fate/Tiba-si night   作:d d

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閑話 とある埠頭の邂逅記

interlude 10-1

 

外気はそれほど冷えてはいないが、風が吹けば肌を刺す、そんな5月の夜。

町はそんな冷気を吹き飛ばすかのように喧騒で溢れていた。

それは、過ぎ行く一日を惜しむかのように。

時刻はまだ10時台、騒がしさに酔う彼らが夢から覚めるまではいま少し時間がかかるだろう。

そんな中颯爽と歩く一人の女性がいた。

薄手の赤いコートを羽織り、長い黒髪は人房だけ束ねられその他は自然に下ろされている。風にたなびくと宝石のようにキラキラと瞬いた。

胸元には金色に輝る十字のネックレスが揺れている。

ともすれば回りにうろつく酔っ払いに絡まれてしまいそうだが、彼女の高貴さにあてられ酔いが醒めるのかただ手を振り、彼女がにこやかに振り返すという光景が続いていた。

だが実際彼女は一人ではなかった。

「あまり回りを見回していると不審がられるぞ、凛」

聖杯戦争という殺し合いに参加しているマスターの一人である彼女の傍らには、今も使い魔のサーヴァントがその身を護衛している。

周囲の目に写らないのは彼が霊体化しているからである。

前回と同じアーチャーのクラスとして召喚された自らの主に釘を刺す。

「ああ、ごめん。こういうとこあまり来たことなかったから」

前回と違い時計塔の魔術師として参加している遠坂凛は自らの不手際を詫びた。

成る程っとアーチャーは首肯する。体はないのでそういうイメージだが。

大人びた彼女だがその年はまだ20にみたない。特に魔術師、それも一つの土地のオーナーとなると自らの土地を離れることは滅多にないだろう。魔術と土地の親和性は高い。ゆえにそれを極めようとすると、ひっきょう、引きこもりがちに為る。

立場上そういった輩を相手にすることもあるアーチャーはそんなことを思い出した。

「そうか、だが程々にしておけよ」

「わかってる」

目立つということは敵を引き寄せるということにもなる。それは望むところだ。

一人前の大人に片足を踏み込んだ少女は不敵に笑うのだった。

それからもう少し歩いて静かな埠頭へとやって来た。

聖杯戦争にはもってこいの場所だが、そこらじゅうを電子の目が監視していることを科学に疎い魔術師の一人である彼女でも知っている。

無論、多少の油断はご愛敬だ。

「どう?サーヴァントの気配、ある?」

「いや、特には」

手がかりがないのでとりあえず人気の無いところを順番に回っているのだ、そう簡単に見つかるとは思っていない。

そう思って振り返った時だった。

雲の合間から差す月明かりの中に一人の侍が立っていた。

この時代にこんなところであんな奇抜な格好をしている人はいない。

それもあるが遠坂凛は目の前の男に見覚えがあった。

月明かりが身の丈程もある長刀に反射している。

昔話にでも出てきそうなその袴姿。

いや、実際に彼は昔の日本で生活していたのだ。

その名は佐々木小次郎。

前回の聖杯戦争でキャスターのルール違反により召喚されたアサシンだ。

その彼が何故今回も喚ばれているのか。もしかしたら前回の事で何らかの縁ができたのだろうか。

しかしそのアサシンには一つだけ記憶と違う所があった。

それは彼の隣にぼやっと見える彼のステータス。

サーヴァントの能力は契約したマスターに左右される。

前回のキャスターはケチな魔術師らしくギリギリの魔力しか与えていなかった。

今回は優秀なマスターに巡り会えたのだろう。

もはやアサシンであることが疑わしい数値だ。

「あら、貴方一人?マスターは臆病風にでも吹かれたのかしら?」

けれど遠坂凛はその脅意をおくびにも出さない。

常に余裕をもって優雅たれ。

それが彼女の家の家訓であるからだ。

「心外ね、そもそも弱点であるマスターはあまり前にでない方が理にかなうと思うのだけれど?」

そう言いながらアサシンのマスターだと思われる人物はアサシンの背後から姿を見せる。

長い艶やかな黒髪を途中で纏めた高校生程の女の子だった。

けれど油断はできない。

魔術師としての上限はほとんどの場合産まれたときに決まっている。

研鑽とはつまりそれをどれだけ形にできるかでしかない。

何より他でもない自分自身が二年前は彼女の立場だったのだから。

「そういう貴方のサーヴァントはどうしたのかしら?」

「心配御無用、もういるから」

彼女の声が響くのを越えて、背後から矢が飛来した。

アサシンはその刀で矢を叩き落とす。

本来なら決定打になってもおかしくないタイミングだったが侍は涼しい顔でやってのける。

しかしそれと同じものが2本、3本と続けざまに強襲する。さしものアサシンも防戦一方である。

「これはアーチャー?」

「御明察」

彼女は涼やかに答えるが事はそう容易ではない。

アーチャーの姿はここから確認することはできない。そうとう遠い位置から狙っているということだ。

遠距離戦を唯一得意とするアーチャーの戦法としては何よりだろう。

だが此度の戦いの最大の弱点はマスターなのだ。

これではいざというときマスターを守れない。

この主従はあべこべなのである。

よほど腕に自信があるのか。

それとも何かの罠なのか。

人は理由を求める生き物だ。

それは科学でも魔術でも変わらない。その研鑽の末に今がある。

しかしそれも踏み込むだけの自由と覚悟があればの話。

その点において雪ノ下雪乃に死角は無かった。

「アサシン、行きなさい」

雪ノ下雪乃はあえて藪をつつきにいく。鬼が出ようと、邪が出ようと構わない。返り討ちにしてやると

彼女の瞳は火がついたように揺れていた。

指示を聞いたアサシンがその場を飛び出す。

無論、常人からすれば息も吐けぬ程の飛来する矢の隙間。

けれど最速のクラスであるランサーに比肩する俊敏性を持つ彼は易々とその包囲網から脱出した。

「さてと、こっちもそろそろ始めようかしら?」

遠坂凛は指を鳴らしながら開戦を誘う。

実は今の少女の判断に少し心引かれていた。

「いつでもどうぞ」

対して雪ノ下雪乃は涼やかに、すらりと立ち尽くしたまま返答するがその瞳は揺らいだままだ。

できれば今すぐにでも始めたいところだがまずはしっかりと役割を果たさねばならない。

「ところで貴方が聖杯に託す願いは何?」

目の前の少女は少しいぶかしんだ後。

「特にないけれど、目の前に戦いがあるからといって避ける必要はないでしょ?」

それは不明瞭だったけれど、彼女には納得のいくものだった。

「そ、なら、楽しい戦いにしましょう」

それを開戦の合図とし、手始めに数発ガンドを撃ち込んだ。

少女はそれを軽くかわす。

身のこなしは上々、なら。

今度は呪いの砲弾を四方八方にばら蒔いた。

それに遅れて少女の伸ばした腕から魔力の波が出現する。

バババババババババンッ!!

エネルギーを持った魔力同士が衝突する。

この子、なんて魔力コントロールなの!?

放たれた波の一つ一つは薄く、それ一枚では何の意味もない。いや何枚あったところで遠坂凛の砲撃じみたガンドはそれを貫くだろう。それに威力が弱まろうと当たれば呪い自体に影響はない。

けれど少女が発した波は一枚の布ではなく、小さな粒の集合体なのだ。

それがガンドと衝突するすると弾けて他のガンドを追撃する。

つまりガンド同士がぶつかるのと同じ現象を起こしているのだ。

それが薄い波を何倍にも厚くしている。

あじなまねを、ならこれでどう!!

今度はガンドを一直線に並べて発射する。これなら粒が別のガンドに当たることはない。

さながらガンドビームである。

しかし範囲攻撃の優位性を捨て去ったため、容易にかわされてしまう。

しまった、これじゃあ最初と一緒じゃない。

同じミスをやらかすなんて、なんて失態。

遠坂凛は一時、その手を止める。

「来ないならこっちから行くわ!」

こちらの攻撃はいなされたのだ、向こうにも同じようにして返してやりたいところ。

少女の腕が優雅に空中を舞うと氷の剣が出現した。

それも8つ。剣は鋭い切っ先を向けるとそのまま向かってきた。

遠坂凛は懐から赤い宝石を取り出すと正面に投げ捨てた。

Gben Sie(燃えろ)!」

宝石は一瞬瞬くと熱エネルギーを発し、瞬く間に燃え盛る豪火へと姿を変えた。

それに無防備にも突っ込んだ氷剣達は一瞬で霧散してしまう。

しかし直後、今度は土気色の剣が炎を切り裂いて向かってきた。

それをぎりぎりで避けながら彼女の魔術を考察する。

水属性の氷と、土属性の岩。少なくとも二つの適性を持っているということか。

それに自然素材を純粋に加工した武器。それは自然干渉と物体干渉、魔術の二大基礎を高いレベルで修得しているという事だ。

まあ、アサシンのステータスを見た時点で彼女の能力の高さは把握している。

燃え盛る炎によって向こうにはこちらが見えていないはず。

なら奇襲のチャンスだ。

思考が決着するやいなや、遠坂凛は前方へ駆け出す。

あらかじめ指の間に宝石をセットしておく。

炎の脇を掠めるように通り過ぎた。

直後、視界全体を少女の体が覆った。

その顔は驚きに目が見開かれている。

おそらく自分も似たような顔をしていただろう。

何の事はない。お互いに同じことを考えただけだ。

「破っ!」

走った勢いのまま掌ていを突き込む。

少女は体を捻ってかわしそのまま回し蹴りを放つ。

それをしゃがんでかわし、正面にある軸足を崩そうと低空姿勢のまま蹴りをうつ。

みごとヒットし、少女はバランスを崩した。

チャンス!

立ち上がると渾身の双ていを放った。

しかし少女は左手だけで体重を支えると、逆立ちのまま腰を捻ってこちらの攻撃に蹴りを合わせてくる。

しかしそのまま攻撃を繰り返す。

いくら彼女でも逆立ちのまま凌ぎきれる筈がない。

案の定、少女は無理矢理、連撃の隙間を縫って飛び上がる。

着地の隙を狙って再び渾身の一撃をみまった。

「え?」

けれど直後、視界が横転する。

重力を無視して夜の埠頭が舞い上がる。

違う逆だ、自分の方が跳ねたのだ。

自らの意思とは裏腹に遠坂凛は泳ぐように空中を舞った。

そのままコンクリートに激突する。

「くううっ」

頭が明滅する。

感触は無かった。驚くことに少女は触れることなく人間を投げ飛ばしたのだ。

すぐさま追撃が来るはずだ。遠坂凛は祈るように立ち上がった。

しかし思ったような攻撃は来ない。前方を確認すると、自分と少女の間に数本、矢がささっていた。

どうやらお節介なパートナーに助けられたらしい。

「ありがとう、アーチャー」

「二度は無いぞ、くっ」

どうやらこっちを助けた替わりに向こうはアサシンに追い付かれたらしい。

改めて確信する。少女は強い。こちらは単純な戦いではないので、できれば後でマスターと話をできるよう若干手を抜いているのだが、それでこの有り様だ。

しかしこの少女なら本気を出しても大丈夫だろう。

そう思い彼女を見据え、その変化に気がついた。

「はあ、はあ、はあ」

少女は膝に手をつき、その呼吸は乱れに乱れていた。

それもそうだろう彼女の体力はこの時点でつきかけていた。

ふーん、弱点は体力だった訳か。

遠坂凛はその顔に悪魔の微笑を浮かべる。

心肺機能は才能では補えない。

一時は追い詰められたがこれで形勢逆転。

さてどうしてやろうかとにじり寄ったときだった。

プルルルルル。

何よ、こんなときに!?

音の出所はわかっている。内ポケットの簡易型携帯電話である。これが簡易型だと認めたくはないが。

だが今は戦闘中だ。出るわけにもいかない。

「鳴って…はあ、いるようだけれど…はあ、良いのかしら…?」

汗でぐっしょりになりながらそんなことを言ってくる少女。

けれど確かにこれにかけてくるのは今がどんな時か知っているもののみ、つまりそれを踏まえても連絡をとりたいということだ。

遠坂凛はおっかなびっくりそれを取り出すと画面を開いた。

そこにはいくつかの記号と《衛宮 士郎》という文字が書かれている。

ええっと、これを押せば良いのよね?

それに触れると画面が変わり、一緒に音が聞こえてきた。

《遠坂?!理由は〰〰〰》

「はあ!?こっちも戦闘中だっての、自分で何とかしなさい!」

ケータイの電源を切る。あの男はまた厄介事に首を突っ込んだらしい。家で待ってろって言ったのに。

まあそれを聞かない奴だって事はわかってたし、わかった上で一緒に居るのだが。

さて、と現状を確認する。

マスターの戦いはこちらが有利だ。けれど少女の才能は本物、どんな秘策があってもおかしくない。

サーヴァントの方はいつ負けてもおかしくない。

アサシンには例の剣技があるからだ。

以上の事を踏まえ遠坂凛は判断をくだす。

「悪いけど用事ができたわ、この勝負預けといてくれないかしら?」

「残念だけど…それは無理…ね」

断られたか、まあ無理もないわね。近距離しか戦えないアサシンにとってアーチャーは天敵だもの。

Punktre(灯れ)!」

近接戦が始まる前に驚いて落とした宝石は少女の目先に転がっていた。

呪文を起点に魔力を解放した宝石は目映いばかりの輝きを放った。

それに目を焼かれた少女の視界は一時何も写らなくなる。

そこから回復した彼女が埠頭を見つめた時には、そこに遠坂凛の姿はなかった。

 

interlude out

 

interlude 10-1

 

プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル、プルルルルル、ツー、発信音の後にメッセージを残してください。ピー。

《私だ。面倒なのでこのまま話す、折り返しはいらない。調査の結果、雪ノ下は200年程前は時計塔に在籍していたことがわかった。とはいっても魔術師としてではなくその補佐、土地に流れる魔力の流れや量といったものを観測する仕事を担っていた。根元を目指すことが命題となる魔術師としては珍しい家系だな。まあそれが彼らなりの根元のめざし方だったのかもしれんが。

とはいえ珍しいのは確かだ。それなりに重宝されたらしい。記録の中での話だが。

それが200年前、突如自ら籍を外している。まあ、聖杯戦争が始まった時期に重なっているから何かあったんだろう。こっちでわかるのはここまでだ。健闘を祈る》ツーツー。

 

 

 

 

 

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