fate/Tiba-si night   作:d d

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これまでもランサーは彼女を気にしてきた

「ほれ、着いたぞ」

はあ、はあ。

ランサーに担がれて俺はとあるマンションの一角につれてこられた。

サーヴァントに運ばれるのはこれで2度目だが全く慣れない。

ランサーの話では巻き込まれたマスターだと言っていたが、成る程ただのマンションである。

まるで自分の家であるかのように合鍵を使ってドアを開けた。

「おい、そんな正面から入って大丈夫なのか?」

「ああ、あいつの親は共働きだし、最悪、記憶をいじっちまえばいい」

俺は玄関で靴を脱いでランサーの後を追う。

ランサーは一つの扉の前で立ち止まる。

ここにマスターが居るのか。

ドアには木屑模様のプレートがさがっており、そこには《いろはの部屋》と書かれていた。

この部屋の主人の名前だろう。

もしかしてランサーのマスターは女の子なのか。

しまった、その可能性を完全に失念していた。

果たして俺が話したところで意味があるのだろうか。

こん、こん。

「入るぞ」

ランサーは返事を待たずドアを開けて入室する。

ここまで来て帰るわけにもいかない。幸い、ランサーも期待はしていないとのことだったし、ここはきっちり仕事だけこなして帰るとしよう。

俺も意を決してランサーに続く。

その部屋はいかにも今時のジョシコウセイって感じの部屋で、壁にも制服がかかっていた。

やばい、ちょっとドキドキしてきた。

そのまま部屋を一通り見渡すと、ベッドの上にピンク色の塊が鎮座していた。

「ランサー?」

するとその塊から声がしてくる。どうやら中に誰かいるようだ。いや間違いなくランサーのマスターだろうが何やってんだ?

声につられてそっちに目をやると毛布の隙間からこちらを覗く二つの光点と目があった。

「だ、誰!?ランサー!!」

甲高く響く声と共に毛布がバサッと崩れ、中から女の子が産まれてくる。まるで桃太郎のようだ、桃娘か。山形辺りでろこどる始めてそう。

しかしそんな事を悠長に考えている場合ではなかった。

「令呪で命じる!そいつを…」

おいおいおい!

「落ち着け、そいつは敵じゃねえ」

するとランサーが指で何やら空中に文字を書く。

その後、部屋に甘い香りが漂ってきた。

「落ち着いたか?」

「………うん」

どうやら今のには人を落ち着かせる効果があるようだ。

それにしてもいきなり令呪を使おうとするとはそのはちゃめちゃっぷりがわかる。

「それで、その目付きがいやらしい人は誰なの?」

いやらしくねえよ、確かに脱ぎたての制服ってエロいなと思ったが表情には出してない筈だ、出してないよな?

「こいつはセイバーのマスター…、いや、元マスターか。こいつも魔術は素人だから話が合うんじゃねぇーかと思ってな」

ランサーの話を聞いた彼女はじっと俺の方を見つめてくる。

「余計なことを…」

そして目をそらすとそう呟いた。

「おめぇが毎晩泣き腫らしてるからだろうが」

「?!、適当なこと言うな!!」

彼女は近くにあった枕を投げつける。

それをランサーは首の動きだけでひょいとかわした。

なんというかとてもいたたまれない。

「なあ、あいつもああ言ってることだし、もう帰って良いか?」

ランサーはまたため息を一つつくと。

「悪いな、ここまで来てもらっといてなんだが」

承諾は得たことだしさっさと余計な俺は退散するとしよう。

「ま、待ってよ、一度引き受けておいて、もう帰るなんててきとー過ぎるでしょ」

なんだこいつ、まさかとは思うが俺とお話ししたいのか?

俺を睨み付けるその瞳は潤んでいて今にも泣きそうだ。

壁にかけられた総武高校の制服のポケットからはリボンが垂れている。この色は一年生のものだ。

つまりこいつは俺の後輩に当たるらしい。

年下の女の子に頼られて断れないのは妹を持つお兄ちゃんのさがなのだ。小町は本当に罪作りである。

「しょうがねえな」

俺は誘われるままに腰を下ろした。

「お茶くらい出してもらおうか」

「偉そうにしないでよ、私の方が長く生き残ってるんだから」

こいつ、だから俺を引き留めたのか。ただ優越感に浸るために。

「ランサー、お茶!」

「ヘイヘイ」

しかしどうやら飲み物はくれるらしい。少女の声に消えていくランサー、その様子はなんだか微笑ましくもある。

「それじゃあ、まずは自己紹介から。私の名前は一色いろは」

「俺は比企谷八幡、総武高校の2年生だ」

「うげぇ、先輩…だったん、ですか…?」

目の前の少女、一色は驚きと後悔が混ざりあった歪みきった顔をしていた。

ふ、わざわざ学年を強調したかいもあるというもんだ。普段ならこんな枠組みは糞くらえだが、自分がその恩恵を受けられるなら話は別だ。

「で、でも、マスターとしては私の方が上ですからね!」

しかし一色はしぶとく食い下がってくる。ようやく発見した自分以下の存在を手放したくないのだろう。その気持ちはわからんでもないが自分にやられるととてもうざったい。

「お待ちどー」

ここでランサーが飲み物を持ってきてくれた。

ひとまずはそれでお茶を濁すことにする。

「ランサー、お前使いっ走りみたいなことしてていいのか?」

「まあ、それが使い魔ってもんだろ。俺はおもしれぇ戦いができりゃぁそれで良いのよ」

マジかよ、どこぞの金髪セイバーにも聞かせてやりたい言葉だ。

「お前ありゃあ良いサーヴァントだぞ、大事にしろよ」

「でも絶対当たる槍とかいってぜんぜん当たらないんですよ、詐欺ですよ、詐欺」

「おい、勝手に宝具ばらしてんじゃねぇよ!」

「良いでしょ、先輩はもう脱落してるんだし」

絶対当たる槍?なのに当たらない?どういうことだ?

「当たってはいるぞ、それでもピンピンしてやがるだけだ」

ランサーはそう言って苛立たしそうに腕を組む。

確かにバーサーカーとかが相手なら一度殺しても復活するだろう。

「あのユキノシタとかいうキャスター…」

「雪ノ下?今、雪ノ下つったか?」

しかもキャスター?

「ああ、キャスターはユキノシタハルノって名のってんだよ」

それはデパートであった雪ノ下の姉の名前ではなかったか?

「そんなことあり得るのか?だって今も生きてる奴だろ?」

「ああ、アーチャーもそうだぜ」

「!?」

アーチャーは確かバーサーカーと戦った時に共闘した青年の仲間のサーヴァントだ。

「結構いるもんなんだな」

「その二人しか知らねぇけどな」

ぎゅう。

「いったっ、…なんだよ」

急に一色が俺の手をつねってきた。

「先輩はランサーと話しに来たんですか?」

「なんだよ別に良いだろ」

「良いわけないですし…、そもそも先輩は脱落したんだからそんな話聞かなくていいじゃないですか」

こだわるなぁ。第一俺は脱落したのではなく自分から降りたのだ。

「んじゃ、後は若い二人に任せるわ」

ランサーが空気よんだオッサンみたいな事を言って消えた。

まあ年齢を考えればお爺さんもいいとこだろうが。

「ていうか何話すんだよ、好きじゃないグループ内の奴とかか?」

「うわあ」

一色は飛んできたゴキブリを見るような顔をしていた。

「何だよ、違うのか?」

「そりゃそういう子もいますけど、それを口に出しちゃうのが駄目なんですよ」

いやいるのかよ、そっちの方が怖えよ。

「じゃあコイバナとかか?」

「先輩は私を何だと思ってるんですか?」

そりゃあ毎日、化粧と男うけのことばっか考えてるびっちだよ。

「まあ良いですけど、じゃあ先輩のタイプを教えてください」

「そりゃもう戸塚だろ、戸塚しかいない」

すると一色は口を開けて固まってしまう。

「何だよ」

「あ、いえ、まさか実名が出ると思わなかったので。先輩、好きな人いたんですね」

「ああ、戸塚の為なら死んでもいいな」

何せ戸塚は天使だ。天使なら死なないか、あはははははは。

「お前は?」

「私のタイプ、知りたいんですか?」

「いや全く興味ない」

「なんですかそれー」

一色は俺の肩をべしびし叩いてくる。だって話の流れで聞いただけだし。

「私のタイプは葉山先輩です」

「あー、それっぽい」

やはりこのてのタイプはああいうのが好きなのは常識だ。テストに出るレベル。

「…」

しかしその後一色は俯いて黙ってしまう。

「お前、葉山がマスターだったって知ってるのか」

「はい、というか聖杯戦争の事を教えてくれたのは葉山先輩ですから」

成る程そうだったのか。俺にとっての平塚先生や雪ノ下がこいつにとっては葉山だったのだ。

「良かったな、タイプの男で」

「はい、これは運命だと思いました。でも」

葉山は自宅ごと爆破されて脱落した。雪ノ下からこの話を聞いたのが三日目だからそれよりも早く。一色が葉山とすごした時間はそれほど長くはないだろう。

「それからは、どうしていいかわからなくて…」

「そんなに怖いなら、ランサーを自害させればいいじゃねぇか」

「おいっ!!」

ランサーは急に現れて突っ込みを入れてくる。

「じ、自害って、自殺ってことですか!?できませんよそんなこと」

ふとお茶を取ろうとして正面のランサーと目が合う。その表情は澄ましていたが、どこか苦味があるように見える。

降りることができなければ、攻めることもできない。

何も決断できないでいるマスターを抱えてランサーも参っている。しかしそれは彼女の優しさゆえでもあることを理解してもいる。だからこそ見捨てることができず、俺なんかにこうして頼んできたというわけだ。

「俺に譲るか?」

「え?」

不意にそんなことをくちばしってしまう。一度放り投げた分際で。彼女達に全てを押し付けた分際で。

「何て言ったんですか、先輩?」

「悪い、なんでもない忘れてくれ」

俺は既に聖杯戦争からは降りた身だ。また舞台に上がることなどどうして許されるだろう。

「俺はそれでも構わねぇぜ?」

どうやらランサーには聞こえたらしくそんなことを言ってくる。

「もー、仲間外れにしないでください!」

そう言って一色はまたべしびし叩いてくる。痛えなぁ、あと痛い。

「それじゃあ、次は先輩の番ですよ」

「あ?何がだよ」

「決まってるじゃないですか、どんな風に戦って、負けたのかですよ」

既に落ちが決まっていた、しかもバッドエンドだ。

というかエンディングまでいったらセイバー達のいきさつまでばれてしまう。押し付けた手前これ以上足を引っ張ると寝付きが悪い。

どこかで別ルートをでっち上げなければ。

「えーと、まずはでっけー音が聞こえてな」

「そうだそれ、俺の人払いの結界、なんで効いてねーんだ?」

あれはランサーがはったものだったのか。

「なんかの体質らしいぞ」

「気配が感じられないのもか?」

あー、そんなことも言ってたな。しかし雪ノ下が言っていたのは一定の魔術が効かないということだった。

「えー、気配ならあるでしょ、たぶん」

たぶんってなんだ、たぶんて。

しかし一色にはわかるみたいなので、おそらく雪ノ下の使い魔が俺を発見できなかったのと同種の現象だろう。

「たぶんな、で、ランサーと平塚先生が戦ってるのを見たんだ」

「あ」

すると隣で一色がおかしな声を漏らす。

横を見ると、今日会った初めの頃のように瞳を滲ませていた。

「すみません、先輩が巻き込まれたのって、私の、せいですか…?」

ああ、そういうことか。

すると一色の眼窩から一滴、雫が溢れ落ちる。

女の涙ほど胡散臭いものはねぇと思っている俺もこれには動揺せざるをえなかった。

「ちげぇよ、ランサーは俺を逃がそうとしてた。自分から首を突っ込んだんだ」

「どうして…逃げなかったんですか?」

言われてふと考える。何故あのとき俺はセイバーを召喚したのだろうと、そもそも何故あそこに飛び込んでいったのか。

しかしいくら考えても答えは出ない。

「さあな、おかしなことに巻き込まれて変になってたんだろう」

ならば、答えなど無いのだろうというのが俺の結論だった。

「ふふ、…先輩は元から変ですよ」

一色はそう言って静かに笑った。俺はポケットにあったティッシュを渡す。小町が男なら女の涙を拭くものは常備しておきなさいといつも持たせてくるので癖になっているのだ。俺はこの胸で泣かせるから大丈夫と言ったら鼻で笑われた。まさかそれが役に立つとは。

ちょうどいいここらで切り上げるとするか。

「んじゃ、もういいか?小町、妹に買い物頼まれてんだ」

「えー、もうですかー?」

「しょうがないだろ、買い物頼まれてんだから」

大事なことなので二回言いました。

「まあ、先輩みたいなのは女の子と話しなれてないでしょうから、今日はこのくらいにしといてあげます」

「いや、俺のサーヴァント女の子だったから、メチャクチャ話してたから」

あまり話した記憶がないのはあれだ、戦いの疲れで記憶が曖昧なんだ。

「その子、消滅しちゃったんですよね…」

「…ああ」

消滅はしていないが、同じようなものだろう。

「そうだ、先輩、連絡できるようにしませんか?」

そう言ってケータイを見せてくる。

俺はポケットから自分のを取り出すと、一色に投げ渡した。

「わっ、なんですか?」

「やっといてくれ、俺よくわかんねーし」

「よく簡単に渡せますね、通話アプリ何も入ってないじゃないですか!」

必要なかったからな。

一色は器用に両手で二つのケータイを操作している。

「出来ました」

俺はケータイをポケットににしまうと部屋を後にした。

「たく、この時代の女ってのはよくわかんねーな」

ランサーがついてきてそんな愚痴を言ってくる。

それでも放っておけない辺り、年頃の娘を持つ父親のようだ。

サーヴァントとマスターの関係にも色々とあるものだ。

消える間際、アサシンに雪ノ下を頼むと言われたのを思い出す。

あの二人はどんな関係性を気づいていたのだろう。

わかるのはそれを俺が破壊したこと。しかしそれは仕方のないことなので別に良いだろう。

ではセイバーと俺は?

なんのことはない。会話も事務的なものでしか無かったし、ただ聖杯戦争のために急造したものでしかない。それも俺が足を引っ張ってセイバーが苦労する、その繰り返し。

セイバーと離れてから三日が経とうとしている。契約してからもそれくらいなので既に雪ノ下と過ごした時間の方が長いだろう。

セイバーも全力を発揮しているだろうし、どう考えてもこれが最善の選択であるという結論に変わりはない。

「あら、いろはのお友だち?」

すると見知らぬ女性に声をかけられる。

しまった、親が帰って来たのか。

「はい、…お邪魔しました」

「いいえ、あの子最近元気が無いけど、仲良くしてあげてね?」

「はい」

一色の様子がおかしいのは親も気づいているらしい。

そういえば小町も朝、俺がおかしいと言っていた。

もしかすると俺も自分が気づかないところで何か変わっているのかもしれない。

しかし俺の場合は既に聖杯戦争から敗退した。これから少しずつ戻っていくことだろう。

俺はその女性に軽く会釈すると一色の家を後にした。

 

 

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