interlude 4-1
「時間稼ぎ頼む」
そう言った少年の顔は今にも死んでしまいそうな程蒼白だった。
口からは真っ赤な鮮血が滴っている。セイバーが魔力を際限なくすいとっているため、体を蝕んでいるのだ。俺は彼女とパスがうまく繋がっていなかったため、彼女には苦労させたが俺自身が被害を受けることは無かった。
そもそもバーサーカー以外のサーヴァントがここまで魔力を要求すること事態がまれだ。
何をするつもりなのかそのまま千鳥足で歩き出す。
悪いが構っている余裕はないので直ぐに視線を戻す。
正面ではセイバーが怒りのままにその体躯を暴れさせていた。
バーサーカーとの戦いで体力をほぼ削り取られているお陰で何とかサーヴァントの脚力を押さえ込めていた。
しかし今回のセイバーの能力なのかその姿や太刀筋といったものが全く把握できない。
少しでも油断したらそのまま命を持っていかれるだろう。
するとセイバーが立ち止まって剣を両手で構える。
きっと宝具を撃とうとしているのだ。
それを許すわけにはいかない。
俺が彼の英雄目掛けて剣を繰り出そうとしたその時、荒野一帯に声が響き渡った。
「セイバァァァァーーー!!」
それは今回のセイバーのマスターである少年の声。
不意に出所を見るが何処にも姿が見あたらない。
おかしいな、ここには立ち並ぶ剣以外何もないはずなのに。
いやある。
ここではたと気づいた。
荒野にそびえる一本の、いや一体の巨大の存在を。
案の定、少年は黄金の鎖でその肢体を縛られたバーサーカーの直ぐ隣にいた。あいつまたあんな危険なところに。
いったい何をするつもりなのか、あの体では今叫んだのだって重労働の筈だ。
次の瞬間、荒野はどす黒い魔力で満たされた。
しまった!?
声につられてセイバーの事を失念していた。一斉一代の大失態。
慌てて俺はセイバーの方に向き直り、その姿に我を忘れた。
最初に思ったのは愛おしいだった。次に思ったのはうれしい。そして三つ目でようやくそれはおかしいと否定できた。
黄金に揺れる髪の毛、常に彼方を見つめる透き通るような両の碧眼。歴戦の騎士とは思えないその体躯。
まさに瓜二つ、彼女の生き写しだった。
直ぐにその正体に辿り着く。
騎士王アーサーに仕えた反逆の騎士、モードレッド。それが今回のセイバーの真名だ。
それならこのおぞましい魔力も理解できる。
荒れ果てた荒野がより物悲しさを増す。気づけばセイバーの足元は一面の血溜まりで埋まっていた。
まるで固有結界を蝕んでいるようで異様な吐き気に襲われた。
その果てしない憎悪を体現するかのように彼女の剣からは血の色と同じ雷が天高く昇っていた。
その憎悪は俺に向けられたものだ。おそらく俺が彼女、前回のセイバー、アルトリア・ペンドラゴンの剣を投影したから。
セイバーが彼女にどんな思いを抱いていたのかはわからない。だがその思いの丈はこの光景を見れば一目でわかる。宝具とはいわばその持ち主を写す鏡。つまりはこの憎しみに満ちた荒れ狂う雷がセイバーの生涯そのものということだ。
受けきれるだろうかこの俺に。
『
ならば持ちうる全ての防御で対抗するしかない。
やってやる、やらねば死ぬのだ。
俺は来るべきその時を想像して生唾を飲み込んだ。
「お前は宇宙一可愛い女の子だーーー!!」
「は?」
突然、この重苦しい空気を全く読まない声が荒野を席巻した。
当然声の主はセイバーのマスターだ。
「な、な、な」
何を言ってるんだお前はー!?
こんな状況で愛の告白をするその厚顔さはむしろ尊敬に値する。
しかしゲームでそんな選択肢を選べば当然バッドエンドだろう。
ちらりと横を見るとセイバーの顔がマスターの方を向いていた。
全くもって聞く耳持たなかったセイバーの意識を振り向かせたということだろうか。
すると少年は続けてこう叫んだ。
「セイバー、宝具をこっちに撃て!」
「な!?」
少年の声に反応して右手が赤く輝き出す。今の言葉に令呪が使われたのだ。
いったい何を考えていやがるんだ?!自分を犠牲にするにも程がある。
すると少年はバーサーカーの後ろに隠れる。成る程、バーサーカーの体を盾にしようというわけか。
しかしその直後またしても予期しない最悪が俺達を襲った。
「■■■■■■■■■!!!」
今まで沈黙を守っていたバーサーカーが突如雄叫びをあげる。そのまま体を縛り付けていた鎖を振りほどいた。バーサーカーの体が赤く輝いている。令呪が発動したのだ。
まずい、今バーサーカーの真後ろにはセイバーのマスターが立っている。
だが苦あれば楽あり。バーサーカーはマスターの方ではなくセイバーに向かって走り出した。
凶化を受けたバーサーカーがセイバーの宝具に反応したのか。
直後荒野は憎悪によって形をなした雷によって赤黒く照らされた。
俺は少年とバーサーカーの間にありったけの防御宝具を展開する。
そしてセイバーのマスターはとうに魔力を限界まで吸われ、突っ伏すように倒れていた。
interlude out
霞む視界に黒い血に染まる世界が映る。
「はっ」
そのあまりの壮大さに思わず嘲笑が漏れた。
あれに比べればさっきまで俺が吐いた血液など微々たるものだろう。
いったいその小さな体にどれ程のものを抱えているのだろう。
聖杯を得れば少しは解消されるのだろうか、とふと考える。
きっとそうはならないだろう。
少女ははじめからして狂っていた。いや、おかしかったのは世界の方だったかもしれない。ならば彼女が今も狂い続けているのは道理とも言えるかもしれない。
けれど俺はここまで。
とある隊長様は言う、強者は世界がどうであるかではなく、どうあるべきか語らなくてはならないと。
ならば生まれついての弱者、パーフェクトルーザーたるこの俺はここまでだ。
俺はただの語り部でしかない。彼ら彼女らのように物語の主役にはなれないのだ。
そこで意識が途切れた。
彼女の宝具が撃たれる。宝具とはその英雄の写し身で、それを受けきれるだけの力は俺にはない。
例え俺が死んでもセイバーには雪ノ下がいる。
だからせめて、王になれ、セイバー…………。
………………
痛みが甦り、だるさと共に目が覚める。
ここは、何処だ?
手足の感覚はある、どうやら死は免れたらしい。
しかし視界がはっきりせず状況が把握できない。
これで気絶したのは二日で二度目になる。こんな調子ではいつかもたなくなるだろう。
体の中をかき混ぜられたかのように気持ち悪い。それを想像してさらに気持ち悪くなった。
ここは…ベッドだろうか。かすかに下に柔らかい感触がある。
取り合えず起きてみよう。意気込んで重い体を起こす。
すると喉に固いものがめり込んできた。慌てて体勢をもとに戻す。ものは抜けたがそこから何か暖かいものが垂れてきた。よーく見てみると目の前に剣が突き立てられていた。
そしてそれを俺に股がり構えているのはセイバー…。
「よお、よく眠れたか?」
セイバーは例の露出が半端ない服を着ていて、俺の覚醒をみて声をかけてきた。
ひょっとして、俺が起きるのを待っていたのだろうか?そう考えるとちょっと可愛らしいが剣を構えての事なのでヤンデレ感が増す。
「いや、だいぶ気持ち悪くてな」
「そうか、お前には二つ選択肢がある。俺に殺されるか、それを拒んで俺に首を落とされるかだ」
「実質一つじゃねえか!?」
おそらく俺が可愛いと言ったことにご立腹なご様子。そんなに嫌だったのか、ちょっと傷つくなぁ。
しかし直ぐに殺さないということは多少はチャンスが残されているのかもしれない。つまりツンデレである。どのデレも命がけである辺り攻略何度の高さがうかがえる。
「セイバー、直ぐに殺さないということはお前俺のことがす…」
「あああ?!!」
まつげの先を剣が切り落とした。
危ない全部言ってたらデッドエンド直行だっただろう。
ここは慎重に選択肢を選ばなければ。
「けど、お前も悪いんだぞ、いきなり暴れだすから」
「けっ」
そう毒づいて以外にもあっさりと剣を収めるセイバー。
「次言ったら即斬るからな、今はあの野郎が先だ」
あの野郎とはおそらく赤い髪の青年の事だろう。結局名前を聞きそびれてしまった。
つまり他に標的がいるから俺は後回しにされたということか。
「結局あの後どうなったんだ?」
「もとの世界に戻ったらどいつもいなくなってやがった」
いなくなっていた、ということはバーサーカーは倒せたのだろうか?いやそうだとしたらそう言うか、セイバーは自分の戦果を濁したりはしないだろう。
逃したと言わない辺りがプライドの高さをうかがえるが。
時計を見ると時刻は夜中の二時過ぎ。アニメでも見てればこのくらいになることもあるか。
「悪い、俺は寝る」
起きたばかりだが体は重りをつけたように重い。
市価愛明日、じゃない今日行けば明日は土曜日、下手に怪しまれない為にも学校に行っとくべきだろう。用事もあるしな。
喉の傷を処置して、俺はベッドに横になる。
微睡みに身を任せながら今日の出来事を整理することにしよう。
バーサーカーの正体とその宝具、十二個ある命の内いくつ削れたかわからないが、その体はもはやセイバーの通常攻撃では傷一つつけられない。
令呪は残り二つ。
マスターではない謎の男。固有結界なる魔術で宝具の劣化品すら作り出す。バーサーカーの正体もこいつが教えてくれた。一応今回は味方だったが向こうも聖杯戦争に参加している遠坂というマスターの協力者らしいし、いずれ戦うことになるかもしれない。何よりセイバーが目の敵にしている。次会えばいきなり切りかかりかねない。バーサーカーに対抗できるというアーチャーも要注意だ…ZZZ。