あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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みんな幸せになりたいだけだと、そう伝えたかった

 

 

 

 「なんであんたがここにいンだよ……ウェル博士!!」

 

 二週間前。

 

 私とクリスちゃんは『ソロモンの杖』の護送のための護衛として、彼と共に死線を潜り抜けたことがあった。

 

 最初に抱いた印象は、『人当たりのいい学校の先生』

 どこにでもいる、ただのいい人。

 

 でも……

 

「うひひひ」

 

 目の前のこの人は、違う。

 まるで、まるで……

 

「答えられませんか、立花響。

……いただけないなぁ。それはちょぉっと英雄的にナンセンスですよぉ?」

 

 ──悪魔のような、

 私の、私の今まで生きてきて得たもの全部を嘲笑っているかのような……悪魔の笑みを、浮かべている。

 

「!? ソロモンの杖!?

まさか、あン時のノイズは!」

「あぁこれですか?……単純な話です。

あの時既に、ソロモンの杖はケースには無く、この懐にて隠し持っていたのですよ……無論!」

 

 叫ぶと同時、博士が手にしている杖のり放たれた緑色の光から、無数のノイズが出現する。

 

「ライブの時とここでのノイズも、僕がちゃっかり繰り出してあげたモノです。いやぁこの杖、実によくできたオモチャですよねぇ……」

「……ッッ!!」

「楽しくって楽しくって、用もないのについ召喚したくなっちゃうんですよ、ノイズ♥️」

「て……ッんめぇえええええ!!」

 

 激昂したクリスちゃんがアームドギアを構える、が……

 

「……ッ!?」

 

 まるで重すぎる荷物を落とすように、その手から、アームドギアをこぼれ落とす。

 

「いい加減忘れてそうだから忠告しますと、貴女たちがこの空間に足を踏み入れた時より既に、僕の造った『Anti-LiNKER』が貴女たちの身を蝕ばんでいます。ほら、もう立ってるだけでしんどいんじゃないですか?」

「『アンチ…リンカー』!?」

《──装者の適合係数、著しく下降しています!!》

《このままではギアのバックファイアで、装者の生命に甚大な被害が!!》

《……そういうことか、ウェル博士ッ!!》

「くひっ」

 

 無邪気な子供のように笑う博士、その横に、よろよろと立ち上がるネフィルちゃんの姿が見えた。

 

「──なんだウェル、もう出てきたのか」

「英雄とは、自らが殿(しんがり)となり何かを護り抜いてこそ、認められるものなのですよ」

「そういうものか」

「そういうものです」

「すまない、彼女の心臓はまだ、」

「わかっています。……初陣でハードル高くしすぎましたね、こちらのミスです。素直に謝罪しますよ」

「その気遣いに感謝する」

「……結構。では感謝ついでにもうひとつ頼みたいことがありまして……耳を借りますよ」

「うむ」

 

 そう言って屈み、ネフィルちゃんに何やら耳打ちする博士。

 それにふんふんと頷いた後、ネフィルちゃんは再び私に視線を合わせた。

 

「──フッ!」

 

 臨戦するより先、彼女の腕から超高速で放たれた何かのヒモが、私の首へと巻き付く。

 

「──ッあぁ!!」

 

 次の瞬間、鋭い痛みが脳内を駆け巡った。

 

「立花ッ!?」

 

 目にも止まらぬ速さを以て、痛みと同時、翼さんの一閃のもとそのヒモは切り裂かれた。

 

「貴様、今何をッ!!」

「……間に合いました?」

「紙一重でな」

 

 残ったヒモはネフィルちゃんのもとへと戻り、博士が取り出した試験管のような管に、何か真っ赤な液体を注いでいく。

 

「重畳です。ククククク……綺麗な色だなぁ。流石、ルナアタックの英雄はいいもん食ってますねぇ!」

「~~ッ! ケツが寒くなるようなこと言いやがる!」

 

 あ、あれ……?

 

 なんか、頭がぽーっとしてきて……

 

 あぁ……そっかあれって私の……

 

「ほんの少しばかり、お前から血液を採らせてもらった」

「勝手なことをッ!!」

「承知だ。だが立花響の許可は既に取っていたと判断した。違っただろうか?」

 

 ──でも!!心臓以外だったらなんとかするよ!!

だから諦めないで他の――

 

 ……違くないよ。

そうだね……それが、キミの苦しみを和らげるのに少しでも役に立ってくれるなら……

 

「ううん」

「そうか」

「……へいき、へっちゃらだよ……!」

「──心より、感謝する」

 

 朧気に、頭を下げて礼をするネフィルちゃんの黒い髪の毛が、見えた。

 

「……今日はこれで手打ちとしましょう。そぉれぃッ!」

 

 博士の掛け声とともに、さらにノイズが出現し、一斉に私たちのもとへと走り寄ってきた。

 

「!──待てッ!!」

 

 二人は、ノイズの影になるよう空間の奥へと走り去っていった。

  

「くっ、今のギアの出力では……これしきの数といえど些か……」

「あたしに任せろ」

「雪音……?」

「こういう時こそあたしの出番だ」

 

 翼さんの肩に手を置いて、クリスちゃんは、ニコっと笑った。そして……

 

「──♪」

 

 クリスちゃんの、苛烈に激しくも、女の子らしい可愛らしさを薫らせる『胸の歌』が、再演された。

 

「!! 待て雪──」

 

 

 

 

 ### MEGA DETH PARTY ###

 

 

 

 

「持ってけ全部だぁああああああああああッッ!!」

 

 ギアの腰部ユニットより放たれた無数の小型ミサイルが、向かってくるノイズたちをめがけ飛翔。

 

 爆炎が上がり、爆音がこだまする。

 

やがて煙が晴れて、周囲を見渡せば、密室と化していた廃病院の壁は粉々に破砕されていた。

 

「…………へっ、閻魔様にヨロシク……な」

「雪音ぇえッ!!」

「クリスちゃんッ!?」

 

 ゆらりと、重心が傾いていくクリスちゃんを、翼さんと私でなんとか支える。

 

「おいおい、大げさだろ……」

「大げさなものかッ!!

相談もなしに、勝手なことをッ!!」

「そうだよッ!!三人で力を会わせたらもっとちゃんと……」

「お前血ィ取られたこと忘れたのか……?まだ敵の装者が残ってるかもしンねぇだろ……S2CA(あれ)はこの間みたいに力が有り余ってる時じゃねーとな」

 

 はっと、気づく。

 

「だったら今一番戦えるあんたに任せた方が一番いい。……万全と戦える奴が一人でもいた方が、結果的に全員生き残れる可能性が高ぇからな」

「雪音……お前は、そこまで考えて……」

 

 翼さんは少しばかり目を伏せて、そして、いつもの切れ味の乗った眼光が戻る。

 

「今は助かった。そう言っておく。だが帰ったら、叔父様と朝まで説教だ」

「……へっ、りょーかい」

 

 力強く笑う翼さんと、その肩に腕を任せてふわり、柔らかく笑うクリスちゃんは、まるで十年来の親友のような雰囲気をしていた。

 

《──響君とクリス君は帰投!!

翼は敵組織の捜索に当たれ!!》

「「了解ッ!!」」

《すでに本部はそっちへ向かっている!

まだそう遠くには行っていないだろうが……くれぐれも深追いするなよ》

「心得ています。……立花、雪音を頼めるか?」

「もちろんですとも!!」

「……おぉい!揺らすなって!……うぷ、晩飯を腹ン中で小踊りさせんな」

「ふわぁ!ごめんクリスちゃん!?」

「全くお前たちは……」

 

 

 

 

 

 

 壁だった穴を抜けて、私とクリスちゃんは海面へと浮上してくる本部を目指す。

 ウェル博士とネフィルちゃんを探すのは翼さんに任せて、私たちは真っ直ぐ一直線に海岸線へと向かった。

 

「ごめんねクリスちゃん、なんか目がしぱしぱして……真っ直ぐ歩けないや」

「別に気にしてねぇよ。あたしも似たようなもんだ……それよりも」

「それよりも?」

「あのウェルの野郎のことだよ」

「……最初からだったんだよね。

ソロモンの杖を奪うために、私たちを騙して……」

「これも全部……あの杖を起動した、あたしの責任だ」

「……それは違うよ!!」

「違うもんかよッ!!」

 

 クリスちゃんの叫びが、私の肩を揺らす。

 

「違うもんかよ……いっつもだ!いっつもいっつも……誰かのためにと願うあたしのせいで、別の誰かを傷つける!!」

 

 揺れる。

 

「あたしの起動したソロモンの杖が呼び出したノイズが!!無辜の人たちを殺して回る!!」

 

 ……揺れる。

 

「どうすりゃいいんだ……どうすりゃ、あたしはどうすりゃ贖える……?

このままずっと……ずっとあたしは……!」

 

 私は、私に掛けられるのは。

 

「クリスちゃん」

「……なんだよ」

「それでも……どんなに苦しくても、私は。

私はクリスちゃんに生きていてほしい」

 

 ただの、正直な気持ちだけだから。

 

 

「朝普通に起きて、ごはん食べて、学校行って、ごはん食べて、友達と遊んで……一緒にごはん食べて」

「飯ばっかじゃねぇか」

「……ごはん食べて」

「……おい」

「美味しい!って言って……笑ってほしい」

 

 潮風が、首筋の傷を撫でて、痛む。

 

「私ね……昔、そんな普通のことが、できない時があったの」

「…………」

「怒鳴り声が目覚まし時計だった」

 

 割れた窓ガラスが、枕元に落ちていたあの日。

 

「朝ごはんとお弁当は食べ物を買いに行けないから、取ってあった缶詰め」

 

 誰も、何も売ってくれなくなった。

 

「…………やめろ」

「お父さんはいなくなっちゃったけど……未来と、お母さんとお婆ちゃんがずっと一緒に居てくれた」

 

 抱き締めてくれた。

人の……冷たさと暖かさを知った。

 

「もういいよ!!やめろ!!」

「それでも」

 

 どんなに辛くても。

 

「それでもわたし、今日まで生きててよかったぁ!…って思うんだ」

「……!!」

「諦めなかったから。いつかきっと、きっと元通りになるって信じてたから」

「……。」

「だから……今は私、胸を張って笑えるよ!」

 

 だから。

 

「クリスちゃんもさ、一人で悩まなくたっていいんだよ」

「……」

「私にとっての未来みたいに……クリスちゃんにも、一緒に悩んでくれる人、いる?」

「…………」

 

 ──良い大人は夢を見ないと言ったな…そうじゃない。大人だからこそ、夢を見るんだ。

 

「いる」

「……そっか」

 

 それなら

 

「クリスちゃんも、いつかきっと、胸を張って笑えるよ!」

 

 

 この子は、絶対幸せになれる。

 

 

「……あんがとな」

「……ッ!?」

「なんか……あんがと」

「はぁあ……クリスちゃん!!」

「耳元で叫ぶんじゃねぇよ!……頭痛くなる」

「うぐ、ごめんなさい」

「ったく」

 

 ちょっとだけ、

 

 ほんのちょっとだけクリスちゃんが、笑ったように見えた。

 

「……あーあ!ホンっとこのバカのお守させられるあの子の苦労が偲ばれてしょうがねぇな!」

「な!お、お守!?なに?なんなのさぁ~!」

「そのまんまの意味だよ、バぁカ」

「またバカって言ったぁ!これで今日十八回目だよぉ!!」

「数えてんのかよ!?」  

「うん!」

「やっぱバカだ……」

「……あ」

「どした?」 

「あれ?未来だー、どしたのこんなとこで?」

「……おい??」

「もー遅いから寝ないと明日起きられな」

「おい待てそれ幻覚か!?血ィ抜かれてすぐに人担いで歩いてしゃべりまくったせいかそりゃ…待て待て待て待てそっちは海ゃぁああああ!!!」

 

 

 

「――ん何見てるんです?」

「人間の輝きを少し」

「……なんもありませんけど」

「今海に落ちたからな」

「??????」

「素晴らしかったな」

 

 

 その後、起きてすぐ私とクリスちゃんは未来と師匠にこっぴどく叱られましたとさ。ちゃちゃん。

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