「うへぇ、何ですか、あれ?」
使い魔を操って大聖杯を探す俺ら司令班。
その途中、一色がそんな声を上げた。
モニターには貼り付けにされた半裸の大男が映っていた。
鎖で締め上げられた体は傷だらけで葉山のように何かの文字が刻まれている。
凄惨な光景だが男の顔は何処か至福に至ったかのように満足げだ。
「イリヤさん、早く次の部屋にいきましょう」
一色は当初イリヤをイリヤちゃんと呼んでいたが、イリヤが年上だと知ると呼び名を改めた。魔術って恐ろしい。
しかし、今の光景どっかで見たような…?
「先輩、大変です!」
その声に慌ててモニターに目をやる。
そこは雪ノ下が居る隣の部屋だった。
既に聖杯から泥が溢れ出している。
雪ノ下は自分で礼装を壊してしまったので連絡ができない。彼女は未だ母親の前で泣いていて気づく可能性は低い。
甲板の戦況も芳しくないし誰かを向かわせることもできない。
「…イリヤ、さっきの部屋に戻してくれないか?」
「えー、どうしてですかー」
「わかったわ」
モニターが切り替わる。やはり何処か見覚えがある。
何処だ?何処で見た?
俺は記憶の隅に隠れているものを必死にほじくりかえす。
そしてその答えに辿り着いた。
「…わかった、魔導少女マジ☆デスカの第3話、先輩のユミさんが張り付けで串刺しにされるシーン!」
俺は直ぐ様マジデスのホームページを開く。
確か材木座が誰かに荒らされたとかなんとか言っていた筈だ。
公式からのメッセージに謎の文字化けがある。
宝具を的石ものわはせー具のような事
望みはかなへた。このものは個々に
与えられそうなもの破棄聞こえない
理由は知らず知らずのうちに割れの
かたわらにしまわれん。
「何ですか、これ?宝具?ってことは聖杯戦争関連ですか?」
「たて読みだ」
最初の文字を読むと、宝のありかになる。
「宝望与理か?」
俺はケータイのアルバムを開いてあの画像を見る。
葉山のケータイから送られてきた謎のメッセージ。
そこには《宝のありか》という文字ととある場所を指す地図がある。
「これ私も持ってます」
「本当か!直ぐ開いてくれ」
自分のケータイは地図を開き少ないヒントから場所を特定する。
ストリートビューでその場所を確認した。
「あれ、これ、葉山先輩のお家じゃないですか」
覗きこんでいた一色がそう口にする。
「ちょっと行ってくる」
「あ、先輩、私も行きます!」
そうして俺達二人は葉山のマンションにたどり着く。
しかしその玄関で立ち往生してしまった。
「パスワード…、一色、知ってるか?」
「流石に知りませんよ…」
数字で5桁の番号を入力しないといけないらしい。
どうする、00000から試すか?こういうところは連続で間違えると人が来るしな…。誰かの後ろに張り付いて入る、流石に不審過ぎる。どっか別の場所から…。
「あれ、ヒッキー…と、いろはちゃん!?何で二人が一緒に居るの!?」
すると後ろから声をかけられる。
振り向くと、髪を明るく染めた同い年くらいの女の子が立っていた。
「ゆ、結衣先輩こそどうしてここに、というかこんな時間に?」
「えへへ、爆発騒ぎで眠れなくって…て誤魔化そうとしたでしょ!」
何故か聖杯戦争で起きた破壊活動はほとんどがガス爆発のせいにされている。
「そ、そんな訳ないじゃなうですか~」
あるんだな。ジョシコウセイって恐ろしい。
しかし今は俺も無関係ではない。
「なあ、葉山ん家の番号知ってるか?」
「え、うん、知ってるけど…」
一色がそんなーという顔をしているが構わず続ける。
「教えてくれ」
「え、でも…」
「頼む、今はお前しか頼れないんだ」
「そ、そんな事、言われても…」
もじもじとうつむきながら、女の子は頭の上に手をやり、さ迷わせる。おそらくいつもなら頭についているお団子を探しているのだろうが、今宵はただの散歩なのでセットしてこなかったらしい。
すると女の子は何かに気づいた様子で俺に背中を向ける。
「何もしないで来ちゃったよー」
すると一色も何かに気づいたようで直ぐ様言い寄っていく。何のこっちゃ。
「お願いします結衣先輩。大丈夫です、そのままでも充分かわいいですよ!」
「そ、そうかなあ?」
「ですよね、先輩?」
何故か俺に話をふる一色。これはあれだな可愛いって言ったらきもいって言われるパターンだ、ソースは俺。
山びこですか?いいえ、誰でも。
しかしかわいくないと言ってもどのみち蔑まれるのだ、逃げ道はない、孔明の罠かよ。
しょうがないので俺は思ったことを口にした。
「可愛いな、むしろいつもより良いまである」
女の子のプライベートな一面って、良いよね?
「しょうがないなーもー」
女の子は番号を教えてくれた。
俺達は葉山の部屋に急ぐ。
「先輩、ああいうのがタイプ何ですか?」
いや、前にも言ったが俺のタイプは戸塚だ。
後、お前がああいうカッコしても計算にしか見えん。
葉山の部屋は鍵がかかっていなかった。
そのままドアを開けて侵入する。
「入っちゃっていいのかな?」
部屋の中を探す、それは直ぐに見つかった。
「これ、バイク?」
それは木製の水上バイクだった。
「これが宝なのか?」
てっきりもっとすごいのを期待していたが、これはこれで使い道があるかもしれない。
「イリヤ、これどうやって使うんだ?」
《乗れば魔力を吸って動くと思うわ》
俺はそれに股がる。
「ヒッキー、何してるの!?」
そうだったこいつが居るんだった。事はいっこくを争う、後でてきとうに誤魔化せばいいか?
「結衣先輩、向こうでお話ししませんか?例えば、先輩と私の関係とかっ」
「わ、わかった!」
振り返りざまこっちにウィンクしてくる一色。はいはい、助かったよ。
俺はおもいっきりアクセルをいれ、窓を突き破って飛び出した。
intelude 16ー1
果てしない荒野に爆風が吹き荒れていた。
ここはアーチャーの固有結界の中。しかしその光景はいつもとは見るからに違う。
その中心にアーチャーと、そしてキャスターが立っていた。
二人は爆風吹き荒ぶ中、悠々と会話に臨んでいた。
「いつまでこんな無為なことを続けるつもり?」
「飽きたのならば勝手に死ねばいいだろう」
「つれないわね」
そんなアーチャーの態度にキャスターは呆れてため息をつく。
「先のバーサーカー戦、衛宮士郎に魔力を供給したのは貴様だな」
会話の流れなど無視してキャスターを問い詰めるアーチャー。
「どうだったかしら?」
「とぼけるな、貴様の宝具の条件は妹から聞いているぞ」
それは宝具、もしくは使用者の真名を知っていること。またはその宝具の能力について理解していること。
「私が雪乃ちゃんに嘘を着いたとしたら?それに例えそうでも状況は変わらないのに何の意味があるのかしら?」
アーチャーは少しの沈黙の後回答する。
「もし、あの男が私の足を引っ張ったのなら許しておけんからな」
「呆れた…」
キャスターは何度目かのため息をつく。
そんなキャスターにまたもアーチャーは質問をぶつける。
「雪ノ下陽乃、貴様の目的は何だ?」
「そんな聞き方じゃ、女の子は靡かないわよ?」
キャスターはそれをはぐらかすが、アーチャーは追究を続ける。
「貴様がランサーを放置したのは何故だ?」
しかしキャスターの笑みが崩れる事はない。
「気分じゃなかったから、あの人、私の好みなのかも」
「ではなぜバーサーカーと共倒れにさせた?」
「それはほら、流石にそこまで放置してたら騎士王様に怒られちゃうじゃない?」
「何の為に彼女に従う?」
「…あれに抗って意味があるのかしら?」
「確かに此度のアーサーは次元が違う。だがそれこそ、従って何の今がある?サーヴァントが現界していられるのは聖杯戦争の間、せいぜい2週間足らずだ。それを生き延びていったいどうなる?まさか聖杯の恩恵に預かれるなどと思っている訳ではあるまいな?」
「何に意味を見いだすかは人それぞれじゃないの?ねえ、正義のヒーローさん?」
先に眉根を寄せたのはアーチャーの方だった。
事口先の応酬でキャスターは最上位の実力を持っていた。
「貴方のような生き方も、私は素敵だと思うわよ?」
「…それも小僧の記憶から盗みとったのか?」
「いいえ、私は生前から貴方の事を知っているもの。同じ時代の英霊なのだから当然でしょう?」
確かにキャスターの言うことは最もだ。けれどアーチャーには彼女が現代の英雄だと知った時から疑問に思っていることがあった。
「しかし私は雪ノ下陽乃などという英雄は知らない。貴様、いったいどうやって英霊に選ばれた?」
現代技術が進歩する程英霊は生まれ難くなる。それは科学とは材料と知識さえあれば誰にでも使えるものだから。
アーチャー自身も正規の英霊ではない。彼はその可能性を危惧していたのだ。
「心配しなくても私は正規の英霊よ。私が貴方から私に関する記憶を消したの」
「何だと!?」
アーチャーの驚声は周囲の爆音の中に消えていく。
「ばかな、座の記録には記憶が消されたことすら記載されている筈だ」
「今の私は実力の半分も出せないのよ。本気になればそれくらいできるみたいね」
確かにそれだけの事ができるのなら現代でも英霊に祭り上げられて不思議じゃない。
しかしとある疑問が残る。
「…なぜそんなことをした?」
それは動機。生前キャスターとどういう関係だったのか、記憶を消されたという彼には想像もできないが。
「かわいそうだったから」
「何?」
「私に悲劇が起きたから、それは貴方の意に沿わぬことだったから。哀れに思った私が記憶を消したのよ」
アーチャーは口を開けたまま何も言葉にできない。
「結局貴方は全てを後悔しているみたいだけど」
キャスターはそう言って静かに微笑んだ。
アーチャーは一度瞳を閉じる、そしてもう一度開けたときその中に迷いや憂いといったものはなかった。
キャスターはそんな男の不器用な姿をただ笑って見ていた。
「最後に一つだけ聞く、お前はアーサーの隙を探しているのではないか?」
「それは無理ね、だって私、彼女に従うように改造されているもの」
それが今までの全ての問いへの答えだった。
「やれやれだな、では私がその悪夢を終わらせるとしよう」
そういうとアーチャーは物干し竿を投影する。
「他者の宝具を壊れた幻想に変える貴様の弱点。そのサーヴァントを妹に残したのは偶然か?!」
刀を構え飛び出すアーチャー。
「質問は一つじゃなかったのかしら?それに私には空間転移がある」
「ぬかせ、ここでは雪ノ下の礼装は真価を発揮しない」
アーチャーは刀を振りかぶる。経験模倣による剣術の再現、即ち『燕返し』の初作。
その瞬間アーチャーの視界がグニャリと曲がった。
「ガっ、!?」
その場に倒れ、うずくまるアーチャー。
「固有結界は使用者の心象風景を世界に映す。当然、それをねじ曲げれば貴方自身に返ってくる」
アーチャーの心に何かが入ってくる。
「言わなかったかしら?私の居るところが私の結界だって」
「バカな…!?固有結界内ですらそうだと言うのか?」
「それが雪ノ下の魔術の深奥『侵食結界』私を英雄に押し上げた秘術」
いつのまにか周囲の爆風はやんでいた。
intelude out