fate/Tiba-si night   作:d d

29 / 52
今宵も月は輝きそれを見上げる

泥やら汗やら血やらがこびりついた面々はシャワーでそれを洗い流し、服は魔術で洗い乾燥させた。

しかし男女の力量の偏りが激しく俺の下着も遠坂さんが大人の余裕で洗ってくれちょっと恥ずかしかった。

既に夜も遅く、夜の学校でお泊まりというイベントにも特に騒ぐこともなく俺達は就寝した。もちろん男女別で。

しかしいつもと違う環境でか全く寝付けず俺はフラッと部屋を後にした。

隣で寝ていた筈の衛宮も居なくなっていたがきっとトイレかなんかだろう。

夜の校内をぺたぺたと歩く。月が出ているのでそれほど暗いという訳でもない。

その光景はどこか幻想的で校舎はいつもと違って見えた。

ふと校庭を見下ろす。そこで雪ノ下に敗北しセイバーを手放した。

まだあれから三日ほどだが遠い昔のようだ。

するととある教室が目に入る。

そこでは衛宮とセイバーが何やら話し込んでいた。

あの二人は確か犬猿の仲、いやセイバーが一方的に嫌っているだけなのでそれは語弊があるが、ともかく仲直りできたらしい。衛宮もセイバーと話したがっていたので良かったと言えるだろう。

前回の聖杯戦争で衛宮はアーサー王を召喚した。そしてセイバーはその騎士王に並々ならぬ激情を抱いている。

つもる話もあるだろう。

俺はその場を後にし、校内散策を続けた。

すると暗い校舎内に不似合いな赤い外套を纏った男が現れる。

しかし浸入した不審者ではなく遠坂凛のサーヴァントアーチャーである。

「散歩か?あまり夜更かしすると明日が辛いぞ」

男は俺に気づくとそんな母ちゃんみたいなことを言ってくる。

なので俺もつられて軽口を返してしまう。

「どうせ俺は戦力にならねぇし、深夜アニメ見てりゃあこのくらいになるよ」

「アニメか、久しく見ていないな」

アーチャーはそんな事を言い出す。

そういえばこの男は未来に伝説を残す英雄だとランサーが言っていた。

久しくということは以前、見た事があるらしい。

時代はそこまで離れていないのかもしれない。

英雄という存在には未だに忌避感がある。しかし一色とランサーといったように必ずしも何らかの繋がりをもてない訳ではないのだろう。

「そういえば、君がランサーを呼んでくれたのだったな。改めて礼を言おう」

「そりゃどうも、って、何であんたが礼を言うんだ?」

するとアーチャーがどこか緊張したように固まる。

しかし直ぐにいつもの澄ました態度に戻った。

「あそこはマスターの故郷だからな…」

「律儀なもんだな…」

「そろそろ戻れ、横になっていれば次期眠れる」

そういうとアーチャーは消えてしまった。

仕方ない言われた通り部屋に戻るとするか。

俺は元来た道を引き返す。

するとセイバーが一人で教室に佇んでいた。いつのまにか衛宮はいなくなっている。

そこを通りすぎようとして、月明かりのなかそれを見上げるセイバーの横顔に気をとられて足を止めてしまう。

暫くその様子を見つめているとセイバーがこっちに振り向いた。

「何だよ」

そして声をかけてくる。

「別に…」

俺はそれをはぐらかして答える。

そのまま二人無言で見つめあった。

教室の内と外。サーヴァントと人間。男と女。

そんな隔たりなどないかのようにセイバーの瞳は俺をいぬく。

その力強さにあてられて俺は教室へと足を踏み入れた。

「何してたんだ?」

「別に、ただ月が綺麗だと思ってな」

そういえば何処かの文豪がI love youをそう訳してたなと想起する。

あいつも英霊になっているのだろうか。

「似合わねぇな」

「うるせぇ、お前さっきもそこ通っただろ」

どうやらばれていたらしい。俺はサーヴァントからは気配をよみづらいらしいのだが。

「何で声かけなかったんだよ」

「いや、かけないだろ。お前衛宮と話してたし」

その横顔はどこか晴れ晴れとしていた。

「何話してたんだ?」

「父上の話だ」

成る程だから彼女は珍しくあんな顔をしていたらしい。

衛宮は前回の聖杯戦争でアーサーを召喚した。

そして以前、自らに剣を向けるセイバーと、それでも話がしたいと言っていた。

そんなあいつだからこそ、聞ける話もあるだろう。

何はともあれセイバーが納得できたのならばそれが一番だろう。

また二人の間に沈黙が落ちる。

だがそれはいつもの苦々しいものではなく、むしろ心地よささえ感じられた。

セイバーは窓の外に輝く月を見上げている。そんな彼女の横顔はすっきりとしたものだった。

今なら答えが聞けるかもしれない。

俺は今まで気になっていた事を彼女にぶつけてみた。

「どうして向こうにつかなかったんだ?」

それはセイバーが敵のアーサーに勧誘された時の事。

俺はセイバーに好きにしろと伝えた。

それで彼女は敬愛する王の元に行くと思っていた。

だが結果はこの通りだ。

「オレは反逆の騎士だからな」

しかしセイバーはすらりとそう口にする。

「そうか」

彼女がそう言うのならこれ以上俺が追求する必要はない。

「んじゃ、俺はもう行くわ」

俺は教室を後にしようとする。

「ちょっと待て」

するとセイバーに呼び止められた。

「なんだ?」

「お前、前にオレが可愛いとかぬかしてたな」

ブッ、今さらそれを持ち出すのか…。

「いや、あれはお前の気を引くための冗談であってだな…」

そういえば、俺は衛宮を倒すために一時的に許されたのではなかったか。それが解決した今、もしかして俺を殺そうとしてるのか?

「…そんな事わかってる」

「じゃあなんなんだ…」

どうやらセイバーはもう怒ってはいないらしい。

なら彼女はいったい何を言おうとしているのか。

「じゃあ、お前はオレのこと、どう思ってるんだ…?」

今宵三度目の沈黙のとばりが降りる。

俺はそれをいいことに自分自身の心と会話をする。

何故、セイバーがそんな事を聞いてくるのかわからない。

相手の心情を深読みしてしまうのは俺の悪い癖だ。

人は嘘をつく生き物だ。時に自分自身さえだまくらかして都合のいい夢を見る。

俺はそれに何度も傷ついてきた。

だから気になってしまう。

裏があるのではないかと、見透かしてしまう。

だがふと思い出す。俺は彼女に好きにしろといった。

そして俺の予想を裏切り、精錬なる騎士王に敵対する道をとった。

恐らくそれは彼女が自分で選んだ答え、言われた通り好きにした結果なのだろう。

ならばそれを言った俺自身がそれに応えない訳にはいかないのだ。

ではいったい何を応えるのか。

かつて明治の文豪、夏目漱石は日本人らしい愛の伝えかたとして月が綺麗ですねと解した。

それは日本人の奥ゆかしさやら風情を楽しむ心なんかを表しているらしい。

それが嘘なのか、はたまた冗談だったのかはわからない。

だがどうも俺には回りくどいように思える。先程セイバーが言ったように日常でも使う言葉だ。きっと俺のようにこの逸話を知っていなければ伝わらない。

時代が違うのでしょうがないとも言えるが、明治の頃は文明開化といわれるように、今と同じくらい日本がグローバル化に邁進していた頃だろう。それを危惧していた節のある彼はわざとこんな風に訳したのかもしれない。

要はただなぞるように訳すのではなく、自分らしく伝えろということである。

なのでひねくれた俺はその言葉を少し変えて伝える事にする。

 

「お前は綺麗だよ、セイバー」

 

月が見守る静寂にそんな言葉が響く。

それがまごうこと無き俺の本心だった。

俺は彼女に憧れていた。

だって彼女はぶち壊したのだ。

例えそれが滅ぼすというやり方だったとしても。

くだらないルールを、概念を、己の手で。

例えそれが彼女のワガママだったとしても。

それで国一つ滅ぼしたのだから。

それは、本物だと言えるのかもしれない。

比企谷八幡はあくまで彼女を肯定する。好きにやれ、それが彼の答えなのだから。

だから彼は彼女を綺麗だと思った。

「…そうかよ」

セイバーはそうとだけ応えると教室を出ていってしまう。

月明かりに照らされた教室に俺一人だけが取り残される。

俺はその光に誘われて天を見上げた。

そこには灼熱に輝く太陽の光を反射して、闇夜を照らす月がある。

それを綺麗だと思うのはやはり今も昔も変わらないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。