時刻は午後12時になる少し前。
俺は学校の教室で窓をモニターがわりにして映った遠隔映像を見ていた。
そこには既に突入班がディスティニーランド・シャンデリア城の天辺に陣取っている姿が映っている。
俺達は足手まとい、もとい指令班。
礼装を使って指示を出す。
突入班は衛宮、遠坂さん、雪ノ下、平塚先生。そしてセイバーとアーチャーだ。
そして時計の針が頂点を指し示すと、雲の切れ間から巨大な帆船が出現した。
《行くわよ》
遠坂さんの合図で一同は一斉に船に飛び乗る。
そして船は再び上昇を開始した。
intelude 15-1
敵が邪魔してくるということは無く、俺達はすんなりと船に乗ることができた。
甲板の上で二人の敵と対峙する。
眼前に佇むのはキャスターとアーサー。キャスターはニコニコと笑っているが、アーサーの顔に表情はない。
それはまだ出会って間もない頃の彼女がしていたものに似ている。
だがそれが間違いなく違って見えるのは二人が別人であると完全に理解しているからだろう。
何故そんなことになっているかはわからない。
だが今は敵を打倒することに専念しなければ。それが例え体だけだったとしても、彼女の愚行を止める事でもあるのだから。
ゴーゴーと風が耳をうつ。
「何処からでもどうぞ?」
キャスターのそんな軽口を合図にアーチャーとセイバーが同時に飛び出した。
アーチャーはキャスターに、セイバーはアーサーに、事前に決めた標的に二人は向かっていく。
それに続いて俺達も大聖杯に向けて行動を開始する。
しかしその行く手を突如現れた影が遮った。
以前剣を交わした円卓の騎士ではない。
粗っぽい服装をした男達が何処からともなく現れた。
《あー、あれ、葉山先輩が従えてた人達ですよ》
耳元の礼装からそんな声が聞こえてくる。
「一色、何人いるかわかるか?!」
《えーと、確か魔力が続く限り、何体でもって…》
こいつらは魔術によるものなのか。向こうには大聖杯がある、おそらくほぼ無制限に呼び出せるだろう。
「
俺は『
跡形も無く消えていく雑兵。
効果はある、しかしこの大人数と慣れない短剣で戦うのは難しいだろう。
ドゴーン。
ビュオーン。
そしてそいつらを容赦なく船外へと吹き飛ばしていく遠坂と雪ノ下さん。
恐ろしいまでの暴れっぷりだが、こんなにも頼もしい味方もいない。
そんなの風にしてしばらく戦っていると、不意に船内へと続くスペースができた。
それに一番近いのは雪ノ下さんだ。
「行きなさい、雪乃!」
遠坂の激が飛ぶ。
少し躊躇した彼女だがそれを聞くと、意を決して走り出す。
スペースは人海に埋もれてたちまち消えてしまうが、俺達も援護してそれをこじ開ける。
最後の塊を平塚先生が殴り飛ばし雪ノ下さんは無事船内へと消えていった。
これで甲板は一人少なくなったが、ここからが踏ん張りどころだ。
intelude out
intelude 15-2
そこかしこに見えるドアを全て無視して一目散に走り抜ける。
大聖杯をリンクさせるとしたら大きなスペースが要るはずだ。なら一つ一つ確認する必要はない。
こういった船にある大きな部屋といえば深部にある倉庫以外にはない。
少し走ると立ち止まって休憩する。今回ばかりは体力をつけておけば良かったと後悔する。しかし今さらそんなことに意味はない。
暫く行くとそこそこ広い部屋へと行き当たる。
そこには二人の人物が待っていた。
「お待ちしておりました、お嬢様」
「はあ、…都筑さん」
そこにいたのは雪ノ下家の運転手、都筑、それともう一人。
「葉山…君」
それは変わり果てた葉山隼人の姿。
《葉山…先輩…》
《皮膚を剥がして魔術回路から直接精神を操られているわ》
「この奥で奥様が御待ちです。ですがその前に…」
その指の間に黒剣を構える。
「我々を倒して行ってください!」
次の瞬間指の黒剣を射出してくる。
それを片手で弾く。直後操り人形となった葉山隼人が突っ込んできた。
右の打ち込みを外側へ回避する。しかしそれを追いかけるようにその腕があり得ない方向に曲がった。
「…っ」
それを強化した腕でなんとか受けるが、物凄いパワーに押され体勢を崩してしまう。
そこに追い討ちをかけるように銃弾のような黒剣が飛来して来た。
氷の壁で防御するが剣はそれを貫き雪ノ下雪乃を強襲した。
そのまま壁に叩きつけられる。
「はあ、はあ、はあ」
「この程度でもうグロッキーですかな?」
息が苦しい、視界がぼやける。
「その様子では陽乃様も嘆かれますぞ」
その一言が雪ノ下雪乃の意識を引き戻した。
姉さんは嘆きなどしないだろう。嘲笑するか、興味が失せるか。
二人の攻撃に苛まれながら当時の事を思い出す。
この時代、いや、この世界線の姉さん、雪ノ下陽乃は私が中学の頃に死んだ。
第四次聖杯戦争で負った傷の責だったらしいがとても信じられなかった。だが心の何処かで安堵していたのかもしれない。そしてそれすらもあの人に見透かされている気がした。
そして姉さんは再び、今度は英霊となって私の前に現れた。
そういう世界もあったのだろう。
その性格も幼い頃とあまり変わらず何を考えているのかよくわからない。
呼び出した後、アサシンを置いて何処かへ行ってしまった。
未だに彼女の幻想が頭をついて離れない。
葉山隼人の腕が伸び、こちらを強襲してくる。
《葉山家は間桐の教えを受けていたことがあるんです。間桐は蟲を操りますが、葉山は人を操ります》
それと同時に都筑が黒剣での連撃を浴びせてくる。
今思えば雪ノ下は純粋な魔術師ではなく、聖杯戦争のために様々な力を取り入れてきた、あれもその一つだ。
「都筑さん、雪ノ下は本当にこれで良いと、思ってるんですか?」
「私は生涯この家に努めると決めましたので」
都筑の意志は固い。やはり倒すしかないようだ。
例えこの戦いに勝利しても雪ノ下の未来は閉ざされたままだろう。しかし遠坂が後見人になってくれるそうだ。
その不安は今はない。
だから今は目の前の敵を倒さなくては。
何度目かの葉山の突撃。
その体は所々の皮膚が剥がれそこに呪文が刻まれている。
葉山の攻撃をギリギリで交わしながらその懐に飛び込んだ。
そして肌に書かれた呪文に手をあてる。
「はああ!」
「これは!?」
二人の周囲が輝き出す、そして雪ノ下雪乃はその手を強引に払った。
直後葉山の体に刻まれた呪文の一つが消え去った。
「魔術回路に繋がっている呪文を、それだけ消し去りましたか、お見事」
しかしそれだけでは葉山隼人の洗脳は解けない。
二人の間を黒剣が通りすぎる。
「いつまでそれを続けられますかな?」
既に体力はつきかけていて両の手足は小刻みに震えている。
だがおそらくあの呪文は殺しても動き続けるようにできている。
これ以外に方法はない。
「仕方ありませんね」
パチンッ。
都筑が指をならすと葉山が後ろにさがる。それに交互して都筑が前に出てきた。
前衛と後衛を交代したのだ。これでは呪文を簡単に取り払う事はできない。
そのまま都筑が黒剣の連打を浴びせてくる。
それをなんとか凌ぐが、その背後から葉山の爪が延びてきた。
「くっ!」
それに気をとられたところを都筑が殴打する。
そのまま壁に叩きつけられた。
「雪乃様、私も無為に貴方を傷つけたくはない。今からでも遅くありません、どうか奥様の隣にいてあげてください」
「それは…無理よ…」
挫ける足を無理矢理起こす。
「雪ノ下の人間が世界を滅ぼすのを、黙って見ている訳にはいかないもの」
「では、少々痛め付けさせていただきます」
パチンッ。
都筑が指をならす、しかし何もおきない。
パチンッ。
もう一度、だが結果は同じだ。
「雪ノ下、…さん」
都筑が驚きに後ろを振り返る。
雪ノ下雪乃もつられて壁際を見る。
そこには同じようにこちらを見返す葉山隼人がいた。
「バカな、キャスター様の術式が破られたのか!?」
「雪ノ下さん、あまり、長くはもたない…」
それを聞いた雪ノ下はその手に氷の長刀を握り込む。
都筑も慌てて構えをとる。
不意に訪れた一対一の機会。雪ノ下雪乃に残された道はこの一瞬しかない。
直後彼女は一直線に駆け出す。
都筑もそれに応え、同じように床を蹴る。
二人が交差するとき、美しい氷の長刀が閃いた。
それはかの侍の愛刀によく似ていた。
その銘は備中青江、俗称、物干し竿。
かつて彼女のサーヴァントだったアサシンの刀だ。
「これはっ!?」
その閃きは、直後三つに分かたれる。
それが同時に獲物を襲う、刃の檻。
『燕返し!!』
「見事…!」
雪ノ下雪乃が通りすぎると、都筑は床に倒れこんだ。
氷の刀に刃はついておらず、その意識を刈り取るにとどめた。
「ダメね、失敗だったもの…」
刃が三つに分かれたのは一瞬のことで直ぐに元に戻ってしまった。
しかしその現象に驚いた都筑は後の一撃を防げなかったのだ。
直ぐ様葉山に駆け寄る雪ノ下。
「あ、あ、あ」
けれどその意識はもうギリギリまで消滅していた。
「ありがとう、葉山君」
雪ノ下は微笑むと優しくその体に刻まれた呪いを取り去った。
階段を下りるとそこは一段と広い空間で、目前に大聖杯と母が佇んでいた。
「よく来たわね、雪乃」
その顔はまた一段と老け込んだように見える。
「もうやめて母さん、どうしてこんなことをするの!」
すると目の前の女性はにっこりと微笑む。
「貴女がわたしに歯向かうなんてね、死ぬ前にそんな姿を見れるなんて」
「死ぬ!?死ぬってどういうこと!?」
「ここまでこれたご褒美に今から説明してあげるわ、雪ノ下の悲劇を。けれどその前に二人きりにさせてくれるかしら?」
耳元にある通信礼装を外せと言っているのだ。
少し悩んだあと彼女は礼装を外して握りつぶす。
すると雪ノ下家当主はゆっくりと、ことの発端を語り始めた。
「雪ノ下の魔術礼装についてはよく知っているわよね?」
雪ノ下は首肯する。
雪ノ下家の魔術礼装は船だ。船は大気中に浮かび、周囲の魔力データを魔術刻印に送ってくる。
そしてその中で最も大きいものが大聖杯。
今回はそれを操って聖杯戦争を開始したのだ。
「メイン礼装は大聖杯、けれど始めからそうだったわけではないの」
「え?」
「雪ノ下の秘術にして礼装最大の特徴は誰にも気づかれないこと。故に大聖杯敷設の際、巻き込まれ取り込まれてしまったの。雪ノ下が御三家の第四家目何ていうのは真っ赤な嘘、ご先祖様の苦し紛れの慰めかしら」
女性はふふっと笑みを漏らすが、その表情は直ぐに沈鬱なものに変わる。
「そのせいで雪ノ下の魔術師としての研究は続けるのが難しくなった」
「そんな…」
「そこまで悲観することではないわ、目の前に聖杯何てものが現れたのだもの。当然雪ノ下もそれを目指した」
確かに聖杯さえ手にいれれば研鑽など必要ない。
「けれど悲劇はこの後訪れた。アンリマユによって汚された聖杯から、雪ノ下の礼装を通して呪いの一部が流れ込んでくるようになったの」
「!?」
雪ノ下雪乃はぎゅっと左腕を押さえる。そこには礼装と繋がっている魔術刻印があるからだ。
「陽乃が死んだのはその責よ。希代の天才だった陽乃が産まれて、私は焦ってしまった。まだ幼かったあの子を第四次聖杯戦争に送り込んで、聖杯の泥に呑ませてしまった」
すると雪ノ下母は急に咳き込むと力なくうつむいた。
「母さん!?」
母の元に駆け寄る彼女。
「雪ノ下の当主は短命よ。もう呪いに侵されて、復讐にかられた人形でしかない」
「そんなことない、今でも大好きよ、母さん!」
それを聞いた雪ノ下母はその痩せこけた顔に笑みを張り付かせる。
「ありがとう、安心しなさい、貴方の魔術刻印には陽乃の破呪術式が組み込まれている。それがある限り貴方が憎き呪いに侵されることはない」
そういうと雪ノ下母はゆっくりと目を閉じた。
「いや、母さん、母さん!!」
船内にはその泣き声がこだまするばかりだった。
intelude out
intelude 15-3
「逝ったかマスター、安らかに眠れ。貴方の悲願は私が果たす」
そう言ってアーサーは剣を構え直した。
「どうした、モードレッド?その程度か」
セイバーは吹っ飛ばされて数メートル先に転がっている。
「まだだってんだろ!」
剣を杖によろよろと立ち上がる。
その体は既にどこもかしこも傷だらけだ。
「そうか?奇妙な術もきれかかっているようだが?」
あれだけ比企谷を痛め付けて手にした力も失われようとしていた。
「知るかっ!」
それでもセイバーは果敢に向かっていく。
だがアーサーは円卓の騎士を召喚すると、複数人でセイバーを囲む。
「卑怯だぞ!アーサー!」
俺達も無限にわく雑兵とたまに出てくる円卓の騎士の包囲網を抜け出せずにいた。
「その理で世界を救えるのか?赤髪の魔術師」
くそう、あの顔で言われると余計、腹が立つ。
俺は背中にしまっていたルールブレイカーを取り出した。
「ちょっと、何する気よ!?」
「このままじゃどのみち後がない、一か八か船を消す!」
「なっ!?そんなことしたらまっ逆さまじゃない!?」
そのまま俺は短剣を船の床に突き刺した。
けれど何もおきない。
「くそっ、なんでさ!?」
「何をしようとしたか知らないがこの船は船上のサーヴァントの数で性能を上げる。異界に消えた二人を除いても9体、そんな短剣ではささくれ一つたちはしない」
「あんた7人分なの!?そんなのズルじゃない!!」
ちょっと待て、だとしても後一人は誰なんだ?
するとアーサーの聖剣が黄金の輝きを帯び始める。
「やれやれ、聖杯が満ちるまで遊んでやろうと思ったが自ら死を選ぶか」
見ると円卓の騎士を弾き飛ばしたセイバーが宝具を撃とうとしていた。
アーサーも同じように剣を構える。
直後二つの剣が降り下ろされた。
『
『
赤と黄金の輝きがぶつかる。
その衝撃に船が大きく揺らいだ。
だが明らかにアーサーの閃光の方が大きい。
「ぐうう…」
くそっ、助けにいきたいが円卓の騎士に行く手を阻まれる。
「イリヤ、雪ノ下に令呪を使わせろ!」
《駄目、礼装が壊れて声が届かないの》
くそ、今セイバーが消滅したら、ほんとに勝機が無くなってしまう。
その時アーサーの足元に何かがバウンドした。
あれは…カラドボルグⅡ!?
直後、剣は幻想としての形を失い爆発四散する。
「ちいぃ!」
そこから離脱するアーサー。
船首の先にアーチャーが立っていた。
「キャスターは倒れたか、役にたたない女だ」
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