あなたを愛してるって、伝えたかった   作:ポロシカマン

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「死んでほしい」と「愛してる」は矛盾しないって伝えたかった

 

「あ、こら!……まだ寝ちゃダメデスよ!」

「──む」

 

 イメージの世界からの帰還。瞳が開く。

私を抱えた鎌持ちの少女の警告で、微睡みは晴れ、視界ははっきりと輪郭を得て、視覚情報となって脳に届く。気分は良好だ。

 

「すまない。私のせいで何か不都合なことはあっただろうか?」

「問題ないデスよ」

「そうか。良かった」

 

 どうやら無意識への潜行中は、現実では眠っている状態になるらしい。気を付けねば。

 

「──あぁ、そうか。ここはまだ…」

 

 眼下に視界を移せば、そこは一面に広がる青い、何処までも青い、暁が照らす大海原。

 夜に眺めたものとは、また違った美しさだった。

 

「美しい、本当に美しいな。こんなにも美しいのに、何故私は、今日の今日まで気付けなんだか」

 

 ──まだ、イノエラとウェルがくれたこの意思も無かったあの頃……私がしていたことといえば、ただ内なる無限の飢餓衝動を満たすことだけだった。

 

「……聖遺物が、キレイとかわかるんデスか?」

 

 色のない過去に戻りそうだった瞬間、鎌持ちの少女から私の感性を問われる。

 

「わかるとも」

 

 当然の疑問だろう。

 彼女らにとって聖遺物とは、ただ使い方が特殊なだけの道具でしかない。

 大抵の人間は、道具に、意思も感情も求めはしない。

 

 

「お前も美しい。特に、その翠の瞳が美しいな」

 

 

 だが私はきっと、道具にはなりきれないだろう。

 この世界の美しいもの全てを愛したいという感情が、……胸裏の奥より湧き上がる内は。

 

「な……にゃ……ッ!」

「? 顔が赤らんでいるな。熱でもあるのか?」

「ね……ねーデスよ!キャリアに着くまで……黙って、あたしに抱かれてろデェス!!」

「承知した」

 

 気を悪くさせてしまったか…すまない、鎌持ちの君。

やはり、私に感情は求められていないのか。

 

「(……あの子、デフォルトでナンパスキルを搭載してるんですけど、誰の血筋なんです?)」

 

 そして我らは、景色に溶け込む謎の構造体へと運ばれたのだった。

 

 

 

 

「──翼ッ!」

 

 マリアとの闘いは、彼女の逃走により終わった。

朝焼けが照らす本部の甲板で、去り行く敵本拠を睨むばかりだった私に、叔父様の声が届く。

 

「申し訳ありません……全ては私の未熟ゆえ、このようなことに」

「なぁに構わんさ。今日だけで大分、相手の手札が見えたからな」

 

 そう言って叔父様は、私の隣に胡座する。

共に朝日を拝む形となって、不肖の我が身を照らし包む。

 

「後で手持ちの資料と、今回得られたデータを基に敵の正体の検証に入る予定だ」

「私も参加します」

「……と、言うと思ってこうして釘を刺しに来たわけだ。まさか、俺が見抜けないとは思うまい」

 

 刺し貫くが如き眼光が、こちらに向く。

 

「その膝、初撃でいいもん貰っちまったようだな」

「……左様です」

 

 叔父様の言う通り、あのアームドギアによる狼煙の投擲を私は左膝に受けた。そのせいで思うような果たし合いが出来なかった事実が、今も強く、胸の裡で影を落としていた。

 

「……あのガングニールは、強かったか?」

「……はい」

 

 撃ち合った感触は、まだこの手に残っていた。

 

「あのガングニールは……マリアは、生半な心構えでは破れぬものと心得ました」

 

 あの槍には、それだけの重さがあった。

 

「……()くしたはずのガングニール、こうして二振りになって戻ってくるとは……どういう因果なんだろうな」

「……えぇ。ですが」

 

 奏。立花。

二人を知る今の私なら……

 

「迷うはずもありません。私が……この風鳴翼が、必ずやあの烈槍を降してみせます」

 

 覚悟なら、とうの昔にできている。

 

「そうか……」

 

 叔父様が快活と笑う。

 

「じゃ、久々にやるか?特別メニュー!」

「無論です。是非、今夜から!」

 

 もっと、もっと風鳴翼は強くなる。

護りたい全ての者たちを、護り通せるように。

――私の夢を、叶え歌うために。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 可愛くない剣との激闘から少しばかり。エアキャリアへと帰投した私はギアを解除しシャワーを浴びてから、既にみんなが集まっているブリーフィングルームへと足を運んだ。

 

「マリア!」

「……マリアッ!」

 

 調と切歌が抱き着く。

 

「こーら、転んじゃうでしょ?」

「へへへ……」

 

 脇腹の痛みを心で殺しながら、二人の頭を撫でる。

 辛い戦いの数々も、これがあるからやっていけるというものだ。

 

「……こほん」

 

 マムの咳払いで、私たちは気まずく離れる。

でもそのあとに浮かべた優し気なマムの視線は心地よかった。

 

「ではドクター、お願いします」

「承りました」

 

 恭しくもお辞儀するドクター・ウェル。

キザったらしい仕草が背筋に悪寒を走らせる。

 

「では、先刻の顛末の報告を、させていただきましょう」

 

 が、今日の彼はいつもの人を小馬鹿にしたような笑みとは違った、ごくごく真面目な面持ちだった。

 

そして……隣に立つ彼女が、

 

「ついに、完成したG-LiNKERによりまた一つ、この子は真の融合症例への『神化』を果たしました。……では自己紹介と行きましょう」

「私の名はネフィル。群体としてのネフィリムではなく、完全なる個となったゆえのネフィルだ」

 

 元あったイノエラの意思すらも喰いつくした、()()()()()

 

「…………」

 

 

 

――イノエラですか? 彼女の意思はネフィリムの意思が覚醒すれば……まぁ、自動的に消えてしまうでしょう。

 

 ──それでいいのかって? 自分で作っといてなんですが…ようやく安定までこじつけた神化融合症例(シンセジスタ)、その貴重な脳組織持ちの肉体サンプルを腐らせないための言わば彼女は繋ぎの魂。()()()()()()()()()()()()()それに意思などまるで必要がありませんよ。 ……ていうか喋れない彼女のためにいちいちこっちで意図を汲み取らなきゃいけないのいい加減めんどくさいんだよねぇ。

 

 ──あー早く発現させたいなぁ、ネフィリムの意思。

 

 

 

 本来はイノエラが使うはずだった、小鳥のさえずりよりも可愛らしい声。

 

「(わかってはいた……フロンティアを円滑に起動し操作するためには、優れた意思を持つ生体CPUとしてネフィリムに意思を持たせる必要があったことは……!そのためには、器を守る使い捨ての魂となるイノエラを見殺しにするしかないことも……!!)」

 

 傍らに立つ調と切歌も、同じ気持ちだった。

 

 

――今日も、手を振ってくれたイノエラに「行ってきます」って言えなかった……。

 

――あたし、ホントはもっとあの子と一緒に遊んだりしたいデス!お買い物とかしたいデス!

でも……でも、それをしたらきっと……あたし、マムとマリアの頑張りを台無しにしてでも、あの子のためにイガリマを振ってしまうデス……だから……だから……!

 

――こっちから、嫌われるようにするの……ッ!!

 

 

 ある夜、寝付けない私は見てしまった。

 

私の初ライブの時の中継映像を見て、振り付けの練習をする彼女を。

 

 

完璧だった。映像の中の、私よりも。

 

 

才能の輝きに見惚れて数時間……結局朝まで練習を重ねた彼女に何も言わないまま、私は部屋に戻ってしまった。

 

 

 

 弱い者たちを月の落下より救うための、『フィーネ(わたしたち)』。

 

何も知らない、か弱いイノエラを犠牲にすることを選んだ、私たち(フィーネ)

 

 

 

負けられるはずもない。退けるはずもない。

 

 

私たちは彼女の屍の上でなければ、戦う理由すら失ってしまうのだから……。

 

 

 

 

「――ウェルよ、すまないがここまでだ」

「……はい?」

 

 ──握りしめた拳が緩む。

 

「名前は言えたので、後はあの子に任せることにした」

「あの、ネフィル? あの子とは一体……」

「? 何を言っている」

 

 そしてその言葉は、

 

 

「イノエラに決まっているだろう」

 

 

 あまりにも、予想の外を行っていた。

 

「………!!!」

 

 表情からはほとんど読み取れないが、完全に寝耳に水といった形でその姿勢を崩すドクター。

それもそうだろう。断言した事項がまるで間違いだったのだから。

 

「そうですか。では、ゆっくりお休みください」

「そうする。……ではな」

 

 そしてネフィルは、目を閉じて

 

「「「……!!!」」」

 

 彼女の、毛先以外が黒くなってしまった髪に、眩い白が戻っていく。

――そして。

 

 

「………!?……!」

 

 目を開けてそこにいたのは、いつも私たちを見送ってくれた、あの。

 

「「「…………イノエラッ!!」」」

 

 呼びかける。

 

「! ………!」 

 

 イノエラは私たちを見渡して、ゆっくりと、その整った美しい相貌に笑みを添えた。

 

 

 

 

 

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