セイバーを召喚してから次の日の夜。俺は雪ノ下も含めた3人で町を歩いていた。
いや正確には雪ノ下のサーヴァント、キャスターもいるが彼女は霊体化して姿を隠している。
「何処に向かってるんだ?」
「人気のない場所」
夜にこんなことを言われるとリンチにでもあうんじゃないかと心配になるが今は聖杯戦争中、魔術は人に見られないようにするのが鉄則であるらしい。
だからひどい目にあわされることは無い筈だ、筈ですよね?雪ノ下さん。
すると令呪に強い衝撃が走る。
俺が立ち止まると同時に雪ノ下も止まった。
「敵か?」
セイバーが声をかけてくる。
「ええ、…どうやら誘ってるみたいね」
「どっちだ?」
「埠頭の方かしら」
それを聞いたセイバーが一目散に駆けていく。
俺と雪ノ下もそれを追う。
息をきらして暫く走ると船着き場が見えてきた。
そこには先客がいて、赤いコートを纏った女性と赤銅色の髪の男性が立っていた。
その二人にセイバーはいきなり斬りかかる。
「セイバー、左上!」
すると雪ノ下が何か指示を出す。
直後セイバーが何かを弾いた。数回それを繰り返すてセイバーは一度引いて戻ってくる。
弾かれた物が一つ飛んできたのでそれを確認すると、細長い棒の両端に羽と矢じりがついている。矢だ。矢は数秒後光となって消える。
となると相手のサーヴァントはアーチャーなのか?
だが相手もこっち同様二人組だ。二人目のサーヴァントの可能性を無視するわけにはいかない。
すると敵の傍らに赤い外套を纏った長身の男が現れた。
再びセイバーが斬り込んで行く。
その剣を現れた男が受け止めた。
あいつが二人目のサーヴァントなのか?
しかし飛来する矢は止んでいる。
じゃああいつがアーチャー?だがなんでわざわざ前衛に出てきた、しかもセイバーがなかなか攻めいれていない。
次の瞬間、相手の三人とセイバーがその場から消えた。
「なんだ!?」
「固有結界よ」
するとキャスターが姿を見せる。
「待ってて、すぐこじ開けるから」
そしてキャスターは手を前に出し何言か呟くと、一瞬にして景色が変わった。
「!??」
何がなんだかわからない。
向こうでは消えた筈のメンバーがいて、セイバーは無数の剣に襲れていた。
敵は何やら驚いた顔をしている。
「雪乃ちゃん、いける?」
「…当然でしょう」
「じゃあ流れは私が作るから、とどめは任せた」
そう言うとキャスターはまるで弓を構えるようなポーズをとる。
隣に雪ノ下も立つ。
いったい何をしようというのか。
直後周囲に突き立てられた剣が二人に飛来する。
『
キャスターの見えざる弦が爪弾かれる。
「はあ!」
そこを出発点に、まるで流れ星が世界を切り裂いたかように荒れ果てた荒野が一面の銀世界に変わっていく。
突き立てられた剣達は一様に氷の彫刻へと変貌した。
そして見えざる矢が敵に届く寸前、再び世界は元の千葉の一角に戻った。
「凛、一度引くぞ」
「させるかよ!」
待っていましたとばかりにさっそく飛びかかるセイバー。
次の瞬間、敵の青年の腕が切り落とされた。
セイバーが狙ったのは赤いコートをきた黒髪の女性の方だ。その女性を青年が庇ったのだ。
その間に敵サーヴァントが追い付き、再びセイバーと剣を交わらせている。
「衛宮君!?」
女性が駆け寄る。
その周りは既に血だまりができている。
これは命をかけた戦争だ。
やらなければ自分がやられる。それはわかっているが、その光景に腹から何かが這い上がってくるのを感じる。
「どうする?雪乃ちゃん」
キャスターが問いかける。
当然、追い討ちをかけるかいなか。
相手のサーヴァントはセイバーが食い止めている、今が絶好の機会だろう。
「………やりなさい」
少しだけ遅れて雪ノ下の非情な命令が飛ぶ。
それを聞いたキャスターが飛び、出さない。
「とどめは雪乃ちゃんがって言ったわよね?」
「!?」
その場の空気が凍る。
確かに言っていた。俺もこの耳で聞いている。
「…ふざけないで、姉さん」
「ふざけてなんていないよ、それともできないなんて言わないわよね?この期に及んで」
「…っ!」
雪ノ下の表情はわからない。
だが彼女はその手を倒れている青年に向ける。
俺の目にはその手が震えているように見えた。
「確か、それを了承してもいませんでしたよね?雪ノ下は」
「比企谷君?」
雪ノ下がこっちを向く。その顔は困惑と悲哀と安堵が混ざったような、彼女らしからぬ歪んだ表情をしていた。
「ふーん、まあいいけどね。苦しいのは雪乃ちゃんだよ?」
確かにそうだ。俺がしたのは彼女を暗い谷底に引きずり込むような事なのかもしれない。
そう言うとキャスターは倒れている青年に手を向ける。
その直後またしても敵三人の姿が消えた。
「あらら、逃げられちゃった」
キャスターは上げた手をおろす。
「さっきみたいに追えないんですか?」
「んー、あれって少しなら戻ってくる場所を変えられるのよ、たぶんもうそっから令呪で逃げたんじゃないかな?」
何て逃げ足の速さだ。戦うだけではなく駆け引きを知っている。戦闘のプロだ。
「どうする?雪ノ下」
「そうね…今の相手の分析をした方が良いかもしれないわ」
その声は未だ弱々しい。
「そう?まだ家を出て間もないし、今夜中にまた攻めてくるとは思えないから、探索を続行しても良いと思うけど」
再び意見の食い違うサーヴァントとマスター、そして姉と妹。
正直、この二人の関係は俺が思っているようなものとは違うのかもしれない。
「どう思う?セイバー」
俺は第三者、戻ってきたセイバーに判断をあおいだ。
「とりあえずあの弓兵が操ってた剣、ありゃあほとんどが宝具だった」
セイバーの答えはとんちんかんなものだったが、その中身はとてつもないものだった。
「ほとんどってあの数がか?」
うろ覚えだが、ぱっとみ千はくだらなかった筈だ。
「そんな事ありえるのか?」
「それは…あったのだから仕方ないけれど、常識的にあの数の逸話を持っている英雄何て存在しない筈だわ…」
「今になくても、未来にならあるんじゃない?」
キャスターがそう会話に入ってくる。
未来ならあり得る?そんな事が…あっ。
確かにキャスター自身も未来の英雄だった。
「あの英霊を知っているの?姉さん」
「残念だけど知らないわね」
ということは今よりもさらに未来の人物なのか?
「さっ、これで作戦会議は終わったでしょ」
「…仕方ないわね」
俺達は再び夜の探索を開始する。
しかしこの日はこの後敵に遭遇することは無かった。
「それじゃあ、今日はここまでにしましょう」
「またねー」
俺達はその場で解散する。
そのままセイバーと二人自宅への夜道を歩く。
街灯に代わる代わる照らされながら、俺は今夜の出来事を振り替える。
思い返されるのは血だらけで倒れている男性。
昨夜の平塚先生と同じ、目の前で人が人では無いものに変わっていく。
その引き金を自分で引けるのか?
「はあ、はあ」
「おい、素人があんま無茶すんじゃねえよ」
息がくるしい。しかしやらなければやられてしまう。
もう後戻りはできないのだ。
「戦いはオレに任せておけ」
セイバーは胸を誇らしげに叩く。
その姿は今の俺にはとても心強く写った。
「ああ」
ふと空を見上げる。そこには夜を照らす月が輝いていた。
その後、俺は家族に見つからないようにひっそりと部屋に戻り就寝した。
interlude 1-1
「つう…うぅ」
「後ちょっとだから、我慢しなさい」
斬られた腕を再生魔術で繋ぎあわせる。
その時は傷口を露にしなければならないので、文字どおり神経を直接やすりにかけられたように痛い。
かくして一度離れた腕が俺の体に戻ってきた。
「はぁー、悪い、遠坂」
まだ違和感はあるがそれは既に指先の感覚まで繋がっている証拠だ。朝までには完全に修復されるだろう。
「礼ならアーチャーにって、そりゃ無理か」
「あいつは遠坂のサーヴァントなんだから、遠坂のおかげでもあるだろ」
「ハイハイ、それで私を助けたのは士郎だしこれでおあいこね」
うむ、これで後腐れもない。この話は終わりだ。
「さてと、それじゃ今日の反省会といきましょうか」
「お、おう」
「ちょっと、そんなに萎縮しないでよ。今夜の敗走、もとい戦略的撤退は、別に誰かの責って訳じゃないんだから」
遠坂が反省会何て言うと既に強張ってしまう程調教されてしまっている自分が悲しいが、今回はそこまでの心配は要らなそうだ。
それはひとえに相手の強さ故だろう。
「正直いってなめてたわ。まさか固有結界に干渉してくるなんて」
相手の、たぶんキャスターだろうか、は結界で寸断した壁を無理矢理繋ぎ会わせた。
おまけにセイバーもいてはこちらのカードが足りないと言わざるをえない。
「それにあいつ、マナを操ってた」
キャスターが見えざる弓を引いた時、周囲のマナが彼女に集まりだした。
ふつう魔術師は結界や礼装を用いて自分好みの領地を作り上げる。
だがキャスターは固有結界の中でさえ瞬時にそれを行えてしまう。つまりどこであろうと彼女に都合のいい、もしくは相手に都合の悪い場所に作り替える事ができるわけだ。
「これは応援を呼んだ方が良いかもね」
「応援?」
「そ、応援」
その笑顔に再び俺は恐怖した。そして今回のはおそらく、いや間違いなく勘違いじゃない。
すると遠坂は何処かに連絡をとりはじめた。
interlude out
《…で爆発があり、死傷者は…名、原因は地下ガスによるものだと…》
「ガス爆発だって、怖いなー」
朝のニュースを見て小町がそんな事をいっている。
このタイミングで爆発なんて、間違いなく聖杯戦争がらみだろう。
「小町も危ない所には行くなよ。後、夜中出歩くのもな」
「もー、小町ももう高校生だよ、それぐらいわかってるから!」
そう言って腰に手を当て怒りを表す小町。高校生ならそのポーズはしないと思うが。
しかし今年いっぱいはまだ中学生だしセーフだろう。なんなら永遠に中学生でもかまわない。
「なるべくゆっくり大人になってくれな」
「小町はいくつになってもお兄ちゃんの妹だよ!今の小町的にポイント高い!」
成るほど、妹はいくつになっても妹、これは至言だ。妹は永遠なり!
そんな朝の一時を過ごしながら俺は優雅にコーヒーをすする。
戦争中とは思えない穏やかさだ。
「てめえ、何しやがる!」
急に誰かの怒鳴り声が聞こえてそっちを振り向く。そこではセイバーとカマクラが喧嘩をしていた。
全くせっかくのコーヒーブレイクが台無しだ。
「え?」
すると小町の呟きが聞こえてくる。
その瞳は喧嘩してる二人を見ていた。
あれ?小町にも見えている?あれ、これ、やばいんじゃね?
ブーーーーーー!
俺は口に含んだ黒い液体を吹き出した。
「どういう事お兄ちゃん、ちゃんと説明して!」
というわけで俺は小町に詰め寄られていた。
どうやって説明したものか…。
「え~と、あいつはホームステイというか~」
「ウソ!小町聞いてないもん!」
やはりこれは無理があるか…。
「実は迷子を拾ったんだ」
「ウソ!お兄ちゃんがそんなめんどくさい事するわけないもん!」
なんだその理由は。しかし我ながら納得してしまった。やはり小町をごまかすのは無理がある。
かくなるうえは。
「すまん小町、何も聞かずに、親父達にも内緒にしてくれないか?」
「うん、いいよ」
いいんかい!?
「小町、こういうの待ってた!ようやくお兄ちゃんにも春がきたんだね!」
そう言ってセイバーに駆け寄っていく。
うちの妹がアホすぎて将来が心配だ。
二人は何やら話し込んでいる。
相手は現代人じゃないし地雷を踏まないか心配だが、小町はそういうとこめざといし大丈夫だろうか。
とりあえず問題は一段落し、俺は学校へと向かった。