【完結】北斗の拳 TS転生の章   作:多部キャノン

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少年少女の世紀末 後編

 

「────そうすればこの、ボルゲ様が最強になる!!」

 

 

(───は…………?)

 

 

バットくん達の前に現れた男の、そのセリフを聞くと同時。

今度こそ私は全身の産毛が逆立つような、そんなおぞましい感覚に思わず身を乗り出すこととなった。

 

(ボルゲ……ボルゲ……!? ボルゲ、ボル、ゲッ…………!!)

 

耳に飛び込んできてなお、私に状況の認識を拒ませかけた、その名前。

それを確認するように心で唱える度に、私の中から炎のような激情が湧いてくる。

 

 

────ボルゲ。

私が知る限りの、マンガ北斗の拳の物語を締めくくる最後の敵の名前。

過去のケンシロウさんとの因縁から、復讐のため現れたこの男は、北斗の拳で描写された中でも最大級と言っていい邪悪さを持つ。

 

ケンシロウさんに限らず、自分に傷をつけた相手への怨みを晴らすためなら、屈強な軍ごと滅ぼすほどの執念。

それは本来たどる原作において、記憶と力の大部分を失ったケンシロウさんの身代わりを買って出た、バットくんに向けられることとなった。

間一髪駆けつけ、記憶を取り戻したケンシロウさんによってボルゲは敗れ去り、バットくんは秘孔で一命こそ取り留めたが。

そこに至るまでに彼が受けた拷問、刻まれた痛苦は、思い返すだけで吐き気を催すほどのものだった。

……正直、死んでいないのが不思議なほどに。

 

10年以上あとになって現れた、今以上に傷だらけで盲目だった姿と一致しなかったことで気づくのが遅れたが、思えば原作でも最初にケンシロウさんと関わったのは、過去の話。

そのタイミングも、ケンシロウさんがボルゲに襲われた場所も分からなかった私にはどうすることも出来なかったが、それが今この時になって回収された、ということらしい。

 

 

「────────」

 

高速で回した思考により、状況の理解が追いついた私は、スゥッと目を細め瞬時に戦闘態勢に入った。

 

────今日の修行は、終わりだ。

危険すぎる彼の毒牙を、この世界でもバットくんやリンちゃんに向けるわけには、断じていかない。

 

現れた男の正体がつかめなかった段階から、半ば下していた結論を確定させた私は、彼らのもとへ跳躍するため足に力を込め────

 

 

「なっ…………」

 

ばっ、と。

差し向けられた手のひらに、その動きを止められることとなった。

 

手で私を制したのは、私の存在に気づいていないはずの少年、バットくん。

彼が伸ばした手は、正確に私がいる方角に向けられている。

 

本気で気配を隠していた私の存在を、正確な位置を。

この距離から察するのは、おそらくケンシロウさんでも難しいはず。

事実、リンちゃんもバットくんの行動の意図が分からず困惑している。

 

バットくんはおそらく、私の性格から"もし見ているならこのあたりからだ"と当たりをつけ、直感で手を伸ばしたのだ。

 

……伸ばされた手はかすかに震え、汗が流れる横顔は必死に恐怖を噛み殺そうとしている。

おそらく彼は目の前の男の危険性と、この事態の異常さを正確に把握し……そのうえでもし居るとしたら、と私に伝えているのだ。

 

『ここはオレが戦う。こういう時のために強くなろうとしたんだ』と。

 

 

「ぅ……ぐっ……くっ……!」

 

────止めたい。

 

他ならともかくその相手は危険すぎる、また他の機会でいくらでも強くなることは出来る、と。

ただ、危険ではあるが復讐の念で強くなった未来に比べると、今のボルゲは必ずしも手に負えない相手ではない。

 

何より、何より。

 

バットくんが見せた横顔が……私がこの世界で憧れ、心を燃やし続けた最大の原動力……

すなわち、"漢"の顔となっていた以上。

私が止めることを、私の心は許すことが出来なかった。

 

 

────それなら。

 

(それなら、私がするべきことは……!)

 

 

★★★

 

 

「……あああ? なんだこのガキ、なにやってんだ?」

「さあな。……意味なんてあるのか、これが正しいのかも、オレにだってわかんねえよ」

 

目の前の男が醸す凶悪な雰囲気を受け、背中に冷たい汗を感じながらもバットは不敵に笑う。

もし、修行を始める前のバットならば、間違いなく全力で逃げるか。

そうでなくとも、自分が囮になってリンだけでも逃がそうとしていただろう。

 

だが、自分が憧れ、目指した背中達に追いつくためには、理想の未来を追い求めるためには、もはやそれだけでは足りない。

いつか聞かされた、1%でも勝機があれば戦うという心意気こそが、北斗神拳使いの条件。

 

ならば今、この相手にその勝機だって掴んでみせよう、と。

彼は必死に自分を奮い立たせ、構えた。

少年の後ろ姿にリンも思うところがあったのか、すぐに弱気を捨て去りバットのフォローに回れる立ち位置を取る。

 

「あああいい度胸だガキ!! 人質はどっちか一人いりゃいいからな!! このボルゲ様が血祭りにあげてくれるわ!!」

 

怯えて逃げ惑わないその態度が、自分を舐めている、と。

そう受け取ったボルゲは、声を荒げながら左手に鎌を構えると。

 

「くらえぇ!」

 

より人質としての価値が高そうな少女リンではなく、バットの方を狙い躊躇なくその凶器を振り下ろした。

 

(……雑だ!)

 

「ハぁああッ!!」

「ぐ、ぁあぁ!?」

 

子ども二人と完全に舐めてかかったか、本命であるマコトが戻ってくる前にケリをつけようと(はや)ったか。

直線的に振られた軌道を、マコトによる修行を積み始めたバットが見切るのは容易く、逆に後ろ回し蹴りで迎撃。

カカトをピンポイントで左手首に命中させたことで、ボルゲは呻きながら鎌を取り落とすことになった。

 

「こ、のガキィッ!!」

「がっ!?」

 

が、ボルゲが即座に行った頭突きでの反撃を受け、バットの追撃の手は止められる。

とっさに飛び退いて体勢を立て直すものの、未だ芯まで響くような衝撃に揺れながら、軽く歯噛みした。

 

(いってぇえ……! こいつやっぱただの野盗じゃない、身体の強さじゃ敵わねえっ……!)

 

本来たどった未来でも、屈強さで知られるゾルド軍を殲滅し、黒王号の背中に選ばれ修羅の国を闊歩出来たバットを容易く無力化し。

復活したケンシロウの怒りの連打で爆散してもなお、執念でリンを道連れにしようとすらした異常な頑強さ。

ドス黒い復讐の念を宿さない、今この段階のボルゲが持つそれはまだ片鱗にすぎないが、バットが脅威を感じるには十分すぎるものだった。

 

「ならっ……!」

 

ここでバットの背中を押したのは、何度も何度も見てきた世紀末救世主の道程……すなわち、マコトの戦い。

彼女が死闘を演じてきた強敵達は、誰も彼も彼女の身体能力を大きく超えていた。

そんな怪物達を相手に、マコトがバットに見せてきた背中……それは。

 

(まずは……あいつみたいに、動き回る!)

 

右に、左に。

軽やかにとび回ったかと思えば、地面を擦るように鋭く、縦横無尽に動き回る。

本来たどる未来で、賞金稼ぎの喧嘩屋アインと対峙した時にも見せた通り、身軽な体捌きに適性があったバット。

マコトに鍛えられ、覚えたばかりの闘気を使った移動も混ぜられたそれは、すでに常人では影も踏ませないほどの舞踏へと昇華されていた。

 

「ぬっ、チョコマカとっ……ぐっ!!」

 

高速で不規則に動き回る小さな的を捉えきれず、視界を右往左往させるボルゲを複数の打撃が襲う。

さらに、ボルゲを襲った打撃の大部分は、右半身側から飛んできたものだ。

バットはボルゲが、着込まれた服から覗かせる左腕しか使えないことを戦術に折り込み、反撃しづらい位置からの攻撃に終始していた。

 

小さな身で放つ一撃一撃が如何に軽いものでも、積み重なれば肉は削れ、脳は揺れる。

一つ気を抜けば即座に重い一撃をまともにもらい、形勢が逆転するだろう綱渡りを続けながら、バットは確かな手応えに高揚していた。

 

(いける! こんな危険なやつ相手に、オレが────!)

 

「あああ!! このガキがぁッッ!!」

 

バットの心の声に応えるように、有利に傾かない戦況に苛立ったボルゲが、懐から出した棍棒を振り回す。

が、かつてない集中で戦いに臨んでいるバットにその大振りが当たるはずもなく、バットは回避しながら再びボルゲの右半身に滑り込み。

 

「くらえっ!!」

 

そして、体勢が崩れたボルゲに、得意な回し蹴りによる渾身のカウンターを放った。

空振りし、未だ宙に泳ぐ左手の棍棒はバットに掠りもせず、少年の決めの一手は狙い通りボルゲの身体に吸い込まれ────

 

 

寸前、ゾクリッと。

まだ戦士として途上のバットが生まれて初めて覚えた、桁外れの危機感に、全身から汗が吹き出すのを感じた。

 

 

(……なんで、こいつは格下のオレに簡単に蹴られてやがるんだ? なんで、狙われてるって分かってる右半身を無理にでも固めないんだ?

こんなに危険だって思ったやつが……こんなあっさり倒されるなんてあるのか?)

 

(マコトのやつは、いつもこんな楽をしていたか?)

 

そう、遅れて言語化された警鐘に。

修行時代マコトから繰り返し、繰り返しかけられた言葉が、まるで答え合わせのようにバットの脳裏に鳴り響いた。

 

 

────────常に相手が何を狙ってるか、考え続けて戦って!

 

 

「う、うおおおおぉぉぉおッッ!?」

「な、な、なにぃいぃいッッッッ!!?」

 

 

蹴りに全力をかけていたバットが、弾かれたように無理やり身体を捻るのと、全く同時。

空白だったはずのボルゲの右半身から一直線に突き出されたナイフが、直前までバットがいた空間を弾丸のように通り抜ける。

お互いが想定外の事態ながら、より長く深く張り巡らせていたボルゲの会心の罠が、空振りさせられた衝撃はあまりに大きく。

 

────バキィッ!!

 

「ギアァァァアッッ!! ば、バカなぁッッ!?」

 

バットが身体を捻った勢いそのままに、隠し玉だった右腕を巻き込み、へし折ることを止められるはずもなく。

待ち望んだ歓喜の瞬間を塗り替えた痛苦に、ボルゲは悲鳴を上げることしか出来なかった。

 

「や……や、った……! はは、やって、やった……オレ、が……! いっ、でぇ……!」

「バット……!」

 

無理な体勢で身体を捻った上、ナイフをかすめた肌から血を流すバットも、無事というわけではない。

だが、修行で身についた心持ちがなければ確実にここでやられていただろう、ボルゲの狡猾な策を上回ったバットの達成感は、痛みを遥かに超えるものだった。

 

「ク、ソオォォオオッッ!! なら貴様だぁァッ!!」

 

ここでボルゲが変えた狙いは、バットに心配と喜びの声をかけたリン。

当初の予定ではバットを一捻りしてから、確実に健康なまま人質とする予定だったが、もはや甘い顔は見せぬ、と。

この場で最も小さく、華奢な身体に掴みかかるため無事な左腕を伸ばして突進し────

 

「やぁぁぁぁあああっっ!!」

「ぐぉ、えぇぇ!?」

 

焦りに焦った直線的な動きは、その勢いのままにリンに一本背負いのような形で投げられると。

ボルゲの巨体は、その背中を地面に強打させられることとなった。

小さな身体に大きな意思を秘めたリンが求め、磨いた力はまず自分を確実に守れる強さ。

マコトの指導により柔拳の基本を学んでいたリンは、心が乱れ、リンが戦えるなどと思っていないボルゲを投げ飛ばすなど、わけもない。

 

「がっ、ハァー! ハァァッ……! お、おのれェッ……!」

「お、おい! もう勝てねえぞお前! 寝とけって!!」

 

しかし、こんな状況にあってなお、当たり前のように闘志を萎えさせず身体を起こす男、ボルゲ。

異常な身体の頑健さの片鱗をすでに感じているバットは、一抹の不安を覚えながらも声を上げた。

 

「だま、れぇッ……! あああこのオレ様に、ボルゲ様に傷をつけたお前は、絶対に許さん……!!

伝承者の前にまず、貴様だァッ……!! おい!! 持って来いぃ!!」

「なっ……?」

 

ボルゲが合図を送ったのは、遠巻きに控えていた一人の部下。

その男は、深い傷を負った別の男を後ろから羽交い締めにしながら、この場へと現れる。

 

傷を負った男は、見るからに悪党という出で立ちの、バットもリンも全く知らない人物だ。

 

バット達はもちろん、ボルゲ達も知る由もないが、彼は依頼により本来この場に現れるはずだった野盗役であるジャギの元部下。

ボルゲ達がマコトのもとへ向かう道中で出会い、殲滅した彼らのうち一人が、念の為として確保されていたのだ。

本来はマコトに対して使うはずだった切り札を今、ボルゲは少年達に切ることを決めた。

 

「貸せっ! あああどうだガキども!! 見ろ、これ以上抵抗すればこの男の命は無いぞぉ!!」

「ば、バカじゃねえのっ!? オレらはそんな悪そうなオッサン知らねえっての! 人質になんかなると思ってんのか!?」

 

当然、バットはボルゲの挑発に反論する。

この明日をも知れない世紀末で、知り合いならともかく他人の命など、吹けば飛ぶような価値にもならないのは誰もが知る事実だ。

 

「ん~~本当か~~!? ならば遠慮なく、目の間で殺してやるぞぉ!?」

「ぐっぅ……あぁ……!」

「────ッ」

 

それまで無言を貫いてきた見知らぬ男がねじり上げられ、苦悶の声をあげる。

見た目に反して命乞いをするでも、罵声を浴びせるでもなく、ただ黙し続ける男の態度にも引っかかるものがあったが。

それを差し引いてもバットは、掻きむしられるような焦燥感に苛まれることとなった。

 

「あああやはりな! 聞いたぞ、当代の北斗神拳伝承者は、誰も見捨てられない甘ちゃんのガキだってな!!

その仲間の貴様らも、やはりそうだったか!!」

「ぐ……く……っ!」

 

ユリアに似た慈愛の心を持つリンはもちろん、リンを助けるため、愛のために強くなることを決意したバット。

 

 

そんな彼が、今この場で知らない男とはいえ。

リンの目の前で見捨てるような選択肢を取るという決断は、あまりにも困難にすぎるものだった。

 

「まって、私が変わりに人質にっ……!」

「ダマってろガキがぁッッ!! 近づいて投げるつもりだろうがそうはいかんぞッ!!」

 

さらに、なまじ直前の自衛が成功したばかりに、警戒が高まったボルゲはリンの申し出を一蹴する。

 

「貴様らはそこで止まってろ!! まずはチョロチョロ蹴ってきたガキの方から、なぶり殺しにしてくれるわっ!!」

 

そう言うとボルゲは先程取り落とした鎌を動く左腕で拾い直し、器用に人質を抱えながら刃先をバットに向ける。

自らに明確な死をもたらすだろうその凶器を視界に収めながら、バットは小声でリンに呟いた。

 

「リン……オレは攻撃の瞬間、刺し違えてでもあのオッサンを助ける。

失敗したら……仕方ねえ、リンだけでも逃げてくれ」

「そんな……バット!」

 

悲痛な声で止めるリンを制し。

バットは一歩前に出て、棒立ちで迎え撃ちながら一人、考える。

 

(ちぇ、やっぱりオレはケンやマコトのようにはいかねえや……

マコトのやつは、こういう時のために強くなったんだな……でもいいさ、オレだって最後までやれるだけ、やるだけだ)

 

そう、半ば諦観にも似た澄んだ意識で、目の前の男と人質をバットは見据えた。

チャンスがあるとしたら、一瞬。

ボルゲの鎌が自分に突き刺さった瞬間、人質への拘束が緩むことに期待し、人質をリンのもとへ突き飛ばす。

そうすれば自分は耐えられなかったとしても、人質は無事にリンとともに逃がせるはずだ、と。

 

 

「あああさあ、いくぞ、いくぞ!! 死ぃ、ねぇぇええ!!」

「うおおおおぉぉ!!」

 

 

そうして、決死の覚悟を胸に。

バットは、ボルゲの鎌に自ら吸い込まれるように身を投げ出し────

 

「あっ…………」

 

突如目の前に現れた小さな……だけど今は、どこまでも広く感じた体躯。

紫色のトレーナーのような、いつもの動きやすそうな服に包んだ身体は今、バットと迫りくる鎌の間に、鎌に背を向けるように飛び込んで。

 

ガキィィンッ、と。

 

硬い金属がぶつかるような音が、鳴り響いた。

 

「あ…………?」

 

割り込んだ、バットほどではないにしろ小さな背中はフルスイングの鎌を背中で受け止め。

そして、確かに服までは抵抗なく切り裂いた鎌は、異様な手応えとともにへし折られ、鎌の刃が宙を舞う。

 

「なんだ貴────」

 

状況の理解とともに声をあげたその瞬間、まず感じたのは人質を抱えた左腕への刺すような痛み。

そしてそれにより腕の力が緩むのとほぼ同時、ボルゲはこれまで感じたこともない速度で、地面と並行に吹き飛ばされた。

悲鳴を上げることも出来ない衝撃と、腹部に感じた苦痛、そして目の前の小さな身体が振り上げたままの足を見て。

ようやくボルゲは、目の前の女からありえない速さの後ろ蹴りを食らったことに気づく。

 

「────ぎょぷっ」

 

そして、吹き飛ばされたボルゲの先にあったのは、先程人質を運び、今は油断なくバット達に撃ち込む弓矢の準備を進めていた、彼の部下。

大砲のような速度で飛ばされてきたボルゲの身体に圧殺された、彼に構うこともなくようやく地に落ちたボルゲは、ただ苦悶にうめいた。

 

 

「あ……あ……マコ、ト……」

「マコト、さん……!」

 

「お疲れ様です。バットくん、リンちゃん。……バットくんのもとへこうして駆けつけるのは、ジャッカルとの戦い以来でしたか。

あの時よりもさらに、ずっとすごいです。……本当によく、頑張りましたね」

 

バットと、同時に取り返した人質に癒やしの力(ヒーリング)をかけながら感慨深げに語りかけるマコト。

そんな彼女を前にしても、バットの表情は安心こそあれ、晴れるには至らない。

 

「でも……オレ、オレ……やっぱり何も出来なかった……結局マコトに助けられて……」

「いいえ、いいえ。違います、バットくん達は今、確かに人を救うことが出来たんですよ。

今日学んだ反省は明日、明後日に活かしていきましょう」

 

 

「……ぅ、ぐぅ、げっごぉっ!! いでぇ、いでぇえッ!! クソ、がァ!!」

 

マコトの言葉の意味をバットが理解する前に、起き上がったボルゲが呪詛の言葉を吐く。

並の大人どころか、修羅の国の人間でも即死しかねない一撃を受け、なお喚き散らす頑強さにマコトは内心で僅か驚嘆と感心を抱いた。

が、だからといって結果を変える理由もないと、マコトは一度バット達を置いてゆらり、とボルゲのもとへ足を進める。

 

 

「き、貴様が!! 貴様が伝承者とかいう女だな!! 何が明日、明後日だ!! ここで死ぬやつらに、そんな未来などあるかっ!!

その首をあげ、このボルゲがこの世に君臨してやるわ~~!!」

「それが、出来るのですか? 人質はこの通り、助け出していますが」

 

「あああ舐めるなよたかが女のガキが!! 本人が現れたならちょうどいい、貴様ら、やれぇえ!!」

 

外に向かって、今度は複数人に対して大号令を発するボルゲ。

また先程の人質のような策が、とバット達は思わず身構えた。

 

────が。

 

「……な、なんだ……おい、貴様らどうした、早く、火をッ……!!」

「外を囲んで火をつけようとしていた方達なら、すでに倒しています。

おそらく先程あなたがお尻で潰した部下が最後でしょう」

「な……なぁっ……!?」

 

愕然とした声を上げるボルゲに身体を向けたまま、マコトはバット達にこそ聞かせるように語りかける。

 

「バットくん達が勇気を振り絞って戦ってくれたから、火を放つ彼らの動きを事前に阻止することができました。

何より……あなたが道中手を出した方達は私の知り合いでしたが、間一髪で瀕死の彼らの救助も間に合いました。

……バットくん達のおかげです。彼らが犠牲になっていたら、私は顔向けが出来なかった」

 

そう、マコトはバット達の選択を尊重することに決めたと同時、ボルゲの返り血の発生源に直ちに急行。

事前にバット達との修行を視野に仕込んでいた防御術により、なんとか即死を免れていたジャギの元部下達に、懸命に治療を施していた。

そして治療を終えた戻り道、修行場を取り囲んでいたボルゲの部下を、一網打尽にする時間も作れたのだ。

 

「ぅ……ぐ……く……!!」

 

……こうして、子ども達や道中手にした人質も、右手を隠し通した不意打ちも、火による破壊工作も、全て。

打ち砕かれ、万策尽き果てたボルゲは。

 

「クッソォオォッッ!! くらぇえええ!!」

 

服の中に仕込んでいた多種多様な武器を撒き散らしながらの、がむしゃらな突撃を強いられる。

当然、本気の北斗神拳伝承者に、マコトに対し、それはもはやあがきにもならず。

 

────ふわりっ、と、ボルゲは自分の頭が下になった体勢のまま、宙に浮いたことを認識する。

 

「あっ……あっ……がっ…………!!」

 

それが、彼の目に全く見えない速度の乱打により、武器を携えた手足を破壊されている過程で起きた現象だ、と彼が理解すると同時。

とん、とトドメのように、眉間に少女の小さな指が添えられて。

 

 

 

「────私達が歩む未来に。あなたが入る余地は、ありません」

 

 

「────びぎょへ!!」

 

 

言い聞かせるようなその言葉が耳に入り……彼の四肢と頭は、断じて復活など許さないとばかりに。

完膚なきまでの、粉微塵に破壊されたのだった。

 

 

★★★

 

 

「ふぅ…………」

 

騒動から一段落ついて、疲れて寝入ったバットくんリンちゃんの頭を撫でながら、私は思う。

 

後になって彼らから聞いた活躍は、私の想像をずっと上回る素晴らしいもので。

特にボルゲの隠していた右腕を見切った一幕は、原作と対比した感動で、思わず崩れた表情を必死で背けてしまったほど。

可能なら是非この目で見たかったところだが、彼らの奮闘のおかげで助けられた命を思えば、軽いことだ。

 

巻き込まれた協力者達には本当に申し訳なかったが、彼らは彼らで教えられた護身のおかげで助かった、負けたのはただの実力不足だ、と返してくれた。

もちろん、厚意に甘えるだけにはいかないのでお礼は今度改めてするべきだろう。

 

 

「ああ……やること、いっぱいだ」

 

思えばラオウとの戦いが終わってからしばらく感じていた、何をすればいいのか分からない感覚も、もう遠いことのように思える。

 

伝えられた実戦でのバットくんの動きを見るに、やはり北斗神拳よりもシュウさんの南斗白鷺拳のような動きが合っている気もするし、相談してみるのもいいだろう。

順調に柔拳の動きを学べているリンちゃんは、姉さん、ユリアと一緒に修行するのもお互い刺激になりそうだ。

 

そして、何より私も。

久しく感じていなかった、守りたいものを守れるかどうかという瀬戸際のひりつき。

そう、この世紀末で過ごす日々は、何も保証された安全があるはずもなく、常にリスクとスリルに満ちたものだったことを改めて思い出せた。

 

そんな中にあって私は、拾えるモノを拾う強さを求め続け……それはこれからも変わらない。

遠くて見通しの利かない原作という未来じゃなくて。

今ここにある大事な彼らの寝顔や、周りの人達のためになら。

私はきっと心を燃やして強くなれるし、今までだってずっとそうして来たんだ、と。

 

「最近はバットくん達にかかりきりでケンシロウさんとも戦ってなかったし……明日はお願いしてみよっと」

 

もちろん、私の未来にあるのはそればかりではない。

 

今日会って回ったジャギにサウザー、他の人達にしたってこれからもきっと何かあるし、何かが続いていく。

私はただそれを楽しみに、これからも生きていけばいい。

 

 

そうして、これまでの旅路を振り返るようなこの一日の終わりに。

パンっと手を合わせて私は一人、誰に聴かせるでもなくただ、未来に向けて呟いた。

 

ああ、今まで本当に、大変な道を乗り越えてきた。

そしてまた、これからも。

喜びも苦しみも、楽しみも辛さも、どこまでも続くであろうこの愛しき世紀末で。

 

 

「────さて。明日は、何をしようかな」

 

 

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