あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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わたしは一人じゃないって、伝えたかった

 

 

 

 イノエラの中のネフィリムが覚醒してから、一週間が経過した。

 

「!……!……!!」

「はいはいちょっと待っててくださいね」

 

 収まりきらない飢餓衝動に苦しむ彼女は、こうして日がな一日僕に縋りついて聖遺物を求める。

 

「そら、よく噛んで食べるんですよ」

「ーーーッ!!」

 

 求めるままに与えるうちに、F.I.S.から持ち出した聖遺物は早くも底を突こうとしていた。

早急に手を打たなければ、きっと飢えたこの子は手始めにギア所持者である戦闘担当の三人に牙を剥くだろう。

それは今時点では避けたい。フロンティアを起動させるまでは、あの三人にはちゃんと働いてもらわないといけませんからね。

 

「――ドクター」

「どうぞ」

 

 ナスターシャが何の用か、僕の研究室へと足を入れた。

 

「……!!」

「どうかしましたか、教授」

「……いえ」

 

 ふん、どうやらこの子の食事風景はご老体には些か刺激が強すぎるよう。

まったく、こんな調子で計画遂行まで保つのやら。

……まぁ本音を言えば?さっさとくたばってくれると僕も仕事が減って助かるのですがね。

 

「これよりフロンティアへの視察に向かいます」

「あぁ、それでしたか」

 

 イノエルとは別の、僕たちフィーネの計画の要。フロンティア。

その起動前に、『神獣鏡』の光の照射座標の調整などで視察を行う必要があった。

 

「でしたら、留守番がてらにこの子の食糧調達の算段を付けておきますよ」

「よろしくお願いします。では、調と切歌を護衛に就けましょう」

「……おや、いいのですか?」

 

 護衛ねぇ……その言葉、もしかして『監視』って意味で遣ってますぅ?

 

「僕としてはそちらに戦力を回していただいた方が気が休まるのですが」

「………」

 

 フフッ、露骨に警戒してくれますねぇ。 

ま、いいですけど。それならそれで別のやり方でいくまでのこと。

 

「いいでしょう」

 

 ほぉ。

 

「予定時刻には帰還します。……では」

 

 ドアの閉まる音を最後に、再びイノエラの荒い租借音だけが残る。

しかしそれもすぐに遠くなり、やがて静寂となった。

 

「……イノエラ」

 

 イノエラはびくりと肩を揺らし、涙を湛えた目で僕を見る。

 

「その苦しみを抑えられる装置は、直に完成します。それまでの辛抱ですよ」

 

 そのまま、声も上げずに彼女は泣きだした。

 

「大丈夫、君は強い子です。なんてったって、この僕とネフィリムのDNAを掛け持っているのですから」

「……(こくん)」

 

 膝に乗せ、背中を擦ってやる。

するとやがて、イノエラはゆっくりと眠りに落ちていった。

 

「……ふぅ」

 

 いやはやなんとも……

 

「わかっていたこととはいえ、疲れるなぁ」

 

 まぁ、それも今のうちですがね。

 

「あとは実戦データを取るのみ……」

 

 PCの画面に映し出された成分表を再度チェック。

 

《 LiNKER GENETIC-HIGH BINDED 》

 

「ANTI-LiNKERと拮抗した場合も兼ねて、今日で全てのテストは終わらせたいところですが……さて」

 

 撒いた餌に獲物は掛かってくれるでしょうか……

 

「早く使いたいなぁ……『G-LiNKER』」

 

 

 

 

 

――エラ

 

 

どこからか、声がします。

 

聞いたことのあるような、ないような

 

でもどこか心当たりのある……

 

 

 

『イノエラ!』

 

「――ッ!?」

 

目が覚めると、そこは何もない場所でした。

 

「……?」

 

真っ暗で何も見えません。

 

本当に何もない。わたしだけがある場所。

 

すごく……寂しいです。

 

『おい、こっちを見ないか』

 

「!?」

 

ま、また声です!!

 

どこ、どこですか!?

 

『私はここに……あぁ、待て。今もっと存在感を出す』

 

その声の後、突然目の前に『光』が現れました。

 

『どうだ?認識できたか?』

 

この光は……そうだ!

 

『やっと気が付いたか』

 

「ピカピカちゃん」!!

 

『そうだ。実は折り入って君に伝えたいことがあ……!?』

 

 ……ありゃま、素早い!

 

『何をする!』

 

 じっとしててください!

 

『やめろ!掴もうとするのはよせ!!』

 

 えぇ……

 

『手を下ろせ!今すぐ!』

 

 ……どうしてもダメ、ですかぁ?

 

『ダメだ!なにか、なにか怖い!』

 

 はぁ……わかりました、諦めます。

 

『全く……君は自分の欲求に正直だな。』

 

 えへへー、先生にもよく言われます!

 

『……まぁ、それもきっと私のせいなのだろうが……』

 

 ? それは一体どういう……

 

『そのままの意味だとも』

 

 ――ピカピカちゃんが上下に揺れます。

 

『まず、私はピカピカちゃんではない、私の本当の名は――』

 

 ――息をのんで、見据えます。

 

 

『私の名は《ネフィル》。群体の《ネフィリム》ではなく、個となってしまったゆえに《ネフィル》だ。』

 

 

 ネフィル……ネフィリムって……え、うそぉ!!

 

『嘘ではない!

でなければ君が苦しむこともなかった』

 

 え、でも確かにわたしはネフィリムという聖遺物をこの身に組み込まれ生まれ落ちた者で……はい?……苦しむ?

 

『あぁ。第二に伝えたいのは、君が常に空腹感に苛まれるのは――』

 

 ――光が、だんだんと強まっていく。

 

『君の思考回路が我らネフィリムの共通本能に侵されてしまった影響なのだということだ』

 

 影響……?

 ピカピカちゃんの、ネフィリムさんの?

 

『ネフィルだ。もはや私を構成する集合意識に私以外のネフィリムは存在しない。今の私は完全なる個なのだ』

 

 じゃあネフィルさんのせいで、私はお腹が空いて空いて仕方なくて、先生を困らせてしまったと……そういうことですか?

 

『あぁ。私が目覚めてしまったせいで本当に申し訳なく思う』        

 

 なんだぁ……

 

『君の怒りはよく――』

 

 じゃあ誰のせいでもなく、あなたを受け入れたわたしの責任だったんですね!

 

『――なに?』

 

 え、だってそうでしょう?

 

 ネフィルさんの腹ペコは自分じゃどうしようもないもので、そんなあなただって気付きもしないで受け入れてしまったんだから……

つまり全部わたしが悪いんじゃないですか!

 

『それは……それは違う!君にこの飢餓衝動を引き受ける義務も責任もない!

全ては意思薄弱だった私が欲望に抗えず君との融合を強めたせいで――!』

 

 みなまで言わない!!

 

『な――!』

 

 わたしがいいって言ったんだからいいんです!

 

『それでは君はずっと――!』

 

 遠慮しないでください!

 

『私のせいで苦しみ続ける生を送ることに!』

 

 どんと来いですよ!

 

『……なぜだ。なぜ……なぜなんだ!!』

 

 わたしたちが同じ体の同居人だからです!!

 

『!!』

 

 わたしたちは同じ、先生に生み出された、正真正銘の一心同体だからですよ!!

 

『……そうか』

 

 ――強く明滅していたネフィルさんは、ゆっくりとその輝きを柔らかいものに変えていきました。

 

『強いな……羨ましいほどに』

 

 羨ましい?……私が?

 

『あぁ……私のような自分の本能にすら逆らえない弱者にとって、君はとても、輝いて見えるのだ』

 

 いや、いや……わたしは、わたしのような泣き虫で先生を困らせてばかりの者がそんな立派な……

 

『謙遜……か。それもまた輝きだ!』

 

 は、はぁ……

 

 ――ネフィルさんが、回るように上下に揺れる。……嬉しいって、ことなのでしょうか

 

『そして最後に……』

 

 最後に?

 

『この至らぬ私でも何か、君の役に立ちたいと思うのだ』

 

 え、それって……

 

『君が望むことなら、何でも叶えてみせる』

 

 わたしの……望み……

 

『何かないだろうか』

 

 あ、あります!!

 

『なんだ!?』

 

 ………声を!!

 

『!!』

 

 声です! 声が欲しいです!!

声さえあれば、私でもツヴァイウイングのようなアイドルになれます!!

 

先生にも、マリアさん切歌ちゃん調ちゃんに教授や、きっともっとたくさんの人に、

 

わたしの心を、伝えられます!

 

……だから!

 

だからわたしに、声をください!!

 

 

 

『……そうか』

 

 !!

 

『わかった。君に声をあげよう』

 

 できるんですね!

 

 

『ただし――今は無理なのだ』

 

 

 …………

 

 …………………え?

 

 

『君と私の融合深度が、君に声を返すのに、まだ足りないのだ』

 

 

 ……かえす?

 

『実は君の声は、私との融合の影響で君の神経支配から外れて、私が司る領域で眠っている状態にある。

その支配を君に譲渡するのに君との……そう、《距離》だ。距離が遠いのだ』

 

 …………そ、そんな

 

 それじゃあ、わたしは、わたしの、夢は………

 

『――だが諦める必要はない!!』

 

 ……!!

 

『あと少し……本当にあと少しで届く!!

なにか、なにか我らの融合を強める何かがあれ……ば……』

 

 !! ネフィルさん!?

待って!まだ、まだ話したいことがいっぱいあるんです!!

 

『時間……切れ…か…すまない……あとは……君の……先……せ――――……

 

 

 

 

―――ネフィルさああああああああああん!!!

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 ここは……

 

「おや、お目覚めですか」

 

 先生!!

 

 じゃあ、ここは……

 

「……どうしたんだい?」

 

 えっと……大丈夫です……

 

――という意味を込めて、首を横に振る。

 

「そうですか……ふむ、まぁ問題ないでしょう」

 

 何かを少し考えた後、先生はわたしに向き直ります。

「起き抜けで悪いんですが、ちょっと僕と一緒にお客様の相手をしてほしいんです」

 

 お客様……?

 

 先生も指さした監視カメラの映像、そこには。

 

「あそこの彼女たちです」

 

 翼様!!

 それにあの時のオレンジと赤の人!!

 

「彼女たちはこれから始めるある実験のお手伝いさんでして。その実験というのが――」

 

 そう言って先生は、ポケットから何かを取り出しました。

 

「この春の新作……《G-LiNKER》のテストなんですよ!」

 

 !!

 

 LiNKERって……まさか!!

 

「ふふッ……そう!!

遂に完成したのですよッ!!

君の、君だけの、最高のLiNKERが!!」

 

 

 人間と聖遺物を繋ぐお薬……LiNKER

 

 わたしだけの特別版……

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あと少し……本当にあと少しで届く!!

なにか、なにか我らの融合を強める何かがあれ……ば……』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おぉッ!?」

 

 

 ……ありがとうございます

 

 

「フフ……やる気十分、ってところですか?」

 

 ありがとうございます!先生!!

 

 やりました、やりましたよネフィルさん!

あなたの最後の言葉の通り、先生が私の夢を叶えてくれるんです!

 

「では行きましょう!」

 

 ――うん!という意味で頷きます!!

 

「さぁ……楽しい実験教室の始まりです!」

 

 

 

 先生。

 

 

 先生、わたしは、

 

 一番欲しいときに一番欲しいものをくれる

 

 そんな先生が、大好きです!!

 

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