「あーあ……言っ・ちゃっ・た」
ドが付く程にバカ真面目!!
はぁ……大方、精一杯の誠意で以て事を荒立てず、手っ取り早く『覚醒心臓』を口にしようとしたのでしょうが……いやはや。
「中途半端に優しくすれば、かえって人を傷付ける。傷心中の彼女には、殊更深く効いちゃいますねぇ」
真面目故嘘をつけず、欲望をそのまま吐き出すネフィル……掛けるは純真故頼まれたら二つ返事で断れない立花響。
「戦場において、善意と善意の掛け算が導くは、得てしてマイナスの解ばかり……そも、現実とは残酷に残酷なものです」
人でなしが真面目さと美徳を不完全に学んだ結果がこれとは……クク、噛み合わない歯車にも似た歪さが、なん、とも、そそる!!
はてさてこの状況。どう切り抜けますかねぇ、うちのネフィルは。……そして、行くぞ我らが立花響よ。
ギア越しに、胸の痣に触れる。
──どくん、どくんと、
鼓動が、私を生かすために血を巡らす鼓動があった。
「(──なんという、なんという敵を差し向けてくれた……武装組織『フィーネ』ッ!!)」
「(そんな頼み方されたら、このお人好しが嫌だと言えるはずもねぇ……書いた通りの殺し文句じゃねえか!!)」
暗闇においても、はっきりと輪郭を示す
前髪も同様、左目を隠すように胸元近くまで伸びていて、その奥ではくりりと大きな瞳が綺麗な金色を輝かせている。
身長は未来より少し低いくらい。そこからすらりと伸びた肢体は、一糸も纏わぬ生まれたままの──
「む、もとに戻ってしまったか」
そう言ってすぐネフィルさん……『ネフィルちゃん』は、近くにあったロッカーのようなものに掛けられていた灰色の布を、マントのように無造作に羽織った。
肢体は隠れ、口元もまた、布の裾で隠れて見えなくなる。
「失礼した」
あまりにも、あまりにも日常的に、私たちに向かい話しかけるその子。
私たちは、空いた口を塞げずに喉を乾かすばかりだつた。
「……んでだよ」
「?」
「おかしいだろ!!……お前も、あいつらも!!」
クリスちゃんが、全身の全てを使って、叫んで問うた。
「なんで、10年とちょっとしか生きてねぇような子供が戦わされる!!……なんで……なんで」
ここにはいない誰かに、向かうように。
「(この世界はこんなにも……弱い子供を虐げるッ!)」
《融合症例……お前は確かに、自分のことをそう言ったな?》
「あぁ。それも信じられないか?」
師匠が私たちのギアを通して、ネフィルちゃんに問いかける。
《信じる信じないはこの際どうでもいい。重要なのは、お前が誰の命令で、何のために融合症例と生まれてきたかということだ》
「なるほど、当然の疑問だな。もちろん──」
ネフィルちゃんは素直に、
「立花響の心臓を譲渡してくれたなら答えよう」
要求を曲げずに突きつけた。
「埒も開かんか……司令、これ以上ここに留まるのは」
《くッ……》
師匠の歯が軋む音が、ギア越しに伝わる。
《すまないお前たち。この距離では、流石の俺も間に合わん……》
「いいからそこで司令してろよ。まだノイズがいるかもしんねぇんだしさ」
声の沈む師匠をクリスちゃんが優しく諭す。
「──話は済んだか?」
そして、再び存在感を出すネフィルちゃん。
私は、今度こそ目の前のその子に、視線を合わせて向き合った。
「私の心臓が……あなたの"未来"っていうのは、どういうことかな?」
『正しくは、私と私に肉体を貸してくれているこの少女の未来だ。私たちはお前の心臓なしに──ぐぅッ!?』
「「「!?」」」
突然、『ネフィルちゃん』はお腹を抑えて蹲る。
深い苦しみを讃えた彼女の瞳、その金の瞳孔が、紅い、紅い三日月模様を輪郭として輝きだした。
『──すまない、意思を得た私であっても、この底無しの飢餓衝動は耐えかねるのだ。──本能とはどうしてこうも度しがたい!』
食い縛る歯を見せながら、ネフィルちゃんは床に臥せる。
私の、心臓。私の心臓があれば、この子を、ネフィルちゃんを……
「立花ッ!!」
はっ、と。
翼さんの呼ぶ方を見る。
「駄目だ……それだけはいけない。お前の命は、お前だけの物ではないと、既にその身が知っているだろう」
……そうだ。この心臓は、
──生きることを、諦めるなッ!!
もう、私だけの物じゃないんだ!!
「……ごめん」
「? 何故、謝る」
「本当に、ごめん」
向き合って、伝える。
「この心臓だけは、渡せない。私の、私の命を助けてくれた人が、命を懸けて、くれたものだから」
涙が、涙が出そうでたまらない。
「──そうか」
そんな私にネフィルちゃんは、苦しみに縛る唇の、
「辛いことを頼んでしまって、すまなかった」
角を上に曲げて──笑ったんだ。
「でも!!心臓以外だったらなんとかするよ!!
だから諦めないで他の──」
「───他に手なんてありませんよ」
……なんで
「あなたに与えられた選択肢は二つだけです」
どうして
「この子と戦って喰われるか、戦わずにその身を捧げるか、その二つだぁけ!」
どうしてここにいるの
「さぁ選びなさい。どちらがより、あなたの信じる英雄的美学に則しているかを!!大好きでしょう?自己犠牲!!」
「なんで……」
「それとも自分可愛さに尻尾巻いて逃げますか!?
えぇ!?『ルナアタックの英雄』、立花響ッ!!」
なんでここにいるんですか
ウェル博士