希ハッピーバースデー!

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東條希生誕祭2019

いつもと変わらぬ朝の風景。

静まりかえったリビングに、差し込む日差し。お父さんもお母さんも、帰ってくるのは難しいとの事。

少なからず寂しさはあるものの、三年目ともなれば流石に慣れる。

──ただ唯一、去年までと違うのは──。

『希ちゃん、お誕生日おめでとう!』『希ちゃん、お誕生日おめでとう♪』『希、誕生日おめでとうございます』『希ちゃん、おたおめにゃ〜!』『お誕生日、オメデト』『希ちゃん、お誕生日おめでとうございます!』『希、誕生日おめでと』『誕生日、おめでとう。希』

一斉に送られてきた、八つのメッセージ。

「なーんやもう、みんなウチの事大好きやんな〜」

ついつい軽口を叩いてしまうが、それだけ嬉しいのだ。仕方ない。何せ去年まで、わざわざメッセージをくれる相手など一人しかいなかったのだから。

「──ん〜……! さて、と」

大きく伸びをして、朝ごはんの用意。日曜日の今日は学校は無いが、午後からμ'sの練習がある。午前中の予定は特に無いので、洗濯や掃除などできそうな事を終わらせておこう。

「穂乃果ちゃんとか凛ちゃんとか、はしゃぎそうな気ぃするな〜」

その原因が自分というのは少しむず痒いが、あのポジティブパワフルガールに祝福されて嬉しくない人などいないだろう。

 

 

──ピンポーン、と。

 

 

「……ん?」

不意にインターホンが鳴った。

「宅急便……は、聞いてないなぁ」

心当たりの無い訪問に、少し警戒しながら玄関へ向かう。何よりまだ朝の九時前である。

こんな朝早くに珍客は誰だろうとドアの覗き窓を見やると、──目が合った。

「……えっ?」

一瞬思考が追いつかなかったが、

「んーもしかしてまだ寝てるのかなぁ?」

そんな聞き覚えのある声とその持ち主に思い当たると、即座に理解する。

慌てて施錠を解除すると、ドアを開ける。

「あ、希ちゃん!」

「ほ、穂乃果ちゃん……」

「お誕生日おめでとう!」

「あ、ありがとう……」

その元気な声につい返事をしてから、我に返る。

「って何でここにおるん?」

「誕生日だから!」

それは求めている返答ではない。幼馴染の苦労が少し分かった気がした。

「よくウチの家分かったね」

「絵里ちゃんに聞いた!」

「そ、そう……」

流石の行動力と言うべきか。見習うべき長所の一つである。

「……ん?」

不意に何かを嗅ぐべく目を閉じると、

「いい匂いがする!」

「え? ああ、ちょうど朝ごはん食べる所だったんよ。フレンチトーストや」

「フレンチトースト⁉︎」

輝かんばかりの瞳。そういえば、パンが大好きな子だった。

「えっと……一緒に食べる?」

「! いいの⁉︎ ……いや〜、実は朝ごはん食べずに出てきちゃったからお腹ペコペコなんだよね〜」

見習わない方がいい行動力もあるらしい。

 

 

 

 

「──いただきまーす!!

美味しそうに頬張る笑顔を眺めていると、なんだかこっちまで幸せになってくる。

「いや〜、今日もパンがうまいっ!」

「ジャムもあるよ」

「食べる!」

ハニーフレンチトーストを平らげたその口元は、コーティングされたかのように光り輝いている。

「その前に、お口拭いてからやんな〜。穂乃果ちゃんもレディなんだから」

「え〜希ちゃん、海未ちゃんみたいな事言う!」

「もー駄々こねへんの」

濡らした布巾で、口元を拭ってやる。まるで、世話のかかる妹のようだ。──これで、実際はお姉ちゃんなのだから不思議だ。

「──ところで、穂乃果ちゃんはどうしてここに来たん?」

「ムグムグ……ングッ。──あんまり分かんない」

「えぇ……」

猪突猛進にもほどがある。自分には絶対にできない行動力だ。

「今日が希ちゃんの誕生日で、学校は無いし練習は午後からだからすぐには会えなくて、でも今すぐにでもおめでとうを言いたくて、そしたらここに来てた!」

「嬉しい事言ってくれるやんな〜。でも、メッセージでおめでとうくれたやん?」

「ちゃんと顔見て言いたかったの!」

流石、μ'sを作ったリーダーだけはある。猪突猛進具合はメンバー随一だ。

「──あ、そうだ希ちゃん。何か欲しいものとかある?」

「ん? 欲しいもの?」

「そうそう! せっかく誕生日なんだから、何か用意したいの!」

「うーん、嬉しいけど、その気持ちだけで充分よ? ……ウチの一番欲しいものは、とっくに叶ってるから」

そう。九人でいる事だけで、それだけで夢は叶っているのだ。

「──じゃあ一緒に探しに行こ!」

「へっ……?」

「今はまだ決まってないんでしょ? じゃあ一緒に探そうよ!」

「えっと……だからウチの欲しいものはもう──」

「よーし、さあ行こう希ちゃん!」

手を引かれ、外へと連れ出される。手に残った甘い匂いに、鼻腔がくすぐられる。

「…………」

クスッ、と。

これだから、我らがリーダーは。面倒な考えなんて、全部吹き飛ばしてしまう。

「──よーし、それじゃあウチの欲しいもの見つかるまで、とことん付き合ってもらうで〜!」



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