fate/Tiba-si night   作:d d

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伸ばす手は交わり、かざした剣は何を指すのか

燃え盛るマンションの根元に人だかりができている。

野次馬、ではない。雪ノ下雪乃を殺すためにあやつられた群衆だ。

あの煌々と燃える火炎の中に彼女はいない。それはわかっているのに俺の中の不安はあの炎のように消えるそぶりも見せない。

思い浮かぶのは昼に話した彼女の顔。

普段とは違い何処か影がさしているような。

彼女らしくない。いやむしろそれが彼女の本性だったのか。

どちらにせよ俺には確かめることはできない。

このマンションだけが俺と彼女を繋ぐ唯一の手がかりだった。

それが焼失しようとしている今、連絡先も知らないいじょう、もう彼女の元に行くことはできない。

俺は走ってきた道を引き返そうと体を引いた。

その時にハッとその場所が頭に浮かんできた。

それは最初に彼女にあった場所。

特別棟にある使われていない例の教室。

しかし今もあそこにいるだろうか。

可能性はある。

だがあくまでそれは不確定というだけだ。

もしいなければただの徒労、ただの妄想で終わってしまう。

けれど俺は張り付く足に鞭をうって走り出した。

今さら無意味に終わるのを恐れていてもしょうがない。

後で恥ずかしさに転げ回るだけだ。

今はそれよりも事態を解決することの方が先決だろう。

俺は校門を飛び越え校内に侵入する。

校舎の扉には鍵がかかっていた。

俺はそれに魔力を通す。わざと失敗して鍵を破壊した。

階段をかけあがり特別棟へと足を踏み入れる。

それから例の教室に辿り着き、勢いのままドアを開けた。

そこには驚きに目を開いた彼女の姿があった。

「比企谷…君?」

そうボソッと口にする。

状況をうまく飲み込めていないようだ。

キョトンとした彼女の顔は珍しく、何処か可愛いげがある。

できればもう少し見ていたい衝動にかられるが今はそれどころではない。

ならばそれを利用してさっさと話を進めてしまおう。

「お前、外の様子は知ってるよな?」

「…ええ」

雪ノ下は直ぐにいつもの、いや昼に見た少し影のある顔に戻ると俺の質問に答える。

「あれを…どうにかしようと思わないのか?」

「…私が何かしなくてもいずれ終息すると思うわ」

「らしくないな、邪魔する奴は叩き潰すのがお前のやり方じゃなかったのか?」

「彼らは一般人よ、無理やり止めるより自然に収まるのを待つべきだわ」

俺と彼女の遠回りは続く。

ただ手を重ねればそれで澄むのに、今まで積み上げた時間の壁がそれを許さない。

「あいつらは手当たり次第人を襲ってる。俺がここに来たのも妹が被害に遭いかけたからだ」

「そう…、それは悲運だったけれど…私にはもう戦う力はないわ」

「それはサーヴァントがいないからか?」

「ええ、私に聖杯戦争という舞台で戦う資格はない」

「一般人への被害は許さないんじゃなかったのか?」

「…」

彼女はうつむいたまま返事をしない。

「あれは…嘘だったのか?」

心臓が跳ねる。それは彼女への追及であると同時に俺自身への糾弾でもあった。

身に余る輝きを求めた愚か者への。

「では、貴方は私に死ねというの?」

その顔は悲壮に歪んでいた。

どうしてこんなことになってしまったのか。そんな顔をしてほしかった訳じゃないのに。

こうなったのは俺のせいだ。

彼女に俺の理想を押し付けてしまった。

もう俺にできることは何もない。

いやそんなものは最初から無かったんじゃないか。

俺がここに来なければ彼女が追い詰められる事はなかった。

理想は理想のままでいられた。

全ては俺の責任だ。

俺が無闇に手を伸ばしたから。

今すぐここから立ち去りたかった。

こんな間違いだらけの教室は直ぐにでも退出したかった。

「比企谷…君?」

けれど愚かな俺はそんなこともできずにいた。

それでも手を伸ばしたいから。

欲しいものがこの部屋にある気がしたから。

それも幻なのだろうか。

夢見がちな俺の勘違いなのだろうか。

「ヒッキーなら、大丈夫だよ!」

どこからかそんな声が聞こえた気がした。

無責任で身勝手で、けれど今の俺にはそんな不確かなものが確かに背中を押した気がした。

「なら、俺がお前のサーヴァントになる」

「え…?」

「お前が言ったんだろ、俺にアサシンになれって」

「それは…そうだけれど。わかってるの?…他のサーヴァントと戦うことになるのよ?」

「戦わねえよ、アサシンの勝負は最初の一撃だけだ。それで全部けりをつけりゃあいい」

「フフ、貴方らしいわね」

雪ノ下が口に手をあて苦笑する。そういえば彼女のそんな顔を見るのは久しぶりかもしれない。

それから俺は雪ノ下が答えを出すのをただ待った。

時計の針が進む音だけが教室内を行き交っている。

目の前の彼女は視線をふせ何ごとか思いにふける。

やがてその心境を口にした。

「わかったわ、貴方がそこまで言うなら…」

目は臥せたままだったが確かに提案を受諾した。

とりあえずはこれで一段落だ。

「ああ、今から俺がお前の暗殺者(アサシン)だ」

俺と雪ノ下は互いに視線を交わす。それが主従契約完了の合図だった。

しかしちょっぴり照れ臭い。サーヴァントといってもいったい何をすれば良いのか。

「これからどーすんだ、マスター?」

とりあえず主人に丸投げすることにした。

すると雪ノ下は眉根を寄せる。

「別に今まで通りで良いわ。貴方にそう呼ばれると馬鹿にされている気がするもの」

なんだそれ、けっこう本気だったんだが…。

なんかマスターって呼ぶの、かっこいいよな?

「…まずは外の人達を操っている術者を探さなくてはだけれど…」

雪ノ下は何処か不安げに言葉を綴る。まるで既に犯人に当たりをつけているように。

「知ってる奴なのか?」

「姉さん…」

やがてそう呟いた。

「そういやまだ会ったことなかったな。この時代の雪ノ下さんも聖杯戦争に参加してるのか?」

「私が言ったのはキャスターの方よ。この時代の姉さんは既に死んでいるわ」

まじかよ、唐突に明らかになった事実に狼狽する。

ということは雪ノ下にとっては死んだ姉との再会だったわけだ。

「ちょっと待て、なんでキャスターがお前を狙うんだ?もしかして誰かにとられたってことか?」

「いいえ、姉さんはライダーを殺して、私との契約を無理矢理破棄して、何処かへ飛んでいったの」

「なんだそりゃ」

「そういう人なのよ。昔から何がしたいのかよくわからなかったわ」

どうやら生きていた頃からあの掴み所のない性格は変わっていないようだ。

「それで町の人を操ってお前を狙ってるってのか?」

「…どうかしら」

雪ノ下の歯切れは悪い、確信があるわけではなさそうだ。

しかしもしキャスターが敵だとすれば俺は勝てるのだろうか。

あれだけ啖呵きった手前いきなり諦めるというのもなんだかしまりが悪い気がする。

ここであることに気がついた。

もし雪ノ下が以前からキャスターが犯人だと考えていたとしたら、俺と同じように思ったのではないか。

彼女の表情は相変わらず影が射したままだ。

「…なあ、前に俺がかけられかけたのも同じ魔術なんだよな」

「そうね、私を殺すという目的は同じだし、ここまで規模が大きいと一つの力が弱いのも頷けるわ」

「キャスターでもか?」

「…確かに姉さんならできるかもしれないけれど」

「…」

「誰か心当たりがあるの?」

「ちょっとな」

なにかが頭の端に引っ掛かっている。

俺には由比ヶ浜経由で魔術が飛んできた。

けど由比ヶ浜自身に変化はなかった筈だ。

いや、ほんとにそうか?あった筈だ、確か疑問に思ったことが。

2年F組の教室は以前と変わらない様相だった。

けどその中に足りないものがあった筈だ。

「葉山だ…」

「葉山君?」

「ああ、あいつはうちのクラスの中心にしてカーストの頂点だ。そんな奴がいなくなって今まで通りでいられるのはやっぱりおかしい」

「けれど、彼はライダーに…」

葉山はライダーを裏切ろうとし、逆に裏切られて病院送りになった。

「病室からでも操ることくらいできるだろ」

「そうね」

「雪ノ下、あいつの病院の場所わかるか?」

「〇〇駅の近くにある病院だけれど…行くの?」

「ああ」

そこは直接行ったことは無かったが、外観は何度も目にしたことがある大きな病院だった。

葉山が犯人であるかはわからない。しかしここでじっとしていても進展はない。

直ぐに俺は教室を後にしようとする。

すると雪ノ下が服の裾を掴んで俺を引き留めた。

「なんだ?」

「あ、いえ…、気を付けて」

直ぐに手を離す雪ノ下。

なんだかそれで俺の足は教室に釘付けになってしまった。

しかし今窮地なのは彼女なのだ。ずっとここにいるわけにはいかない。

「そういやライダーの銃も一緒に消えちまったんだ。何か武器になるもの持ってないか?」

「?、貴方それに魔力を籠めたんでしょう?なら消えない筈だけれど」

「そうなのか?けどどっかいっちまったしな…」

「はあ、まったく、そのていたらくでどう戦おうとしていたのかしら」

雪ノ下は痛ましげにため息をつく。うるさいな、これでも本家のアサシンは何体か倒したんだぞ。

すると雪ノ下は床に置いてあった鞄から何かを取り出した。

「なんだそれ」

「黒剣というの。魔力を通せばこの穴から1メートル程の刃が出てくるわ」

それは黒いT字型の棒だった。要するに隠し持って使うタイプの暗器だろう。

「それから…」

お次はこれまた黒く光る拳銃だ。持ってみるとその重みが手に伝わってくる。間違いなく本物だとわかった。

「弾は6発、私の魔力が込めてあるから見た目よりダメージを負う筈よ」

「良いのか?そんなもん貰っちゃって」

「貴方は私のサーヴァントなのでしょう?それに元々貴方に渡すために用意した物だもの」

それはセイバーがやられず、俺と彼女の協力関係が続いた場合。もうあり得ない歴史のIf。

けれど今こうして俺の手に渡ったのだから時の流れとはわからないものである。

「ていうかなんでこんなもの鞄に入れてんだ?」

「…勘違いしないで欲しいのだけれど、たまたま家を脱出するときに手元にあっただけよ」

何と勘違いするのだろうか、まあいいや。

それらをポケットに詰め込んで俺は教室を後にしようとする。

その間際、雪ノ下の鞄にキーホルダーがついているのが見えた。

それがなんなのか俺にはわからなかったけれど、なぜだか体に力がみなぎる気がした。

そのまま、俺は病院に向かって走り出した。

 

interlude 5-1

 

船内に迸る巨大な魔力の流れ。それは大山を砕き大海を割る大いなるうねり。

しかしそんな猛威を奮う自然の剣もアーサーが持つ鞘の前には刃が立たない。

それは持ち主を理想郷へと誘う黄金の障壁。

いっさいの攻撃を遮断する無敵の境界線だ。

魔力の波はそれを前にして立ち往生する。

だがそれは、逆に言えばその間は理想郷に引きこもらざるをえないという話。

「キャスター…!貴様…!!」

「はじめまして、そしてさようなら、アーサー王さん」

そうして彼女はそのまま悠々と主君を守る騎士王の横を通りすぎる。

アーサー王はその絶大なる魔力を聖杯からの供給で補っている。

当然それを切ってしまえば彼女は存在を保てなくなる。

キャスターはそれをすぐさに決行した。

程なくしてアーサー王は光の粒となって消えた。

「陽乃、いったい何が目的だい?」

「あらお母様、ご機嫌麗しゅう」

服の裾をちょこんとつまみキャスターは頭を垂れる。

「前置きは要らないわ、何しに来たのかと聞いているの」

その瞬間、雪ノ下のおんだいの腹を魔力の槍が貫通した。

「これが私の答えよ母さん」

血だまりに沈む自らの母を見てもキャスターの顔に張り付いた笑みはついに剥がれることはなかった。

 

interlude out

 

 

 

 

 

 

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