fate/Tiba-si night   作:d d

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今宵も七人は揃い、宴が始まる

体を貫いていたものが、ゆっくりと引き抜かれていく。そこから濁々と血液が流れ出していく。

生命が零れていくような様はどこか別世界の事のようで。

崩れ落ちる先生の先に青い死神の姿が見えた。

槍兵は先生の体から槍を引き抜くと滴る血液もそままに槍を構え直す。

またあれを突き刺そうというのか、人の体に。

俺達を見下ろすその顔はどこか達観していて、さも当然であると何の感慨も抱いていないようだった。

「あん?」

以外、というよりは威圧するような声。

その声に俺は自分が先生と槍兵の間に立っている事に気がついた。

けれど不思議と恐怖は無かった。槍を引き抜いて持ち変えた分の隙間、距離でいうなら先程組み合った時の方が近い。何より、この場において場違いである俺は何処にいようと大差無かった。まるで教室のようだ。

「に、…げろ、比企、谷」

「だ、そうだが?」

後ろから蚊の鳴くような声、だからこそその状態と、それでも俺の身を案じる気遣いが痛いほどよく伝わってきた。

ボッチは他人の感情に無関心だと思われがちだがむしろ逆だ。気にしすぎるほど気にしてしまう。特に悪意には敏感になってしまう。何か裏があるのではないかと思えてしまう自分に腹がたつ。

「逃げたら、見逃してくれるのか?」

「いちおう聞いとくが、おめえ魔術師じゃねぇんだよな?」

「…言ってる意味がわからん…」

魔術師?何かの隠語か?まさか本当にそんなものを指してる訳じゃあるまい。

「そうか、まぁ神秘の秘匿は命令にねぇしな」

シンピノヒトク?また知らない単語が出てきた。

すると槍兵は後ろで倒れている平塚先生をチラと見てこう付け加えた。

「好みの女が命がけで守ったガキだ。今日の事を黙ってんなら見逃してやるよ」

どうやら俺はここから生きて戻れるらしい。

「ま、信じられねぇってんならそれでも良いけどよ」

ニタニタと槍兵が笑う。俺がどうするのか試しているのだ。俺はといえば槍兵の言うことを受け入れていた。

この男は先生を好みだといった、けれど殺すことに何の感慨も抱かない。そして誰かから命令を受けていることも。つまりこいつはそういう奴なのだ。俺なんか殺す価値もないと言外に告げていた。

俺は生きてここを出られる、五体満足で、何も失うことなく。

…いや、その場合、平塚先生はどうなる?

先生の生死に俺の存在は関係ない。例え俺が今日ここに来なくても、今立ち向かっても先生の死は既に決められた結果だ。であれば俺が思い悩む必要はない、気に病む必要はない。これは世界の理なんだ。不条理に踏み潰されるのに理由入らないんだ。

先生が死ぬのは仕方がない。俺を守ってくれた、自分の身が危ないのに俺の身を案じてくれた先生が死ぬのは―――

「先生を見殺しにするなんてっ」

次の瞬間、鼻先に槍が突きつけられらた。切っ先にこびりついた先生の血の臭いが俺の言葉を遮った。

「調子に乗んなよ小僧、俺の温情で見逃してやるっつってんだ。そこがお前の限界だ。それ以上を望むってんなら覚悟はできてんだろうなぁ!?」

喉が渇き呼吸がかすれるのとは裏腹に額には汗の玉が複数浮き上がる。心臓の鼓動が今までに無いくらい早くなっていた。

「てめぇが生きるかしぬかだけ選べ」

先生をおいて生きるか、ここで一緒に果てるか。

「いっ生きます…」

その言葉を聞くと槍兵は深紅の槍を引っ込めた。

「行きな、それが若人の生きる道よ」

俺は男の横を通り過ぎ出口を目指す。先生の傍らを明け渡す。

膝が笑っている、踏み出す足は今にも崩れてしまいそうだ。

しかし俺は生きて帰ることができる、ただいまを言うことができる、小町にシャーペンの芯を届けられる。だいぶ遅くなってしまったからきっと心配していることだろう。

「ごめんな小町」

先に謝っておく事にした。

俺は傍らに落ちていた紙を拾い上げた。恐らく平塚先生の持ち物だ。側には見覚えのあるペンケースも落ちている。

紙には意味のわからない言葉が羅列してあった。それはまるで魔術師が使う呪文のようだ。槍兵がそんなようなことを言っていたのを思い出す。

その呪文を言い終えた時、唐突に眠気が襲ってきた。まるで自分の中の何かをごっそりと持っていかれたような気がした。まあいいさ、好きなだけ持っていけ。

霞ながら揺れる視界の中で、何もないところから現れ、黄金に揺れる輝きを見た―――。

 

………………

 

気付くと少女()は闇の中にいた。

ここが何処かもわからない。自分が誰かもわからない。

どうやら周囲は得体の知れない液体で満たされているようで動くとネチョネチョと音がした。少女はそれをたいそう気味悪がって身をよじるが逆効果なのはいうまでもない。少女が諦めて大人しくなると、暗闇じゅうに響くように声が聞こえてきた。

「うふふ、もうすぐ、もうすぐ生まれる」

その意味はわからなかったが、声はひどく醜悪で聞くだけで耳がつぶれそうだった。

その声が消えた後世界は唐突に動き出した。

景色は静から動に移り変わり、周りの液体と共に少女は光の穴めがけて滑り落ちていった。

そうして気がつくと少女は明るい木組みの部屋の中央で泣き叫んでいた。

何も服はまとっておらず、その体には未だに得体の知れない液体がべっとりとこびりついている。

その傍らにはそんな少女をにこやかに見つめる一人の女性が立っていた。

女性はその艶やかな唇をにっこりと反らせ泣き叫ぶ少女に語りかけた。

「ようこそ親愛なる我が子、生まれてきてくれて母はとても嬉しいわ」

俺はその言葉を拒絶した。だってこの女性が少女の母親だというのか。見た目小学生程の少女が産まれたばかりの赤ん坊だというのか。

あまりにも常軌を逸している。俺の知るそれとはかけ離れている。

女性が近付くと少女は泣くのをやめ、まるで親の敵でもみるように女性を睨み付ける。

それでも構わず、服が濡れるのもいとわず女性は少女をその腕で抱き締めた。

「憎きあの女の子、目元なんかそっくりねぇ」

その瞬間、ゆっくりと浮遊するように意識がその場から離れ始めた。

そうしてこれは夢なのだと理解して、同時に俺はほっとした。

これが夢なら全ては偽りにすぎない。あの少女は本当は存在しないのだと思ったから…。

 

…………………

 

目が覚めると見えたのは知ってる天井だった。何でだよ、そこは知らない天井だろ!?

というか自宅の自分の部屋の天井だった。使いなれたベッドの上で俺は目が覚めた。

え?まさかの夢落ち!?傷だらけの平塚先生も青いタイツ男も全部夢!?だとするとなんとも不思議な夢を見たものである。いや、元々夢は不思議でワンダーなものではあるが。

槍兵に打たれた脇腹も特に後はない。あれだけ吹っ飛んだのなら痣くらいあってもいい筈だ。

本当に夢だったのだろうか、なんだかとても悲しくなってきた。

と、そこで枕元の時計が目に入る。時刻は午前10時を過ぎていて今日は木曜日なので完全に遅刻だ。

ヨッシャ、休日だ、録り溜めたアニメでもみようっ、といつもならなるのだが今日はそういう訳にはいかない。

もし本当に夢だとしたら、いやむしろ夢であってほしいくらいだが、それでも学校に行って確認しなければならない事がある。

ぐ~

ここで腹の虫が鳴いた。もう半日以上何も食べていない事になる。しかしこの時間では家に誰もいないだろうし、勝手に飯が出てくることはない。

いや、もしかしたら後で起きる俺のために何か用意してくれているかもしれない。

俺は期待を胸にリビングへと向かった。

するとそこには全身鎧を纏った不信人物がいた。

ふー、やれやれ、いい加減にしろよこのやろう。

こっちは空腹とダルさでそれどころではない。

俺は鎧の男を無視し、テーブルを確認する。するとそこには『お兄ちゃんへ 起きたら食べること 小町的にポイント高っかいー』と書かれたメモと、食べかすの乗った平皿が置いてあった。

「てめぇー、ここにあったやつ食べやがったな!?」

「あ?」

すごい低い声で凄まれた。

危ない、危ない。小町のアホっぽい書き置きが無かったら、殴りかかっていたところだ。小町に感謝するんだな!

仕方ない飯は途中のコンビニで済ますとしよう。

となるとリビングにもう用はない俺は自分の部屋へと踵をかえす。そしてドアを開けるとまたあの鎧男がいた。

リビングにいたやつと同一人物だと思われる。いったい何がしたいんだ?こいつは。

「なぁ、無理にとは言わんがその兜とってくれないか?スッゲー不信だから」

なんというかすげーごつい兜だ、角とかついてる。ちょっとかっこいい。

そう言うと鎧の男はあっさりとその顔を覆っていた兜を取り去った。すると中から出てきたのは以外にも兜とは似ても似つかない整った女の顔だった。まるで日の光そのもののように輝く黄金の紙。総てを見透すかのような透き通る碧色の瞳。長くしなやかに延びたまつげにほんのりとピンク色に染まる唇。

そんな姿に見とれそうになるが、きつく睨みを効かせた瞳が俺を現実へと引っ張り戻した。そして俺は何故かその顔に見覚えを感じた。

そうだ昨日の夜、廃工場で意識を失う前に見た黄金に輝く何か。

「おっ、お前が助けてくれたのか?」

少しどもったが俺の中ではセーフの範疇だ。

すると少女は心底残念そうに言葉を返す。

「はー、ほんと何も知らねぇんだなお前。せっかく呼ばれたってのにハズレくじかよ」

確かに素人が混ざってきたらめんどくさいのはわかる。いや、集団になることが無いのでわかりませんでしたっ、てへっ。

「そーだ、お前を助けたのはオレだよ」

「近くに倒れてた女の人はどうした?」

「あぁん?」

何故かまた凄まれた。なんなんだいったい。

「それがお前に関係あんのか?」

有るか無いかといわれたら。

「有るな。俺はあの人に助けられた」

「はっ、弱っちぃ癖に他人の心配かよ」

確か槍兵も似たような事を言っていた。こいつらは分を弁えない連中を嫌うらしい。だとすれば俺なんかはもっとも嫌われる部類の人間ではなかろうか。

「ランサーはオレにビビって逃げてったからな、助かったんじゃねえの?」

しかし律儀にも少女はそう教えてくれた。案外根は良い奴なのかもしれない。

「俺は学校行くけどお前はどうする?」

「霊体化してついてく」

霊体化?あっそう。

玄関を出ようとすると少女は光の粒になって消えた。これが霊体化か。

えろいことし放題だなと思いましたまる。

学校に着くとちょうどチャイムが鳴り響いた。

と同時に俺のケータイの着信音もなる。

何の気なしにケータイをつけるとその着信履歴に恐怖した。

さっきまでは恐らく授業中だったので控えられていたが、その前までは1分おきに同じアドレスからメールなり通話なりが試みられていた。

ていうかいつのまに登録したんだよ平塚先生。

そういう間にも一度は止んだ着信音がまた鳴り始める。さすがにこのまま無視し続けるのはお互いに益がないのでこれに応答する。

「もしもし、比企谷ですけど」

『ぶっ、わっ、ひ、比企谷!?急にでるな、びっくりするだろうが!』

ひどい言われようだ。でないのが正解だったのか。

「あーじゃあもう切りますね?」

『む、待て、体の方は大丈夫か?その、そういうのはあまり得意じゃ無くてな』

すると今度は頑張ってお弁当作ってきたの、みたいなしおらしい声が聞こえてきた。

やめろよちょっときゅんとしちゃったじゃないか。

「…大丈夫みたいです、じゃあ授業があるのでもう切りますね」

『ああ、放課後職員室に来てくれ、話をしよう』

通話を切り俺は教室へと向かった。

体がどうにも重く授業は全く身が入らず、そうこうしているうちにいつのまにか放課後になっていた。

俺は椅子にへばりつく尻をなんとかはがして職員室に向かった。

「先生、来ましたよ」

「お…、おう」

何故か先生の態度がいやによそよそしい。何か企んでいるのかと身構えてしまう。

「その…、巻き込んでしまって、すまない」

なんだそういうことか。ならそれは先生が気に病むことではない。

「別に良いっすよ、自分から首突っ込んだようなもんですから」

「そうか…、助けて…くれて、アリガトナ…」

ええい、なんだこの可愛い人は。もう先生ルートで良いんじゃないか?

「助けたのは俺じゃないんで、説明してくれるんじゃなかったんですか?」

「あ、ああ、場所を変えよう、ここじゃあれだからな」

予想していた事なので直ぐに移動を開始する。

俺はリノリウムの床を先生の後ろについて歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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