fate/Tiba-si night   作:d d

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常に雪ノ下陽乃は見守っている

interlude 6-1

 

「そう、貴方一人。比企谷君にしては賢明ね」

皐月の夜の寒風が肌を刺す中、少女の声はそれでもなお涼やかに沈みかえった校庭に響き渡る。

対してくぐもった声は鎧で身を守る騎士ゆえか。

「御託はいい、さっさと始めろよ」

「では改めてルールを説明するぞ」

教師であり魔術師であり、そして今宵の決闘の立会人でもある平塚女史が胸ポケットから一枚の紙を取り出す。

1、雪ノ下雪乃と比企谷八幡の決闘を行うものとし、またサーヴァントを用いても良い事とする。

2、サーヴァントが消滅するかマスターに無効化が発動する、負けを宣言した場合を敗北とする。

3、マスターへの致死量を越える攻撃は無効化される。

4、決闘場所は総武高校校庭、時刻は夜12時開戦とし

それまでにサーヴァントかマスターのどちらかが校門を潜らなければ敗北とする。

5、乱入者が認められた場合、記入者全員の同意があるまで決闘は中断とする。

 

雪ノ下雪乃

比企谷八幡

平塚静

 

平塚女史の少し作った声が夜の校庭にこだまする。

それを読み終えた時、時刻は12時、1分前になっていた。

短針と長身が頂点に上る前に白銀を纏った騎士は走り出した。

そして二つの針が重なった頃、二人の英傑が持つ剣と刀も交錯した。

 

interlude out

 

interlude 6-2

 

「どう?アーチャー、あの二人狙えそう?」

「あの位置のままなら問題ない。だがいいのか?マスターを狙った方が確実だぞ」

「言ったでしょう、今回の聖杯戦争は普通じゃないの。倒すだけじゃなくて情報戦もしないといけない。それにセイバーもアサシンも連戦だし、特にセイバーは消耗している筈よ」

死人に口無し、殺してしまっては何も聞けなくなる。

「良いわよね、士郎?」

遠坂が俺にたずねてくる。いや、たずねるていの追求、ようは事後承諾。此度の奇襲は遠坂の中で既に決まっている。これはつまり自分につくか否かを問うているのだ。

なら俺の答えは一つしかない。

「それも、仕方ないと思う」

今回のセイバー、モードレッド。彼女の国を守る円卓の一人であり、それを滅ぼした元凶の騎士。知りたいことは山程あるが軽々しく立ち入ってはいけないことだとわかっている。自分が彼女のマスターであればと願わなくはないが、今回のセイバーのマスターはあの気高い少年なのだ。

であれば俺はその敵対者を貫くだけだ。

「此度のアサシンはどうにも骨がおれそうだからな。お前が見逃したことが還って好機に繋がったという訳か」

「そんなつもりじゃ無い、あいつは話のできるやつだ」

「その男もどうやらあそこにはいないようだがな」

今回の聖杯戦争は年下が多いということで、ここ総武高校にあたりをつけてあの決闘を発見した。しかしそこに件の少年の姿はなかった。俺の目からは校庭全てを見通すことはできないが、千里眼を持つアーチャーが見つけられないならあの場には居ないということだろう。

くそ、どこに行ったんだあいつ。

「凛、狙うのならば早くしろ、アサシンが押し始めた」

優れたマスターを引いた今回のアサシンはその限界まで能力が引き出されている。

その巧妙な剣技はセイバーでさえ凌駕するのか。

彼の宝具のことも考えると、開けた場所での戦いはかなり分が悪い。

「目の前の好機を逃す気はないわ、良いわよアーチャー、撃ちなさい」

「了解した」

既につがえられていた矢が引き絞られる。その瞬間、渦を巻く虹剣は細く鋭く姿を変えた。

決まり手など無いアーチャーではあるが、得意のやり口だった。

つがえられた矢、剣の名前は『虹霓剣(カラドボルグ)』。

それをアーチャーが改造したもので『偽⚫螺旋剣(カラドボルグⅡ)』という。

矢は引き絞られ三十秒の後、放たれる。さらに着弾時幻想としての宝具の形を捨て去り『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』として周囲一帯を吹き飛ばすのだ。

壊れていても宝具は宝具、まともに受ければひとたまりもない。

できればセイバーの誤解を解けたら良かったがそれも難しそうだ。

刻一刻とカウントダウンは進んでいく。

場には沈黙が居座り、アーチャーの外套がたなびく音だけが響いていた。

俺も遠坂もアーチャーが事を終えるのをただ黙って待っている。

しかしその静寂をアーチャー自身の声が遮った。

「伏せろ!」

驚きつつ声に従い身をかがめる。

その刹那、揺れる視界の中でアーチャーが矢を放ったのが見えた。

しかしまだ構えて20秒程しかたっていない。それでは威力が死んでしまう。

しかしその思考は矢が直ぐに爆発四散したことで霧散した。

産み出された爆風が体をうつ。

「くそ!どうなってる、アーチャー!?」

遠坂を支えながらアーチャーを問いただす。

こんな近くで発動させるなんて何を考えてやがるんだ。

しかしアーチャーは質問に答えない。俺達に背を向け、いったいその瞳は何を捉えているのか。

しかしその代わりに新しく現れた声が俺の質問に回答した。

「一対一の決闘を外野が邪魔するなんて、お姉さんちょっと感心しないなぁ」

声のした方を振り替えるとそこには黒い髪を肩口で切り揃えた同い年くらいの女性が立っていた。

服装は現代のもので下はストレッチ素材のスタイルのでるパンツ、上は肩を露出させた半袖のシャツだ。少し襟の辺りがだぼっとしていて、ちょっと直視しづらい。

アーチャーが矢を放ったのはこの女性のせいなのか。

「何?貴方、あの女の子の関係者?」

女の子とはアサシンのマスターの事だろう。ここからでも見える艶やかな黒髪が目の前の女性によく似ているように思う。それに関係者なら俺達の邪魔をする理由になる。

「ええ、あの子は私の妹なの。だから放っておけないの、わかるわよね、遠坂さん?」

「?!…そう、お見通しって訳」

俺には兄弟が居ないからよくわからない、という訳ではなく、遠坂と桜の関係の事を言っているのだ。

「放っておけないって、敵対するって事か?」

「士郎?」

もしあいつが桜を脅しに使おうとしているのなら、それは遠坂だけの問題ではない。

「いいえ、あの決闘を邪魔しないのなら、こちらも攻撃する気は無いわ」

「ふん、何が攻撃する気は無いわっよ、こっちにはサーヴァントが居るってのに何ができるって言うのよ」

それは少し違うと思う。そんなことは向こうもわかっている筈だからだ。

「本当にそうかしら?ねぇ、弓兵さん?」

「どういう意味よ」

すると今まで黙っていたアーチャーがここで口を開いた。

「凛、目を凝らしてよく見てみろ」

「何よそれ…」

悪態をつきながらも遠坂は言われたようにする。

「なっ!?」

「どうしたんだ遠坂?」

「あいつ…サーヴァントだわ」

「は?!」

それを聞いた俺も同じように驚声を響かせてしまう。

それも仕方ないだろう。現代に妹がいるサーヴァント、それが意味するのはつまり。

「未来の英雄」

思わず声が出た。驚いたわけではなく、己に飲み込ませるために。

他紙かに驚きはした。しかしこちらとしては彼女で二人目だ。それに一人目は本当に予想だにしないところからやって来た。

「まだわからないわ、変装が得意なサーヴァントだっているんだから」

「私はどっちでも構わないけど、どうせ校庭は狙わせないし」

「上等じゃない、あんたも倒すべき敵ならここで相手になってやるわよ、アーチャー」

アーチャーに開戦を指示する遠坂。それを聞いたアーチャーはいつものように投影を開始する。しかし手にしたものは今までとは違っていた。

「アーチャー?」

その光景に遠坂が思わずといったようすで声をかける。

開いた手に収まったそれらはいつもの白黒一対の剣ではなく、よく似た銀色の双剣だ。

しかしそれは全くの別物だ。何故ならあれは宝具ではない。形は似ているがその質は大きく劣るだろう。

「おい、アーチャー」

「衛宮士郎、凛を勝たせたいのならばお前は手を出さないことだ」

「な、おいそれどういう意味だ?」

しかしアーチャーはまたも俺の質問に答えない。

「まあいいわ、アーチャーにも考えがあるんだろうし、ここは任せましょう」

そう言って遠坂は二人から離れていく。

納得はいかないが、俺も遠坂の後を追う。

幸いにも相手は近接戦闘が得意なタイプには見えない。まともに宝具と打ち合わなければあれでも問題ないだろうし、遠坂の言う通りなにか作戦があるのかもしれない。

「なんだ?いつものやつは使わねえのか?」

ここで再び乱入者が現れた。

しかしこちらの声は気覚えがある。

「面白そうな事になってるじゃねぇか、俺も混ぜろよ」

その男は蒼い戦装束を身に纏い、深紅の槍を携えた前回のランサーだった。

「貴様こそ随分と弱体化しているようだが?」

「ぬかせ、お前程度これで充分なんだよ」

「そうなのか?遠坂」

「ええ、前回よりステータスが落ちてる」

アサシンは前回よりも強くなっていたがランサーは逆のようだ。

「お二人は仲が良いみたいだけど、ひょっとして出典が同じなのかしら?」

アーチャーとランサーの険悪極まりない会話に女性は事も無げに入っていく。

「は、こんなやつが俺の周りにいたら猪に食われて死ぬのがせいぜいだったろうぜ」

「この男とは呼ばれた先でよく一緒になるだけだ。真名を探るのは良いが、言葉を選んでほしいものだな」

それは初耳だ。前回はそんなこと無かった筈だが。

「それで、あんたはそのままでいいのかい?剣なり杖なり、それくらい待っててやるぜ?」

「お気遣いありがとう、優しいのね、けど問題ないわ」

「そうかい、なら遠慮なく行かせてもらうぜ」

ランサーのその一言でこの場の空気が一息にその重みを増す。

それに押された訳でもないだろうが、皆一様に腰をおとした。

しかしそこからは誰一人動こうとしない。攻撃を仕掛ければそれが隙になるからだ。

互いが互いを牽制しあっての膠着状態。

ともすれば永遠に続きそうなそのにらみ合いを、ランサーがいとも容易く切り裂いた。

蒼い稲妻と化したランサーがアーチャーへと向かっていく。

まずい、あの剣ではゲイボルクと打ち合うなんて不可能だ。

そしてその隙をつこうと女性サーヴァントが動き出す。

けれどアーチャーが向き直った瞬間、ランサーは急激に方向を変え、その槍を女性サーヴァントに突きこんだ。本当の狙いはこっちだったのだ。

ランサーが幾重にも突き出す槍は波となって女性サーヴァントを襲う。

まさに神速、ステータスが落ちているとはとても思えない。

けれど女性サーヴァントはその手に魔力を流すと、放たれる槍全てに空を切らせた。

所々かすってはいるものの、すき間など無いと思われたランサーの攻撃をかわしきったのだ。

「本当に未来の英霊なのかしら、だとすればキャスター?」

隣でそんな呟き声がする。

恐らく今の攻防に現代に通じるものがあったからではあるまいか。

女性サーヴァントはその肢体を魔術で強化している。それはサーヴァントレベルまで強化されているものの現代の術式と似かよっている。それにランサーの槍をさばいた技術は合気道のように思えた。

「ちぃ」

ランサーは攻撃の手を止め横に跳躍する。引いたのではない、その背後をアーチャーが狙っていたからだ。

アーチャーの斬撃をランサーは紙一重でかわす。

その結果、女性サーヴァントの前でアーチャーは体勢を崩してしまう形になる。

ここぞとばかりに手刀を突きこんだ。

けれどそれがアーチャーを捉えることはなかった。

直後、二振りの剣が女性サーヴァントを襲ったからだ。

ランサーの槍同様、その剣も受け流されてしまうがアーチャーはその間に離脱する。

飛来した剣はアーチャーが射出したもの。そして後ろに下がりながら手にしていた剣も放り捨てる。

そしてまた投影。気がつくとそれはいつもの夫婦剣に戻っていて、射出したものも、放り投げたのも同じだ。

つまり今この場には三つの夫婦剣が存在することになる。

アーチャーはステップを踏み再び前進を開始する。

と同時に、空中の干将と莫夜も弧を画いて飛来する。

それは三方からの不可避の絶技。

刃の檻。

夫婦剣は互いに引かれあいその間に押し入るものを容赦なく切断する。

先程のランサーの攻撃よりもなお隙の無い攻撃。

それは逃げ場など無い筈だった。

女性サーヴァントの体を散り散りに切り裂く筈だった。

だがそうはならなかった。

女性サーヴァントは不可避の絶技をいとも容易くかわしてみせた。

「なっ」

遠坂の驚声がこだまする。

彼女も同じ魔術師だからこの場にいる誰よりも、その偉業を理解していた。

「空間転移!?」

それがマジックの種。けれどそれは現代の魔術師はおろか、前回のキャスター、直接世界に呼び掛ける神言を用いる神代の魔女でさえ、自らの神殿内でしか行えない奇跡中の奇跡。

それをあのサーヴァントはこんな雑居ビルの屋上でそれも無詠唱でやってのけた。

「ありえない、結界内ですら無いっていうのに、しかもより神秘の薄い未来の魔術師が」

「んー、今の方が濃いけどね、神秘」

確かに現代の方がやり易いことはあるかもしれない。けど事はそういう問題ではないのだ。

「結界なんて必要ないわ。だって私の居るところが私の結界だもの」

「何が結界よ、周囲にマナの異常なんて無いじゃない!」

冗談なのか本気なのか女性サーヴァントは微笑んだままだ。

「ふむ、では結界人間とでも言ったところか」

すると何故かアーチャーがいきなりそんな事を言い出した。

「ふ、あはははは」

それを聞いた女性サーヴァントが笑い始める。

「あー、面白い。冗談も言えたのね皮肉屋の弓兵さん?でも、もう少しかわいい名前がいいかな?」

「今の一撃をかわされるようでは、私のこうじる全ては君に届かないだろう」

「…そうかしら?貴方の投影は私にも真似できないし、もっと色々見せてほしいな」

アーチャーは女性サーヴァントと会話しているがその実、向こうの話はいっさい聞いていなかった。

「だがランサー、お前なら違うのではないか?」

「あん?」

突然の名指しに状況を傍観していたランサーが訝しげな視線を送る。

だが言われて気がついた、思い出した。

ランサーの宝具でなら。

「ち、気色悪ぃなぁ。要するにあれか?俺に殺ってほしいってか?」

「そうとりたければ好きにするといい、私はわりに合わない仕事は降りさせてもらう。決闘を邪魔しなければいいのだったな?」

「ええ」

「行くぞ、凛」

アーチャーはそう言ってビルを飛び降りてしまう。

「ちょっと、アーチャー?!」

遠坂が後を追うが直ぐに諦めた様子で帰ってくる。

「ありゃ駄目ね、士郎、行きましょう」

「ええ!ほんとに良いのか?」

「ええ、理由は後で令呪使ってでも吐かせるから。いちおう、後ろはお願い」

そう言って遠坂も階段を下りていってしまう。

正直、意味がわからない。遠坂はよくあんな奴と聖杯戦争を戦い抜けたと思う。

言われたとおり、俺は追撃を警戒するが特にそんな様子はなさそうだ。

けれどその最中不意に女性サーヴァントと目があってしまう。すると彼女はその艶やかな唇を反らせて、フフと笑いかけてくる。

サーヴァントというが格好は現代の物だし、その容姿は遠坂にもひけをとらない程整っていて、なんだか、何か挨拶をしなければいけないような気がしてくる。

「え、ええっと、お前名前は…て、言えるわけ無いよな、悪い、忘れてくれ」

「ふふふ」

そんな俺の様子に彼女は堪えきれないという風に笑みを漏らす。

ええい何を言ってるんだ俺は、恥ずかしい。

しかし彼女はそんな無様な俺に気をつっかた訳では無いだろうが、質問に回答を寄越した。

「雪ノ下陽乃よ、クラスはキャスター。雪乃ちゃんをあんまり虐めないであげてね、衛宮士郎君」

やはり俺の事も知っているのか。

雪乃とはアサシンのマスターの事だろう。

現代に家族のいる未来の英霊。

俺の知る限りでは彼女で二人目。

色々と気になることはある。

聖杯にかける願いとか。

どうやって英霊になったのかとか。

けれどそれは今聞けるようなことではない。

「悪いけど、それは約束できない」

「そう、ならいずれまた会いましょう」

そんな会話を残して俺は階段を下りた。

 

interlude out

 

 

interlude 6-3

 

「で、どうすんだ?俺の宝具、受けきるあてはあんのかい?」

「あら、弓兵さんとは因縁がお在りの様だったけど、言う通りにするのかしら?」

屋上に残された二人のサーヴァント。二人の間にあるのは吹き荒れるビル風と聖杯戦争のみ。であれば戦いは避けられるはずもなかった。

「は、あんな奴はどうでもいい、それにこっちにも色々と事情ってもんがある」

そう言うとランサーは腰を屈め手に持つ深紅の槍をキャスターに向けた。

と同時に周囲のマナが槍に流れ込み始めた。

「その心臓貰い受ける!!」

前口上、迸る気合いと共にランサーは走り出す。

この時点で既に結末は決まっていた。

ランサーの宝具は因果逆転の呪いの槍。

撃てば必ず急所を貫くという結果を作り出す。

その軌道は結果を忠実に再現し、いかな防御も回避も通用しない。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)』!!!

真名解放と共に深紅の槍が突き出される。それに少し遅れてキャスターがその場から消えた。アーチャーの時と同じように別の場所に転移したのだ。

点による移動と、線による移動。追い付くことなどありえない。

しかし英雄達はそんな常識を覆す。そんな幻想を形にする。

ゲイボルクは必ず当たるという結果を産む呪いの槍だ。

如何なる過程を経ようと槍はその獲物を貫く。

その瞬間、ランサーはサーヴァントの領域でさえ凌駕した。

無限にも思えるほどの一瞬。あまりの速さに時が止まってしまったかに感じる刹那。

再び時間が動き出した時、ランサーの槍はキャスターの左の胸を貫いていた。

いくら呪いの槍といってもランサーのそれは対人宝具の域を出ない。

呪いもかける相手がいなければ意味がない。

あるいはキャスターがもっと遠くまで逃げていれば

避けられたかもしれない。

しかしキャスターの心臓はランサーの腕と槍を限界まで伸ばしたギリギリ内。

妹の決闘を守る彼女はあまり遠くまで逃げることはできなかった。

屈んだ姿勢から立ち上がったランサーは勢いよく槍を引き抜く。引っ掛かった血肉が飛び散った。

「悪く思うなよ、っても覚えてらんねぇのか」

ランサーは槍についた血肉を振り落としながら、自らが貫いた相手に声をかける。

「ゲイボルク、ね。まさか光の御子さんだったなんて」

「そういうことだ、相手が悪かったな、こいつを正面から避けたのなんて師匠くらいのもんだからな」

「クーフーリンの師匠、確かスカサハだったかしら?」

「おー、現代でそれだけ知ってりゃあ大したもんだ。俺のマスターなんてろくに知らなかったからな」

勝者と敗者の会話は続く。校庭の決闘も終わり静かになった夜の町で、二人のサーヴァントの奇妙な時間が流れていた。

だがさすがにそれに気づいたランサーがキャスターに疑問を投げ掛ける。

「てめぇ、何故まだ消えていかねぇ」

心臓を貫かれ、霊基に現界不可能な程の傷をおった筈のキャスターは、しかしいっこうに退場しようとしない。

「さあ、私効かないのよ、こういうの」

キャスターは自らに空いた穴の縁を指でなぞりながら、日溜まりのような笑顔で不敵に笑う。

「てめぇ、まともな体じゃねぇな?」

「どうかしら?まあどっちでも良いけれど。それじゃあ、今夜は楽しかったわ、機会があれば今度はお茶でも飲みましょう」

そう言ってキャスターは転移で消えていった。

「ちっ」

後には一人残されたランサーの悪態だけが響いていた。

 

interlude out

 

 

 

 

 

 

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