沈黙に沈む総武高校の校庭に一迅の風が吹きぬける。決闘は終着を迎え、勝者と敗者はただ過ぎ行く時の中に佇んでいた。
しかしそれも風が通り抜ける間の事。再び二人の時間は動き始めた。
「どうなろうと文句は無いでしょうね?」
珍しく雪ノ下は感情の高ぶりを押さえられないといった様子で、声を震わせながら俺を糾弾する。
まるで勝敗が逆であるかのように。
傍らには平塚先生とセイバー。侍の姿はなかった。
「貴方の往生際の悪さは称賛に値するわ」
誉められてしまった、まあ俺もひねくれた諦めの悪さには諦めている。
そして雪ノ下の怒りの訳も推測できないではない。
決闘は俺が負けて終わった。
そのいきさつは単純だ。
侍の宝具が発動した瞬間、俺は二人の間に飛び込んだ。
生身の人間がそんなことをすればヒトの形も残らない程ぐちゃぐちゃにされるだろう。
だが今回の決闘はマスターへの致命傷を与える攻撃は無効化されるように契約されている。
だから佐々木小次郎の刀が俺に少しでも触れた瞬間その動きは強制的に停止する。当然この瞬間、俺の敗北は決定した。だがここで話は終わらない。
決闘は終わったが戦闘は終わらない。
「奴を斬れ、セイバー!」
サーヴァント同士の戦いは少しの遅れが致命傷を産む。
完全に虚を突かれた佐々木は直後セイバーに首を斬り飛ばされた。
「ははは、まさかこんな最期を迎えようとは。なんとも小狡い男が居たものよ、似た者主従というわけか」
侍は首だけになっても不敵に笑い軽口を叩く。しかし体は現界をとどめておけず光の粒になって消え初めていた。
「すまない雪乃殿、貴殿との約束、果たせそうにない」
雪ノ下はまだ状況を呑み込めないようで、消え行く自らのサーヴァントを前にして何も言えないでいる。
侍はその様子を見てははっと笑った後。
「後は頼む」
そういい残して消えていった。
「どうなろうと文句は無いでしょうね?」
そして雪ノ下がどうにか正気を取り戻して今に至る。
決闘に負けた俺は雪ノ下のどんな命令でも一つだけ聞かねばならない。
しかし雪ノ下も自らのサーヴァントを失った。今はもう聖杯戦争の参加者ではないのだ。
だがここで諦める彼女ではないだろう。おそらくセイバーを新しい使い魔にして再び参戦する筈だ。
その為の手段も用意されている。
問題は命令の内容だ。もちろんただセイバーを譲渡させることは可能だが、別に俺に死ねとも言えるのだ。
そこまではしないと思いたいが、令呪のある右腕を切断しろ位は言うかもしれない。
すると決着から今まで黙っていたセイバーが口を開いた。
「ユキノ、オレはおとなしくお前をマスターだと認める。だから…その役立たずはもう放っておけ」
「そう…良いでしょう」
この提案を雪ノ下も承諾する。セイバーの気難しさを先の交渉で理解しているからだ。
だがそのおかげで俺は悲惨な命令を受けずに済んだ。
雪ノ下はセイバーと手を合わせて何言か発すると周囲がパッと輝き出す。それで俺の腕から令呪の残骸が消え、変わりにセイバーと会わせた雪ノ下の右手の甲に新しい令呪が浮かび上がった。
これでサーヴァントの交換は成功した。敗退者は俺へと正しく入れ替わった。
これが俺と雪ノ下の決闘の顛末だった。