BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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【ぷち】私とちいさな彼女の日記
2019/11/02 1.疲れと笑顔の関係性について


 

 

「あら!うかない顔ね!!」

 

「んー…あぁ、こころんか。ちょっとね、疲れちゃって。」

 

「うふふっ、つかれたときはね、いっぱいわらえばいいのよ!!」

 

「……笑う元気もないときは?」

 

「それはあたしじゃわからないわね…あ!みっしぇるにきいてみましょっ!」

 

 

 

膝の上によじよじと登ってきて眩しいような笑顔を見せてくる、体長30cm弱の女の子…。この子は、作り物やおもちゃなんかではなく「ぷちどり」というれっきとした生き物だ。

科学者である私が生み出した「人造生命体」である。やれ「非人道」だの「科学の暗黒面」だの揶揄され研究所を追い出された私だが、新天地として選んだ研究都市『ギャラクシースペース"サークル"』。…ここでついに研究を完成させ、固定観念や偏見のないこの自由な街で気ままに暮らしているってわけさ。

 

 

 

「ねぇねぇみっしぇる!○○がつかれてるんだって!…どうしたらいいかしら?」

 

 

 

今膝の上で懐からクマのぬいぐるみを取り出して何やら話しかけている金髪のこの子は、型番BD-021K・名前は「こころん」だ。

不思議な事に、人格や知識については一切手をかけていない。ビーカーの中で、小さな粒子として誕生した直後より独自で学習・成長していくらしく、結局のところ彼女らもまた1個体として懸命に生きていることが伺い知れる。

 

 

 

「んー???…あぁほら、こころん。ちょっとみっしぇるを貸してご覧。」

 

「んっ!」

 

「…うん、やっぱりちょっと解れちゃってるね。すぐ直してあげるから、テーブルの上で待ってて?」

 

「わかったわっ!」

 

 

 

ええと裁縫道具裁縫道具…と。あぁあった。

女にしては致命的な程ガサツと自負している私でも、簡単な裁縫くらいはできるつもりだ。…尤も、この技術も別の「ぷちどり」に教えてもらったことだが…。

食卓として使っている長机へ戻ると、こころんが小さなクマのぬいぐるみ――彼女は何故か"みっしぇる"と呼ぶ――に笑顔で話しかけているところだった。

 

 

 

「いーい?みっしぇる。あなたの体はおなおしがひつようみたいなの!…あっ、しんぱいいらないのよ、○○はてんさいなんだからっ!」

 

「…手術、受けてくれるって?」

 

「えぇ!みっしぇるはとってもつよい子だわ!!」

 

「オーケイ。この名医様に任せときな?」

 

「よぉしくおねがいしまぁすっ!」

 

 

 

こころんからみっしぇるを受け取る。……針に糸を通そうと、糸通しを用意していると近づいてくるもうひとつの気配。

 

 

 

「はいコレぇ。探してたでしょー?」

 

「あら!リサも来たのね!」

 

「んー?…なぁんだ、リサが持って行ってたの??」

 

「あっははっ、やっほーこころん。…んま、ちょっとね~」

 

 

 

長机から床まで伸びた階段をトコトコと登ってきたのは少し派手目な印象の茶髪の子。彼女はBD-008L・名前は「LISA」という。アルファベットで名付けてしまったのは当時ハマっていた歌手の影響が強かったが、本人もほかの「ぷちどり」達にも不評なのでカタカナで呼ぶことにしたんだっけ。…音で聴く分には関係ないはずだけども…。

あ、因みにだけど、糸通しっていうのはアレね。あの銀色のペラペラのやつ。エリザベス女王の横顔みたいなのが描いてあるやつね。

 

 

 

「持ってきてくれてありがとうね、リサ。」

 

「いーよんっ。…あっ、こころんのみっしぇるじゃん!アタシが直そっか?」

 

「いーのいーの、これは私が引き受けた手術だからね。」

 

「そっかー。」

 

「…もし暇だったら、助手役お願いしちゃおっかな?」

 

「助手!いいねいいね、やるやる~。」

 

「ようし、じゃあ……茶糸。」

 

 

 

どこからか取り出したエプロンを装着したリサを携え、手術はスタートする。

 

 

 

「はいよっ」

 

「……汗。」

 

「あーいよっ」

 

「………糸切り鋏。」

 

「りょ~」

 

「…んー、ちょっと綿抜けちゃってるのかなぁ…。」

 

「綿、入れる?」

 

「そだねぇ…。綿の袋、どこにあるかわかる?」

 

「まっかしとき~」

 

 

 

元気に階段を駆け下りていくリサ。手術は一時休憩だ。

そのタイミングを見計らってか、肘を付く格好になった右腕のあたりにはこころん。

 

 

 

「せんせい…うちのこはだいじょうぶでしょぉか?」

 

「…まぁ、あとはみっしぇるくんの生命力次第ですかねぇ…。」

 

「……がんばって…みっしぇる…」

 

「大丈夫、ご安心を。」

 

「んぅー。」

 

 

 

右腕はしがみつかれているので使えないが、代わりに空いている左手でその頭を撫でてやる。それまでの緊張感とは無縁なほど間抜けな鳴き声が、まるで押し潰されたかのように漏れる。

 

 

 

「あっははは、何だその声は。」

 

「あ、○○わらったわ!!」

 

「ありゃ、本当だ。」

 

「うふふふ、みっしぇるをよろしくねっ!」

 

「あいよ。」

 

 

 

やがて戻ってきたリサより綿を受け取り、詰め詰め…。無事に縫合も終わり、私の役目は終わった。

 

 

 

「…よし。じゃあ助手、あとは玉どめをお任せする。」

 

「らじゃー!」

 

「うむうむ。……こころんさんや。」

 

「はい!」

 

「直ったよん。」

 

「わぁい!!」

 

「…はい、こころん。」

 

「わぁ……!!!ありがとう、ふたりとも!!」

 

 

 

玉どめも完了したみっしぇるをリサが手渡す。…どこで玉どめしたんだか全くわからない程の腕前、なんつーえげつない技術なんだ。

恐るべし、LISA。

 

 

 

「ねーねー○○?アタシのお給料はー?」

 

「そうだねぇ……はいこれ。」

 

「うわぁ!!二つもいいの!?」

 

「ん、助かったよ。また何かあったらよろしくね。」

 

「了解~!」

 

 

 

ポッケから取り出した二粒の金平糖。リサはそれを大事そうに抱えると走っていってしまった。

…何故かこの「ぷちどり」たちはコレが大好きなようで、私からのお礼やお小遣いとして渡すと物凄く喜ぶ。…今回は、こころんにも上げないとね。

 

 

 

「う?あたしのもあるの??」

 

「うん、一個だけだけどね。」

 

「でもあたし、なんにもしてないわ。」

 

「私を笑顔にしてくれたでしょ??そのお礼だよ。」

 

「あっ!!……えっへへへ、あたしもえがおになっちゃうわね!」

 

「現金だなぁ…。」

 

 

 

これは、日記という名目で残す、私と"彼女"たちの研究日誌―――――

 

 

 




新シリーズは全キャラでます。




<今回の設定>

○○:18歳にして稀代の天才と謳われるマッドサイエンティストの少女。
   白衣を常時着用していて、独特な高笑いをする。
   無から生命を創る、という禁忌を犯したために通常の生活区では生きていけなくなった。
   現在の研究都市に移り住んでからは、自ら生み出した「ぷちどり」達と
   幸せに暮らしている。

こころん:型番BD-021K・名前は「こころん」。
     体長30cm弱のボディながら気品溢れる振る舞いのお嬢様のようなぷちどり。
     無駄に元気。みっしぇると名付けた小さなテディベアが親友らしい。

LISA:BD-008L・名前は「LISA」。何故かアルファベットの名前を嫌がった。
   頭にカタカナを思い浮かべて呼びかけるだけで喜んだので思考を読めるのかもしれない。
   派手な見た目だが面倒見のいいお姉さんのような存在。
   主人公に裁縫を教えたのも彼女。

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