fate/Tiba-si night   作:d d

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ならば十二の試練に挑まん

「斬れ、セイバー」

俺の呟きに反応して右手の令呪が赤い輝きを放つ。

静かなる雄叫び。紅蓮の意思を持った闇夜の奇襲。

果たして、作戦は成功した。セイバーの鋭い一撃がバーサーカーの頭部を吹き飛ばした。

「まだだ、セイバーァァァー!!」

すると赤髪の男が突然叫びだした。

何だ?何を言ってるんだ?

バーサーカーは頭を切り飛ばされその姿はまるでデゥラハンのようだ。体は生を失ったゆらゆらとたゆたうのみだ。

いやそれではおかしい、倒されたサーヴァントはすぐにでも消えていく筈…。

そして、唐突に、バーサーカーの頭部が切り口から盛り上がり再生した。

「■■■■■■■■■■!!」

そして自らの復活を知らしめるかのように耳を突き破る雄叫びを上げた。

直後、赤い髪の男につき倒される。

やはりこいつは敵なのか。

気づくとセイバーがバーサーカーの拳を受け止めていた。

何が何だかわからない。

だがどうやらセイバーは窮地に立たされているらしい。

速すぎて俺には何をしているのかまるでわからないが、バーサーカーとぶつかる度にセイバーの影が形をへこませている。

当然だ相手のステータスはセイバーより格上なのだ。

だがそれだけじゃない、何故か奴の拳はセイバーに切りつけられても傷一つつかない、さっきは首を切り裂いたというのに。

「パンクラチオン…」

すると横にいた男が何かを呟いた。パンクラチオン、確か古代ギリシアの格闘競技及び格闘術だったか。男も目の前で行われる戦闘に釘付けのようで突き飛ばしてからはなにもしてこない。

もしかしてこいつはバーサーカーの味方じゃない?

「あいつの正体知ってるのか?」

「え?あ、ああ、ヘラクレスだ」

ヘラクレスだと、確かにそれならあの強さも頷ける。

「あいつの宝具は神話で達成した十二の難業そのもので、十二人分の生命力と最高級の攻撃しか通さない体、そして一度受けた攻撃には耐性までつくおまけ付きだ」

「はあ?!何だよ、そりゃ?!」

まさに廃人ゲーマーもビックリのチートもんだ。

完全にゲームバランスが崩壊していた。

「そんなものどうやって倒せば…」

二人して沈黙が続く。当然だただの人間にどうこうできるレベルを越えている。

「遠坂に…電話してみる、ダメ元で、アーチャーなら何とかできるかもしれない」

マジかよ、あのレベルがまだいるってことか?

すぐさま青年が電話をかけ始める程なくして話し始めた。

「遠坂!?悪いけど理由は後だ!今すぐ家の近くまで戻ってきてくれ!」

どうやら電話は繋がったらしい。これでうまくいってくれるといいが。

「は!?あ、おい!」

こりゃ駄目だったな…。

「悪い、あっちも戦闘中みたいだ…」

案の定、青年はうなだれた声で結果を報告してきた。

万事、休すか。

「トレース…オン」

すると横で呪文のようなものが聞こえる。

見ると青年が弓を構えていた。

「それでどうにかなるのか?」

「いや、目眩まし位にはなるかもしれない」

しかし、それでどうやって後十一回もあの化け物を倒しきれるだろう。

どうやらこの青年は随分と諦めの悪い性格をしているらしい。

俺はほぼ諦めた気持ちで戦闘の方に顔を向ける。

ちょうど二人の英傑は動きを止めていてその姿が俺にもよく見えた。

バーサーカーはやはり傷一つなく戦闘開始前と全く変わらない相貌を見せつける。

対してセイバーは鎧のそこかしこをへこませ或いは削り取られ、全ての隙間から余すことなく血が溢れていた。自慢の角も片方がへし折れている。

「ごほっ、っ」

咳き込むと兜から血が吹き出してきた。

しかしそんな状態でもセイバーが剣を置くことはない。

顔は見えないが、あの輝かしい碧眼は今もバーサーカーを睨み付けていることだろう。

そんなこの世ならざるような状況だからだろうか、セイバーと横の青年は相性が良さそうだと、そんなどうでもいいことを考えてしまう。

そうこうしているうちにセイバーは今一度眼前の怪物を討ち果たそうと突進していった。

「なあ、あんたがマスターになればセイバーはもっと強くなれるか?」

「え?無理だ、俺もそんなに優れてる訳じゃないからな」

そうか、ならやはりこうするしかなさそうだ。

俺は右手を前につきだし、手の甲にある令呪に念じるように口にした。

「セイバー、雪ノ下のとこまで飛べ!」

「!?」

それと共に令呪が赤く輝き出す。

それに呼応してセイバーの体も輝きだした。

しかし命令が実行されることはない。

「ふざけんなてめぇ!何考えてんだ!?!」

セイバーが怒号をあげる。ちっ、三騎士の耐魔力のスキルか。俺のスペックが低いせいもあるだろう。

だがさすがに二つ目は抗えない筈だ。俺は再び令呪を使おうと息を吸い込んだ。

 

interlude 3-1

 

「セイバー、雪ノ下のとこまで飛べ!」

「!?」

隣の少年の言うことを直ぐには理解できなかった。いや時間がたったとしても完全に理解できはしないだろう。

けれどその表面だけは理解できた、気がした。

この少年はサーヴァントだけを逃がそうとしているのだ。そんな事をすればマスターである少年だけでなくこの俺も一緒に死ぬことになるだろうが、そんなことは俺の意識からは消え去っていた。

この少年の行動に激しく同調した。と同時にこの少年を守りたいと思った。

ここで死なせてはいけないと。

その瞬間、何処か世界の彼方から誰かが語りかけてきた。

使いなさい

何を?

貴方の奥に眠る力を

駄目だ魔力が足りない

ならば私が貸して差し上げましょう

お前が?

彼らを守りたいのでしょう?

ああ

ならば唱えなさい残酷な世界を貴方の意のままにする呪文を

呪文…

そうです体は…

「体は…

剣で出来ている「剣で出来ている!」

次の瞬間、世界は一変した。

足りない筈の魔力はそこをつかず、その言葉は世界と心とを入れ換えた。

 

interlude out

 

何だこれ、これも魔術だというのか!?確かにこの戦いに巻き込まれて俺の世界は大きく変わった。

しかしこれはそんな次元じゃない。

立ち並んでいた住宅もアスファルトの路面も全て消え失せ、目の前にはただ吹き荒ぶ荒野が広がっていた。

地球の終わりにでもタイムスリップしたのか、そうとしか思えないほど地平には生気と呼べるものが感じられなかった。

しかしそれでは不可解な物がその荒野には無数に存在していた。

剣だ。

荒れ果てた大地に、見渡す限りの剣が突き立っている。

時代、地域、用途、刀剣であるという事以外全く共通点のないそれらが、いったい何を意味しているのか俺には想像すらつかなかった。

そんな世界に残された人影が四つ。

それでも未だに戦い続けているセイバーとバーサーカー。

そして立ち尽くす俺と、恐らくこの世界の創造主である赤い髪の青年。

体は剣で出来ている、青年がそう叫んでから世界はその姿を変えたのだ。

「これはお前がやったのか?」

「ああ、固有結界って言うらしいけど細かいことは俺にもよくわからない」

説明されてもたぶんわからないのでそれはいい、問題はその固有結界とやらでいったい何をしようとしているのか。

青年が右手をあげると、荒野が息を吹き返すように黄金で編まれた鎖が出現した。同時に四本。それは大きなうねりとなってバーサーカーを絡めとらんと向かっていく。

はじめの一本がセイバーとバーサーカーの間を切り裂いた。

セイバーの兜がこっちを向く。鎖の出所を確かめたのだろう。

その後も絶えず鎖がバーサーカーへと向かっていく。しかしバーサーカーもさるものでいくら自在の鎖といってもそう簡単には捕まらない。

前後左右、時には上から地中から襲う鎖を巧みな体裁きでかわしていく。本当にあれがバーサーカーの動きなのか?!

「セイバー、お前も手伝ってくれ?!」

セイバーならいずれそうしただろうがあまり悠長にしている時間はない。

するとセイバーは飛び交う鎖を足場にして空中を舞い始めた。

当然その攻撃はダメージにはならないがジリジリとバーサーカーを追い詰めていく。

そして鎖の反動で跳躍したセイバーがバーサーカーを蹴り飛ばすと、その隙を見逃さずその手足を黄金の鎖が縛り上げた。最初は雄叫びを上げ抵抗していたバーサーカーだが今はただ切なく唸るだけだ。

あの災害のようだった怪物が今は巨大な案山子とかしている。

驚きの手際だった。

「これからどうするんだ?」

確かに動きを封じることはできた。だがバーサーカーにはまだ宝具にまで昇華し鎧じみた肉体が残っている。

すると青年は額にたまった汗を拭い、大きく息を吐くと、鎖を出現させた時と同じように右手を前につきだした。

ここでか。

そこでようやく今まで沈黙していた刀剣達が動き出した。

震え、中に浮き始めるおよそ数十本の剣。

しかし何処にでもあるようなものではない。

豪華な装飾が施されたものから、ただ己の本分を全うするかのごとく質素なものまで。

その一つ一つがこの世の物とは思えない宝剣で、聖剣で、麗剣だった。

そんな類い希なる剣達が一斉にバーサーカーへと向き直った。

「こいつらをうち続ける、あいつが倒れるまで」

バーサーカーは最上級の攻撃しか許さない。

これならばあの怪物を倒しうるかもしれない。

ヘラクレスといえど息絶えるかもしれない。

神話の英雄を打ち倒すべく青年はその強靭な意思を持った瞳を向ける。

俺もまるで野次馬のようにその視線を追う、けれど背景になりきれない俺のひねた心が、荘厳な刀剣達に気をとられて見落としていたセイバーの変化に気づかせた。

「セ、イバー?」

彼女が纏う雰囲気はこれまでのものとは違っていた。何故そう思ったのかはわからないが、確かに俺はそう確信した。

確信して、次の瞬間、咄嗟に叫んだ。

「避けろ!」

同時に青年を突き飛ばす。

もといた場所を赤い稲妻が通りすぎた。

背中がチリチリする気がするが今は気にしていられない。

「ウヲアオォォォォーーーーーー!!!」

直後耳をつんざく雄叫びが聞こえてくる。

それが終わる前にセイバーはこっちに向かって跳ねた。

青年は待機させていた剣を慌ててセイバーに射出する。

それをセイバーは横に弾けて回避を図る。それ位の判断力は残っているという事か、それとも磨き上げた戦闘スキルの賜物か。降雨のごとく襲い来る剣群の中、セイバーはまるでさっきまでのバーサーカーのように暴れ狂う。

だがバーサーカーとは一線をかくす点がある。それは彼女が既に満身創痍だということ。

全ての剣を回避できる筈もなく、その中の一つがセイバーを捉えた。

それを手に持つ剣で弾こうとするが逆に弾き返され、飛来した剣はセイバーの太ももを叩いた。

押し付けられた力のまま斜め後ろに吹っ飛ぶ。

それでも動きを止めることはなく、直ぐに立ち上がり右に左に動き回る。直接のダメージは無いものの、今の彼女には鎧越しに響くだけでも相当な痛手だろう。

彼女の強情さはバーサーカーとの戦いでよくわかっている。それが今は青年の方に向けられていた。

ちらと青年の横顔を見ると苦渋に歪んでいるのがわかる。

当然だ。さっきまで共に怪物を倒すため戦っていた仲間が、理由もわからず襲いかかってくるのだから。

そう理由だ。何故セイバーは突然暴れ始めたのか?

「止まれ、セイバー!」

しかし止まるようすはない。俺の声は全く届いていていないようだ。聞こえているかすら怪しい。

こんな行動をとる理由はなんだ。赤髪の男の魔術が関係しているのは明らかだが、その関係がわからない。

世界が豹変したときは問題なかった。暴れだしたのは男が剣を操り出してから。

「…あの剣はいったい何なんだ?」

我ながらひどい質問だ。マジックの種明かしを求めているのだから。というか魔術師は秘密主義者ではなかったか?

「宝具の、劣化品だ、」

しかし男は俺の質問に真摯に答える。

成る程確かにそれなら俺が目を奪われるのも頷ける。

劣化品とはいえ宝具は宝具。そういったものに憧れを抱くのは俺達凡人のさがなのだろう。

だがそれはひょっとするとその持ち主である英雄達も同じなのではないか。

彼らは願いの叶う杯なんぞを求めて俺みたいな役立たずでさえマスターだなんだと担ぎ上げる。

それはつまり執着心だ。

目も眩むような伝説は時にその目を曇らせる、あげく要らぬ羨望を抱かせる。

そして見に余る幻想はいずれ自分に帰ってくるのだ。

何故この男がそんなものを持っているかはこの際関係ない。

おそらく男の繰り出した剣の中の一つがセイバーの逆鱗に触れたのだ。

突然セイバーが暴れだした理由はわかった。しかし同時に絶望した。

それでいったいどうしろというのだ。

謝れば済む問題はないだろうし、このままではセイバーが力尽きるか、よしんば青年を倒してもその後バーサーカーに殺されるだけだ。

「令呪を使え!嫌かもだけど、バーサーカーを倒して俺は逃げるから」

そうしたいのはやまやまだが、セイバーの意に沿わない令呪は二つ必要だと先程判明した。だが今俺に残されているのは一つだけだ。

そこまで考えて何かが喉の奥からせり上がってくるのを感じた。飲み込もうとしたが体がうまく応えず、そのまま地面に吐き出してしまう。

見ると足元には赤いシミが出来ていた。

「大丈夫か?!」

声が聞こえてくる。

何をすれば良いんだっけ?

そうだ、セイバーを止めないと…。

覚束ない足でふらふらと歩き出す。

「お、おい、どこ行くんだ?」

「ちょっと時間稼ぎ、頼む」

そう言い残して俺は目的の場所へと向かう。

あまり時間は残されていない。

一体この行動にどれ程の意味があるかわからない。

セイバーの抱えるものに比べたら大したものではないだろう。

しかし俺に残された手札はこれくらいしかない。

少し走って、また血を吐いて歩く、調子が良くなったらまた走るを繰り返す。

やがて目的の場所まで辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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