interlude 11-1
時刻は午後11時を回ったところ。
誰もいなくなった公園で施設の一部であるスタジアムの証明だけが静かにグラウンドを写し出していた。
そこで向かい合う二組の魔術師とサーヴァント。
今日で戦いは九日目、互いにここで決着をつけるつもりだ。
「随分良い場所を見繕ってくれたのね」
四方をスタンドで囲まれた人工的な盆地。既に人払いは済んでいる。
「別に大した事では無いわ、思いきり戦える場所が少ないだけよ」
「へーすごいやる気じゃない。サーヴァントも前とは違うみたいだし」
四日前に戦った時はアサシン、佐々木小次郎を従えていた筈だが、今は例の少年のセイバーに変わっている。
そのステータスはアサシン同様限界まで引き上げられていて、彼女が今のマスターである、まごうことなき証拠である。
では、少年の方はどうなったのか?
サーヴァントを交換した?であれば今ここにアサシンが気配を消して隠れている可能性もある。
あの決闘がどういう結果をもたらしたのか、キャスターに邪魔された私達は知る由もない。
「貴方のマスターは目付きの悪い男の子だったわよね。まさか寝返ったのかしら?」
危うく、さすが反逆の騎士、と言いそうになるが踏みとどまった。下手に暴れられたら困る。
「御託はいい、さっさと始めろよ」
そういうとセイバーは剣を構える。
どうやら向こうに会話の余地はないらしい。
「アーチャー」
まあ、いいわ。セイバー相手に様子見はできないし、いざとなれば令呪もある。
「作戦通りよ」
「了解した」
「オラアアア!」
気合いの雄叫びとともにセイバーが猛スピードで突っ込んでくる。
それを、アーチャーも前進して迎え撃った。
凄まじい衝撃がグラウンドを駆け抜ける。
その破壊力にアーチャーも上半身がのけぞっている。
「――――――
次の瞬間二人のサーヴァントを炎が包み込み、そしてその後、消失した。
「これは!?」
「やっと二人きりになれたわね雪ノ下さん?」
雪ノ下雪乃はその整った顔を驚きに曇らせる。
突然二人が消え去ったことに、ではない。
その現象、そして直前にアーチャーが投影した白黒一対の剣。
それは比企谷八幡が話したとある青年のものではなかったか。
雪ノ下雪乃は瞬時に正解に辿り着く。何故ならそういった英雄を既に見ていたから。実の姉、雪ノ下陽乃がそうであったから。
だとすればセイバーがまずい。だが例え令呪で呼び戻しても同じようにまた飛ばされるだけだろう。
今は彼女を信じるしかない。しかし雪ノ下雪乃の中にセイバーを信じるに足る理由はなかった。
「それで優位にたったつもりかしら?貴方もサーヴァントを失っているのに」
雪ノ下雪乃は動揺を隠して気丈に振る舞う。
「ええそうね、だけどそれで充分!」
だがそれは遠坂凛の前では何の意味も無かった。
このチャンスに襲ってこないって事はアサシンはいない。
魔術で強化した脚力で一瞬の内にグラウンドを駆ける。
体力が弱点なのを私が知っているのは向こうも承知のはず。
ならば雪ノ下雪乃の攻撃は全て短期決戦、一撃決殺の大技だのみ。
それを受けきれば私の勝ち、できなければ貴方の勝ち!
それを見た少女も動き出す。それは少しの無駄もなく、水が流れるような流麗な動き。
直後、天空から雷が落ちてきた。
遠坂凛はポケットからオレンジ色の宝石を取り出すと無造作に放り投げる。
宝石は一瞬、瞬いた後巨大な岩石へと姿を変えた。
それらが衝突し岩は塵に、雷は霧へと返る。
その後も次々に襲い来る自然災害を宝石を惜しみ無く使い突破していく。
スタジアムの中は地獄絵図と化す。
マグマの川が流れ、氷の剣山がそびえたち、燃える竜巻が徘徊している。数秒ごとに吹雪と熱風が入れ替わり、空からは絶えず様々な天候が猛威をふるっていた。
遠坂凛はそれらをいなしながら驚嘆する。戦闘が始まる前に周辺の魔術的仕掛けはあらかた潰しておいた。にもかかわらずこれだけの種類と規模の魔術を行使できるなんて。
それらをいまのところ退けている宝石魔術はあらかじめ加工して魔力を封じ込めなければならない。
しかし目の前の少女は何の準備もなくそれと同等以上の事をしているのだ。
キャスターの言っていたことを思い出す。自分のいる場所が自分の結界。
この少女も同じことができるというのか?
だとしても立ち止まる訳にはいかない。
認めよう、彼女は自分より上だ。
遠坂凛はポケットから一年で一つしかできないとっておきの片割れを取り出した。
彼女は自分より上だ。
ただし、二年前の。
それを放り投げると魔力を通しそれを起動させる。
「
「!?」
グラウンド内は激しい光に包まれた。
雪ノ下雪乃は前回の教訓をいかしその瞳に遮光魔術を施している。
しかしその姿を視認することはできなかった。
遠坂凛の姿は消えた。
そして雪ノ下雪乃の正面に突如現れた。
「?!」
「ハアアアアア」
その掌を突き込む。強化された右腕が少女の体に捩じ込まれる。
「アッ、アッ」
「セイヤアアア」
そして鍛えられた渾身の回し蹴りが彼女の首をとらえた。
押し付けられた力のままに転がっていく少女。
それはスタジアムの外周に激突してようやく止まった。
「勝負ありね」
遠坂凛は振り上げた左足を下ろしそう口にする。
そのままゆっくりと少女のもとに向かって歩く始めた。
遠坂凛が使用したのは空間転移の魔術だ。とっておきの宝石を使用することでそれを可能にした。
「誇っていいわよ、本当はサーヴァントに使う筈だったんだから」
遠坂凛は既に勝利を確信している。
その思惑通り、雪ノ下雪乃はピクリとも動かない。
しかしその背後を一丁のライフルが狙っていた。
interlude out
interlude 11-2
「てめえ、これはどういう事だ?」
「質問の意味がわからないな」
すかした態度にいっそうイライラが増す。
けれどそれが疑問の種を増やしているのも事実だった。
目の前に広がるのはバーサーカーとの戦いの日に見た荒野だ。
色の抜けた空に歯車が回っているなど多少の違いはあるが、つきたった無数の刃達が間違いなくあそこと同じものだと示している。
つまりここにも存在するのだ、我が麗しき王の剣の贋作が。そして目の前にいる男がそれを作り弄んでいる張本人。
だがそいつは依然見た男とは別人だ。だがこんなことができるやつが二人といるとは思えない。ならばこれは何を意味しているのか。
「――――――イーヒッヒッヒッヒ、フッフッフ、アーハハハハハ!!」
突然笑いだしたセイバーをアーチャーは憮然と見つめる。
「成る程ねー、そーいうことか、ふっ」
「何がそんなにもおかしい?」
アーチャーが問いかけるとセイバーはにやけた表情のまま返事をする。
「そりゃ笑えるだろ、あの赤髪が将来お前みたいになっちまうんだからよ」
アーチャーはセイバーが突然笑いだした理由に思い至り顔をしかめた。
「しかも過去の自分とこに呼び出されてこき使われるとかお前も災難だな」
「楽しんでいるところ悪いが悠長にしている暇があるのか?貴様のマスターは持久力に問題がある筈だが?」
それは初耳だったがセイバーは特に気にも留めない。
セイバーは正面に向き直り剣を構える。
「安心しろよ、どのみちてめぇはオレがぶっ殺してやる」
笑い転げて多少はスッキリしたのの、目の前の男が聖杯に求める程の物を劣化品にしていいように扱っていることにかわりはない。
吐き捨てるとセイバーは突進する。
それに対しアーチャーが右手を上げると、周囲の剣が音もなく一斉に浮遊した。
次の瞬間、刀剣の群れは嵐となってセイバーに群がった。
押し寄せる大小様々な刃物をセイバーは次々と叩き落としていく。
雪ノ下雪乃と契約したことでその性能は格段に上がっている。
さらに一度経験したことで、対処が容易になっていた。
「オラオラオラアア、こんなもんかあ!?!」
そのまま並み居る剣を薙ぎ倒して一目散にアーチャーへと突っ込んだ。
アーチャーも負けじと手に持つ双剣で応戦する。
前後左右、ステータスに物をいわせて攻めてくるセイバーの剣を、アーチャーは後手を踏みながらも巧みな体さばきでいなしていく。
「ち、腰抜けが!」
「どうとでも言え」
そうこうしている内に再び剣が飛来し二人の間を割る。
「うざってぇ小バエかこいつら」
しかしどの剣もセイバーの鎧にすら届かずに弾き飛ばされていく。
「はっ、こんな宝具擬きがオレに通じるかよ!」
「そうか、騎士王の贋作であるお前ならと思ったのだがな」
「ああ!?!」
弾き返した内の一つがアーチャーに飛来する。しかしアーチャーに届く前に向きを変え、再びセイバーへと向かう群れに紛れ込む。
「何か違えたか?しょせん貴様は彼女の劣化コピーでしかない」
あんのすかしやろう、待て、今なんて言った?
「てめえ、何故アーサーが女だと知ってる?」
この時代の文献を見たが、アーサーは男だとされていたはずだ。
「知れたことだ、私は聖杯戦争で彼女に会っている。彼女の剣を投影できるのはその為だ、こんな風にな」
するとアーチャーは手元にカリバーンを呼び寄せる。
「父上の剣をてめぇなんかが使ってんじゃねええええ!!」
「やれやれ、その国を破壊したのは誰だ」
「うるせえええ!!」
セイバーは群がる剣をも構わずにアーチャーに突進する。
するとアーチャーの前に漂っていたカリバーンがセイバーめがけて飛んでいく。
それに素早く反応すると高速で飛ぶ剣の柄をガッチリとつかんだ。
その瞬間、カリバーンは『壊れた幻想』となって爆発した。
「が、あ、あ」
弾け飛ぶセイバーを数十の剣が追撃する。
しかしセイバーは無理矢理起き上がると怒りのままに暴れ狂い、それらを返り討ちにする。
「話の続きをしよう、二年前に行われた聖杯戦争で現代の私、あの男はセイバーとして彼女を召喚した」
「はっ、死後の安寧まで売り飛ばしたか。それであの完璧な王は何を望んだ?国の復興か?それともオレに消えてほしいってかあ?!」
「王の選定のやり直し」
「はあ?」
その瞬間手が止まったセイバーを無数の剣が襲った。
「がっヴぉあ、あ、あああああああ!」
しかしそれを魔力放出で吹き飛ばすと再びアーチャーに向かっていく。
「ふっざけんなああ、お前の言ってることは出鱈目だ!!」
「ならばこれはどう説明する?」
アーチャーは再びその手にカリバーンを投影した。
「やああめええろおおお!」
今度はそれを自らの手で握りセイバーに応戦する。
経験憑依―――アーサーの剣技を模倣して。
普段ならいたずらに彼女の剣をコピーしない彼も相手がモードレッドであれば別だった。
澄まし顔で飄々としているアーチャーはこの時意外にもセイバーに対して自らの過去に向けるような怒りにも似た感情を抱いていた。
例え記憶が磨耗しようと薄れることのないこの輝きを曇らせた張本人に対して、自分にそんな資格がないことはわかっていたが、それでも問いたださずにはいられなかった。
それはあの岡の再現。彼女と彼女の終わりの、そして黄金の出会いへと続く始まりの。
幾度となく二つの剣は交差した。いつのまにか周囲の剣は沈黙し、果てしない荒野に剣撃の音だけが響き渡る。
結果だけ見ると徐々にアーチャーが押されていた。
アーチャーには身を守る鎧もなく、魔力放出といったスキルもない。剣術を真似れば彼女の領域に届くわけではない。
くしくもそれはあの岡での決着と同じ。
カリバーンをクラレントが弾きアーチャーの頭蓋を叩き割ろうとする。
その時、アーチャーが持つカリバーンが目映い輝きを放った。
『
剣を覆っていた輝きがセイバーに向かって延びていく。
光はセイバーを貫くと荒野を縦断した。
「があああああああああああ!」
しかしそれでも決着はついていない。セイバーは魔力放出で回避と防御を試みた。
致命傷は避けたもののその脇腹には大きな穴が開いていた。
「確かに貴様は彼女と相討った、だがそれは彼女が国を愛し、滅び行く様を憂いたからだ」
「はあはあはあ」
それでもセイバーは立ち上がる。
しかしその体と心はボロボロでアーチャーの言葉が届いているかも定かではない。
「何が選定のやり直しだあ?王の統治は完璧だった。あれ以上の王などいるものか、このオレ以外はなああ!!」
そんなセイバーをアーチャーは侮蔑を込めた目で睨み付ける。
「ふん、彼女の栄光にすがるだけの紛い物が。貴様一人では何もできはしない」
「贋作野郎のてめえが言えたことか!!」
「そうだ、私も貴様と同じ彼女に幻想を抱いたものの一人。だからこそ、貴様に引導を渡すに相応しい」
アーチャーはカリバーンを消し、いつもの白と黒の双剣を投影した。贋作を研き続けてきた己の剣で目の前の敵を倒すために。
アーチャーは手に持つ剣をセイバーに向けて投げつけた。
それをセイバーはいとも容易く弾き飛ばす。
そのままアーチャーに向かい何度目かの突進を開始する。
アーチャーはもう一度双剣を投影するとセイバーを向かい討った。
やがて二つの贋作は交錯する。
セイバーの剣がアーチャーの剣を叩く。
その瞬間、セイバーの後方から、先程投げ棄てた剣の一本が飛来する。
セイバーは身に宿る直感でそれをなんとか回避する。しかし無理に体勢を変えたためバランスを崩してしまう。
その隙をアーチャーが攻め立てる。
それと同時に再び後ろから剣が飛来する。
それはアーチャーが果てしない研鑽の末に編み出した彼オリジナルの剣。
それは三つの交点が産む不可避の絶技――――――鶴翼三連。
「あああああああ」
それをセイバーはさらに体を捻ってかわす。だがもう一度アーチャーは同じ動きを繰り返す。セイバーは徐々にそのバランスを崩してく。何度目かの果てにはその首を剣が切り裂く。それは諦めを知らなかった男の、歩み続ければ何時かは届くと信じた青年の無休の剣技を。
何度目かの交錯。その刃がセイバーの首をとらえようとしたその直前。
突如セイバーの姿が消失した。
荒れ果てた荒野にアーチャー一人が立ち尽くす。
数秒後男は事の次第に思い至った。
「しまった、令呪か!?」
interlude out