けられて、打ちのめされた。でもそれは、その人たちにとってわたしには譲れないものがあるからだったんだ」

『……譲れないもの?』

「そうだよ。……人を傷つけてでも、手を取り合うことを放棄してでも『やり遂げたい夢』があったから。だから、立ち向かったわたしたちには、これでもかと強敵だったんだ」

《譲れないもの……やり遂げたい夢……》

『あります』

「……だよね!」

『わたしたちにだってありますよ!

あなたの心臓を食べて、先生を……人類のみなさんをお守りするって夢が!!』

 

 そしてもちろん先生に歌と踊りを見て笑顔になってもらうことも!!!

……恥ずかしいので言えませんけど……。

 

『でもだからって響さんたちをいたずらに傷つけたりしません!正々堂々、こうして決闘で果たしあってるんですからね!』

「……それだよ!」

『……え?』

 

 背中の蛇さんたちを飛ばして、響さんを掴もうとするも避けられて、何が何だかわからない言葉の数々。

混乱しないように、頭を振って、蛇さんを飛ばし続ける。

 

『……速い……!!』

《なんという反射神経……!》

「それ……とッッてもすごいことなんだよ!!二人とも!!」

『……わけがわかりません!!』

「強い願いを持っていて、それを阻む相手に会ったとして……それでも優しさを前面に出して話し合える……それができる二人は、とってもすごいんだよ!!」

『すごいから……なんだっていうんですかぁ!!』

「そんなすごい二人だから!!」

 

 蛇さんたちを置いてけぼりに、飛び上がる、響さん。

 

《!!……防御だ!!》

『はい!!』

 

 来たる衝撃を和らげるべく、腕を交差し、臨む。

 

 

「――わたし、キミたちと友達になりたいんだ!!」

 

 

『《!!!!》』

 

 とも……だち……

 

 

『わたしたちが……』

《君の……?》

 

 

 ――ネフィルさんの記憶を通して感じた、響さん。

 

 真っすぐ見据えた、きれいな瞳。

 とってもカッコよかった。

 

 そして、わたしと同じ、聖遺物との融合症例……

 

 

 ――憧れなかったと言えば、嘘になる。

 

 

 

「闘うしかなかったわたしたちだけど……」

 

 

 腰のあたりが燃えたと思ったら、すごい速さで飛んでくる響さん。

 

 

未来(あした)を奪い合うしかなかったけど……」

 

 

 ――右手の籠手が、大きくなって、伸びて。

 

 

「わたしは、それでも優しいまま言葉を掛けてくれた二人と……手を繋ぎたいから!!」

 

 

 ――身体が、回って。

 

《ネフシュタンが通じない……なら!》

 

 左手に黄金の剣(デュランダル)

 

 

「――わたしの!!ハートの全部!!この拳に込める!!」

『だったらわたしたちも!!』

《持てる力の全部を!この剣に込める!!》

 

 

 

 

 ――拳と、剣。

 

 火花。二つの黄金が、衝突する。

 

 

 

「あぁあああああああああああああッ!!!」

『《はぁああああああああああああああッ!!》』

 

 退かない。

 退けない。

 負けられない。

 

 先生の為にも――ネフィルさんの為にも!!

 

《イノエラと、マリアたちの為にも!!》

 

 

 

 剣先に、全意識を集中する。

 

 

 

 

 

 ……その中で、ネフィルさんの意識と完全と同調する中で、わずかばかりの(ずれ)が聞こえた。

 

《遅れてしまったが……おめでとう。イノエラ》

 ――なんですか突然……今大事なところですよ?

《すまない。こうして君と強く繋がれている今こそ、伝えておくべきだと思ってな》

 ――いいですけど……なにがおめでたいんですか?

《それはもちろん――》

 

 

《声を、ずっと欲しがっていた歌を、君がようやく得られたことさ》

 ――あ……

 

 そうでした。

 ネフィルさん、ずっとわたしの声のこと、気にして……

 

《おめでとう》

 ――……はい

《君が、ウェルに歌を聞かせるときは、今日私があの大会で得た教訓を生かしてくれるととても嬉しい》

 ――もちろんです!……でも

《でも?》

 ――こんなときにそんなこと言われちゃったら……わたし……わたし……

 

 

「――立花の拳がッ!!」

「デュランダルの剣先を……砕いてやがる!!」

「ば……バカな!!不滅の象徴を!!ただのグーパンでッ!?」

「ハッ! ばーーーか!!」

「ァアン!?」

「ありゃぁただのグーパンじゃねぇのよ……あれはな、この世でただ一つの、立花響の拳なんだだ」

「それがぁッ!?」

「道理も理屈も関係ねぇッ!!あれに貫き通せねぇモノなんざ……この地球上に存在するものかよッ!!」

「常山蛇陣ッ!!鋼と砕け!立花ァーーッ!!」

「や……やめろォーーッ!!やめてくれぇェーーーッ!!」

 

 

 ――嬉しくって……満足して……

《イノエラ……イノエラ!!デュランダルが!!》

 

 

 ――生きててよかったって……泣きたくなって……力が、入りません……!!

 

 

「――いっけぇええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 あ。

 

 

 ――ほっぺが、痛いです。

 

 

「「やった!!」」

「うわあぁああああ!?」

 

 

 

そっか……

 

出せる力、全部、届かなくて。

 

 

《ぐあッ……あぁ!》

 

 

 

わたしたち、

 

 

 

《う……イノエラ……》

 

 

 

 ――大丈夫ですよ、ネフィルさん。

 

 

 

《私の……せいだ……すまない……》

 

 

 違いますよ。わたしが、弱かったから。

 

 

《いや……わたしが、あの時、欲望を抑えて踏みとどまってさえいれば……!》

 

 

 でもわたし嬉しかった。

 

 

《イノエラ……!》

 

 

 他でもないネフィルさんに祝ってもらえたのが、とても嬉しかったんです。

タイミングが悪くて、先生には祝ってもらえなかったから……なおさら。

 

《でも……!!》

 

 後悔なんてないですよ。

 出し切れたじゃないですか。私たちの全力。

 ほら、外骨格が煙と消えて、普段のわたしの姿に戻っていくのがわかります。

 

 

 あぁ。

 

 実感、来ました。

 

 

 

 ――決闘、負けちゃったんですね。

 

 

《すまない……すまない…すまない……イノエラ……すまない…!!》

 

 

 ――大丈夫ですよ。ネフィルさん

 

 

《イノエラ……》

 

 

 ――お疲れさまでした……本当に、ありがとうございました。

 

 

《イノエラ……うぅ……ありがとう……!!》

 

 

「……」

「雪音……?」

「……強いよ」

「え?」

「あの頃のあたしより、ずっと、心が強いよ。お前ら……」

 

 

 

「イノエラちゃん、ネフィルちゃん」

『あ……』

 

 響さん……

 

『おめでとう……ございます……』

「……!!」

『これで……晴れてあなたが……人類のみなさんを……お守り……』

「違うよ……」

『え……?』

「イノエラちゃんも、ネフィルちゃんも……"人間"だよ!!」

 

 

 

 

 ……………え?

 

 

 

「話し合って理解り合えるんだもん!!」

『そんなこと……だってわたしたちは……聖遺物を食べないと生きられない……』

「そんなこと関係ない!! わたしが守りたい人たちの中には……二人もいるの!!」

『《!!!!》』

 

 そんな……そんなこと……あるわけない!!

 

『ダメですよ……あなたに負けてしまった時点で、もうわたしたちに守られる価値なんて……』

「あるよ!! だって……わたしが守りたいんだもん!!」

『!?……………それだけの、理由で!?』

「そうだよ!!それ以外の理由なんて必要ないよ!!

人が人を守りたいって気持ちに、大切な人を大切にしたい気持ちに『理屈なんてない』ッ!!」

《……!!》

 

 理屈なんて……ない……

 

「月が落ちてくるなら、落ちてこないようにする……二人が聖遺物なしで生きることができないなら、それもなんとかする……どっちも大変かもしれない……でも、守ってみせる。人類(みんな)を、人間(ふたり)を!」

 

 

 

 

 響さんから左手が、差し出された。

 

 

 傷だらけだけど、きれいな手。

 とても、輝いて見える。

 

《なんと……美しい手だろうか……》

 

 

 

 この手………わたしは……

 

《私は……》

 

 

 

 

「力になりたいんだ!!

……友達のピンチ、ほっとけないからね!!」

 

 

 

 

 あぁ……わたしのことを

 

 

《私のことを》

 

 

 友達だって

 

 

《人間だって》

 

 

 

 そんなこと言われたら

 

 

 

 

   ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 わたしは。

 《私は。》

 

 

 

 英雄(立花響)の力を、得られるのなら――― 

 

 

 

 その手の、温もりを―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうやって君は、人を守るとウタうその拳で、もっと多くの誰かを……無邪気にぶっ殺していくわけですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 目が、何か

 

 

 布みたいなのに覆われて

 

 

 

《イノエラ……!!

これは……この感触は!!あの時の『意思』!!ど――》

 

 

 

「立花響。君は危険すぎます」

 

 

 

 

 

 ――あ、口に何か

 

 

 

 

 

 

「………え?」

「うちの大事な女神に、いらない夢を……魅せるんじゃぁないッ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――え?

 

 

 

 

 

「逃げろ……逃げろォおお!」

《吐き出せ……吐き出せぇええええええ!!イノエラァアアアアアアアア!!》

 

 

 

 

 ――柔らかくて、時々固くて甘い……

 

 

 

 ――食べにくいなぁ……あ、切れた。

 

 

 

 

「立花ァアアアアアアアア!!」

 

 

 

 ――! この味、もしかして……

 

 

 

 

 

「あ……あぁ」

 

 

 

 

 

 ――りんご飴だ!!

 

 

 

 

 

 

「あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「行ったァアアアアアアアア!!!パクつけた………♡

これでェエええええええええええええ!!!」

 

 

 

 ――美味しい……美味しい……こんな、こんな美味しいもの…………今まで食べたことない……!!

 

 ――あれ?そういえば何か聞こえるような……よく聞こえないですね……口以外が急によくわからなくなって……でも……

 

 

 

 

「僕譲りの精神力が阻害していた杖の支配も、立花響に負けてくれたことでボッキリ折れてェ!!すんなり受け入れてくれたなぁ!!……おかげでェ!!こうして再びお前たちを操れるようになったァ!!」

 

《そんな……嘘だ……ウェルが……そんな……お前が私たちを……》

 

「ブフフハハハハハハハハハ……アーーーハハハハハハハハハハ!!!!アーーーーッ!!アーーーーハハハハハハハハハハ!!!」

 

《嘘だァアアアアアアアア!!!》

 

 

 

 

 

 ――今は、これを食べたいから……いいや!

 

 

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