気づくと俺は見知らぬビルの屋上で倒れていた。
時計を見ると既に12時を回っている。
床のコンクリートが熱を吸いとったのか体は妙に肌寒い。
しかし俺はなぜこんなところに居るのだろう。
回りを見渡し、傍らにキーホルダーが落ちているのに気がついた。竜が剣に巻き付いているデザインだ、俺の持ち物ではないがなぜだかそれが気になって手に取ってみる。
その時俺の頭の中に得体の知れない映像が流れ込んできた。
なんだこれ!?
おかしな格好をした連中が戦っていたり、あの学校一の有名人、雪ノ下雪乃と共にしたり、最後は今いる場所で黒いマントの男に踏みつけにされていた。
なんだこれ、これは、まさか俺の記憶なのか?
いやいや、有り得ないだろ、こんな中学二年生がノートに書きなぐってそうなこと。
だが確かにこんな現象は知りもしないし、今のが本当だとしたらこんなとこに倒れている理由に筋が通る。
…おそらく、今見たものは真実なのかもしれない。
だが待ってほしい。もし魔術なんてものが本当にあるとしたら今の映像が全て真実とは限らない。
真実の中に嘘を混ぜるのは詐欺の常套手段だ。
それに映像の中には不可解なものがあった。それは、俺がセイバーの消滅後にアサシンを倒しにいったこと。
本当にこれが俺の記憶だとしたらそんなことするだろうか?
映像は所々抜け落ちていて、もしかしたらその間に何かがあったもかも知れないが、踏みつけにされた後抵抗したのも納得できない。
そう思うと映像の全てが胡散臭くなってくる。
とりあえず基本は嘘だと思っておいた方がいいだろう。
もう一度回りを見ると端の方にライダーの銃が落ちている。
確かに映像通りだが回収しないでおくものか?
俺はそれをそっと拾うとポケットに入れた。
そして回りを確認しながらゆっくりと階段を降りていく。
何も起きないことに途中で気恥ずかしくなって、そこからはさっさと降り、俺は家路へとついた。
interlude 3-1
「本当に良かったの?比企谷君と別れちゃって」
「愚問ね、あれ以上彼を巻き込んでも得る物はないは」
「ふーん」
夜の町を毅然と歩く彼女をキャスターは含みのある笑みで見下ろす。
「そういえば、どうして無属性の魔術のこと、私に聞かなかったの?私なら教えてあげられたのに、手取り足取り」
「…私達の魔術は雪ノ下にしか使えないでしょ」
「ま、そういうことにしておきましょうか、ちょうど敵さんも現れたみたいだし」
二人の眼前には五日目に戦ったアーチャーとそのパーティーがいた。向こうもこちらに気づいて歩みを止める。
そこは偶然にも前回と同じ海風が吹き抜ける埠頭だった。
だがお互いにそのメンバーは以前とは様変わりしている。
セイバーと比企谷八幡の変わりにライダーと平塚先生が。
向こうも紫がかった髪のスーツを着た女性が増えていた。
おそらく戦力差はつめられたといっていい。だがここは雪ノ下のフィールドだ、負けるわけにはいかない。
「I play unlimited blade works!」
その瞬間、世界は再び無数の剣がつき立つ荒野へと変貌する。
それは前回と同じ、そして破られた筈だ。
すぐさま周囲を多い尽くす剣達が浮遊し襲いかかってくる。
セイバーの話ではあれはほとんどが宝具であるらしい。ならば迷っている時間はない。
「キャスター、もう一度やるわよ!」
「了解!」
指示を聞いたキャスターが見えざる弓を構える。
「
それと同時にスーツの女性が飛び出してくる。
その口上と共に青白い光の玉が周囲を徘徊しだす。
彼女が奥の手なのか、しかし剣も目前まで迫っている。
キャスターはその周囲にたまった魔力をいっきに解放し撃ち放った。
その流れに合わせて雪ノ下雪乃が術式を実行する。
それと同時にスーツの女性が拳を突きだした。
『
魔力の大流と交差して光の剣がキャスターの心臓を貫いた。
「なんですって!?」
しかしそれくらいでキャスターの魔術は消えず直後スーツの女性は周りの剣達と同様氷の彫像と化した。
「バゼット!?」
「姉さん!?」
キャスターの胸からは摘まめるほどの小さな穴が空いている。
だがその線は完全に心臓を横断していた。
「大丈夫よ、これくらいじゃ、死なないから」
ビキビキ。
すると目前の氷像からきしむ後が響いてくる。
そして大きな音と共に崩れ落ちると中から女性が生還した。
「油断しました、まさかその傷で息絶えないとは」
常人ならそのまま凍りついてもおかしくない筈だが、女性は余裕そうに首をならす。
仲間は彼女をバゼットと呼んだ。
それは確か時計塔の伝承保菌者の名ではなかったか。
「傷を癒しなさい」
令呪が赤い光を放ち、キャスターの胸の傷を塞いでいく。
パチン。
キャスターが指を弾くと世界は再び元の埠頭に戻った。
バゼットと名乗る女性は一度仲間の元に戻る。
「どうします?胸を抉って倒せないのなら、マスターを狙うしかありませんが」
「仕方ない、向こうは二人いるし最悪どちらかだけでも…」
「ふーん、雪乃ちゃんを狙うんだ?」
直後キャスターが特大の魔弾を連発した。
それを掻い潜ってバゼットが前にでる。
その行く手を大きな影が遮った。
「でゅふふ、行かせねぇぜ!」
拳と拳が交わる。大きな衝撃が二人を襲った。
「くっ、拙者、暴力系ツンデレも微笑ましく見れる口ではござるが、これはさすがに…」
「きびきび働け!」
二人の間に平塚先生が割ってはいる。
しかしバゼットはその一撃を軽々とかわすとライダーと組み合ったままづつきをくらわせた。
吹っ飛ばされる先生。
「バッカヤロォウ!トップが軽々と前に出てくんじゃねぇよ!」
「くっ」
アーチャーはマスターを魔弾から退避させると雪ノ下雪乃に向かって矢を放つ。
遠坂凛はガンドを、自力でどうにかした衛宮士郎は剣を射出した。
三方から同時に牙をむく攻撃。その全てをキャスターがシャットアウトした。
「さすがにこの人数は厳しいわね」
キャスターが手を振るとライダーの体が輝き出す。
「うひょー、愛のバフみきたー、これでかつる!」
「キャスターは私が押さえる!」
白と黒の双剣を投影しようとするアーチャー、しかし何故かうまくいかない。
「マジックジャマー、無属性の魔術っていうのはこうやるの」
直後天空から雷が飛来する。雪ノ下雪乃の魔術である。
仕方なくキャスターに組み付くアーチャー。
「あら、以外と強引なんだ?」
「格闘は苦手だが仕方あるまい」
そのまま拳を放つが全ていなされてしまう。
その隙にマスターを狙う二人。
遠坂凛は雪ノ下雪乃に、衛宮士郎は平塚先生にそれぞれ走っていく。
衛宮士郎は四人の中で自分が一番勝ち目があると自覚している。だからこそ自分の選択が勝敗の鍵を握る筈だと。
黒と白の双剣を構えて走る。だが直後その背筋を悪寒が走った。
直ぐ様双剣を投げ飛ばす、直後それらは壊れた幻想となって爆発した。
爆風で吹き飛ばされながら思考をフル回転させるが、なぜこんなことになったのかわからない。
その様子を見たアーチャーが一つの決断をした。
「I play unlimited blade works」
そして再びの固有結界が発動する。
二人のサーヴァントがその場から消えた。
しかしキャスターの術ですぐに戻ってくるだろう。
だがそれで充分だった。
雪ノ下雪乃の死角。
アーチャーの魔術を合図に銀色の髪をなびかせた魔女が姿を現す。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
今夜の決戦の為に遠坂凛が呼んだ二人目の協力者である。
少女はその細くしなやかな指で狙いをつけると攻撃を開始した。
直後少女の髪で織られた鳥が剣となって雪ノ下雪乃を襲う。
タイミングは完璧だった。完全に敵の背後をつき、その一撃は無防備な彼女の胸を貫くはずだった。
だが荒れ狂う時代の波を掻い潜ってきた悪党の勘がその奇襲に気がついた。
「雪乃嬢!」
「させません!」
助けにいこうとするライダーを全身の力で足止めするバゼット。
宝具のないライダーと、カウンターが決定打のバゼット。二人の勝負はほぼ拮抗していた。
しかしその一言で奇襲に気づいた雪ノ下雪乃は残り最後の令呪で自らのサーヴァントを呼び出した。
瞬間、現れたキャスターは軽々とそれを弾き飛ばすと、その攻撃の主に魔弾を飛ばした。
魔弾がコンクリートを蹴散らし噴煙をあげる。
その中から少女を抱えるアーチャーが歩いてきた。
「ありがと、アーチャー」
「当然だよ、イリヤ」
窮地を救われた姫君はナイトに向かって優雅に頭を垂れる。
「…礼を言うわ、ライダー…」
「デュフフ、ツンデレいただきましたゾ!」
窮地を救われた氷の女王はカリブの海賊に向かって軽蔑の視線を向ける。
直後ライダーの首が切り落とされた。
interlude out
見慣れぬビルからの帰り道、俺は埠頭で聖杯戦争というものを垣間見た。
件の雪ノ下と誰かが戦っている。
その動きは目で追うには速すぎて、その現象は理解するには極端過ぎて、俺には何が何やらさっぱりだた。
なのですぐにその場を後にする。
家に帰ると家族にばれないように部屋に戻り、無事就寝した。
というわけで来る月曜に恐れつつ休暇を満喫したい日曜日。
俺は例のごとく特に用事もなくだらだらと過ごしていた。
「もー、お兄ちゃん、邪魔」
愛しの妹に邪険にされてしまった。兄の心妹知らずという言葉を布教したい今日この頃。
小町はコロコロするやつでリビングを掃除していた。
まあせっかく綺麗にしてくれているのだから邪魔したら悪い。俺はどっかその辺で時間を潰すとしよう。
その途中ふと気になったことがあったので小町に尋ねてみた。
「なあ、セイバーって知ってるか?」
「うん、知ってるけど、どしたのお兄ちゃん?」
「いいや、何でもない」
彼女達が一緒に遊んでいたのは間違いないらしい。
朝起きてゲームをしようとしたらぶっ壊れていたのでたぶん本当だろう。
まあ、こんなプライベートなところまで敵も干渉してこないだろう。
するとすれば聖杯戦争とやらに関連するところ。しかし既に脱落して大した能力もない俺の記憶をいじったところで何か意味があるんだろうか?
俺は近くのサイゼリアへと向かった。
ドアを開けて中にはいると誰かの視線を感じる。
おそらくボッチ特有の自意識が発動したんだろう。
入室する時は何かと視線を集めるものだ。そして俺だとわかるとわかりやすく静かになる。ほんとなんなのあれ…?
すると直ぐに店員が来て案内をしてくれるかと思いきや。
「すみません、現在混み合っておりまして、お名前を書いてお待ちください」
それほど急いでいるわけでもないのでさらさらと記名して、壁に隣接した椅子に座る。
「あれ、ヒッキー?」
すると何処からか俺を呼ぶ声がした。
まじか、もしかしてクラスのやつと遭遇しちまったのか?どうする、無視しようかな?でも後で後ろ指指されるかも。こういう時ってどうするのが正解なんだろうな、笑えばいいのかな?
「ヒッキー?」
さすがにこれ以上無視すると逆に面倒なので相手をしてやることにする。
見ると明るく染めた髪を右上でお団子じょうに纏めた女の子が立っていた。
同じクラスだった筈だが名前が思い出せない。
思い出せないということは大した関係じゃないんだろう。まあそんなやつはクラスどころか学校にもいないけど。
いや、一人いるか…。
俺はふと彼女の顔を思い浮かべた。だが直ぐにそれを振り払う。
「よ、よう。奇遇だな」
俺はとりあえずそれっぽい返事をしてみる。
「う、うん、ヒッキーもごはん?あ、当たり前か」
彼女はてへへと一人でツッコミを入れお団子を掻いている。
やはりこの手の女は頭が弱いのか。
「なんか学校以外で会うと恥ずかしいね」
今日は休日なので俺も彼女も私服だ。
プライベートな関係というとちょっとエロいなと思いました。
その後は特に言うこともなくお互い沈黙してしまう。
なんなのこの空気、早く席にもどれよ。それとも俺を出ていかせようという魂胆なの?豪胆過ぎんだろ。
「席、戻らないのか?」
「え?あ、そうだヒッキーも来る?」
来るって、どこにだよ、席にか?行かねーよ。
「いや、どうせ友達ときてんだろ?俺が入ったら気まずくなんだろーが」
「えー、大丈夫だよ」
どこが大丈夫なのかぜんぜんわからないんですが…。
「由比ヶ浜さん?」
するといつまでも戻ってこない彼女を心配してか友達の方から迎えにきた。
その子は小動物っぽいくりくりっとした目の女の子だった。
ていうかこいつ由比ヶ浜って名前なのか。ちぃ、おぼえた。
「あれ、比企谷君?」
すると彼女も俺のことを知っているらしい。まさか、これがモテ期って奴なのか?
「ねぇ、彩ちゃん、ヒッキーにも聞いてもらわない?変な事いっぱい知ってそうだし」
変な事ってなんだ、俺が知ってるのは今朝のプリキュアのサブタイ位だぞ!
「何の話だ?」
「うん、実は困ってることがあるんだけど、聞いてくれる?」
その瞳は上目使いで悩みからか少し潤んでいて、なんだかとてもプリティーでキュアッキュアだった。
できれば一生守ってあげたい、そう思った。
「わかった、俺にできることなら何でもするぞ」
「ほんと?ありがとう比企谷君!」
守りたい、この笑顔。
「むー、なんか私の時と態度違う」
これは人助けだからな。