空中を走る水上バイクという珍妙なものを俺はうまく操作できず、そのまま船に突っ込んだ。
しかしうまい具合に船内に飛び込めたのでそのまま目的の場所まで記憶を頼りにかける。
雪ノ下のいる部屋にたどり着くと同時に、ドアを突き破って聖杯の泥が流れ込んできた。
その音にようやく雪ノ下が状況に気づく。
しかしもう遅い。泥は既に目前まで迫ってきている。
「雪ノ下!」
俺は必死に手を伸ばす。
「比企谷君!」
雪ノ下も同じだ。
俺は伸ばされた手を掴む。
その直後、黒い波が俺達を飲み込んだ。
俺はとっさに雪ノ下を抱きしめ庇う。
泥を背中からもろに受けた。
しかし痛みはなく代わりにやって来たのは、暗闇だった。
何処かで観たような暗闇。体の感覚は無く、どっちが上かもわからない。
そんな世界で漂っていると何処からか声が聞こえてきた。
「おいーす、兄弟、元気にしてたか?」
やけにテンションの高い声だ。
だが俺の兄妹は可愛い可愛い妹の小町だけだ。
「つれねぇこというなよ、ずっと一緒にいた仲だろ?」
お前のような奴は知らない。お前はいったい誰だ?
「ひどいなーかれこれ12年になるっつーのに。俺はお前さ。前はアンリマユって呼ばれてたがな」
そういえばイリヤがそんな事を言っていた気がする。俺の中に何かが居ると。
何でお前みたいなのが俺の中に居るんだ?
「俺がお前に触れたとき、お前の中には何もなかった。だから俺が入り込めた」
何もなかっただと?何を言ってるんだ?
「そのまんまさ、んで、再び泥に触れたから俺が出てこれたって訳」
泥…!?そうだ、雪ノ下は!?
「今はギリギリの状況さ、お前さん次第だね」
俺次第だと…?
「お前さんが俺を受け入れるのなら、俺は聖杯を捨て泥は消える」
受け入れたら、俺はどうなる?
「俺はお前さんになり、お前さんは生まれ変わる。
そいつの顔はわからなかったがどうも笑っているような気がした。
それで…雪ノ下は助かるんだな?
「ああ、俺様がバッチリ保証するぜ」
…わかった。
「オーライ、んじゃ、お目覚めの時間だ」
intelude 17-1
《どうしたんですか、一色さん?!》
葉山のマンションで急に苦しみ出した彼女に間桐桜は困惑する。
彼女だけではない。隣では由比ヶ浜結衣も胸を押さえてもがいていた。
しかし彼女達に痛みが襲っているのではない。
それはもっと深いところ。心から来る苦しみだった。
「何、これ…」
瞳から涙を溢しながら、振り絞るように声を発する。
《大丈夫ですか?》
「先輩、先輩のことが…」
《比企谷君がどうしたんですか?》
「嫌い…」
《え?》
「何で…何でぇ?ヒッキー…」
「いや、こんなの、何で…?」
すると突然二人の意識が途切れた。
《イリヤちゃん!?》
《ずっと苦しむよりましでしょ》
イリヤスフィールが使い魔を通して二人の意識を刈り取ったのだ。
するとイリヤはガラスのモニターを見る。
「いったい何があったんでしょう」
「聖杯のアンリマユを取り込んだのよ。あれはもう以前のハチマンとは別物よ」
そこには雪ノ下雪乃と、比企谷八幡の形をした影があった。
intelude out
intelude 17-2
「この気配は…!?」
「そんなまさか、こんなことが、あるはずがない!!」
その場にいた全ての人間が彼女が突如放った輝きに目を奪われた。
敵、味方全てが月明かりの中に立つ彼女の姿にその心をざわめかせている。
当然だ、真の英雄は遥か彼方の地にまでその威光を轟かせるのだから。
それはかの騎士王ですら例外ではなかった。
「バカな、クラレントは次代の王が持つべき選定の剣、お前ごときが選ばれる筈など…」
真の輝きを得たセイバーは目映いまでの瞳でアーサーを見据える。
「だろうな。だが今は細けぇ事はどうでもいい。まずはてめぇをぶっ倒してからだ!」
「その程度で私を倒せると?思い上がるなよ、盗人ふぜいが!!」
直後セイバーの周りを円卓の騎士が取り囲む。
「おおおおっらあああ!」
その全てを一撃で弾き飛ばす。
「ぐっ」
物凄い風圧が吹き荒れ周りで見るものを襲った。。
「おおおおおお!」
「はあああああ!」
黄金と白金、二つの輝きが船体を満たす。
直後二人の王は激突した。
セイバーが攻めればアーサーがしのぎ、アーサーが攻めればセイバーがしのぐ。
二人の剣技は全くの互角だ。
それもそうだろう、花の魔術師に鍛えられたアーサーとその彼女の遺伝子を継ぎ彼女を見て己を鍛えたセイバー、今の二人はほぼ同一の存在なのだから。
だから、違いがあるとすればその周り。
彼女達を守る騎士の存在。
二人の動きに合わせてアーチャーが矢を放つ。
その矢は高速で動き続ける二人の中にあって、的確にアーサーだけを射ぬく。
俺にはわかる。セイバーと同じく彼女の輝きを追いかけ続けたあいつはあの二人に唯一、ついていける筈だ。
「くそっ、何、だとぉ!」
セイバーとアーチャー、二人に攻められて徐々に、徐々にアーサーが追い詰められていく。
それは砂時計の中に立つように決められた終わりへと落ちていく。
だが、彼女にも騎士王たる意地がある。
「こい、ドゥ・スタリオン!」
突如何もない空中から一頭の馬が現れる。
それに素早く股がると空中へと飛び立った。
「ロンゴミニアド!」
その両腕に剣と槍を携える。
「おいパクリ野郎、なんか空飛べるもんねぇのか?」
「あるわけなかろう、お前を撃ち出してみせようか?」
「ふっざけんな、てめぇ!」
そうこうしている内にアーサーの槍が輝きを纏う。
『
突如空中から何本もの光の柱が落ちてくる。
『
それを最小限危険なものだけ相殺するセイバー。
だが光の柱は留まること無く次々と落ちてくる。
「くそっ!」
「これを使え!」
平塚先生がなにかを投げ飛ばす。
それは比企谷が乗ってきたバイクだ。
それに股がるとセイバーは勢いよく飛び出す。
「追い付いたぜ、父上!」
「…」
空中で二人の王の追いかけっこが始まる。
ここでさっきから弓を構えっぱなしだったアーチャーがついにそれを射出した。
『
高速で飛来する矢をアーサーは馬を操り華麗にかわす。
「何!?」
だが直後矢は急激に向きを変え、再びアーサーへと飛びかかる。
それをさらに急速に馬を方向転換させてかわす。
そこへセイバーが追い討ちをかける。
なんとか槍でそれを受けるアーサー。
が、セイバーが再び距離を取ると、窮地の彼女を特大の爆発が襲った。
「があ!」
そのまま船に叩きつけられる。
フルンディングを壊れた幻想に変えたのだ。
アーサーはバランスを崩し膝をついている。
そこへ。
「もらったあああああ!」
セイバーが渾身の一撃を放った。
ぎいぃいん!
凄まじい衝撃が船内を駆け抜ける。
しかしセイバーの剣はアーサーにあたる前に薄い黄金の幕に阻まれて止まってしまった。
「あれは…」
聖剣と対をなすアーサー・ペンドラゴンの宝具、その鞘。アヴァロンだ。
「なめるなああ!」
そのまま迸る気合いと共にセイバーが押し返される。
あの守りがある限り、騎士王の牙城は崩れない。
「小僧、彼女の鞘を出せ!」
すると突然アーチャーが叫んだ。
俺は考える間もなくその声に答える。
「
そして俺の手の中に黄金で編まれた鞘が出現した。
「な!?貴様ら、そんなものまで!?」
「受けとれ、セイバー!」
俺は鞘をセイバーに投げる。それに気づいた彼女が手を伸ばす。
だが直後、鞘は強烈な風にあおられ船外に弾き出されてしまった。
アーサーの『
くそ、もう一度!
「奴に自由を与えるな!」
騎士王の声に従い直後、円卓の騎士が俺を取り囲んだ。
「士郎!」
遠坂が救援に来てくれるが度重なる剣撃にさらされてこれでは鞘を投影できない。
くそ、どうすれば。
その時降り下ろされる騎士たちの斬撃の狭間に弓を構える男の姿が見えた。
その弓には船外に消えた鞘がつがえられている。
直後それは放たれ、一直線にセイバーへ向かっていった。
「ちぃ」
再びアーサーの持つ聖剣から強烈な烈風が吹き荒れるが、音速の矢と化した鞘はそれを貫いていく。
そしてセイバーがそれをガッチリと掴んだ。
二人の王が同時に口を開く。
『『
開く筈のない理想世界への門が同時に二つ出現する。
それは本来あり得ない現象をもたらした。
二つのゲートは重なりあい一つとなって、二人の訪問者をその世界へと誘う。
アーサーとセイバーの姿はこの場から消え去り、後にはただ残された俺達が勝負の行方を待つのみだった。
intelude out
intelude 17-3
周囲には一面あまねく花々が咲き誇っている。
品種は定かではないが、そのどれもが生命力に溢れ、まるで永遠に咲き誇っているのではないかと錯覚させる程だ。
しかしそれは錯覚などではない。そこは事実常世の国。
その永久に停滞した世界に二人の騎士は立っていた。
「よもやここまで踏み込んでくるとは。もはやただでは済まんぞ!」
「はっ、やれるもんならやってみろよ!」
二人は鏡合わせのように剣を構える。
すぐにそれぞれの剣から黄金と白金の光が立ち上ぼり始めた。
アーサーの聖剣が纏うのはまさに全ての願いを体現するかのような黄金の光。その輝きを称えるように、周囲の花々は自らの光でそれを後押しする。
セイバーの麗剣が纏うのは滅び行くさだめを与えられしブリテンの再びの栄光を願って与えられた「増幅」の力が放つ白金の光。それにより周囲の花々はよりいっそう咲き誇る。
誰の合図も無くとも二人の騎士はその手に持つ剣を同時に振り払った。
『
『
intelude out
intelude 17-4
二人の王はまた同時に現れた。
双方ともに傷ついていて膝をついて肩で息をしている。
しかし先に立ち上がったのはアーサーの方だった。
「信じがたいことだがお前の宝具は我が聖剣と互角だったようだ。だがここまでのダメージが勝敗を分けたな」
アーサーはその剣をセイバーに突きつける。
「もはや手心を加える必要はあるまい。貴様らを殺し、マスターの願いを果たすとしよう」
そして振り上げられた剣がセイバーに向かって伸びる。
「セイバー!」
セイバーは力尽きたのか、うつむいたまま動こうとしない。
その瞬間、何処からか声が響いてきた。
『
そしてアーサーの腰にぶら下がっていた鞘が爆発した。
「なっ!?」
声は止むこと無く響いてくる。
『
『
その度にアーサーの体が爆発していく。
「ハルノオ!」
気がつくと船のヘリにキャスターが立っていた。
そして味方である筈の二人がささくれだった言葉をかわす。
「バカな、貴様の心臓には私の剣の破片が突き立っていた筈…」
「そんなの、とっくにランサーがとってくれたわ」
「な…しかしそれでも、我々に反抗できぬよう霊基を改造しておいた筈だ!」
「ええ、そっちはまだ効いてるわ。だからこれは私の意思ではないの」
「何だと!?」
そう言うとキャスターはいつものように真意をつかませない笑みで言葉を返す。
「これは雪乃ちゃんの意思。私を呼び出したときに令呪まで使って言ったのよ、聖杯をもたらせってね、それはまだ私の中に残ってる」
「な…に…」
そしてアーサーは今回持ってきた全ての宝具を壊れた幻想にされていく。
彼女の宝具の多さが逆に仇になる。
彼女は自らの敗北を受け入れたようでそれに抗おうとはしない。
「すまない、マスター。貴方の願い、叶え、られなか、った…」
そして最後の宝具が爆発すると共に光の粒となって消滅した。
「キャスター、お前、最初から味方だったのか?」
「いいえ、私は私以外に味方はいないもの」
「まったく、それならはじめからそう言え、キャスター」
「あら、久しぶりにあったんだもの、少し位の長話は付き合うのが男の甲斐性でしょ?」
二人の間に何があったのか、キャスターとアーチャーは互いをみつめあう。
甲板の面々は勝利の余韻に浸るようにただ会話を楽しんでいる。
しかしいつまでもこうしてはいられない。
俺達の目標はあくまで聖杯なのだから。
「みんな、比企谷君が!」
その余韻を冷ますように雪ノ下さんの声が響く。彼女の様子はとにかく鬼気迫るようで、慌てて俺は声のした方に振り向いた。
そしてその光景に絶句した。
雪ノ下さんの隣にいたのは、奥を覗くことなど到底できはない深い深い闇の塊だった。
「な!?」
俺は見た。そんな風に変わってしまった比企谷を見る視界の端で、アーチャーが弓を構えたのを。