fate/Tiba-si night   作:d d

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それでも聖杯戦争からは逃げられない

「ふぁ~」

今日は週末を挟んだ終末の月曜日。きっとルビには絶望とか終わりの始まりとかがつくであろう全く明るくない恐怖の週明けである。

しかも休日だというくせに土曜、日曜と全く休めなかった俺はさぼりたいという欲求を抑えながら絶賛教室までの道のりをとぼとぼと歩いているのだった。

「疲れてんの?」

声をかけてきたのは川崎だ。聖杯戦争が始まってからは不登校だったがどうやらそれは返上したらしい。

「これあげる、袋はごみ箱だかんね」

彼女は俺にあめ玉を渡すと先を歩いていった。

大阪のおばちゃんかお前は。

「はーちまん、おはよ!」

続いて声をかけてきたのは我が愛しの天使こと、戸塚彩加だ。

全国の社畜が呪詛を吐いているであろう月曜の朝だというのにその笑顔に曇りはいっさいない。

やはり天使の名は伊達じゃないな。俺しか呼んでないけど。

「あめ、いるか?」

「良いの?ありがとう」

あめ玉で戸塚を釣る。ちょっとしたわらしべ長者というわけだ。

この先は続かないが戸塚がゴールで問題ない。

「八幡、今日は聖杯戦争?っていうのを教えてくれるんだよね?」

「ああ、放課後な」

戸塚の為にも説明は急務だろう。あいつもわかってくれる筈だ。

「ヒッキー、やっはろー!彩ちゃんも、やっはろー!」

今日はやたら話しかけられるな、疲れてるからそうっとしといてほしいんだが。

「やっはろー!」

戸塚も由比ヶ浜に挨拶を返す。

何それ、もしかして流行ってんの?

そういうの興味ねえからわかんねぇわ。

「やっ、はろー…」

「うん、やっはろー!」

え?何?また返すの?永遠に続くじゃん。

「二人で何話してたのー?」

「え…ああ…えと」

はて、なんとごまかしたものか。

「二人だけの秘密だよ!ね、八幡?」

「お、おう、そうだな」

戸塚がうまくかわしてくれた。昨晩から助けられっぱなしだな。やはり以外にも可愛らしい彼は頼りがいのある男でもあるらしい。

「むー、何それー」

由比ヶ浜は不満のようだったが、これは仕方がない。なんせ二人だけの秘密なのだから!

すると由比ヶ浜が近づいてくる。

なんだよ、暴力はいけないんだぞ。

そして俺の耳に口を寄せて小声で話かけてくる。

「彩ちゃんの悩み、ヒッキーが解決してくれたんでしょ?」

息が耳に当たってくすぐったい。あと腕にも何か柔らかいものが当たっている気がする。

しかしすぐに彼女は離れていってしまう。

同時に俺の腕を包んでいた幸せな感触も消える。

おっぱいが大きいと大変だなーっと思った。

「別に、何もしてねぇよ」

結局、最後は戸塚に助けられてしまったしな。彼とバーサーカーがいなければ俺は今ここにはいないだろう。

「えー、ほんと?」

「何?どうしたの?」

戸塚が不思議そうに聞いてくる。

「んー、あっ、二人だけの秘密~!」

「あはは、仕返しされちゃった」

俺を挟んで話し合う二人。こういうときってどうすりゃいいんだろうな。

「じゃあお揃いだね!」

「うん、お揃い!」

いつのまにか俺だけ仲間外れになっていた。ここにも俺の居場所はないというのか。

俺は一歩下がって二人が話しているのを後ろから見つめる。

まあ、こんな光景を見られるのならそれも悪くないのかもしれない。

ふと、ここにはいない彼女の事を思い出した。

アサシンに殺されかけたとき、不意に見えたあの光景はなんだったのだろうか。

あんなものは俺の記憶にはない。だが俺の記憶にはアサシンに消されて抜け落ちた部分がある。あれはそこにはまっていたものなのかもしれない。

しかしどうしてそんな状況になったのかがわからない。

そこが俺の胸につっかえてどうもスッキリしない。

やはり記憶が曖昧だとモヤモヤするものだ。

そのまま俺は教室の席についてボーッとしてる内に授業が始まった。

 

…………………

 

帰りのホームルームが終わり俺は教室を後にした。

そのまま昇降口へと向かう集団と分かれ、特別棟へと向かう道を歩く。

「はーちまん!」

すると後ろから戸塚が急ぎ足で追い付いてくる。

「もー、なんで先に行っちゃうの?」

戸塚は怒っているようだったが頬を膨らませたその姿はとても可愛らしい。

「悪い、あんまなれてなくてな」

普通は教室から一緒に行くものらしい。どうせ目的地は同じなのだし現地集合でいいと思うのだが。

「あのねー…それでねー…」

しかしこうして戸塚と時間を共有できるのならそれも悪くないのかもしれないしれない。

ほどなくして目当ての部屋の前まで辿り着いた。

「ここが…?」

「ああ」

俺はその扉を開けようとしてその直前で立ち止まった。

「八幡?」

そういえば彼女はノックをしない平塚先生に起こっていた。

ここに来るのは初めてではないが念のため踏襲した方がいいか。

俺は扉を三回ノックする。

そして暫く待つと涼やかな声が帰ってきた。

直ぐに扉をスライドさせる。

そこでは相も変わらず彼女、雪ノ下雪乃が斜陽を背に受けて座っていた。

予めノックしておいたからかそれまで読んでいたであろう本を閉じてこっちを見ている。

当然、扉を開けた俺と目があった。

しかし彼女は直ぐにそれをそらしてしまう。

そのしぐさに俺は違和感を覚えた。

「八幡?」

「なんでもない、入ってくれ」

俺は道を開け戸塚を中に入れた。

「雪ノ下、早速だがこいつ、戸塚彩加はマスターの一人だ」

「こ、こんにちは」

雪ノ下は特に何も言わず澄ました顔でこっちを見つめている。

「俺と同じで魔術とかは素人なんだ、いろいろと教えてやってほしい」

「どうして私が教えなくてはいけないのかしら?貴方が教えればいいのではないの?」

「俺じゃあうまくできないかもしれないだろ」

俺だって戸塚と同じ素人だ。見落としがあれば戸塚の命に関わる。

「それに戸塚は戦うことを望んでない。お前さえよければサーヴァントを譲ってもいいと言ってる」

それを聞いた雪ノ下は眉根をよせ険しい表情を見せる。それは今までの俺を糾弾するものとはちがい悩ましげだった。

「その必要はないわ、…私は聖杯戦争から脱落したもの」

それは何かを諦めたような声だった。ライダーだけでなくキャスターまでやられていたのか。

しかしそれだけでは彼女の言い分には納得できない。

「それこそバーサーカーを貰って復帰すればいいだろ」

「そこまでして聖杯を得ようとは思わない」

それは今までの彼女とは違うように見えた。俺の知っている雪ノ下なら、例え一度負けたとしても何倍にも増やして返す筈だ。

いや違う。

俺の記憶には抜け落ちがある。

だからこそ自分の判断が信用できない。

いやそれだって違うかもしれない。俺は今まで何度も勘違いをしてきた。今回だってそうなのかもしれないではないか。

「八幡?」

戸塚が心配そうに声をかけてくる。

今一番不安なのは戸塚だろう。聖杯戦争何てものに巻き込まれて、説明すると言った矢先にこれだ。

「悪い戸塚、説明するの俺でもいいか?」

「うん」

それでも戸塚は周囲の人間を励ますようににこやかに笑いながら、二つ返事でOKする。

「それじゃあ行くか」

戸塚を先導して部屋を後にする。

ちらと後ろを振り返ると雪ノ下は床に視線を落としていてその表情は読み取れなかった。

戸塚と二人リノリウムの床の上を歩く。

「どこで話す?俺の家でもくるか?」

「うん、僕はどこでもいいよ」

そのまま二人昇降口を目指す。その途中2年F組の教室が目に入った。

そこでは相変わらず放課後だというのにそこにとどまって目的もなくダラダラと午後を過ごす連中がいる。由比ヶ浜の姿もそこにあった。

普段と違うのはそこに葉山隼人がいないことだ。

しかし教室にたむろする奴等はいつもと変わらずくだらない群像劇を披露しているように見える。

やはり由比ヶ浜の言う通り、あの男がいなくとも彼らの日常に影響はないらしい。

それが少し以外だった。

あの葉山隼人程の男でもただの歯車の一つでしかなくいなくなっても代わりがいるということに。

そのまま家へと直帰し鞄を置いて、俺は聖杯戦争とは何か、雪ノ下に聞いた話をそのまま伝えた。

「その気になれば今すぐ放棄する事もできるぞ」

俺の話を神妙に聞いていた戸塚は顎に指をあて考えるしぐさをする。

そしていつもと変わらない笑顔で答えた。

「バーサーカーは僕や八幡を助けてくれたよ。だから彼に欲しいものがあるなら僕はそれを手伝ってあげたい。あんまり頼りにならないかもしれないけど」

「そうか、何かあれば俺も力になる」

俺と戸塚は握手をして別れた。

「お兄ちゃんが女の子連れ込んでる!?」

玄関に向かう途中で出くわした我が妹がそんな事を言ってくる。

「小町、気持ちはわかるが戸塚は男だ」

小町は混乱してその場で固まってしまったのでとりあえず放置して戸塚を返した。

「この際お兄ちゃんをもらってくれるなら男の人でもいいかな…」

復活した小町はゴニョゴニョと不審に呟いている。

前門の戸塚、後門の小町。俺の未来は薔薇色だった。

そんなこんなで時刻は午後8時を回った。

この時間になるとなんとなく意識がピリピリしてくる。

聖杯戦争のせいで夜中出歩くことが多かったからだ。

いけないいけない。なんにでも自然体で挑むのが俺のモットーだ。

リラックスの為にmaxコーヒーを補充しようとリビングに出ると小町が携帯を見てうろうろしていた。

それを横目に見ながら冷蔵庫を開ける。

しかし中に目当てのものは見当たらなかった。

どうやら飲み終わってそのままにしていたらしい。俺は新しいのを補充するために台所の戸棚を開ける。

そして中にある箱買いしたmaxコーヒーの段ボールを覗く。しかしそこにも黄色と茶色の攻撃的なデザインの缶は存在しなかった。

「小町ー、俺のmaxコーヒー知らねぇ?」

「小町が知るわけないでしょ」

返事をすると小町は直ぐに携帯に目を落とす。まったく、これだから現代っ子は。

しかしどうやらこの家にmaxコーヒーはないらしい。

俺としたことが在庫を把握していなかったとは、一生の不覚である。

きっと最近は忙しかったのでうっかり失念してしまったのだろう。

仕方ない、今回は練乳入りコーヒーで我慢しよう。

俺はポットに電源を入れる。

「んー、んー」

「さっきから何唸ってんだ…?」

「んー?」

俺がマッカンを求めてうろちょろしている間、小町も同じようにリビングと台所を行ったり来たりしていた。

「友達から連絡が返ってこないの」

「なにか用事なんじゃないか」

「ううん、グループで話してた子全員、二時間前から何も返してこないの」

「それくらい普通だろ?俺なんて返ってこないのがほとんどだぞ」

「もー、小町、真面目に言ってるんだけど」

いや俺も真面目なんだけど。

しかし小町がいじめにあっているとは考えたくない。

そして俺にはもうひとつ心あたりがあった。聖杯戦争だ。

俺の中ではもう不可思議なこと=聖杯戦争という方程式が出来上がっている。

これはもう妖怪なんてめじゃないレベルだ。

だからクラスで俺だけが授業が変更になったのを知らなかったのも聖杯戦争のせいなのだ。これは許せない。

しかしそうなると小町の友達の身に何かあったということになる。

ということは小町自身も被害に逢う可能性があるということだ。

めんどくさいったりゃありゃしない。

ひょっとすると聖杯戦争そのものをどうにかしないといけないのではないか?

「ちょっと出てくるわ」

「どっかいくの?」

「散歩」

特に用事があるわけではないが夜風に当たりたい気分だった。

こうゆう風情があるのも俺の美点だろう。

玄関に出て靴を履く。

「ゆき…っ…せっ!」

何やら外が騒がしい。

こんな夜中にデモでもしてるんだろうか。デモでも。

だとしたら今は外に出ない方が良いかもしれない。

けれど聞こえた声に何やら気になるワードが入っていた気がして、俺は扉を開けた。

「雪ノ下を探せ!」

「雪ノ下を探せ!」

「雪ノ下を探せ!」

人、人、人。

そこには彼女の名前を叫ぶ人々で溢れかえっていた。

明らかに聖杯戦争が関わっていることは間違いない。

そして俺にはこの光景にピンとくるものがあった。

それは以前頭に響いてきた雪ノ下を殺せというメッセージ。これは恐らくそれに意識を支配されてしまった人々なのだ。

しかしあまりにも数が多い。

ビッグサイト程ではないにしろ、近くで祭りでもあったんじゃないかと思うほどおうらいにはひっくり返したような人で溢れている。

このすべてが雪ノ下を殺すために行動しているのか。

だが恐らく彼らは全て雪ノ下に返り討ちにされるだろう。

いくらサーヴァントを失ったとはいえ彼女の実力には俺でも破れる程度の催眠にひっかるやつらが束になったところで到底及ばないだろう。

それは頭ではわかっている。

なのに胸に去来する不安はなんだ。

少しだけその場で頭を転がしてその正体に思い至った。

彼女は人を殺せない。

聖杯戦争に参加している魔術師でさえそうなのだ。

あやつらているとはいえ一般人ならもっての他だ。

それがこれだけいたら彼女にも隙が生まれてしまうかもしれない。

この集団催眠を仕掛けた張本人はそれを、それこそを狙っているのだ。

不意にその場から走りかける。

しかしその一歩は途中で引き返してしまう。

俺が行ったところでどうなる?何の意味もない。

アサシンを倒せたのだってマスターの川崎が最初からそれを望んでいて、戸塚が駆けつけてくれたからだ。

それに昼に拒絶されたばかりではないか。

「お兄ちゃん?ポットつけっぱ…何これ?」

すると小町が外に出てきた。ごった返す人を見張っている。

確かにお湯を沸かしっぱなしだった。

「ああ、悪い」

俺は屋内に戻ろうと踵を返す。

「オオオオおお!」

すると突然後ろから雄叫びがあがった。

振り返ると見知らぬ奴等が飛びかかってくるのが見えた。

反射的に俺はそいつらを蹴り飛ばす。

「なっ何!?」

「邪魔するものは…殺す!」

そして立ち上がり再び襲いかかってくる。俺は同じようにそいつを蹴り飛ばした。

「お兄ちゃん!?こいつら何なの!?」

「お前は中に入ってろ!絶対出てくるな!!」

言われた通り小町は家の中に消える。

すると暴れていた連中もおとなしくなりおうらいを行く集団に戻っていった。

察するに狙いは小町だったようだ。

恐らく目についたものは手当たり次第攻撃するようになっているのだ。

そして相変わらず俺は無視されている。

俺は人混みの中を駆けていく。どうやらこれは雪ノ下だけの問題ではなさそうだ。

息をきらせながら記憶をたどり雪ノ下のマンションを目指す。

急いだからか呼吸が苦しくなってくる。しかし一目散に走り続けた。視界も少しづつ霞んでいった。

それでも足を動かし目的地に辿り着いた。

だからだろうか、俺は立ち上る黒煙に気がつかなかった。

汗ばんで重い体を起こしたとき俺の目に飛び込んできたのは、真っ赤な炎に包まれた建物だった。

 

 

 

 

 

 

 

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