interlude 9-1
比企谷八幡からセイバーを奪い取って二日目、日曜日の夜。雪ノ下雪乃はセイバーと町を歩いていた。
最優のクラスであるセイバーのサーヴァントを手に入れても彼女の胸の内の不安が消えることはない。
彼女の姉、雪ノ下陽乃が何を考えているのか解らない。いずれは打倒しなければならないのか、それすらも判別できなかった。
それが夜の町をいく彼女の足を速めているのは言わずもがなだ。
土曜の夜は何の成果も出せなかった。それどころか未だに敵の一体もほふっていない。今日こそはと彼女は意気込んでいた。
だがそれも時間の問題だろう。何せ平凡以下のマスターからいっきに最高ランクのマスターへと鞍替えし、ステータスを著しく上げたセイバーが隣にいるのだから。
だから周囲を敵に囲まれた状態でも全く押される事なく殲滅していく。
「おらおら、おらーーー!!」
それはいままでの鬱憤を晴らすかのように、群がる雑兵達をめった斬りにしていく。
「歯応えのねぇ連中だなぁ!」
「そうね、けど数が多すぎるわ」
敵は人の形をしていて、その格好は鎧を着た者から着流しの者まで様々で、特色を絞らせない。
しかしこれだけの人型の兵士を用意できるということは、これは宝具で間違いないだろう。
比企谷八幡の話でバーサーカーの宝具は判明しているので、残るはアーチャー、ランサー、ライダーのどれか。
その中でもアーチャーとランサーの戦いかたとは違う気がする。であればライダーしかいない。
しかしここでちょっとした疑問が発生する。
これまでの情報からすると、ライダーのマスターは消去法で葉山隼人である筈なのだ。
だが彼は既に敗退している。なら結論はこうだ。
葉山隼人は自らのサーヴァントに裏切られた。
新たなマスターが生まれその人物が攻撃をしかけてきている。
そこまで一瞬で思い至り、雪ノ下雪乃は眉を潜めた。人と繋がる事を得意とする彼が裏切られたのだ、皮肉と思わざるを得ない。
だが既に雪ノ下雪乃とセイバーは次の動きを始めていた。
群がる雑兵をいくら蹴散らしても、それがつきることはない。
ならばその根本を絶つしかない。
兵士達は円形の広場に繋がるすべての道から現れていて、ここからでは出現場所を絞れない。ならば動けば良い話だ。
二人は一つの道に狙いを絞り行軍を開始する。
やがてその群れの端に到達した。そして今度は外周をなぞるように進む。
一筆書きのようにいずれは終点に辿り着く筈だ。
しかし外周を走っていたはずがいつの間にか、再び兵士達の群れに囲まれてしまっている。雪ノ下雪乃はその綺麗に整った眉目を歪めさせる。
失念していた。兵士達を排出しているポイントも同時に移動していたのだ。
ならばいくら追いかけても群れはその形を変え、こちらを飲み込まんとしてくる。だったら。
「セイバー、私を担いで跳びなさい」
直後、その体がふわりと浮く。サーヴァントの跳躍でいっきに空高く舞い上がる。
地上から追えないのなら、上空から俯瞰すれば良い。
強烈なGに耐えながら雪ノ下雪乃は下を見つめる。
兵士達の群れはさながら、闇夜を行く竜のように町を蠢いていた。
その数は千も下らないだろう。
これだけの兵士をただで用意できるとは思えない。しかし人一人の魔力量だとも思えない。ライダーの新しいマスターは何処かに魔力を貯めているのかもしれない。
その出現場所を目を凝らして探す。
徐々に群れの行動パターンが見えてきた。その始まりに標的がいる筈だ。
そしてあと少しでそれが見えるという直前、何者かに上から叩き落とされた。
「!?」
謎の人物と斬り合うセイバー。その最中、彼女は中空に放り出された。セイバーが投げ捨てたのだ。担ぎながらでは空中で戦えないと判断したからだろう。一回転して体勢を整えた後、着地する。
その後セイバーも落ちてきた。
「セイバー、いきなり投げ飛ばすなんて…」
「うるせぇな、それくらいでごちゃごちゃぬかすな。ほら敵が来るぜ」
セイバーの視線を追うと先程攻撃してきた人物が立っていた。
あれがライダーだろうか。
その姿は全身黒ずくめで夜の闇に紛れて確認できない。
「セイバー、雷!」
声と共にセイバーの剣から電気を帯びた魔力が弾け飛ぶ。それは闇を吹き飛ばし敵の姿を白日にさらした。しかしそれでも姿を把握できない。何か靄がかかったようにその人物は揺らいでいた。
「ちっ、オレと似たような宝具か」
セイバーは一人ごちるとその影めがけて走り出す。
それに対して影も動き出した。交差する黒と銀。
勝負は一瞬で決着した。
セイバーの剣が敵の獲物を弾き飛ばすと、さらに翻り影の心臓を貫いたのだ。
雪ノ下雪乃をマスターにし、その性能を限界まで引き出されたセイバーに一対一の果たし合いで叶うはずがなかった。
セイバーは剣を抜くと影が頭部につけていた兜を払いのけた。
じょじょに靄が薄れていく、と同時にその体が光の粒となって消えていく。
雪ノ下雪乃もその正体を確認しようとセイバーの横に並ぶ。
「なん…だと…」
その耳がセイバーの呟きを捉えた。思わずその顔をうかがうが兜で顔は見えなかった。
続いて敵の顔を拝む。しかし現代の人間である彼女に顔を見ただけでそれを判別できるわけがない。しかしセイバーにはわかった。つまり同じ時代、同じ地域の英雄だったのか。
「セイバー、この人は誰なの?」
それに答えたわけではないがたまたまセイバーの呟きが返答する形となった。
「てめぇ、ランスロット…」
次の瞬間、湖の騎士は光の中に消えていった。
interlude out
interlude 9-2
「ここは…?」
目が覚めると体を縛られた状態で暗い部屋の中にいた。
「はーぁい、隼人、元気してた?」
「!?」
聞き覚えのない声、見覚えのない姿。しかし葉山隼人は確かにある一人の人物を想起した。
「は、るのさん、なのか…」
「正解」
しかしそういう彼女にはやはり見覚えがない。
「そんなバカな。貴方は12年前、第4次聖杯戦争に巻き込まれて死んだ筈だ」
「うん、だから生き返ったって言ったらどうする?」
「!?」
彼はそれを即座に否定できなかった。魔術の世界の奥深さ、何より、目の前の人物が規格外である事を知っていたからだ。
「それで俺に何をするつもりですか?」
「んー、なんだと思う?」
雪ノ下陽乃は妖艶な笑みを浮かべると、葉山隼人の露出した太ももを指先で撫でた。
「っ…」
「ふーん、そんな反応するんだ。以外とうぶなのね隼人」
彼女のなまめかしい指はそこで止まらずさらに上まで伸びてくる。
「こんなに強ばらせちゃって、お姉さんに全部任せて良いのよ。やさしく剥いてあげるから」
そう言って彼女は葉山隼人の肉を摘まむと言葉通りその皮をゆっくりと下に降ろした。
「あ…あああ!」
思わず彼の口から叫声が漏れる。
その痛みに耐え、葉山隼人はなんとか反撃を試みた。
「…雪乃ちゃ…、雪ノ下さんにはもう会ったんですか?」
「うん」
当然か。この人が彼女を手放す訳がない。
「貴方が死んでから、雪ノ下さんがどんな思いをしたのか知っているんですか?」
「…う」
すると目の前の彼女は頭を押さえてうめき出す。
「…?」
「無駄だ、その女は私達に犯行できぬよう改造をほどこしてある」
次いで現れた人物は今度こそ本当に知らない人だった。